Menu 43 ~ 鯖の味噌煮 ~
13時
俺とクロエが休憩スペースで昼食を食べ終えて、少し休んでいた時……
来客を知らせるベルの音の後、何かがぶつかるような鈍い音が聞こえてきた。
「なっ!?何事かしら?」
「ちょっと様子を見て来るか……」
「待って!タクトさん!私も行く!」
2人して来客用の扉を見に行くと、ゲボルグが入り口に引っ掛かっていた。
「ムッ……くっ……!」
「ゲボルグ!?」
「お……おぉ……タクト殿。すまぬが、少し……引っ張ってもらえないだろうか?」
「わっ、わかった!すぐに引っ張る!」
それからしばらくして、ゲボルグは無事、店内に入ることができた。
「はぁ……はぁ……すまねぇ、ゲボルグ……あんたの体格の事、考慮してなくて……」
「い……いや、タクト殿は何も悪く無い。謝らないでくれ。」
「タクトさん。出入り口だけ、もう少し考慮する必要がありそうね。」
「おぅ。今、スキルで修正しちまうよ。」
俺は【 創造 】のスキルの効果で、出現させたこの店の微調整を済ませていく。
「ム……声で気付いたが、クロエ殿……随分と可愛らしい姿をしているが、衛兵の職は……?」
「えっと、実は……」
俺が店を微調整している間、クロエはゲボルグにこれまでのことを説明した。
「そうか……しばらくこの町を離れて、里に戻っていたのだが……そのような事になっていたとは……こういうときに、人と人との繋がりの大切さを、実感させられるな。」
「えぇ、本当に。」
「これで良し……ゲボルグ。試しに、もう1度通ってみてくれないか?」
「承知した。」
俺が扉を開けていた出入口を、ゲボルグは難なく通り抜けられた。
「ム……問題無い、大丈夫だ。」
「ふぅ、良かった。ゲボルグが通り抜けられるのなら、他のお客様は問題無いでしょうね。」
「あぁ。常連さんの中では、ゲボルグが1番デカいからな。ところで……ゲボルグ。さっき、里に戻ってたって言ってたけど、リザードマンの里で何か遭ったのか?」
「いや、何か遭ったわけでは無い。アンネリー殿の店で購入した品が溜まったのでな。1度里に持って帰っていたのだ。」
「なるほど。」
「そういえば……此処に来る途中、大通りを通って来たのだが、アンネリー殿の店を見なかったな。店の場所が変わったのか?」
「確かに。私も最近、アンネリーの姿を見てないわね。」
「いや、実はちょっと前に、アリアータの魚介類を新鮮な状態で内陸の都市に運べるか?って話し合いを、ヒルダとグウェルさん、アンネリーと俺とでしたことがあってな。その中で、試したいことができて、アンネリーにお願いしたんだ。だから、彼女には今、クレス達3人の護衛と一緒に、内陸の……確か、王都の方まで行ってもらってるんだよ。」
「あっ、そうだったの。だからおやつ時になっても、セシルの姿が見えなかったのね。」
「その試し事とやらが上手くいくと良いな。」
「あぁ。良い報告を持ち帰ってきて欲しいな。さてと!ゲボルグ。此処に来たってことは、何か食っていくだろ?」
「おぅ!無論、そのつもりだ!この町と里を往復する間、川で取った魚の塩焼きや、自生していた果物、燻製肉くらいしか食っていなかったんでな。久しぶりに、タクト殿が出す、美味い料理を食べさせてもらいたい!」
「はい、ゲボルグ。お水と……メニューはどうする?直接タクトさんに注文してくれても構わないけど……」
「ム……そうだな……俺も一応、文字を覚えようとはしているのだが、まだ読めない文字も多くてな……すまんが、タクト殿に直接注文させてもらって、構わんだろうか?」
「もちろん!何でも言ってみてくれ。」
「助かる。では……美味い魚……そうだな、味の濃い魚料理があれば、それをお願いしたい。」
「味の濃い魚料理か……わかった。ただ、ちょっと作るのに時間がかかるから、スキルで出してしまうな。」
「あぁ、頼む。」
俺は【 創造 】のスキルを発動し、完成された料理を出現させて、ゲボルグの前に置いた。
「これは……茶色い魚?」
「鯖の味噌煮っていってな、下処理した鯖って魚を、味噌って調味料を砂糖と一緒に、水と調理用の酒で溶いた鍋に入れて煮込んだ物だよ。」
「確かに。よく見るとソースが茶色いだけで、下のサバという魚は青いのね。」
「ふむ……では、ありがたく、いただきます。」
ゲボルグはフォークで器用に鯖の身を切り、口へと運んだ。
「もぐ……ん……んっ!おぉ!このミソという調味料は初めて口にしたが、砂糖と酒の味が加わっているからか、優しい甘さだな。だが、それ以上に、このサバという魚、凄く脂が乗っていて美味いな!」
「ゲボルグ。試しに、これも食べてみないか?代金は取らないから。」
俺は茶碗に炊き立てのご飯を盛って、ゲボルグの前に置いた。
「ム……?タクト殿、これは……?」
「米っていう、穀物だ。まずはそのまま、スプーンで掬って食べてみな。」
「あ……あぁ……」
ゲボルグは俺が言った通り、ご飯をスプーンで掬って、口へと運ぶ。
「もぐ…………ふむ……噛んでいるうちに甘くはなるが……いかんせん、味が薄いな。」
「ははっ、だろうな。じゃあ、その鯖の味噌煮を少し切って、その米と一緒に食べてみな。」
「鯖と米を……一緒に……」
今度はフォークで切った鯖をご飯の上に乗せ、そのままフォークで掬って口へと運び入れる。
「はむ……もぐ……おっ!おぉっ!これは驚いた!サバとミソの味の濃さが、このコメと一緒に食べることで、丁度良い味になった!まるで、これで1つの料理のようだ!」
「本当に。私も初めてお子様ランチのオムライスを食べた時は、驚いたわ。このお米という食材、何かを乗せたり、混ぜたりするのに、適した食材よね。」
「まったく!クロエ殿の言う通りだ!……ム、すまない、タクト殿。サバのミソニとコメのおかわりを頼む!」
「あいよ!……そうだ、ゲボルグ。多少行儀が悪いんだけど、もう1つ美味い食い方を教えてあげるよ。」
「ほぅ?」
俺は先に少量のご飯を用意して、ついさっきまで鯖の味噌煮が乗っていた皿に残っていた煮汁を、ご飯の上にかけた。
「はいよっ!スプーンで掻き込むように、食べてみな。」
「わかった。」
味噌がかかったご飯が盛られた器を受け取ったゲボルグが、俺が言ったとおりに、スプーンでご飯を掻き込んだ。
「ズッ……ズズッ……もぐ……ほぅ!美味い!美味いっ!これは凄いな、タクト殿!」
「だろ?まぁ、他のマナーの厳しい店では絶対にできないけど、ウチの店くらいなら……な。はい、追加のサバの味噌煮とご飯。」
「そもそも、この料理を出しているのは、タクトさんのお店だけだから。他のお店で真似しようにもできないわよ。」
「それもそっか。ちなみに、この鯖って魚、栄養も豊富なうえに目も良くなるって云われてるんだ。この煮汁にもその栄養はちゃんと染み出て含まれてる。」
「ほぅ、そのような効能が……里にもあまり視力が良くない者が居る。アンネリー殿の実験が上手くいった暁には、里にもこのサバという魚を持って来てもらいたいな。」
ゲボルグはそう言った後、美味しそうに2杯目の鯖の味噌煮とご飯を完食した。
「ふぅぅ……美味かった。すまないな、タクト殿、クロエ殿。すっかり世話になった。」
「気にすんなって。俺達の仲じゃねぇか。」
「そうよ。ゲボルグがこの町に来た頃、他のレストランで受けた仕打ちのことはアンネリーから聞いたわ。だからこそ、タクトさんのこのお店でくらいは、気兼ね無く、くつろいでいって。」
「新規のお客さんで、ゲボルグを悪く言うような奴が来たら、クロエに実力行使で追い出してもらうからよ。」
「えぇ!任せて!」
「はははっ、そう言ってもらえて、ありがたいよ。そうだ!会計を済まさんとな。」
「えっと、タクトさん。今回はご飯はサービスで良いのよね?」
「あぁ。そうだな……今後もパンとご飯、スープ関連は、おかわり自由で良いかもな。」
「ということなので、鯖の味噌煮1皿銅貨7枚が2皿なので、銀貨1枚と銅貨4枚になります。」
「うむ。承知した。」
ゲボルグは財布から銀貨と銅貨を取り出し、クロエに渡した。
「はい!丁度、いただきます!」
「堪能させてもらった!タクト殿、クロエ殿。また後日、来させてもらうよ!」
「あぁ!いつでもどうぞ。」
「うふふ。またの御来店、お待ちしてます。」
ゲボルグはペコリと頭を下げた後、ゆっくりと扉を押し開け、帰って行った。
「…………ふぅ。最初にゲボルグがあの入り口に引っ掛かったときは、マジで焦ったな。」
「えぇ。このような言い方をしてはゲボルグに悪いかもしれないけれど……引っ掛かってくれなかったら、そのことに気付けなかったわけだし、感謝しないといけないわね。」
「そうだな。まだ他にも改善しないといけない場所もあるかもしれないけど、その辺はお客さん達の意見を聞きながら変えていこうか。」
「そうね。利用してくださるお客様達には、少しでも快適に過ごしていただきたいもの。」
屋台とは違う、店舗という空間。
1人では気付けなかったであろうことも、クロエや他の常連のお客様も居ることだし
色々と意見を交換して、改善しいければ良いなぁ。




