Menu 33 ~ インドサンド ~
10時
「おはようございます!タクトさん。」
屋台を出し、台拭きをしていると、大通りの方からアンネリーが歩いて来た。
「おぅ!おはよう、アンネリー。」
「遅くなって申し訳ありません。例の粉チーズとタバスコの売り上げをお持ちしました!」
そう言いながらアンネリーは、個別で用意してくれたであろう皮袋を取り出した。
「えっと、粉チーズ1本銅貨6枚が80本で金貨4枚と銀貨8枚。タバスコが1本銅貨7枚が80本で金貨5枚と銀貨6枚。この売り上げの合計の半分を、タクトさんにお支払いするという約束でしたので、金貨10枚と銀貨4枚の半分、金貨5枚と銀貨2枚!どうぞ、お納めください。」
俺はアンネリーからお金が入った皮袋を受け取った。
「ありがとな、アンネリー。」
「いえいえ!こちらこそ!タクトさんのおかげで、美味しい思いをさせていただきましたので。今後も、売れそうな物があれば、力を貸してくださいね。」
「あぁ。もちろんだ。」
「おはよう、タクト殿。」
アンネリーとのやり取りが無事に終わった時、裏通りからゲボルグが歩いて来た。
「おぅ!おはよう、ゲボルグ。」
「あっ!タクトさんのお店の新しいお客様ですね。はじめまして!私はアンネリー。商人をしています。」
「ほぅ……俺はゲボルグ。よろしく頼む。」
「さてと!2人共、せっかくだし何か食べていくかい?」
「そうですね。何か、面白い料理があれば、お願いします。」
「俺も頂いていこうかな。タクト殿、アンネリー殿と同じ物を頼む。」
「面白い料理か……」
そういえば、昔、テレビで料理系の番組を見て、ちょっと美味しそうって思った料理があったな。
………うん。どうやら、【 プロの技術 】のスキルのおかげか、作り方も覚えている。
「よし!2人共、時間は大丈夫か?無いなら、完成した物を出すけど……」
「俺は大丈夫だ。急ぐ用事は無い。」
「私も大丈夫です。タクトさん、1から作ってください。」
「了解。それじゃあ……」
俺は【 創造 】のスキルを発動させ、材料を出現させる。
「あ……この香り……カレーですか!?」
「あぁ。作る段階で小麦粉を多めに入れて、液体じゃなくて、ほぼ固形に仕上げてある。」
「食欲をそそる匂いだな。タクト殿、この黒い物は?こちらからは甘い香りがするんだが?」
「こっちは餡子。小豆っていう豆に砂糖を加えて煮込んだ物だよ。まずは、耳を切った食パン……こっちの世界では、白パンっていうんだっけ?これの両面を牛乳にサッと浸して……」
とりあえず、まずは2枚の食パンを牛乳に軽く浸す。
「このパンは上質な物でも大丈夫だけど、牛乳に浸して柔らかくするから、ちょっと放置して固くなってしまったパンでも、問題無く作れるんだ。」
「なるほど。立派な蘇生術ですね。」
「で、パンの上に具を入れてから2つ折りにして、はがれないように端をフォークで押さえつけて合わせていく。引っ付けばいいから、スプーンの背中部分で押し付けても良い。」
同じようにカレー入りを1個、餡子入りを2個、作り上げる。
「そして後は、油で揚げるだけ。」
「パンを油で揚げるのか!?」
「驚きました。パンは作る過程で既に焼いてあるので、更に火を通す必要が無い物だと思っていました。」
「え?そういう感じなのか?」
でも、この間クロエにフレンチトーストを提供した時は、焼く工程を見ても特に驚いてなかったよな?
こういうトコロが、人間とそれ以外の種族との違いだったりするんだろうか?
「……よし!揚がったぞ。ちゃんと油を切って……インドサンド、お待ちどぉ!」
俺はインドサンドが乗った皿を、2人の前に置いた。
「タクト殿、インドというのは……?」
「ん?あ、そうか。インドっていうのは、俺が以前住んでいた世界にある国の名前なんだ。その国のサンドイッチって料理で、インドサンドだ。」
「なるほど、国の名前か。それより……以前、タクト殿が住んでいた……世界?」
「あっ!ゲボルグさん、タクトさんはですね……」
アンネリーが俺の代わりに、俺の過去をゲボルグに話してくれた。
「そうか……いや、タクト殿が異世界から来た人間であろうと、関係無い。今後とも、変わらぬ付き合いをしていければと思っている。改めて、宜しく頼む。」
「ははっ、ありがとう。こちらこそ。」
「ナイフとフォークが無いということは、手掴みで食べるんですね。」
「あぁ。ちょっと熱いけど、手で持って、そのままかぶり付いてくれ。」
「わかりました!それでは!いただきますね。」
「いただきます。」
2人は各々インドサンドを手に取り、かぶり付いた。
「はふっ、ん……もぐ……んっ!おっ、美味しいです!香ばしく揚がっているのに、パンがしっとりしていて。」
「今回は油で揚げたけど、焼き固める技法もあるらしいんだ。他にも、2つ折りにしないで、1枚のパンの上に具を乗せて、もう1枚のパンで挟む……パンを2枚消費して作る方法もあるんだよ。」
「インドサンドという1つの料理なのに、いろいろな調理法があるんですねぇ。」
「タクト殿!このカレーだったか?初めて食すが、程良い辛さで美味いな!気に入った!この牛乳を吸って甘く柔らかくなった白パンと、とてもよく合う!」
「カレーも美味しいですけど、このアンコでしたか?これ、とっても甘くて美味しいですね!これまで、いろいろ甘い物を食べてきましたが、初めて食べる甘さです!」
そりゃ、西洋ファンタジー風なこの世界に、和風の餡子なんて無いだろうからなぁ。
「今回はカレーと餡子にしたけど、薄切りにした燻製肉やチーズなんかを入れても美味いと思うぞ。」
「燻製肉やチーズの薄切りなら、何とか用意できそう……これはまた、良い商売のヒントを……」
「売るなら、何か別の名前を考えた方が良いぞ。『 インド 』なんて、この世界の人達には絶対に伝わらないからな。」
「そうですね。それに、私の店はタクトさんのような料理店ではなく、雑貨店なので、あまり料理の方面にばかり……調味料以外に手を広げるわけにもいきませんしね。この美味しい料理は、タクトさんのお店にお任せします。」
「おう。任されました。」
その後、アンネリーとゲボルグは、あっという間にインドサンドを完食した。
「ごちそうさまでした!タクトさん!」
「美味かった。タクト殿、会計を頼む。」
「えっ!?あぁ、うん。会計……」
どうすっかな……インドの物価がどれくらいなのか、知らないんだよなぁ。
中の具だって元手は掛かっていないし……
とりあえず、菓子パン1個のだいたいの値段を思い出し、10円単位を考えないとすると……
「インドサンド1個銅貨2枚が2個だから、2人共それぞれ、銅貨4枚だな。」
「1個銅貨2枚か。懐に優しい値段だな。」
「食べたくなった時に、気軽に購入できるお値段なのが嬉しいですね。」
2人はそれぞれ、銅貨4枚を支払ってくれた。
「はいよ!ちょうどいただきます。」
「さて……アンネリー殿。商人とのことだが、この後、店を覗かせてもらっても構わんだろうか?」
「はい!もちろんです!」
「助かる。基本的に俺達リザードマンの生活は自給自足だが、生活環境故に、どうしても自然界では手に入らん物、自分達の今の技術ではどうしても作れない物もあってな。必要な時に、町村へ買い出しに出向くのだが……物の価値が判らないとでも思われているのか、質の悪い物を売りつけられることが多々あったんだ。俺が集落から町へ出て来たのは、信頼のおける商人、店を探す目的もあったんだ。」
「そうだったのか。俺はアリアータ以外の町のことは知らねぇけど、人間以外の種族を相手に阿漕な商売しやがる店があるんだな。」
「わかりました!タクトさんのこのお店で知り合ったのも何かのご縁です。ゲボルグさんのそういった事情も考慮して、商品のお値段に関しましては、お勉強させていただきますよ。」
「いや、こちらは定価で購入するつもりでいたのだが……ありがとう、アンネリー殿。」
「では、行きましょうか。ゲボルグさん。タクトさん、今日はここで失礼しますね。」
「おぅ!またの御利用、お待ちしておりますよ。」
アンネリーとゲボルグが一礼して、大通りの方へ歩いて行った。
「ゲボルグのあぁいう話を聞いちまうとなぁ……せめて、俺の店くらいは、彼等がゆっくりできる場所にしたいなぁ……」
自分が子供の頃、大好きだった某アンパンが頭の正義のヒーロー程ではないけれど
お腹を空かせて困っている人が居たら、可能な限り力になってやりたい
その思いは、今後も大事にしていきたいと思った。




