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Menu 27 ~ ハンバーガー ~

13時


「はぁ~……」


来店早々、席に着いたセシルが深い溜息を吐いた。


「どうした?セシル。そんなに腹が減ってるのか?」

「いや、それもあるんだけど……タクト。あそこに、こちらの様子を窺っている2人が居るのが見えるか?」


セシルが指差した方を見ると、彼女がいつも歩いて来る裏通りへ続く石でできた階段の陰に隠れている

金色のショートヘアで白銀の鎧を纏い、立派な大剣を背負った男性と

絵に描いたような魔女のような紫色の帽子をかぶり、同色のローブを纏った、黒色のロングストレートヘアの女性が

こちらの様子を窺っていた。


『 階段の陰に隠れている 』とはいったものの、階段は段数が少なく低いため、その姿は完全に隠れきれておらず……というか、ほぼ全身が見えてしまっている。


「見えるなぁ。あの2人は、セシルの知り合いか?」

「タクトには、私が他の冒険者からクエストに誘われるという話をしたことがあったな?」

「あぁ。少し前に聞いたような気がする。」

「その私を誘ってくれる冒険者というのが、あの2人なんだ。昨日もこの町の宿屋内にある食堂で、夜通し酒盛りをしていてな。実は、ついさっき起きたんだ。それで……もう、時間的には昼食か。この店で食事をしようと宿を抜け出して来たんだが、あの2人も起きていたようでな。私がどこに行くのか気になって、後を付けて来たらしい。あいつ等の尾行を振り切ることもできたんだけどな。それはそれで、やましいことをしていると思われそうで……気付かないフリした結果が、アレだ。」

「なるほど。ん~……あぁしてジッと、こっち見てられるのも気になるし、せっかくあそこまで来てるんだ。此処に連れて来たらどうだ?」

「それもそうだな。すまない、ちょっと行って連れて来る。」


セシルは席を立ち、階段の陰に隠れている2人の所へ行き……首根っこを掴んで、引っ張るように連れて来た。


「まったく、お前達は……」

「ははっ、悪かったって、セシル。」

「どこに行くのか気になった。そしたら……こんな所に、お店があったなんて……」

「タクト。こっちの剣士は『 クレス 』、黒魔導士の彼女が『 シーナ 』だ。」

「タクトさんっていうのか!よろしくな!」

「シーナです……よろしく。」

「おぅ!よろしく。とりあえず、お冷と……メニューも置いておくな。」


俺は3人分の氷水とメニューを用意し、各々の前に置いていく。


「メニューって……此処、料理屋なの?」

「おいおいおい!セシル。俺達、昨日の酒盛りの代金を支払って、持ち合わせが少ないぞ?大丈夫なのか!?」

「あぁ。問題無い……と思う。タクトの店の料理は、財布に優しい値段だからな。」

「確かにお値段は安いみたいだけど……何これ?どれも見たことの無い料理。」

「ふふっ、それはそうだろう。此処は異世界の料理を出してくれるお店だからな。」

「……セシル。お前、何言ってんだ?まだ酔いが抜けきって無いんじゃねえか?」

「タクト。クレスには何も出さなくて良いぞ。私が料理を食べる姿を見せつけてやる。」

「おぃぃ!それはないだろ!」

「タクトさん。セシルが言っていたことは、本当なの?」

「あぁ。実は……」


俺は、この世界に来たから何度目かの説明を、クレスとシーナにも話した。


「なるほど。大変だったんだな、タクトさん。」

「クレス。私にも何か言うことがあるんじゃないか?」

「……おっ!この料理、美味そうだな。」

「このっ……」

「タクトさんの事情はわかった……でも、それがわかったところで、このメニューの料理がどういう物か、味の想像がつかない。タクトさん、何かオススメとかある?」

「おぉ、まさか、ついにオススメを聞かれる日が来るとは……ん~……逆に、シーナさんやクレスさんは」

「あっ、タクトさん。俺のことは呼び捨てで構わないですよ。」

「私も呼び捨てで良いですよ。」

「ん?そうか?じゃあ、そう呼ばせてもらうよ。2人も、セシルみたいに、俺のことを呼び捨てで呼んだり、好きなように呼んでくれて構わないからな。」

「ははっ、ありがとうございます。」

「それで話を戻すんだけど、クレスやシーナは、何か『 これが食べたい! 』とか『 この食べ物が嫌い、苦手 』っていう物はあるか?」

「あるなら、タクトに相談してみるといい。条件に合って、タクトが知っている物であれば、そのメニューに載っていない物も出してくれるぞ。」

「そうなのか?俺は……嫌いな物や苦手な物は無いな。以前、セシルやシーナに出会う前に居た町で、物流が滞ってひもじい思いを体験したことがあるんだ。だからそれ以降、食べ物に感謝して、食べられるものは何でも食べるようにしてるんだよ。」

「おぉ!偉いな、クレス。」

「ただ、欲を言えば、最近ありつけてない、美味い肉が食いたいかな。」

「肉ね……シーナは?」

「私も特に好き嫌いは無い。でも……クレスの話を聞いた後で、こう言うのも何だけど……この町や、近隣の町村に出向いた時に利用している宿で、魚やジャガイモ、固いパンを出されて、少しだけ飽きが来ているということは、正直に伝えておく……」

「なるほど。セシルはどうする?」

「そうだな……タクト。以前食べたハンバーグ……あれは本当に美味しかった。それで、相談なんだけど、あのハンバーグをホットドッグやカツサンドのように、パンで挟んで食べる方法ってあるか?」

「おぅ!あるぜ。肉を使ってるし……クレスもシーナも、セシルと同じ物で構わないか?」

「あぁ!この店は初めてだからな。セシルとタクトに任せるよ。」

「えぇ。お願いします。」

「あいよっ!それじゃあ、ちょっと待っててくれ。」


俺は【 創造 】のスキルを使って、必要な物を出現させる。

ハンバーグは形を整えた、焼く前の物を用意した。


「さてと、ハンバーグを焼いているうちに、他の物を用意しないと。」


レタスとトマトを水洗いして、トマトをスライス。

専用のパンも、ハンバーグを焼くのに使用しているのとは違うフライパンで、ハンバーグが焼き上がる前にサッと火を通す。


「おぉぉ……この肉の焼ける匂い……やばっ、涎が……」

「流石に涎は垂らさないけど、本当に美味しそう。」

「…………よし、焼けた!」


コンロの稼働を止め、下になるパンにバターとマスタードを塗ってから千切ったレタスを敷き、ハンバーグを乗せてケチャップを塗って薄切りのチーズを敷き、スライスしたトマトを置いてパンで閉じる。


「待たせたな!ハンバーガー、お待ちどぉ!」


俺は崩れないように、そっとハンバーガーが乗った皿を3人の前に順番に置いていく。


「うぉぉ!すげぇ!」

「タクトさん。これは、どうやって食べれば……?」

「ん?あぁ。そのまま手で持って、かぶり付いてくれ。」

「手掴みで、かぶり付けばいいのか!わかった!それじゃ、いただきます!」

「「いただきます。」」


先陣を切ったクレスに続き、セシルとシーナが各々、ハンバーガにかぶり付く。


「もぐ……んっ、……ごくっ、うっ……うめぇぇぇぇぇ!!何だ、この肉、噛んだら肉汁が溢れてきて……薄切りのチーズの味と混ざって、すっげぇ、美味い!」

「ふふっ。ハンバーグと一緒に葉野菜やトマトを食べられるのは嬉しいな。この野菜のおかげでハンバーグをより美味しく食べられる!」

「このお肉も野菜も確かに、とっても美味しいけど、このパンも!軽く火を通してくださったおかげで、香ばしくなって美味しい!」

「ははっ、喜んでもらえたようで何よりだよ。そうだ!こいつはサービスだ。料金は取らないから、遠慮しないで食べて飲んでくれ。」


俺は【 創造 】のスキルを発動し、人数分のコーラと、フライドポテトを用意した。


「タクト?これは何だ?」

「私も初めて見る飲み物……飲み物で良いんだよな?何か、シュワシュワいっているが……」

「あぁ。ちゃんと飲めるよ。こっちはジャガイモを切ってから油で揚げて、塩をまぶした物だ。シーナはジャガイモを食べ飽きているそうだけど、よければ1本だけでも食べてみてくれ。」

「えぇ、いただきます。」


シーナはフライドポテトを1本手に取り、口へと運ぶ。


「ん……もぐ……っ!?何、このジャガイモ!?今までは潰されて味付けがされていないジャガイモばっかりだったけど、これは表面がサクッとして、中がホックホクで……塩加減も丁度良くて、凄く美味しいです!」

「うおぉぉ!?何だ、この飲み物!?口の中でパチパチ弾けて、俺にダメージを与えて来やがる!でも、甘くて美味いな!少なくとも、昨日宿屋で飲んだ酒よりは、遥かに美味い!」

「凄い……ハンバーガーに、この飲み物、それにこのジャガイモを揚げた物の組み合わせは、最強だ……」


大いにはしゃぎながら、3人はハンバーガー、フライドポテト、コーラの全てを完食した。


「ふぅ……食った、食った。タクト、ごちそう様!すっごく美味かったよ!」

「おぅ!御粗末様。」

「本当に美味しかった……そして、同時に、今まで黙ってたセシルを恨みたくなった。」

「悪かったよ。これでも、いずれはお前達に此処を紹介するつもりだったんだぞ。さてと……タクト、会計を頼む。」

「あぁ。さっきも言ったけど、フライドポテトとコーラは今回サービスだから、ハンバーガー1皿で銅貨6枚だな。」

「はいぃ!?あのボリュームと美味さで、銅貨6枚だって!?おいおい!タクト!それで本当に、商売できてんのか!?」

「おぅ。さっき見てたかもしれないけど、材料や完成した料理は全部、【 創造 】っていうスキルで出してるからさ。材料費がかからないんだよ。それに、クレス達みたいに『 美味い、美味い 』って言いながら料理を食べて、各々楽しんでくれれば、それで充分だ。」

「タクトさん……」

「ははっ、いやマジで……恨むぜ、セシル。こんな良い店、もっと早く知りたかったぜ。」

「ふふっ、すまない。今回は私が奢るから、許してくれ。」


俺はセシルから銀貨1枚と銅貨8枚を受け取った。


「はいっ!丁度いただきます。」

「なぁ、タクト。今度、皆でまたクエストを受注しようって考えてるんだけどさ、このハンバーガーを弁当のように持って行くことってできるかい?」

「持ち帰りするだけなら問題無いよ。でも、クエスト……何かと戦うようなクエストを考えてるなら、やめておいた方がいいかな。一応紙を巻いて形を固定するけど、戦闘中に絶対に崩れる……ズレるから。」

「あぁ……確かに。パンとハンバーグだっけ?あの肉と野菜が全部、分裂しそうだ。」

「あっ、そうだ。セシル。クレスにシーナも。クエストを受けるのは良いけど、できれば、大市が終わる17時にはアリアータに戻って来てくれないかな?」

「え?あぁ、それは構わないが……その日、その時間に何かあるのか?」

「あぁ。ささやかながら、此処で打ち上げをしようって話になってさ。料理は俺任せになるけど、良かったら是非とも参加して欲しくってな。」

「私達も良いの?」

「あぁ、もちろん。新規で来てくださったお客さんを誘っても良いって、俺に相談を持ち掛けてきた人が言ってくれたからな。」

「そういうことなら、喜んで参加させてもらうよ!セシルも、シーナも構わないな?」

「ふふっ、当然だ。お前達が居ないところで今の話が持ち上がっていたら、当日お前達の誘いを断ってでも来るつもりでいたさ。」

「私も!うふふ。今から待ち遠しい。あっ!タクトさん。その打ち上げ以外の日も、普通に食事しに来ても良い?」

「もちろん!またの御利用、心よりお待ちしておりますだぜ。」


セシルとクレスは手を振り、シーナは小さくお辞儀をして、裏通りの方へ歩いて行った。


「3人確定。ははっ、当日も通常営業も、皆に少しでも楽しんでもらえるように、頑張らないとな。」


改めてやる気を出し、とりあえず今は、3人が楽しんで食事してくれた跡の片づけを始めるのだった。

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