Menu 23 ~ 串カツ ~
11時30分
「こんにちは、タクトさん。」
大通りの方からソニアが、今日はクロエではなく、初めて見る男性と一緒に歩いて来た。
茶色の短髪で、細身長身で優しい雰囲気の男性だが、捲られた袖から見える腕には、しっかりとした筋肉が付いている。
「おぅ!いらっしゃい、ソニア。そちらの方は、初めましてだな。」
「えぇ。彼はロイドさん。以前お話しした、鍛冶職人さんです。」
「おぉ!貴方がそうだったのか。いやぁ、1度会ってみたいと思ってたんだ。」
「初めまして。タクトさんとこちらのお店のことは、ソニアさんから聞きました。何でも異世界の料理を出してくれるお店だとか。」
「まぁ、こっちの人達からすりゃ、物珍しいだろうな。まぁ、座って、座って。」
ソニアとロイドに席に座るよう促しつつ、2人にメニューを差し出す。
「うわっ!本当に、どれも見たことの無い料理だね。」
「ロイドさん、ソニア。この後仕事は?無いなら、時間を気にしないでゆっくり選んで……って、言ってあげられるんだけど。」
「そうですね……残念ながら、私は調練が……」
「僕も、頼まれている剣やお鍋の修繕が……」
「今日は、数日前にお願いしていた私の剣の修繕が終わったと昨日連絡をいただき、時間に都合がついた本日引き取りに伺ったら、丁度ロイドさんが昼休憩をされるとのことでしたので、お誘いしたんです。」
「なるほどな。」
「ロイドさん。『 こういう物が食べたい 』という物があれば、タクトさんに相談なさってみてください。このメニューに乗っていない物も出してくださいますので。」
「本当ですか!?」
「あぁ。さすがに、俺の知らない料理は出せないけどな。ロイドさんが相談してくれて、俺が知っている料理で一致する物があれば、お出しできますよ。」
「そっか……あっ、そうだ。タクトさん。この前、ソニアさんが買って来てくれたカツサンドという料理。あれ、本当に美味しかったよ!」
「そっか。喜んでもらえて嬉しいよ。じゃあ、今回もカツサンドにするかい?」
「それも良いんですけど、あのパンに挟んであったお肉であれだけ美味しかったんだ。できることなら、もっといろいろな物を食べてみたいんだけど……やっぱり、あぁやって揚げる物は、お肉だけなのかい?」
「もっといろいろな種類の……いや、あるよ。よしっ!すぐ準備する……けど、食材は俺に一任してもらって良いかな?」
「もちろん!お願いするよ。」
「ソニアも、ロイドさんと同じ物で良いか?」
「はい!お願いします、タクトさん。」
俺は【 創造 】のスキルで鍋と油、食材を出現させる。
「ん?タクトさん。その丸くて穴の開いている食材は?食べやすくするための加工をしてあるのかい?」
「え?あぁ!レンコンのことか。これは蓮っていう花の根なんだ。泥沼の中の、更に土の中にあるんで、この根っこは自力で酸素を供給できない。それで、水上の葉っぱが光合成して作り出す酸素をより効率良く吸収するために、葉っぱと直結している分だけ穴が開いてるんだよ。」
「へぇ!なるほど。そんな植物があるんだね。」
「よしっ!そんじゃ、順番に揚げていくぞ!」
最初は衣を付けた肉から揚げ始める。
「あぁ……油の良い香りが……」
「タクトさん。時間がかかっても良いので、お肉にはちゃんと火を通してくださいね。」
「もちろん!でも、今回のは、この前のカツサンドのカツより小さい、一口サイズだからな。肉でも割とすぐに火が通るんだよ。ほら、言っている間に、できたぞ。」
俺は出来上がった物を1本ずつ皿に置き、2人の前に置いた後、2人の間にソースが入った鉄製の容器を置く。
「串カツ、お待ちどぉ!このソースに、1回だけ付けて食べてくれ。」
「1回だけ?2回目は駄目なのかい?」
「あぁ。一口で食べれば問題無いんだけど、途中で噛みちぎった物を、皆が共有して使うソースの中に入れられたら……嫌だろ?」
「た……確かに。良い気はしないね……」
「なるほど。それじゃあ、最初にあらかじめ多くつけて……いただきます。」
「いただきます。」
ロイドとソニアは串カツをソースにつけた後、一口で口の中へ入れた。
「熱っ!はふっ、んっ……もぐ、ん……うっ、美味い!」
「本当!美味しいです!噛むと衣の甘さと、お肉から出て来た肉汁が混ざり合って……」
「次、揚がったよ!さっき、ロイドさんが気になってた、レンコンだ。」
「ありがとうございます、タクトさん。それじゃあ、これにもソースを……あっ!」
「どうしました?ロイドさん。」
「いえ、失敗と云うほどではないんですが、思ったよりソースを付けられなくって……まだ口を付けていないとはいえ、2回目を付けるのは、申し訳ないし……」
「口を付けてねぇなら、そこまで気にしなくて良いのに。律儀だな、ロイドさん。まぁ、そんなロイドさんのように困ってしまった人への対策も、ちゃんとあるよ。」
「本当かい?」
「あぁ。揚げ物を食べる時、口の中をサッパリさせるためにこの葉野菜を一緒に提供するんだけど、この葉野菜を器として利用してソースを掬って、カツにかけて調整すれば良いんだよ。他の揚げ物料理を出すときは千切りにしてるんだけど、串カツはこういう事態を想定して、ザックリと切った物を出すんだ。」
「おお!ありがとう、タクトさん。」
俺が追加でソースをかけると、ロイドは優しい笑みを浮かべて串カツにかぶり付いた。
「んっ、このレンコン……サクサクしているのに、粘り気もあって……美味しい!」
「今までに食べたことの無い感覚ですね。美味しいです!」
「次!エビ、揚がったよ!」
「わぁ!エビフライですね!」
「エビ……エビって、あのエビかい!?ソニアさんは、食べたことが?」
「はい。この串カツとは違う形ですが。騙されたと思って、食べてみてください。」
「う……うん。」
ロイドはエビをソースにつけ、かぶり付く。
「んっ……んんっ!美味い!プリプリしていて、肉厚の身から肉汁が漏れて……」
「美味しい!タルタルソースも良いですけど、このソースで食べても美味しいですね!」
「次は卵だ。」
「あら?この卵、私の知っている卵より、ずっと小さいですね。」
「鶏じゃないのは確かだけど……タクトさん、これは?」
「鶉っていう鳥の卵を1度茹でて、殻を剥いたヤツに衣を付けて揚げてあるんだ。小さいから、1串に3個刺してある。」
「んっ!白身がプリっと、黄身がホクホクして美味しいです!」
「小さいから1口で食べられるのも良いですね。」
「ごめんな。この串カツを食べる時、お酒と一緒に提供できれば、より楽しんでもらえるんだろうけど……俺、酒を飲んだこと無くてさ。」
「まぁ!そうだったのですか。」
「それは、タクトさんが飲めない体質だからかい?」
「いや、俺が前に居た世界の法律でね。お酒は20歳にならないと飲めなくって、俺は18歳で死んでこの世界に転生させてもらったんで、あっちで飲む機会を迎えられなかったってだけの話さ。だから、お酒の味が判らない、どの料理にどのお酒が合うのかも判らないのに、提供するのもなぁ……って。」
「なるほど……」
「まぁ、昼間は皆、午後からの仕事を控えているからアレだけど、夜……そうだな、18時からは、お酒の持ち込みを有りにしようかなって考えてる。俺は今後も飲むつもりは無いけど、飲みたい人は飲みたいだろうしね。」
「ははっ、優しいんだね。タクトさん。」
「せっかくウチを利用してくださるお客さんには、少しでも楽しんでもらいたいんでね。ほら、次はジャガイモが揚がったよ。」
「ん~!とってもホクホクしていて、美味しいです!以前頂いた、コロッケのような感じですね。」
「うん、美味しい!ジャガイモって、あれだよね?王都の方で主食になっているっていう……最近、この辺りにもよく流通されるようになってきているよ。」
「ロイドさん、ご自身で料理を作られるのですか?」
「いやぁ、僕は自炊はてんで駄目で、こうして外食するか……仕事に集中して食事を忘れることもあるから、ソニアさんのように様子を見に来てくれたり、差し入れを持って来てくれるのは、本当に感謝してるんですよ。」
「そんな……私はただ……」
「まぁ、鍛冶職人さんって、俺達料理人とは違う意味で、炎と戦ってるってイメージだもんな。1番良いタイミングを逃すわけにもいかないだろうし……それだけ集中するってのは、解る気がするよ。」
「ありがとうございます、タクトさん。」
その後もいろいろ揚げていき、最後にもう一度肉を出して、〆とする。
「ふぅ~……食べた、食べた。ありがとう、タクトさん。ごちそう様。」
「今回の串カツもとても美味しかったです。」
「そいつは良かった。」
「タクトさん、お会計をお願いします。」
「了解。串カツ1本銅貨1枚が……えっと、全部で12本で、銀貨1枚と銅貨2枚だな。」
「串カツ1本、銅貨1枚!?信じられない安さだ!」
「タクトさん、いくらスキルで食材を出して、元手が無料だからって……もっと値段を上げても良いんですよ?高価な油を使ってるんですし。」
「しかも、この値段……間に食べた葉野菜の値段、含まれてないですよね?」
「まぁ、キャベツを何枚食べたかなんて、そこまで数えてねぇからな。それに、美味いって言ってくれて、満足してくれれば、提供した甲斐があるってもんだ。」
「タクトさん、ありがとう。ソニアさん。今回は僕がソニアさんの分も支払うよ。」
「えっ!?いえ、そんな!悪いですよ。自分の分は自分で……」
「良いんですよ。先日のカツサンドと、良いお店を紹介してくださったお礼です。」
「……わかりました。ありがとうございます、ロイドさん。あっ、あの!今度、また、御一緒した時は、私が支払いますから!」
「……ははっ、ありがとうございます、ソニアさん。では、その時はお願いしますね。」
「はいっ!」
ロイドは財布から銀貨2枚、銅貨4枚を取り出して俺に支払ってくれた後、軽くお辞儀をしてソニアと一緒に大通りの方へ歩いて行った。
「ははっ、良いなぁ、あぁいう関係も。またの御来店、お待ちしておりますよっと。」
俺はソニアとロイドの仲が、今後どう深まっていくのか期待しながら、2人が食べた食器の片づけを開始した。




