Menu 40 ~ お子様ランチ Ⅱ ~
アリアータ近郊の森
「前列歩兵!全速前進!……そこっ!遅い!実戦では、そんな足では通用しないわよ!森の中では、歩兵は騎馬兵よりも小回りが利く分、有利に立ち回れる!その機動力を活かしなさい!」
クロエの指揮の下、衛兵達が実戦訓練をしていると、近くの茂みが大きく揺れ動いた。
「……!モンスターかしら?全員、訓練中断!モンスター討伐に……」
揺れ動いていた茂みから、モンスターではなく、ボロボロの衣服を纏った数名の男性が現れた。
手には各々、剣や鉈、棍棒など武器を持っている。
「あら?盗賊だったのね。でも、対象が違うだけで私達がすることは変わらない!皆、目の前の賊達を鎮圧するわよ!」
クロエがそう言ったと同時に、10人の衛兵達が彼女の横を駆け抜け……賊達の隣に立ち、クロエに対して剣を構える。
「あ……貴方達……!?くっ……!そういうつもりなら……いいわ!纏めてかかって来なさいっ!」
◇◇◇
「……ということがあったのよ。」
13時
いつものように、お昼時から少しズレた時間に来たクロエから、午前中にあったという話を聞いた。
「お……おぅ……マジか。で、当然、返り討ちにしてやったと。」
「えぇ!全員打ちのめして、牢屋にブチ込んでやったわよ!ただ……仲間だと思っていた衛兵達が私を裏切って、盗賊達と一緒に剣を向けてくるとは……そこまで、恨まれていたなんて思わなかったわ。」
「クロエ……」
「私はこのアリアータの平和のために、私が思う正義のために頑張ってきたつもりだったけど、部下にその思いを押し付け過ぎていたのかもしれないわね……はぁぁ……これを機に、衛兵、辞めようかしら。」
「俺は人の上に立ったことがないから、クロエの気持ちに共感することはできないし、適当な事を言うつもりも無いけど……クロエの人生なんだし、クロエの好きにすればいいとは思うよ。」
「ありがとう、タクトさん。」
「あっ、そうだ。なぁ、クロエ。俺はこの世界の土地の相場っていうのか?この土地は幾らで購入できるのかが判らないんだ。だから、教えてくれないかな?」
「そうね……確か、アリアータの一等地なら金貨10枚、1番安い土地で銀貨8枚ね。ただし、金貨に到達していない分、治安はその……あまり良くないわね。」
「なるほど。」
1番良い土地は10万円で、最低ランクの土地が8000円……
最低ランクの土地は、いわく付きの土地とか言われても、何も言い返せねぇくらいに安いな。
「タクトさんが屋台を出している此処なら、金貨6枚で購入できるわよ。」
「へぇ!割と良い土地なんだな。」
「他にも道や運河があるからこの脇道を利用する人は少ないわ。でも、『 少ない 』だけで『 誰も利用していない 』わけじゃない。大通りと裏通りを繋ぐ脇道として、それなりの人が利用する道なのよ。私達常連客が居ないときに他のお客さんが来ないのはおそらく、タクトさんのこのお店が何を出す店なのかが判らないから、警戒されていたのかもしれないわね。」
「なるほどな。それにしても金貨6枚か……」
俺は今まで受け取った料金を入れてある缶の蓋を開けて、中を確認する。
「…………おっ!金貨6枚ある。これでこの土地を買えるぞ。」
「おめでとう!タクトさん!」
「おぅ!ありがとう、クロエ!えっと、此処の購入手続きは、どこですればいいんだ?」
「確か、商人ギルドで手続きができたはずよ。せっかくですし、私が同行しましょうか?」
「助かる。御言葉に甘えさせてもらうよ。」
◇◇◇
手続きはあっけなく済み、金貨6枚支払い、『 あそこの土地は俺の物 』という証であるカードを別途発行してもらって完了。
担当してくれた受付のお姉さんの説明によると、『 自分で土魔法やスキルを扱える場合、建てた店の背後に広がる海を、500mまでなら埋め立てが許可されている 』とのことだった。
「さてと、後はあそこに戻って、スキルで店を建てるだけか。」
「……あの!タクトさん。」
俺の少し後ろを歩いていたクロエに、呼び止められる。
「ん?どうした?クロエ。」
「あそこへ帰る前に、寄って欲しい場所があるの。」
振り返った先にあったクロエの表情が真剣そのものだったので、茶化したりしないで言葉を返す。
「あぁ、いいぜ。別に急ぐことは無いからな。俺の用事に付き合ってもらったし、クロエの用事にも付き合うよ。」
***
アリアータ衛兵詰め所
関係者以外立ち入り禁止とのことなので、俺は近くの壁にもたれ掛かって、中に入ったクロエが出てくるのを待っていた。
「お待たせ、タクトさん。」
「おぅ。もう、用事は良いのか?」
「えぇ。ちゃんと、話を付けて衛兵を辞めてきたわ。」
「そっか。俺はこっちに来てからまだ日は浅いから、クロエがどれだけの期間頑張ってきたかは知らないけど……今までお疲れ様。」
「ありがとう、タクトさん。ただ、勢いで辞めてしまったから、これからのことが何も決まっていないのよね。」
「そうなのか?ん~……それじゃあ、これから建てる俺の店で、住み込みで……俺と一緒に働いてみないか?」
「えっ?住み込みって……私とタクトさんとで、同棲するっていうこと!?」
「やっぱり、知人とはいえ、野郎と一緒に住むのは嫌か?」
「そんな!タクトさんと一緒だなんて、嬉しすぎて夢のような話なんだけど……本当に良いの?貴方を頼ってしまっても。」
「おう!といっても、そんなに大きな店じゃないけどな。予定しているのはカウンター席が5席と、4人掛けテーブルが3つ。とりあえず、室内には最大で17人まで入れるようにするつもりだ。クロエには俺の手が届かない、テーブル席への配膳をお願いしたい。」
「……それだけ?」
「店内清掃と皿洗いは、クロエだけに任せっきりにしないで、俺もするつもりだからなぁ……買い出しだって、俺がスキルで出せるし……あっ、肝心なことを忘れてた。飯はちゃんと3食出すし、おやつだって出す。」
俺はクロエの前に立って、右手を差し出す。
「頼む!俺の店を手伝ってくれねぇかな?クロエとなら、楽しくやっていけると思うんだけど……もちろん、クロエに拒否権はあるから、嫌なら……」
「嫌なんてことは無いわ!」
差し出した右手を、クロエは両手で掴み返してくれた。
「一緒にしようと、私を誘ってくれて本当にありがとう!とっても……とっても嬉しいわ!これからお世話になるわね、タクトさん!」
「おぅ!よろしくな、クロエ。それじゃ……あの場所に戻って、俺達の店兼家を出すとするか。」
「えぇ!」
◇◇◇
大通りと裏通りを繋ぐ脇道。
戻って来た俺は【 創造 】のスキルを発動し、そこそこお洒落……だと思う、洋風の建物を出現させた。
10段の石段を設けて少し高い位置に出現させた店、石段からお客さんが利用する出入り口の扉までは煉瓦で道ができていて、道を挟んだ両隣はテラスになっている。
「まぁ、テラスに何席置くかは、また後々考えるとして……中に入ってみようぜ。」
「えぇ!」
出入り口の扉を開けると、備え付けられていた鈴がチリン、チリンと音を立てた。
厨房はまだ見ていないけど、座席に関しては、俺が思い描いていた通りの理想的な空間になっている。
「よし!必要な物は後で随時出していくとして、内装はまぁ、こんなもんだろ。」
「そうね。これなら、すぐにでも営業……」
話している途中で、クロエの腹部から申し訳なさそうな腹の虫の鳴き声が、静かな店内に響いた。
「ぁ……」
「ははっ、新装開店は明日にするとして、少し遅くなっちまったけど、昼飯にするか。クロエ。何か食べたい物はあるか?」
「そうね……あっ!久しぶりにお子様ランチが食べたいわ。」
「ん。了解。俺の分も出して、そこのテーブル席で食べようぜ。」
俺は【 創造 】のスキルを発動し、テーブルの上にお子様ランチを向かい合わせになるように、2つ出現させた。
「いただきます!……はむ……ん~!美味しい!毎日だと流石に飽きてしまうけれど、定期的に食べたくなるわね。」
「その気持ち、何となく解るよ。ハンバーグやオムライス、カレーなんかは、定期的に食べたくなるときが来るんだよなぁ。」
「それに……このお子様ランチは、私とタクトさんが初めて出会った時に食べた料理だから、ちょっとした思い入れもあるのよ。」
「初めて出会った時の料理か……なんか良いな、そういうの。これからはクロエも、俺と同じ、料理を提供する側になるからな。新規で来てくれたお客さんに、そういう初めての思い出を作る手伝いをしていけると良いな。」
「えぇ!タクトさん……私、頑張るから。改めて、これから末永く、よろしくお願いします。」
「おぅ!こちらこそ。一緒に楽しく、頑張ろうぜ。クロエ。」
今まで1人でやってきた飲食店経営に、住み込みで共に頑張ってくれる仲間ができた。
常連さんの中でもおそらく1番多くの時間を過ごした彼女となら、今後もきっと、楽しくやっていけるだろう。




