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Menu 32 ~ スペアリブ ~

13時


「さてと、ちょっと休憩しようかね……っと!」


一般的な昼食の時間帯を終え、皿洗いも済ませたので、俺は麦茶を用意して、本へと視線を落とす。

すると、しばらくして、ズシ……ズシ……と、漫画などで恐竜やドラゴンなど、大型の爬虫類が歩く時に表現されているような足音が聞こえてきた。


思わず音がした方へ視線を向けると、裏通りの方から左手に槍を持ち、鎧を装着した2足歩行の……たぶん、2mはあると思われる巨躯なトカゲが歩いて来ていた。

たぶん、リザードマンって呼ばれる種族なんだろう。


「ム……こんな所にも店が……すまん。此処は飯を食わせてくれる店で、合っているだろうか?」

「おう!いらっしゃい!椅子は耐えられるかな……とりあえず、どうぞ。好きな席に座ってくれ。」

「おぉ……助かる。」


リザードマンは俺の正面の席に腰を下ろした。

よかった……どうやら椅子は、巨躯なこのお客さんの重量にも耐えられるようだ。


「ふぅ……店主。休む処を提供してくれて感謝する。俺は『 ゲボルグ 』。見ての通りの、リザードマンだ。」

「俺はタクト。よろしくな、ゲボルグ。」

「こちらこそ。さて、タクト殿……我等リザードマンは基本的には自給自足の生活を送っているが、以前、グリフォンを討伐した時に、奴が守っていた金や宝石の類はちゃんと頂いて、こうして皮袋に入れて持参している。頼む!この金で何か、食事をさせてもらえんだろうか!?」


グリフォンを討伐したのか!?

どうやら、ゲボルグはかなりの勇士のようだ。


「もちろん!あっ……なぁ、ゲボルグ。すっごく失礼なことを訊くんだけどさ、ゲボルグは俺達が使用している文字を読むことはできるか?」

「ム……すまない。話すことは容易いのだが、文字は簡単な物しか……」

「いや、謝らないでくれ!ゲボルグは何も悪くないんだから。そうだな……とりあえず、このメニューを見てくれ。そこに載っている物なら、問題無く出せるよ。文字が読めないなら、興味のある料理の絵を、爪で指し示して教えてくれればいいからさ。」

「おぉ……その配慮、感謝する!タクト殿。」


俺からメニューを受け取ったゲボルグは、じっくりと料理の絵を確認しながら1ページずつ捲っていく。


「ほぅ……どれも美味しそうだな。」

「もし、どうしても決められないなら、『 こういう物が食べたい 』って教えてくれ。そのメニューに載っていなくても、俺が知っている物なら提供できるから。」

「そうか!ふむ……では、とにかく肉が食べたい。肉の種類は問わない!その代わり、食べ応えのある物をお願いしたいのだが……」

「肉を使って、食べ応えがある……わかった。たぶん、これなら満足してもらえるだろう。腹減ってるみたいだし……今から作ってたんじゃ、かなり時間がかかるから、スキルで出してしまうな。」


俺は【 創造 】のスキルを発動させ、料理が乗った皿を出現させる。


「おぉっ!骨付きの肉か!」

「あぁ!スペアリブっていうんだ。どうぞ、食べてくれ!」

「ありがたい!いただきます!」


俺がスペアリブの乗った皿をゲボルグの前に置いたと同時に、彼はスペアリブを1本手に取り、肉に噛みついた。


「はぐっ!もぐ……んっ、もぐ……うっ、美味い!この肉に塗っているソースの味や香辛料の味も良いが、肉そのものの味も美味い!噛む度に、肉汁が溢れ出してくる!」

「ははっ、喜んでもらえたようで良かったよ。」

「タクト殿!これは一体、何の肉なんだ!?」

「あぁ。今回は豚肉だな。このスペアリブは、場所で言えば肋骨やあばら骨辺りだよ。豚でも牛でも、お腹側の赤味と脂肪層が重なった部分で、骨付きの物をスペアリブと呼ぶんだ。だから実はこれは、料理名っていうより、部位の名前なんだよ。」

「なるほど!あばら骨の肉か!はぐっ!……うん、美味い!」

「ゲボルグ。その鋭利な歯じゃ、ちょっと難しいかもしれねぇけど、この骨に引っ付いてる皮……膜みたいなのがあるだろ?ここも美味いから、食べられるようなら、食べてみな。」

「ほう……んっ!おっ!何とか捲れた……はむ……んんっ!確かに!此処も香ばしくって美味いな!」


ゲボルグは嬉しそうに、皿に置いてあった5本のスペアリブを平らげていく。


「タクト殿!もう1皿貰えるだろうか?」

「おぅ!すぐ出すからな。」


俺はもう1度スキルを発動させ、同じ物をもう1皿用意する。


「はいよ!お代わり、お待ちどぉ!」

「ありがとう!」


俺からスペアリブが盛られた皿を受け取ったゲボルグは、嬉しそうに食事を再開した。


「美味い!美味いっ!……そういえばタクト殿、この料理には時間がかかると言っていたが、どのような調理法なんだ?」

「いや、実は、特別難しいことは何もしないんだ。肉に味付けをして、焼くだけなんだけど、この焼くのに時間がかかるんだよ。豚肉はよく火を通さないと、腹痛を引き起こすことがあるから、時間をかけてオーブンっていう調理器具で火を通していくんだ。」

「なるほど。俺達なら、多少生焼けでも平気だが、人間はそういう訳にはいかないだろうからな。うん!念入りに調理することは、良いことだ。」


その後……会話をしつつ、ゲボルグは2皿目も完食した。


「ふぅ!美味かった!ごちそう様だ、タクト殿。」

「おぅ!御粗末様。」

「では、忘れぬうちに代金を支払わねば……タクト殿、幾らだ?」

「えっと、スペアリブ1皿銅貨8枚が2皿だから、銀貨1枚と銅貨6枚だな。」

「何っ!?あの食べ応え、あの美味さで金貨に到達しないのか!?では、店主のタクト殿が決めた代金を。」


ゲボルグは皮袋から銀貨と銅貨を取り出し、支払ってくれた。


「はい!丁度、いただきます。」

「タクト殿……貴方には本当に感謝している。実は、この店に来る前、何件か飲食店を巡ったのだが……どの店も門前払いで、入れてもらえんかったのだ。」

「なっ!?マジか……以前、その店で粗相をしたなんてことは無いんだよな?」

「あぁ。先日の大市の日にこの町を訪れたばかりだ。まぁ、露店で売られている魚や野菜を買って、丸かじりするだけでも飢えは凌げる。だが、できることなら、やはり美味い物を食べたい。そう思って、飲食店を巡ったのだがな……『 俺のような奴が店に入ったら、他の客に迷惑だ 』と、どこの店でも言われ、店で食事をすることを諦めていた時に、俺はこの店を見つけた。」


ちょっと興奮してるのか……嬉しいのかな?

ゲボルグが逞しい尻尾をビタンッ!ビタンッ!と2回、地面に打ち付ける。


「この店でも、他の店同様に断られるだろうと思ったが、タクト殿はそんなことなく、俺を客として受け入れ、この美味い料理を出してくれた。本当に、感謝している。」

「ははっ!正直、リザードマンって種族を初めて見たからビックリしたけど、それだけだ。今、ゲボルグの事情を聞いたら、直の事……空腹の状態でこの店を見つけてくれたお客さんは、たとえ悪魔だって受け入れるよ。金だって、ある時払いの催促無しだ。」

「ありがとう、タクト殿。」


「おっす!タクト。昼飯食わせてくれないか……って、うおぉぉ!リザードマンのお客さんか!」


裏通りの方から、クレス、セシル、シーナが歩いて来た。


「おぅ!いらっしゃい。今、クエストから戻ったのか?」

「あぁ。なかなかの成果だったんでな。美味しいものを食べようって、満場一致だったよ。それにしても、リザードマンの来店には、私も驚いたな。」

「おっきい……」

「ム……すまない。迷惑なら、すぐに……」

「ははっ!良いって、良いって!ん?あんた、槍を使うのか?」

「あ……あぁ、多少の心得はあるつもりだが……」

「そっか!実は、そういう長柄武器を扱えるメンバーが欲しいと思ってたんだ!なぁ、もし良かったら、今度一緒にクエストを受けないか?」

「タクト殿……」

「大丈夫。クレス、セシル、シーナ。彼はゲボルグ。見ての通り、リザードマンだ。」

「ゲボルグだな。よしっ!覚えた!俺がクレスだ!よろしくな!」

「ふふっ、よろしく、ゲボルグ。私がセシルだ。」

「シーナです。よろしく。」

「あ……あぁ。こちらこそ。」

「ゲボルグ。ウチに来る人達は殆ど人間だけど、種族で差別するような人は居ない。まぁ……女性のお客さんが多いから、トカゲとか爬虫類が苦手な人は、ちょっと悲鳴とか上げたりするかもしれないけど……それ以外は、何も問題無いと思う。だから、これからも安心してウチを利用してくれ。」

「タクト殿……そうか。クレス殿、先程の申し出、俺で良ければ、喜んで同行させてもらいたい。」

「よっしゃあああ!」

「タクトさん。ゲボルグさん、何か遭ったの?」

「実は……」


俺はゲボルグがこの店に来るまでに受けた待遇のことを、3人に話した。


「はぁ!?マジかよ!本当にふざけてるな!その店の奴等!ゲボルグ、そんな店で飯を食わなくって正解だぜ。」

「人間以外の種族への差別の話は聞いたことがあったが……うん、クレスの言う通りだ。それに、たぶん、そんな店の料理より、タクトの店の料理の方が美味しいからな。」

「たぶん、他の皆にも話したら、きっと私達と同じ反応をしてくれる。だから大丈夫。タクトさんのお店なら、安心して料理を食べられるわ。」

「クレス殿、セシル殿、シーナ殿……ありがとう。そのように言ってもらえて、本当に嬉しいよ。」

「……で、だ。タクト。ゲボルグが食べた料理、骨しか判んねえけど、今日はそれを食べさせてくれないか?」

「私も。」

「私も、お願いします。」

「あいよ!すぐ用意するよ。」


その後、スペアリブを食べながら冒険者3人と、新たなお客様であるリザードマンは、それぞれの冒険談を語り合って、大いに盛り上がっていた。

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