Menu 37 ~ 焼き鳥 ~
21時
屋台の提灯の灯りを点け、台拭きをしていると
「こんばんわ、タクトさん。」
裏通りの方から、シーナが1人で歩いて来た。
「おぅ!いらっしゃい、シーナ。」
「ん。来た。」
シーナはゆっくりと、俺の正面の席に座る。
「先日はクレスが1人で来たし……まさか、パーティ内で喧嘩してたりするのか?」
「ん?心配しないで。そんなことはないから。その、たぶんクレスが言ったと思うんだけど、隣町の食糧難クエスト……それが、他の町の冒険者ギルドで受注した他の冒険者達の協力もあって、思っていたよりも早く片付いたから、さっきまでタクトさんの店でクレスが買ってきたビーフジャーキーをおつまみに、クエスト成功の宴会してたの。あっ、ビーフジャーキー、美味しかったです。」
「そっか。ということは、クレスとセシルは……」
「うん。酔いつぶれて寝てる。私はお酒があんまり飲めないから、疲れて深く眠ることはあっても、酔いつぶれて寝ることはあんまり無い……それで、まだお腹が空いてるから、今回は私1人、宿屋から抜け出して此処に来た。」
「そっか。それじゃあ……はい、メニュー。」
「ん……今日は食べたい物があるから、タクトさんに直接お願いする。」
「お?いいぜ、言ってみな。」
「美味しい鶏肉が食べたいです。大丈夫ですか?やっぱり、この辺りは廃鶏しか出回らないから……」
「そう言えば、この前の打ち上げの時も牛や豚のお肉ばっかりで、鶏肉を出すのを忘れてたな。わかった!用意するよ。」
「ありがとう!」
俺は【 収納 】のスキルを発動し、片付けていたカマドを出現させ、炭火の用意をする。
「今から火を起こすから、ちょっと時間がかかると思うけど……大丈夫か?」
「大丈夫。急ぐ用事は何も無いから。……タクトさん。火なら、私の魔法で点ける?」
「……ちなみに、威力は?」
「1番威力が小さい物で……私達がいつも来る、あの石段の側面に焼け跡を残しつつ、少し凹ませるくらい……」
「それじゃあ、このカマドが消し飛んじまうよ!気持ちだけ、受け取っておくぜ。」
炭火を用意している間に、俺は串に鶏肉を刺していく。
「タクトさん。串に刺した後、軽く揉んでるけど……何か意味があるの?」
「ん?あぁ。肉と肉の隙間を無くすように刺した後、なるべく厚みを均等にするためにしてるんだよ。焼いた時に、万遍なく火が通るようにな。」
「なるほど。」
「よし!それじゃあ焼いていくぞ。」
俺は串に刺した鶏肉に塩を振りながら、炭火で焼いていく。
「鳥と豚肉は、よく火を通しておかないと……」
「くんくん……良い匂い……お腹、空いてきた……」
「…………よし!できたぞ!焼き鳥、お待ちどぉ!ちょっと熱いけど、串を持って、バーベキューと同じように食べてくれ。」
俺は出来上がった焼き鳥を皿の上に乗せ、シーナに提供する。
「ありがとう、タクトさん。いただきます。」
シーナはまず、もも肉を刺した串を手に取り、かぶり付く。
「熱っ、はふ!ん……もぐ……んっ!美味しい!こんなに美味しい鶏肉、初めて……!んっ、モチモチした弾力があって……」
「今、シーナが食べたのは、鶏の太股の肉だな。その隣のはネギマ、もも肉の間に野菜の葱を挟んだ物だよ。」
「これですね。はむ……んっ!もぐ……あぁぁ……これも美味しい!鶏肉も美味しいけど、焼いたネギって、こんなに甘くなるのね。」
ネギマを食べ終えたシーナが次の焼き鳥を手に取り……凝視している。
「タクトさん……これは?今食べた焼き鳥とは、お肉の色がちょっと違うんだけど……焼き過ぎ?」
「えっと、それは確か……思い出した。ボンジリだな。」
「ボンジリ?……え?お尻のお肉なの?」
「あぁ。鳥って、尾羽があるだろ?そのボンジリは、鶏の尾羽の付け根の肉なんだよ。結構な希少部位だぜ。」
「そうなんですか。では……はむ……んっ!適度な歯応えがあって、噛むと甘さと旨味がじんわり溢れて来て……美味しいです!なるほど、希少部位というのも、分かる気がします。」
ボンジリを食べ終えたシーナの手が、次の串を持ったところでまた止まった。
「タクトさん。これは……何?他のお肉よりも、かなり薄いんですけど……」
「シーナは鶏肉を他の店で食べた時、肉と皮が一緒に提供されたことは?」
「…………いえ、無かったと思う。どれも固いお肉だけだった気が……」
「そっか。それはな、鶏の皮を折り畳んだ物だよ。食感で好き嫌いが分かれる場所だけど、まぁ……食べてみな。」
「はい。ん……もぐ……んっ!パリパリに焼かれていながらも、弾力があって……噛むと鶏肉の美味しい肉汁が染み出してきて、美味しい!私は気にせず、食べられそうです。」
「そっか、よかった。4本じゃ足りないよな?追加でまた焼こうか?」
「おねがいします!そうですね……もも肉と皮は、絶対に入れてもらえますか?」
「了解!次は、ももと皮にタレを付けて……この部位は、塩でっと。」
俺は追加で鶏肉を串に刺して、塩とタレを分けて焼いていく。
「そうだ。シーナ。焼き鳥が焼き上がるまで、これを食べてみないか?」
そう言ってシーナの前に、キャベツを入れた小鉢を置く。
「これは……葉野菜?」
「あぁ。お酢って調味料と、醤油って調味料を混ぜて作った液に、軽く浸して味付けしてあるんだ。」
「最初から味付けされているんですね。はむ……んっ!凄いです、この葉野菜!鶏の味でいっぱいだった口の中が、サッパリしていきます。」
「さてと、次も焼けたぞ!」
「来た。うふふ、いただきます。はむ……んっ!このもも肉、さっきとは違って……この甘辛いソースの味も美味しいですね!」
もも肉と皮を食べ、次の串を持ったシーナの手がまた止まった。
「タクトさん。これは?他の塩味で頂いたお肉よりも、かなり色が濃いんですけど……今度こそ、焼き過ぎ?」
「ん?えっと、それは……あぁ!ハツだな。鶏の心臓だよ。」
「心臓!?そんな場所も食べられるの!?」
「内臓を食べる文化の無い人達からしたら、そりゃ驚くよな。」
「で……でも、今日、頂いたお肉はどれも美味しかったから、この部位だって……はむっ!ん……んっ!んん!美味しい!内臓だから、もっと血生臭いのかと思ったけど、全然そんなことなくって、適度な歯応えがあって、美味しいです!」
「よかった。隣の砂肝は鶏の胃で、その丸いのはつくね。鶏の挽肉に軟骨ってのを混ぜて、肉団子にした物だよ。」
「はむっ!んっ……もぐ……んっ!砂肝も、つくねの中の軟骨でしょうか?どっちもコリコリして、美味しいです!」
追加で用意した焼き鳥4本も、シーナは美味しそうに食べて完食した。
「ふぅ……ご馳走様、タクトさん。焼き鳥、凄く美味しかったです……」
「ははっ、喜んでもらえて何よりだよ。」
「タクトさん、お会計……」
「あぁ。えっと、焼き鳥1本銅貨2枚が8本だから、銀貨1枚と銅貨が6枚だな。宴会の出費で足りないようなら、持ち合わせがある時に支払ってくれても良いぜ?」
「銀貨1枚と銅貨6枚…………ん、大丈夫。問題無くあった。」
俺はシーナから銀貨と銅貨を受け取った。
「はい!丁度いただきます。」
「タクトさん。この焼き鳥、また食べたい。注文したら、作ってくれる?」
「もちろん!食べたくなったら、いつでも注文してくれ。」
「ん、ありがとう!」
その後、シーナは小さくお辞儀をした後、未だ人通りもあって、明るい大通りの方へ歩いて行った。
「さてと、火の始末をしっかりしないと……」
「おや?またバーベキューかウナギを焼いていたのですか?」
大通りの方から、グウェルが歩いて来た。
「いらっしゃい、グウェルさん。そうですね……バーベキューに近い物です。食べていきますか?」
「えぇ、是非!今晩も、御呼ばれになりますね。」
そして、提供した焼き鳥を、グウェルも多いに気に入ってくれた。
16本も食べてもらえた。
同時に、先の事を考えて、明日から屋台を出すときは常に、このカマドと炭火も用意しておいた方が良いような気がしてきた。




