Menu 25 ~ カレーライス ~
どうにもこうにもカレーが食べたい。
「食べない日がしばらくあると、何か無償に食べたくなるんだよなぁ……よしっ、作るか。」
俺は【 創造 】のスキルを発動し、必要な材料を出現させる。
「こんにちは、タクトさん。」
大通りの方から、クロエが手を振りながら歩いて来た。
「おぅ!クロエ。最近、よくこの道を通ってるな。」
「えぇ。タクトさんも見えているでしょう?セシルがよく歩いて来る裏通り。あの通りは薄暗くて、良からぬ考えを抱く輩が身を潜めている……かもしれないことがあるから、私や、実力のある兵達の巡回ルートに組み込むように、隊の皆と話し合って決めたのよ。」
「今まで組み込まれていなかったのか?」
「恥ずかしながら……『 怪しい者を見た 』という通報を聞いて駆けつける程度で、しかもそれが、ただの酔っぱらいだったことも、しばしば……もちろん!明らかに通行が目的じゃない不審者や、喧嘩とか騒ぎを起こしていた者達は、その都度ちゃんと捕らえているんだけど、わざわざ警邏する必要が無いって意見が多かったのよ。でも、ほら、大市が近いでしょ?だから、もしものことを考えて、警邏のルートに最近追加したの。」
「なるほどな。」
「それより、タクトさん。今から調理するの?ねぇ、見学させてもらっていいかしら?」
「おいおい。警邏の途中じゃねぇのかよ?」
「良いのよ。警邏は悪い輩を捕らえるだけじゃない。こうして町の人と交流することだって、大事な仕事なんだから。」
「ははっ、わかったよ。とは言っても、難しい事や珍しいことは何もしないぞ?材料を切って、煮込むだけだからな。」
俺はジャガイモと人参、玉ねぎの皮を剥き、食べやすい大きさに切っていく。
「豚肉も切って、ニンニク、ショウガ、ターメリック、ヨーグルトを加えて、揉み込む。」
「煮込み料理なら、お肉をそのまま煮込んでも大丈夫だと思うのだけれど……味付けもするのでしょう?」
「まぁな。でも、こうすると肉が柔らかくなるんだよ。」
「なるほど!お肉を柔らかくする工程なのね。」
「肉はこのままちょっと、放置していて……先に玉ねぎを炒めてしまおう。」
熱したフライパンで牛脂を溶かし、玉ねぎを投入する。
「あとは、鍋に肉と野菜を入れて、水を張って煮込むだけだよ。」
「へぇ。簡単なのね。ところで、タクトさん。その箱の中の物は?使わないの?」
「いやいや。ちゃんと使うよ。こいつで味付けするんだ。」
俺は鍋の中で沸騰しているお湯に、箱から取り出し、細かく割ったカレールーを入れて、溶かしていく。
「うっ……何て言えば……シチューを限界まで煮詰めたら、こんな色になるのかしら?」
「ははっ、まぁ味付けが違うだけで、具材は殆ど一緒だからなぁ。」
「あ……でも、凄く食欲をそそられる、刺激的な良い匂いが……」
「くんくん……何やら、とっても良い匂いがしますね。」
「「え?」」
俺とクロエがほぼ同時に声がした方を見ると、1人の女の子が立っていた。
顔や手は人間のそれとまったく同じなのだが( 足は膝から下がブーツの中なので、判らないけど )
ピンク色のショートヘアで頭には猫耳が、お尻の少し上辺りから髪の毛と同じ色の猫の尻尾が生えている。
武装はしていないが、彼女の身長の倍近い量の荷物を背負っている。
「あっ!こんにちは!こちらは、お料理屋さんですか?」
「あぁ。もう少ししたらできるぜ。よかったら、食って行くか?」
「良いんですか!?ありがとうございます!」
「クロエも食って行くだろ?」
「えぇ。もちろん。」
俺はもう少しでカレーが出来上がるので、その前にご飯を用意する。」
「お兄さん?その白い物は?」
「あっ、そっか。これは米っていう穀物を焚いた物だよ。こいつに、今できたカレーをかけて……お待ちどぉ様!カレーライスだ。」
俺はできあがったカレーライスが入った皿を、クロエと女の子の前に置いた。
「こっ、これは!?茶色い……ですね……」
「私も見た時は驚いたわ。でも、とっても良い匂い……いただきます。」
「いっ、いただきます!」
クロエと女の子はカレーライスをスプーンで掬い、口へと運ぶ。
「熱っ、はふっ……ん、もぐ……んっ!か……辛いっ!」
「確かに辛いけど、その辛さの中で幾つもの食材の旨味が複雑に混ざり合って……今まで食べたことの無い味だわ!お肉も柔らかいし、野菜もこの辛いスープを吸って、柔らかくなっていて、とっても美味しい!」
「このスープ……これだけだと、とても辛いんですけど、このおコメと一緒に食べると、ちょうど良い感じになって、美味しいです!」
「タクトさんが先程鍋に入れていた、味付けに使うと言っていた茶色の固形物……あれは沢山のスパイスを凝縮した物だったのね。」
「1からこのスパイスを合わせた物を作る男は嫌われるって、何かで聞いたことがあってな。カレーを作る時は、お手軽なコイツをいつも頼らせてもらってるんだよ。」
「もぐ……ぁっ、お兄さん!おかわりを貰えますか!?」
「タクトさん!私にもお願い!」
「あいよ!」
俺はすぐにおかわりを用意し、2人に提供する。
「ん~っ!こんなにスプーンが止まらなくなる料理、初めてです!」
「えぇ。額や鼻の頭から汗をかいているのは、解るんだけど……これは止められないわね。」
「今日は作ってすぐ出したけどな。このカレーって料理は、作った翌日の方が、実は美味かったりするんだよ。」
「そうなの?でも、確かに。野菜は翌日の方がもっと柔らかくなっているでしょうね。」
「あと、今日は豚肉で作ったけど、牛肉、鶏肉、魚介類、野菜だけを入れて作っても、美味いぞ。」
「凄い!万能な料理ですね!」
そんな話をしているうちに、クロエと女の子はカレーライスを完食した。
「ふぅ……暑い……ごちそう様、タクトさん。物凄く美味しかったわ。」
「えぇ。夢中で食べ終えてしまいました。」
「ははっ、そこまで喜んでもらえて、何よりだよ。」
「あっ、でも、こんなに美味しい料理……きっと、物凄く高いんじゃ……」
「タクトさん。ちなみに、お値段は?」
「えっと、カレーライス1杯銅貨8枚が2皿だから、銀貨1枚と銅貨6枚だな。」
「はいぃぃぃっ!?あの美味しさとボリュームで、1皿銅貨8枚なんですか!?」
「うふふ。良心的な御値段よね。あっ、でも、もし今、手持ちが少なくて支払えないようなら、私が貴女の分も出すけど……」
「だっ、大丈夫です!ちゃんとお支払いできます!」
俺はクロエと女の子からそれぞれ銀貨と銅貨を受け取った。
「はい!2人共、丁度いただきますね。」
「お兄さん、ごちそう様でした。あっ……自己紹介がまだでしたね。私は『 アンネリー 』。各地を巡って、珍しい物を仕入れては売り歩く、行商人をしています。」
「俺はタクト、こちらはクロエだ。」
「よろしく、アンネリー。」
「はい!よろしくです!あの……タクトさん。もし……もしですよ?今、このカレーに使用したスパイスを凝縮した物、あれを幾つか私に売っていただけないでしょうか!?」
「え?」
「もちろん、売り上げで出た利益の半分を、タクトさんにお譲りします!ですので、どうか!これだけ美味しい料理が作れるんです、他の場所でもきっと、売れます!」
「ん~……いや、難しいんじゃねぇかな?」
「何ですと!?それは、どうして……?」
「アンネリー。貴女、私と同じで、タクトさんが作るまでこの料理がどういう物か知らなかったでしょ?きっと、他の人も同じ。まったく知らない物をいきなり売りに出したとして、どういう物かが判らない物を買おうと思う人は居るかしら?」
「まぁ、怖いもの見たさって可能性もあるだろうけどな。」
「うっ……確かに……」
「それに、これをどういう物かを説明しながら売るとして、アンネリーは料理はできるか?どうせ説明しながら売るなら、お客さんの前で実践しながらの方が、効果が出ると思うんだ。」
「あ……あははっ、実は、料理はそれほど得意じゃないんですよねぇ……ん~……良い商売ができると思ったんですけどねぇ。」
「タクトさんが使う調味料が珍しいから、どこかで売りたい気持ちは解かるわ。でも、珍しいからこそ、アンネリーにそれを上手に売る話術が無いと、難しいでしょうね。」
「ですねぇ。まぁ、それはそれとして!実は私、先日このアリアータに到着したばかりでして……その道中で利用した宿で提供されたのは、固いパンに、塩の味しかしない干し肉……あと、茹でてから潰したジャガイモや漬物ばかりで、うんざりしていました。そんな時にこのお店です!まだ、カレーライスしか頂いていませんが、これは他の料理も期待ができます!またちょくちょく、利用させてもらって宜しいですか?」
「おう!もちろんだ。」
「うふふ。また、タクトさんのお店が賑やかになるわね。ところで……貴女、先日この町に到着したって言ったわね?大市に合わせて、この町で店を出すつもりでしょうけど……場所はもう決まったの?」
「いえ、それもまだ……良い場所を探していたときに、こちらからカレーの良い匂いがしたので……あっ!そうだ!タクトさん、お隣で露店を出させてもらって良いですか?」
「え?俺は構わないけど……此処、あんまり人が来ないぞ?もう少し大通りを見て、良い場所を探した方がいいんじゃないか?此処に店を出すのは最終手段ってことで。」
「そうね。こうして出会ったのも何かの縁、私も協力してあげるわ。」
「そうだな。衛兵部隊長のクロエが一緒なら、安心だな。」
「えっ!?クロエさんって、衛兵部隊長様だったのですか!?」
「そんなに畏まらないで。町で会った時は仕方ないけど、タクトさんのお店では、私はクロエという1人のお客で、貴女と対等な立場よ。それに……さっきから、タクトさんだって私のこと呼び捨てにしてるでしょ?」
「これもクロエ本人が許してくれたからな。でもないと、今頃俺は、不敬罪か何かで牢屋にぶち込まれてるよ。」
「だから、アンネリーも。これから仲良くしてくれると嬉しいわ。」
「そうだったのですね。わかりました!では、お言葉に甘えて……宜しくお願いします、クロエさん!」
「えぇ。というわけで、タクトさん。私達は此処で失礼するわね。」
「おう!良い場所、見つかると良いな。アンネリー。」
「はいっ!ありがとうございます、タクトさん!それでは、失礼します!カレーライス、ごちそう様でした!」
クロエとアンネリーは話し合いながら、大通りの方へ歩いて行った。
「形は違うけど、同じ商売人として……良い場所が見つけられるといいんだけど……まぁ、クロエが一緒なら何とかなるだろ。」
後のことはクロエに任せて、俺は2人が食べ終えた食器洗いを開始した。




