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Menu 26 ~ ナポリタン ~

11時


「こんにちは、タクトさん!」


屋台を出し、本を読んでいると、大通りの方からアンネリーが手を振りながら歩いて来た。


「おっ!いらっしゃい、アンネリー。良い場所、見つかったか?」

「はいっ!何でも、申請しないで不当にお店を出していた所がありまして、クロエさんがそれを摘発。その行商人さんは詰め所へ連れていかれて、店は撤去。その空いた場所で店を出させていただくことになりました!」

「おぉ!そっか!良かったな、アンネリー。」

「はいっ!」


「こんにちは、タクトくん。」


アンネリーから少し遅れて、グウェルが大通りの方から、ゆったりと歩いて来た。


「いらっしゃい!グウェル殿。」

「タクトくん、そんなに畏まらないでください。私も他の皆さんと同じように、呼び捨てでも……」

「いやいやいや!領主様相手に、流石にそれはマズいですって!じゃあ……せめて、『 グウェルさん 』呼びで、どうか。」

「はっはっは!えぇ、それで構いませんよ。おや?初めて見るお客さんですね。」

「あぁ。彼女はアンネリー。先日、大市のために他の町からアリアータに来た行商人さんです。」

「そうでしたか。良い場所は見つかりましたか?」

「はっ、はいっ!衛兵部隊長のクロエさんに協力してもらいまして!無事、お店を出せる場所を確保させていただきました!」

「はっはっは!先程、タクトくんにも言いましたが、そんなに畏まらなくて良いですよ。私はこの町の人達と接し、より良い統治、より良い町作りをしていきたいんです。そのためにも、皆さんと壁を作ることは避け、多くの声を率直に聞いていきたいと思っているんです。ですので、まずはこのタクトくんのお店で一緒に過ごす間だけでも、気楽に接していただけませんか?」

「はっ……はいっ!よろしくお願いします、グウェルさん。」

「えぇ。こちらこそ。宜しくお願いしますね、アンネリーさん。」

「さて、話が纏まったところで……グウェルさん。昼食にはまだ早い気もするけど……何か食って行きます?もちろん、アンネリーも。」

「はいっ!」

「えぇ。昼食を頂く前に……タクトくんに、少しお願いがありまして……」

「俺に……ですか?あっ、とりあえず、2人共、座って。今、飲み物を用意するから。」


俺が促すと、グウェルが俺の正面の席に、アンネリーがグウェルの左隣の席に座った。


「ありがとうございます、タクトくん。」

「いただきます!」

「それで?俺にお願いっていうのは?」

「えぇ。タクトくんも既に御存知の通り、もうすぐこの町では大市が行われます。前夜祭と当日の2日、午前8時にテレサさんの居る教会の鐘が鳴ってから、午後17時に終わりの鐘が鳴るまで、様々な商いが行われて、とっても賑わうんですよ。」

「はいっ!頑張って、良い品を売りますよ!」

「はっはっは!えぇ、頑張ってください。そして、本題なのですが……大市が終わった17時以降から、タクトくんのこのお店で、打ち上げ会をしたいと考えているのです。」

「おぉ!打ち上げですか。」

「はい。集まれる人達だけでも……このお店で知り合った人達と、美味しい料理を食べながら、より親睦を深め合えればと思いましてね。お願いできますか?」

「もちろんです!俺も、何かの形で、この店をいつも利用してくれるお客さん達に恩返しができたらなって、思ってたんです。料理提供の件、是非ともやらせてください。」

「おぉ!ありがとうございます!アンネリーさんも、お店の営業が終わったら是非とも参加してくださいね。」

「えっ!?良いんですか?私、昨日タクトさんのお店を利用したばかりですし……それに、見ての通り猫の耳と尻尾を持つ亜人ですし……」


視線を少し下げ、申し訳なさそうにアンネリーがそう言った。


「……なぁ、グウェルさん。アンネリーが亜人だからってバカにする奴、居ると思いますか?」

「世間は広く、今でも人間至上主義で、人間以外の種族を差別する場所があり、そういう人が居るという話は聞きます……が!少なくとも、タクトくんのお店にいつも来ている人達で、そのような差別をするような人など、1人も居ないでしょうね。もちろん、私もアンネリーさんが亜人だからと差別するつもりなんて、微塵もありませんよ。」

「ですよね。俺もそう思います。それに、種族もそうだけど、ウチの店を利用してくれた回数なんて関係ねぇんだよ。1回でも利用してくれて、美味いって飯を食ってくれた人は、大事なお客さんだ。アンネリー。昨日出したカレーライス、美味かっただろ?」

「はいっ!とっても!」

「そう言ってくれる人を、俺は大切にしていきたい。だから、アンネリーもその打ち上げには、遠慮しないで参加してほしいな。」

「タクトさん……グウェルさん……はい!ありがとうございます!」

「はっはっは!では、タクトくん。この打ち上げの件は私からテレサさん、ヒルダさん、ソニアさんに伝えますので、タクトくんはクロエさんとセシルさんに伝えておいてもらえますか?」

「わかりました。2人がこの店を利用してくれた時に伝えておきます。あと、最近、この町の鍛冶屋のロイドさんも食べに来てくれたんですが……あの人は、先にソニアに伝えておけば、きっと伝えてくれるでしょう。追加で人が増えても、構いませんよね?」

「もちろんです!私も一応、護身用に剣を携えてはいますが、使う機会が無いので、鍛冶屋さんに赴く機会が殆どありません。なので、ソニアさんには是非とも連れて来ていただいて、これを機にいろいろとお話しを伺いたいですね。」


一通り話が纏まったところで、アンネリーのお腹から控えめな腹の虫の鳴き声が聞こえてきた。


「えっ、あっ……ごめんなさい……」

「何を謝る必要が?こっちこそ、待たせて悪かったな。ほら、メニューだ。グウェルさんも。」

「「ありがとうございます。」」


2人は俺からメニューを受け取ると、ゆっくりとページを捲っていく。


「何ですか、これ!?どれもこれも見たことの無い料理ばっかりです!」

「はっはっは!タクトくんのお店で出される料理は、異世界の料理ですからね。」

「異世界?」

「おや?タクトくん、昨日、説明されなかったのですか?」

「そういう流れにならなかったんで。まぁ、アンネリーが食べ終わったときにでも話しますよ。」

「う~ん……どれにしましょう。どれも興味深くって、迷ってしまいます。」

「ふむ……ん?タクトくん。このパスタは?随分と赤いのですが……これは、この蕎麦というパスタと同じように、最初から色付けされているパスタなのですか?」

「え?えっと……あぁ!ナポリタンですか。いえ、このパスタはトマト味のソースを絡めているので、赤いだけです。元は、黄色いパスタですよ。」

「なるほど!では、タクトくん。調理工程も見学したいので、このナポリタンをお願いできますか?」

「わっ、私も!グウェルさんと同じ物をお願いします!」

「あいよっ!」


俺は【 創造 】のスキルで必要な材料を出現させる。


「あっ、2人共。ナポリタンに入れる具材なんだけど、燻製肉(ベーコン)腸詰(ソーセージ)、どっちが良いですか?」

「おや?選ばせてもらえるのですか?」

「えぇ。せっかくなんで、選べるものは、お客さんの好きな方を選んでもらおうと思いまして。」

「なるほど。では、アンネリーさん。好きな方を選んでください。私はどちらも好きなので、アンネリーさんが選んでくださった物と同じ物でお願いします。」

「良いんですか!?ありがとうございます!そうですね……では、タクトさん。腸詰の方でお願いします。」

「了解!」


寸胴鍋でお湯を沸かし、パスタを茹でている間に玉ネギとピーマン、ソーセージを切っていく。


「んで、この3つをフライパンで炒めて……茹で上がったパスタも入れる。このパスタを1日置いて柔らかくしたものを入れる技法もあるみたいなんだけど、今回はこのままで。」


更にトマトソースを加え、混ぜ合わせるように炒めていく。


「……よしっ!できた。ナポリタン、お待ちどぉ!」


俺は皿に盛ったナポリタンを、グウェルとアンネリーの前に置いていく。


「わぁ!良い匂いです!」

「とりあえず1口そのまま食べた後、好みでコレを使ってください。」


そう言いながら俺は2人の間に粉チーズが入った筒と、タバスコの入った瓶を置いた。


「タクトくん?これは?」

「緑の筒に入っているのはチーズを粉にした物、瓶に入っている赤い液体はタバスコっていって、唐辛子と塩、お酢を混ぜ合わせた物です。タバスコを使用する際は、2、3滴垂らす程度にしてください。」

「わかりました。それでは、いただきます。」

「いただきます!」


2人は上品にフォークにナポリタンを巻き付け、口へと運ぶ。


「もぐ……んっ!甘いです!いえ、ただ単に甘いだけでは無いですね。トマトの酸味と甘みがパスタに絡んで……これは、美味しいです!」

「えぇ。これは素晴らしい……パスタも美味しいですが、具材のピーマンの苦み、玉ねぎの辛み、腸詰のお肉の旨味も合わさって、とっても美味しいです!」

「本当に!ソースをかけたパスタよりも具沢山で、とっても食べ応えがあります!……あっ!そうだ。せっかくですし、このチーズを使わせてもらいますね。」


アンネリーは緑の筒を手に取り、粉チーズをナポリタンにかける。


「はむ……んっ、んんっ!?凄い!トマト味のパスタとチーズがこんなに合うなんて!普通に食べるより、まろやかになって、とっても美味しいです!」

「……!おぉぉ……このタバスコという調味料。トマトの味で甘くなっていた舌に、唐辛子の辛さで良い刺激を与えてくれて……これなら、幾らでも食べられそうです!」


2人は各々、タバスコや粉チーズを調整しながら、満足気にナポリタンを完食した。


「はっはっは!いやあ、タクトくん。とても美味しかったよ!ごちそう様。」

「ごちそう様でした!えっと、メニューによると、お代は銅貨8枚でしたね。」


食べ終えたグウェルとアンネリーはそれぞれ財布から銅貨を8枚取り出し、支払ってくれた。


「はい!2人共、丁度いただきます。」

「さて……ご飯もお支払いも済んだことですし……タクトさん!この粉チーズとタバスコを私に売ってくれませんか!?先日のカレールーとは違い、これなら確実に売れます!いえ、売ってみせます!」

「お……おぅ。商魂たくましいな。」

「ですが、実際にこの2つは売れるかもしれませんね。タクトくんは、こちらの世界に来てから、他のお店でパスタを食べたことは?」

「いえ、まだ。行こう、行こうとは思ってはいるんですけど、今はちょっと、土地を買うのにお金を貯めたいので。」

「なるほど。タクトくん。この世界のパスタに掛かっているソースは、刻んだ野菜と生クリームを一緒に煮詰めた物が殆どなんです。味も、調理に使った野菜と生クリームの味しかしません。それも美味しく混ざれば良いのですが、その逆もありまして……」

「あぁ……」


絶望的に合わなさそうな組み合わせって、あるもんな。

しかも、多分そのソースにも塩や胡椒は使われているんだろうけど、その味を感じさせないって……逆に気なる。


「グウェルさん。そのソースは、一般の御家庭でも同じ感じなんですか?」

「はい。基本的には料理店も一般の御家庭も同じ作り方ですね。なので、この粉チーズやタバスコがあれば、各々好みの味に調整ができるので、1本でも御家庭やお店にあると、皆さん喜ばれると思いますよ。」

「なるほど………わかった。じゃあ、とりあえず粉チーズが入った筒と、タバスコの瓶を30本ずつ出すよ。まずはこの30本で様子見して、売れ行きによって追加で出す……ってことで、どうだ?」

「はっ……はい!ありがとうございます!タクトさん!この粉チーズとタバスコの売り上げは別に保管して、売り上げた合計金額の半分の値段をお支払いいたしますね。」

「え?いや、スキルで出すから元手は掛からないし、半分も貰っちゃ……何か、悪い気が……」

「良いんです!私は他の物も売りますし、売れ行き次第では、タクトさんにはいっぱいお世話になると思いますから。」

「まぁ、アンネリーがそれで良いって言うなら……」

「うふふ!交渉成立ですね!よろしくお願いします、タクトさん!」


アンネリーが右手を差し出して来たので、俺はその手を固く握り返した。


「はっはっは!うんうん、こうして人の輪ができていくのを見るのは、楽しくて嬉しいですね。御2人共、頑張ってください。」

「「ありがとうございます!」」


その後、粉チーズやタバスコを卸す手段、売り出すのは前夜祭からなど、話し合いは無事に纏まり、

グウェルとアンネリーは満足気な笑みを浮かべて、大通りの方へ歩いて行った。


「そういや、アンネリーって、料理が苦手とか言ってなかったか?……実践販売の方法も、何か考えておいた方が良いかもな……」


頭の中でいろいろと考えを巡らせながら、俺は食器の片づけを開始した。

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