Menu 22 ~ チーズケーキ ~
15時
日によって異なるが、このおやつ時に、甘い物を求めてソニア、クロエ、セシルが一緒になる確率が、最近高くなってきていた。
「さて……今日はどれを食べるか……」
「どれもお洒落で可愛くて、迷ってしまいますね。」
1冊のメニューをソニアとセシルが一緒に見て、あれこれ悩んでいる。
「こんにちは、タクトさん。」
大通りの方から、クロエが微笑みながら歩いて来た。
「おぅ!いらっしゃい、クロエ。」
「2人は相変わらず、メニューと睨めっこしているのね。」
「今まで食べたお菓子にするか、新しいお菓子をお願いするか……悩みどころです。」
「他の店よりも値段が安いから、複数の物を注文できるが……それで食べきれなくて残すなんて事態になったら、勿体ないしな。」
「そうね。タクトさん、私にもメニューをお願い。」
「はいよ。」
俺からメニューを受け取ったクロエが、デザートのページをゆっくり見ていく。
「あら?タクトさん。このチーズケーキというケーキだけ、他のケーキと違って3種類あるのね。」
「ん?あぁ、『 レア 』『 スフレ 』『 ベイクド 』の3つあるぜ。」
「名前が違うということは、やっぱり作り方が違うのか?」
「ごめん。俺もちゃんとした作り方はあんまり詳しくは知らないんだけど、スフレとベイクドはどっちもチーズを混ぜた生地を焼いて作るケーキで、スフレの方が柔らかい。レアはタルトに近い作り方で、生地の上に液状化したチーズを流し込んで冷やし固めるんだよ。」
「そうなのですね!それじゃあ、タクトさん。私はスフレチーズケーキを紅茶と一緒にお願いします。」
「なら、私はベイクドチーズケーキを紅茶と一緒に頼む。」
「タクトさん。私にはレアチーズケーキを紅茶と一緒にお願い。」
「あいよっ!」
俺は【 創造 】のスキルで紅茶と……正直、レアチーズケーキ以外の2つのチーズケーキを見ただけで判別できる自信がないので
注文された順番にスフレを1皿出して紅茶と一緒にソニアに提供した後、ベイクドを出してセシルに提供した。
「いただきます。もぐ……んっ!柔らかい!チーズの味がしたケーキが口の中でホロホロと崩れて……美味しいです!」
「ベイクドだったか?どっしりとした確かな食べ応えがあるのに、ソニアが言っていたようにホロっと崩れて……確かに、これは美味しい!」
「このレアチーズケーキ、ヨーグルトのように滑らかでサッパリとしたチーズが口の中で溶けて……上品でとっても美味しいわ!」
「ははっ、喜んでもらえたみたいで、良かったよ。」
そんな中、ソニアとセシルの視線が、クロエの食べているレアチーズケーキに向けられる。
「…………クロエのレアでしたか?美味しそうですね。」
「クロエ。私達にも少し分けてくれないか?」
「いっ……嫌よ。クレープの時もそうだったけど、どうして私からなのよ!?」
「だって、セシルさんのベイクドは何となく想像ができるんですもの。」
「1人だけ少し違うケーキを頼んでるんだから、そこは……な?」
「な?じゃないわよ!素直にタクトさんに1皿追加で頼んで、2人で分けなさいよ!私だってレアチーズケーキ、堪能したいんですから!」
「まぁ、せっかくチーズケーキが3種類ともあるんだし、皆で1口ずつ分け合ったらどうだ?それで、その中で気に入った物を追加注文してくれるなり、今後の楽しみにすれば良いと思うんだけど……」
「……タクトさんの言う事にも一理あるわね。いいわ。レアチーズケーキを分けてあげる。その代わり!スフレとベイクドを1口ずつ分けてもらうわよ。」
「わかりました。じゃあ、私はレアとベイクドを一口ずつ貰いますね。」
「なら、私はレアとスフレを少しずつもらうとするか。」
俺の目の前で、3人の女性がチーズケーキを分け合い、吟味する。
「美味しい!タクトさんが言っていた通り、スフレの方がベイクドよりも柔らかい……軽い感じがするわ。」
「でも、ベイクドのこの食べ応えは頼もしいですね。以前頂いた、パウンドケーキに近いものを感じます。」
「レアのこの冷え固まったチーズも美味しいな。スフレやベイクドよりもサッパリしているから、少し食欲が湧かない時とかでも、安心して食べられそうだ。」
「「「でもやっぱり」」」
「スフレが1番美味しいですね。」
「ベイクドが1番美味しいな。」
「レアが1番美味しいわね。」
「「「え?」」」
それぞれのチーズケーキを食べた彼女達の意見が、ものの見事に分かれた。
「ぷっ……くくっ……」
「あらあら。どうやら2人にはスフレのあのふんわりとした、柔らかい食感を気に入ってもらえなかったようですね。」
「ソニアこそ。レアチーズの上品な甘さがお気に召さなかったようね。」
「2人共。あんな軽い物じゃなくて、ちゃんと腹に溜まる物を食べられる時に食べておいた方が良いぞ。ただでさえ、激務なんだろ?」
「こうなったら、仕方ないわね。タクトさん!」
「ん?何だ?」
「タクトさんは、レアチーズが1番美味しいと思うわよね?」
「スフレですよね?」
「ベイクドだよな?」
「えっ!?これ、答えないとダメか?俺が答えたら、余計に論争がこじれそうなんだけど?」
「あくまで参考によ、参考に。タクトさんが正直に意見を述べてくれたところで、喧嘩なんてしないわよ。」
「そっか?それじゃあ……まぁ、出された物は残さないで、ありがたく食べるけどな。この3種類なら……俺はレアチーズが好きかな。他の2種類よりもサッパリしてて、気に入ってるんだよ。」
「まぁ!タクトさんも私と同じで、レアチーズが好きなのね!」
「へぇ、意外だな。タクトは男性だから、ベイクドみたいに食べ応えがある物を選ぶと思ってたよ。」
「確かに、ガッツリ食べたいって思ったらスフレやベイクドを食べるかな。節操が無いように思われるかもだけど、やっぱり、食べたい時に食べたい物を食べるのが、1番美味いんだよ。」
「うふふ。そうですね。それが1番だと思います。」
「あっ、そうだ。雑談していて忘れないうちに、お会計しないと。タクトさん、お願い。」
「あぁ。チーズケーキ1皿で銅貨5枚と、紅茶1杯銅貨1枚だから、皆それぞれ計銅貨6枚だな。」
「…………え?それだけ?チーズケーキの種類によって、値段が変わったりしないのか?」
「ん?しないぞ。メニューにも書いてあるだろ?『 チーズケーキ = 銅貨5枚 』って。レアもスフレもベイクドも、全部同じ値段だよ。」
「うふふ。お菓子やお料理の美味しさ、そしてこの良心価格。この屋台がいずれ、普通のお店になっても、タクトさんには頑張って、ずっと続けてもらいたいわね。」
「えぇ。そうですね。」
「まぁ……精進させてもらいますよ。」
その後、3人がそれぞれ笑顔で帰って行くのを見送り、食器の片付けを始める。
「今後、また新規で誰かが来たとして……他のお客さん同様、楽しく過ごしてもらえる場所になるよう、心掛けていかないとなぁ。」
今来てくれているお客さんを大事にしつつ、新規のお客さんとの出会いを楽しみに、俺は拭き終えた食器を【 収納 】した。




