Menu 34 ~ 釜めし ~
13時
「こんにちは、タクトさん。」
大通りの方から、ロイドが歩いて来た。
「おぅ!いらっしゃい、ロイドさん。」
「タクトさん。報告が遅れましたが、先日の大市の打ち上げの後、ソニアさんと帰路を共にして……そこで、僕の方からソニアさんに好意を寄せていると告白しまして、その……結婚を前提にお付き合いさせていただくことになりました。」
「おぉ!おめでとう!うっし!常連さんを集めて、盛大に祝わないと……」
「あぁ、いや!気持ちはありがたいんだけど、今はまだ……少なくとも、僕がもう少しお金を稼いで、彼女に合う指輪を買うまでは……」
「わかった。大丈夫、俺は口が堅い方だから……けど、案外他の常連さん達にはもう、バレてるかもなぁ。」
「あははっ、やっぱりそうかな?まぁ、その報告と……ちょっと、タクトさんにお願いがあって、来させてもらったんだ。」
「俺にお願い?」
「食べ物を提供してくれるお店で、食べ物や飲み物以外を注文するのはマナー違反だということは、解ってる。でも、タクトさんのスキルを見て、お願いしたいことがあるんだ。お願いします!鉄のインゴットを10個ほど出してもらえないだろうか?」
「え?そりゃもちろん、ロイドさんが困ってるなら協力するけどさ……何か遭ったのか?鍛冶屋さんで材料が尽きるって……」
「普段はこんなこと無いんだけどね。いつも利用している卸業者さんの話によると、店で使用している鉄鉱石が採取できる場所にドワーフが乱入して、好き勝手採掘してしまって……」
「うわぁ……なるほど。それで規定の量が採掘できるどころか、今後その鉱山で採掘できるかどうかすら怪しくなったってことか……」
「そうなんですよ……」
カウンター席に座っていたロイドが頬杖をついて、小さく溜め息を吐く。
「それじゃあ、アンネリーの店で取り扱ってるかも判らないし……わかった。そういうことなら、喜んで協力するよ。」
「ありがとう!タクトさん。」
「んじゃ、その鉄は後で出すとして……ロイドさん、何か食って行くかい?」
「あぁ、お願いするよ。タクトさんのこの店に来る前に、この町の露店をあっちこっち走り回ったせいで、お腹が空いてしまってね……」
「了解。メニューから探します?それとも、何か『 これが食べたい 』っていう物があれば、とりあえず言ってみてください。」
「そうだな……じゃあ、先日打ち上げの時に頂いた塩むすびの材料……おコメでしたっけ?あれを使った味の濃い料理があれば、それをお願いします。」
「米を使った味の濃い料理……割といろいろあるけど……そうだ。あれなら……ロイドさん、腹減ってるみたいだし、スキルで出しちまいますね。」
俺は【 創造 】のスキルを発動させ、容器をそのままロイドの前に置いた。
「……??これは?変わった容器ですね?」
「まぁ、その上の木の蓋を取って、中の飯を食べてくれ。」
「わかった。……うわっ!湯気が勢い良く出て……おぉ!中身も豪勢だ!タクトさん、これは何という料理なんだい?」
「その釜に米や具を入れて炊くから、釜めしっていうんです。」
「釜めし……この香りは、焼きおにぎりに塗っていた、ショーユの匂いですね。では、いただきます。」
ロイドはスプーンで釜めしを掬い、口へと運ぶ。
「はむ……んっ、もぐ……あぁ……コメとショーユの組み合わせは良いね!うん、美味しい!鶏肉もモチモチしていて……」
「こんにちは、タクトさん。」
大通りの方から、クロエが小さく手を振りながら歩いて来た。
「おぅ!クロエも今から昼飯か?」
「えぇ。あら、ロイドさん。こんにちは。」
「んっ……こんにちは、クロエさん。」
「……ロイドさん、見慣れない容器を持って……もしかしなくても、タクトさんの居た世界の料理よね?」
「あぁ。釜めしっていうんだけど……クロエも食べるか?」
「えぇ!是非!できれば、1から作っている所が見たいわ。」
「了解。」
俺は再度【 創造 】のスキルを発動し、今度は材料を出現させる。
「洗った米と醤油、みりん、だし汁を釜に入れて、既に30分置いたコレに、具を切って入れていく。」
「ん?タクトさん。その茶色くて、細長い物は?さっき食べたんだけど、香りがとても良かったんで、気になってたんだよ。」
「軽く見た感じだと、木の根っこのように見えるけど、タクトさんのお店で食べられない物が出てくるとは思えないし……」
「え?……あぁ!もしかして、牛蒡のことか?」
「「ゴボウ?」」
「見た目は確かにそれっぽいけど、ちゃんとした野菜だよ。この牛蒡は、根菜っていって、ジャガイモやニンジン、サツマイモやレンコンとかと一緒で、土の中で育った根の部分を食べるんだ。」
「へぇ。ニンジンとかと同じで、野菜なんだね。」
「この牛蒡と人参、鶏肉、椎茸、筍を入れて、最初は弱火に……この釜が温まって来たら、中火にして10分間炊いていく。」
「うふふ。待ち遠しいわね。」
「ん?タクトさん。この草は?食べられるのかい?」
「草?あぁ、三つ葉のことか。そいつはハーブの一種で、彩と香りが良くなるから入れてあるんだけど、もちろん食べられるよ。」
「なるほど。はむ……うん、爽やかで良い味だ。」
「……よしっ!クロエの分もできたぞ。熱いから気を付けてな。」
「はい!いただきます!」
クロエも木で作られた蓋を開け、スプーンで釜めしを掬って、口へと運ぶ。
「あつっ、はふっ!ん、もぐ……んっ!美味しい!お米も味が染み込んで、鶏肉も野菜も良い歯応えだわ!」
「ふぅ……美味かった。ごちそう様、タクトさん。」
「おぅ!お粗末様。」
「それにしても……この容器、面白い形だね。これは……陶器なのかな?」
「あぁ。全部陶器の物もあれば、直接火が当たる下の部分より上は鉄で作られた物もあるよ。」
「ふむ……基本が陶器なら、ウチで作るのは難しいか……あっ、ごめんなさい。珍しい物を見た物で、つい……タクトさん。お会計をお願いします。」
「あぁ。釜めし1杯で、銅貨8枚だ。」
「えっと……はい。銅貨8枚。」
俺はロイドから銅貨8枚を受け取った。
「はい!丁度いただきます。それと、例の鉄は……内容が内容だけに、此処から荷車に積んで鍛冶屋まで運ぶのもな……後で、俺が鍛冶屋に行って、店内で出すよ。」
「そうですね。えぇ、お願いします。」
ロイドは一礼して、大通りの方へ歩いて行った。
「そう言えばロイドさん、ソニアと結婚前提でお付き合いすることになったそうね。」
「ん?あれ?俺、クロエにその話したっけ?」
「いいえ。ソニアが嬉しさのあまり、この店の常連さん相手に惚気ているのよ。」
「あぁ……まぁ、気持ちは解からんでもないかな。」
「えぇ。親友としても、彼女の恋が永遠に続くことを願っているわ。」
その後……
釜めしを食べ終えたクロエに鉄鉱石の事情を話し、ロイドの鍛冶屋まで案内してもらい、頼まれた鉄インゴットを出現させた。
ドワーフ達も生活のためにハッスルして発掘してるんだろうけど、他の種族に迷惑をかけない程度、範囲で頑張ってほしいところだ……




