Menu 38 ~ 柿の葉寿司 ~
13時
「第1回!『 アリアータの魚介類を、どうすれば新鮮で美味しいまま、王都などの内陸都市へ運べるのか? 』会議を始めます!」
昼食時に賑わう時間帯が一段落した今、客として来てくれたアンネリー主催の下、漁から戻って来たヒルダと領主であるグウェルを巻き込んで
俺の店で、突発的な会議がたった今、開かれた。
「それで、タクトさん。何か良い案はないですかね?」
「いきなり俺に丸投げ!?ん~……そうだな……新鮮ってことは、魚やイカ、貝を天日干しや一夜干しにする案は、無しの方向だよな?」
「え?魚を洗濯物のように干すのかい?」
「あぁ。えっと……」
俺は【 創造 】のスキルを発動し、スルメを出現させる。
「これはイカを干したスルメって食べ物なんだけど、干すことによって洗濯物のように水分が抜けて乾いて、長期間保存できるようになるんだよ。火で焙っても美味いけど、このまま裂いて食べられます。試しに、どうぞ。」
「ほぅ。あのイカが……では、いただきます。」
グウェルがスルメを細く裂き、口へと運んだ。
「ん……もぐ……おぉ。しっとりとしていて、噛めば噛むほど味が染み出してきて、美味しいですね。」
「確かに、こりゃ美味しいよ!」
「イカや貝はまだ食べられること自体が広まってないようだから、今回は置いておくとして……この魚の干物なら問題無く出荷できると思います。食べる際に、焼く・炙る必要はありますが。」
「魚の干物は火を通さないといけないんですね。」
「そのままでも食べられる魚も居るけど、魚と貝の干物は火を通した方が安全だな。」
「ふむ……確かに、これなら保存食としても重宝しそうですね。タクトくん、この干物の作り方が載った本があれば、また譲っていただけませんか?」
「はい。またグウェルさんが帰られるときに、お渡しします。」
「ありがとうございます。」
「まぁ、それはそれとして……だ。やっぱり生で運ぶとなると、ちょっと前にタクトさんに教えてもらった活〆が1番無難かねぇ。」
「ただ……輸送するなら、活〆した魚の周りに氷を入れて、常に冷やしておく必要があるな。何もしないで魚だけを入れていたんじゃ、温かい場所だとすぐに傷んじまうぞ。」
「氷ですか。黒魔導士のシーナさんにお願いして、氷魔法を使ってもらえれば、何とかなりそうですね。」
「……まぁ、その魔法で馬鹿デカい氷の塊を出現させられたとしても、皆で頑張って砕けば良いか。」
「タクトくん。タクトくんの居た世界では、他にどのような魚の保存法があったのですか?」
「え?干す、冷やす以外だと……馴れ寿司か。」
「ナレズシ?それは、どういった物なんだい?」
「スキルで出すのは簡単だけど……安易に出すのもなぁ……皆、食べきれる覚悟はあるか?」
「そんな確認をしないといけない程、危険な物なんですか!?魚を保存した物ですよね?」
「と……とりあえず、出してもらって良いですか?」
「わかりました。」
俺は再度【 創造 】のスキルを発動し、料理を出現させる。
「どうぞ。これが代表的な馴れ寿司、鮒寿司です。」
「うっはあ!中々に強烈な匂いだね。」
「大丈夫なんですか、これ!?大丈夫なんですか、これ!?」
「確かに驚きましたが……この香り……チーズに近いものがありますね。試しに1つ……」
グウェルは鮒寿司を摘まむと、そのまま口へ入れた。
「もぐ……んっ、もぐ……ふむ。これも美味しいですね。何とも言えない、こってりとしていながらも豊かな味です。」
「ホント!口に入れちまえば、いうほど匂いも感じないね。うん、美味しいよ!」
「本当ですね!魚なのに、味の濃いチーズを食べてる感じです。」
「タクトくん。これはどうやって作るのですか?」
「俺も詳しくは知らないんですけど、確か……この鮒っていう魚の卵を傷つけないように内臓を取り出してから塩漬けにして、夏の暑い頃に塩を綺麗に洗い流して、頭から咽にご飯……えっと、炊いたお米を詰めて、桶の中に鮒・ごはん・鮒・ごはんって順番に漬けていって、1年くらい寝かせて、完成だったはずです。」
「1年!?タクトさん、それじゃあ魚が腐っちまうんじゃないのかい?」
「馴れ寿司ってのは、魚を塩とお米に含まれるデンプンって成分で、乳酸発酵ってのをさせた食品なんだ。これは魚を長期保存するための技法だから魚が腐らない。しかも、乳酸菌のおかげで頭の骨も背骨も柔らかくなって、そのまま食べられるんだ。」
「ほぅ!そのような効果が。タクトくんが以前住んでいた世界で、最初にこれを作り出した人は凄いですね。」
「確かに素晴らしいですけど、これは持って行けませんね。何も知らない内陸の町……特に王都の人達の前で、いきなりこれを出してしまったら、私、おそらく捕まっちゃいますよ!」
「まぁ、確かに……それじゃあ、これなんかどうだ?」
【 創造 】のスキルを発動し、また別の料理を出現させる。
「タクトくん。これは?何やら、葉っぱに包んでいるようですが……」
「柿の葉寿司っていうんです。柿という果物の葉っぱに、魚と酢飯……ちょっと甘酸っぱいご飯が包まれているんです。」
「へぇ!ん……もぐ……んっ!美味しいねぇ!魚の生臭さが殆ど感じられないよ!」
「この香りも良いですね。食べやすい大きさなのも、嬉しいです。」
「タクトさん。このカキノハズシは、タクトさんが住んでいた場所では、よく食べられていた物なのですか?」
「いや……実は、俺がまだ小さい頃に身内がお土産で買って来てくれたのを食べただけで、殆ど食べたことないんだ。」
確か、柿の葉寿司って、奈良県や和歌山県、石川県や鳥取県でよく食べられてる郷土料理だもんな。
ただ、俺が住んでいた地域では見かけなかっただけで、関東でも探せば取り扱っている店が、あるのかもしれない。
「この柿の葉には殺菌効果があるといわれていて、包むことで、季節などにもよるけど、数日程度の保存に適するようになるんだ。あと、柿の葉に包むことによって、柿の葉の香りが寿司に移って風味も良くなるのは、今、実際に食べて体験してもらった通りだよ。」
「なるほど。」
「ですが、これも問題ですね。そもそも、カキという植物を見たことがありませんから。もし、このカキノハズシを本格的に作ろうとするのでしたら、まずはカキを苗木から育てるトコロからスタートですね。」
「あぁ、やっぱり。この世界には牡蠣は居ても、柿は無いかぁ。」
「ちなみにですが、タクトくん。仮にですよ、そのカキの苗を植えて育てるとして……実が生るまで、どれくらいかかるんですか?」
「えっと、桃栗三年柿八年だから、最低でも8年はかかると思います。苗から育成するなら、長期計画になるのは覚悟しておいてください。」
「なるほど……錬金術師の方に頼んで、育成剤でも作っていただければ、もう少し短期で……検討の余地、ありですね。」
「あと、柿の葉寿司は確かに数日保存できるけど、やっぱりできるだけ早めに食べた方が良いな。」
「おや?どうしてだい?このカキノハズシって、保存食なんだろ?」
「あぁ、うん。上の魚は大丈夫なんだけどな。下の酢飯が……これ、作って3日目の柿の葉寿司なんだけど……食べてみな。」
【 創造 】のスキルで出した柿の葉寿司を、ヒルダに手渡す。
「はむ……んっ!あぁ……そういうことかい。コメが固くてポロポロ崩れて……魚は問題無く食べられるんだけどねぇ。」
「柿の葉寿司に限らず、お寿司は時間が経つと、その酢飯が固くなって……な。」
「ふむふむ。それでは、やはり今はシーナさんの力を借りて氷を生産し、魚を冷やした状態で、できるだけ早く、内陸の町に行くのが有力候補ですかね?」
「そうですね。……あっ、そうだ。アンネリー。」
「何でしょう?タクトさん。」
「俺も使えるんだが、アンネリーって確か、【 収納 】のスキルを持ってるんだよな?」
「はい!常日頃から多用しています。」
「ちょっと気になったんだけど、このスキルで収納している間って、中の空間での時間経過はどうなってるんだろうな?現実世界と同じような時間の流れなのか……その場で時が進んでいないのか……」
「なるほど。確かに……試してみる価値はあるかもしれませんね!ヒルダさん!新鮮な魚を1匹、売ってもらえますか?私、ちょっと王都まで行って、どうなるのか試して来ます!」
「あぁ、いいよ!それじゃ、アタイはシーナを探して、ちょいと協力を頼んでみるよ。もしかしたら、クレスやセシルも、アンネリーの護衛役を頼まれてくれるかもしれないしね。」
「ありがとうございます!お願いします!」
「この試みが上手くいけば、アリアータの魚事情を大きく改善できるかもしれません。アンネリーさん、よろしくお願いしますね。」
「はい!よろしく任されました!」
こうして話は纏まり、会議終了。
その翌日、ヒルダから魚を購入したアンネリーは、護衛のクレス達と一緒に王都へと実験のために出発した。
この実験が上手くいきますように……
あの会議に参加した1人として、真剣に願った。




