Menu 39 ~ チョコレートパフェ ~
15時
「こんにちは、タクトさん。」
大通りの方から、クロエが微笑みながら歩いて来た。
「おぅ!いらっしゃい、クロエ。」
「ねぇ、タクトさん。今、時間……いいかしら?」
「ん?あぁ、特に問題は無いけど……どうした?もしかして、また……出ない日が続いてるのか?」
「違うわよ!もぅ!せっかく、この後非番になったから、私の奢りで、タクトさんにこの世界のお菓子を体験させてあげようと思ってたのに……気が変わったから、帰って本でも読むわ。」
「そういえば、ソニアやクロエから話を聞いて興味はあったけど、実際にはまだ、食べに行ってなかったな……今日はソニアは沖に出るって、昼食の時に言ってたし……悪かったな、クロエ。謝るから、その店に案内してくれねえか?一緒に食いに行こうぜ。」
「……!仕方ないわね。寛大な心で許してあげる。行きましょう、タクトさん。」
【 収納 】のスキルで屋台を片付け、クロエに案内されて大通りを歩くこと数分。
外観を植木鉢やプランターで装飾された、とてもお洒落な喫茶店に到着した。
「へぇ、可愛い店だな。野郎の俺が入っても、大丈夫か?」
「うふふ。問題無いわよ。ほら、テラス席でお爺さんが1人で、お茶してるでしょ?」
クロエが指差した先の席で、お爺さんが1人で……たぶん、コーヒーかな?この世界のお茶を飲んでいる。
「優雅で良いな、あぁいうの。」
「えぇ、そうね。そういうわけだから、男の人も問題無くは入れるから、心配しなくても大丈夫よ。」
俺とクロエは店に入り、ウェイトレスさんに案内されて、店内の席に着く。
「クロエ。クロエ達が俺の世界の料理をまったく知らないように、俺はこの世界の料理をまったく知らない。メニューを見てもサッパリだ。だから、注文はクロエに任せても構わないか?」
「えぇ。それじゃあ、このケーキを2つ、飲み物は紅茶でお願い。」
クロエが注文してからしばらくして、俺達の目の前に、垂れるほど柔らかい生クリームがかかった、分厚い長方形にカットされたケーキが載った皿と、紅茶が入ったカップが置かれた。
「これがこの世界のケーキか。見た目は、俺が居た世界の物と、いうほど変わらないな。」
「とりあえず、食べてみて。それから、タクトさんの率直な意見が聞きたいわ。」
「わかった。それじゃあ、いただきます。」
俺はフォークでケーキを食べやすい大きさにカットしてから刺し、口へと運ぶ。
「もぐ……んっ……なるほど。甘いな、うん。すっごく甘いな、このクリーム。本当に砂糖の甘さが牛乳の味より勝ってるなんて……」
「でしょ?」
「しかも、クリームの甘さのせいで、肝心のケーキの生地の甘さが感じられない……パサパサしてるのは、解るんだけど……まぁ、それはこのクリームを付ければいいだけの話しだし……何だろう?そこそこ量のある砂糖の塊を食べている気分だ。」
「えぇ。正直なところ、私もタクトさんと同じ意見よ。でもね、タクトさん。私達はタクトさんのお店を知って、美味しいお菓子を知ってしまったけれど、それ以外のアリアータの……いえ、この大陸に住む人達にとって、お菓子……甘い物の味は、これが基本なのよ。」
「そっか。」
とりあえず、提供された物は残さずに食べきった。
「さてと……クロエ。ここは俺が2人分出すよ。」
「えっ!?そんな、悪いわよ。今日は私の奢りのつもりで……」
「いや。いつも俺の店を利用してくれているお礼ってことで。こういう時くらいしか、返せそうにないからな。たまには恰好つけさせてくれないか?」
「そう?それじゃあ……ごちそう様です。タクトさん。」
◇◇◇
会計を済ませて、店を後にし、クロエとのんびり大通りを歩く。
「この世界の甘い物は貴重って思ってたんだけど、その割には砂糖をこれでもか!ってくらい使ってるんだな。」
「えぇ。製法は判らないけど、いっぱい作れるのか、砂糖は大陸各方面へ大量に出回っているわね。砂糖よりも、ケーキ本体を作るために必要な卵や牛乳の方が高価だから、比例して完成したケーキやお菓子が高価になるの。」
「なるほど。卵や牛乳は、動物達の体調や寿命なんかに左右されやすいだろうからなぁ……」
「さてと!それじゃあ、次はタクトさんのお店を利用させてもらおうかしら。」
「ん?それは構わないけど……さっきのケーキじゃ足りなかったのか?」
「えぇ。私の気のせいかもしれないのだけれど、タクトさんが来る前まで利用していたときと比べて、ケーキ本体の大きさが小さくなっていたような気がしたのよ。材料の値段が高騰して、手に入りにくいっていうことなら納得ができるけど……」
「意図的に小さくして、これまでと同じ値段を取っている可能性もあるってことか。」
「あまり考えたくはないけれど……とにかく、そういうわけで、あまり食べた気がしなかったの。だから、タクトさんのお店を利用させてもらうわね。」
「わかった。それじゃ、いつもの場所に戻るか。」
大通りと路地裏とを繋ぐいつもの脇道。
戻って来てすぐ、【 収納 】していた屋台を出して定位置に立ち、クロエも俺の正面の席に腰掛ける。
「それで?何か食べたいデザートがあるのか?決まってないなら、急かさないから、ゆっくり選ぶと良いよ。今日はこの後、予定が無いんだろ?」
「ありがとう、タクトさん。そうね……以前頂いたチョコバナナクレープやティラミスのように、チョコレートを使ったデザートが食べたいのだけれど……」
「チョコレートか……わかった。それなら……完成した物をスキルで出しちまうけど、構わないか?」
「えぇ。お願いするわ。」
俺は【 創造 】のスキルを発動し、商品を出現させる。
「はい。チョコレートパフェだ。」
「まぁ!とってもお洒落ね!この透き通ったガラスの器も、盛り付けられたいろいろな物も……美しいわ。これが食べ物じゃなければ、小物として部屋に飾りたいくらいよ。」
「量があるからおかわりとして、1日にそうポンポン出せねぇけど、気に入ってくれたのなら、また出してあげるから。とりあえず、いろいろと溶けないうちに早く食べた方がいいぜ。」
「えぇ。……変わったスプーンね。全体的にとっても細長いし、掬う部分も小さい……」
「まぁ、そんなにガッついて食べるような物じゃないしな。それに、それくらい長くないと、器の下の方が掬えないんだよ。」
「確かに……底の方まで、綺麗な層になってるわね。それじゃ、いただきます。」
クロエはチョコレートソースがかかった生クリームをスプーンで掬い、口へと運ぶ。
「はむ……ん……あぁ……やっぱり、タクトさんのお店で出してくれる生クリームは美味しいわね。牛の乳の自然で、とっても優しい甘さ……そこにほろ苦いチョコレートの味が合わさって、美味しいわ。」
「さっきの店の生クリームは、マジで牛乳の味が感じられなかったもんな……」
「んっ……周りのフルーツもとっても美味しいわ!やっぱり、このバナナとチョコレートの組み合わせは最高ね。まろやかな甘さのバナナとは違って、このイチゴの甘酸っぱい甘さも嬉しい……ねぇ、タクトさん。この鮮やかな緑色の……これは?此処に乗っているということは、これもフルーツなのよね?」
「え?あぁ、キウイフルーツか。もちろん、それもちゃんと食べられるぞ。バナナみたいな甘さというより、苺と同じ甘酸っぱいフルーツだ。」
「本当!爽やかな甘酸っぱさで……初めて食べたけど、気に入ったわ。それとこれは……」
クロエはスプーンで生クリームの傍に盛っていたアイスクリームを掬って、口へと運ぶ。
「きゃっ!冷たい!ぁ……口に入れたら、舌の上でサラっと溶けて……何コレ!?信じられないくらい、甘くて美味しい!」
「アイスクリーム、気に入ってくれたか?」
「アイスクリームというのね。えぇ!これはこれで、パフェとは別に単体で食べたいと思うほどには、気に入ったわ!」
「そっか。メニューにはまだ載せていない、パフェを頼んだお客さんにだけ、先行して楽しんでもらうことができるんだけどな。もう少し暑くなってきたら、メニューにちゃんと載せて、単体でも楽しんでもらえるようにするよ。」
「えぇ。その時が今から楽しみだわ。はむ!ん~!このチョコレートが完全に混ざったクリームも良いわね。焼き菓子もサクサクしていて、この1つのデザートに、いろんな甘さがあって、とっても美味しいわ!」
満面の笑みを浮かべながら、クロエはチョコレートパフェを完食した。
「ふぅ……ごちそう様でした。」
「おぅ。お粗末様でした。」
「うふふ。タクトさんのお店を利用する度、好きになる料理がどんどん増えていくわ。困ったものね。」
「良い事じゃねぇか。店主の意見としては、できればいろんな料理を食ってもらいたいところだけど、好きな料理をローテーションで食うってのも、1つの選択だよな。」
「えぇ、そうね。それじゃ、タクトさん。お会計をお願い。」
「あぁ。チョコレートパフェ1皿で、銅貨8枚だな。量と……今回はスキルで出しちまったけど、作る手間を考えたら、これくらいの値段かなって……結局、今日、あの店で出されたケーキと同じ値段、支払わせることになって悪いな、クロエ。」
「タクトさんは何も悪くないわよ。正当な理由、あの味に合ったお値段だと思うわ。タクトさんのお店でデザートを食べると、いかにこの世界のお菓子の味と値段が釣り合っていないかが、ハッキリとさせられるわね。」
俺はクロエから銅貨8枚を、確かに受け取った。
「はい!丁度、いただきます。グウェルさんは今、このアリアータの近くで米作りができないか模索されてるけど……少し落ち着いたら、菓子事情に関しても話し合った方が良いのかもな。」
「どうかしら?このアリアータだけじゃなくて、大陸全土で同じ感じだから……この町の中だけで変わっても……という気もするのよ。」
「確かに……そんじゃ、とりあえずこの件は保留ということで!」
「えぇ、そうね。」
魚、米に続いて、この世界の菓子事情……
これに関しても、より良い方向へ、いつか進んで行くことができれば良いなぁ……と思った。




