表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/78

Menu 21 ~ 小籠包 ~

11時20分


「こんにちは、タクトさん。」


屋台を出し、のんびり本を読んでいると、大通りの方からクロエが歩いて来た。


「おぅ!いらっしゃい、クロエ。」


他の客が居ない時、クロエは端から詰めることもなく、俺の正面の席に座ることが、最近判った。


「ねぇ、タクトさん。」

「ん?何だ?」

「以前、フレンチトーストを頂いた時だったかしら?ミルクセーキを蒸す?とプリンになるみたいな話をしたように思うのだけど……」

「あぁ。確かに、何かそんな話したな。」

「それから、他の美味しい物を頂いて、すっかり忘れていたのだけれど……その蒸すって、どういう調理法なのかを知りたくて……」

「そっか。よし、わかった!じゃあ、実践するついでに、昼飯はその蒸し料理で構わないか?」

「えぇ。お願いするわ。」

「了解!そんじゃ、早速準備しますかねっと。」


俺は【 創造 】のスキルを使って、蒸す前の食材と必要な道具を出現させる。


「あら?変わった籠を使うのね。」

「ん?あぁ、蒸篭(せいろ)のことか。まぁ、この世界じゃ多分無いだろうから、えっと……こういう(ざる)があれば、これと蓋の付いている鍋で、蒸し料理は作れるよ。」


そう言いながら、鍋に少しだけ水を入れる。


「え?タクトさん、大丈夫なの?それ。水の量が少なすぎるような気がするのだけど……」

「おぅ。別にこの水で食材を茹でたり、煮込んだりするわけじゃないからな。クロエ、水に熱を加えたら沸騰して湯気が出るだろ?」

「えぇ。」

「蒸し料理ってのは、その湯気で食べ物に熱を加えて調理する方法なんだ。ここで水が多いと、沸騰して湯気が出るまでに時間がかかるんだよ。」

「なるほど!面白い調理法ね。」


良い感じに湯気が出て来たので、食材を入れた蒸篭を上に置いて、しばらく待つ。


「笊はたまに、他の町から来る行商の人が卸しているのを見るのよね。どこで作っているのかを調べて、依頼したら、その蒸篭も作ってもらえるのかしら?」

「やろうと思えばできそうだけど、仕組みを知ってないとなぁ……それに、蒸し料理の概念って、殆ど無いんだろ?需要が無いんじゃ、売れないだろうな。」

「あぁ……それは確かにそうね。私もタクトさんに会って、あのとき話題に上がるまで知らなかったし。」

「…………よしっ、そろそろ良いかな。」


火を止め、蒸篭の蓋を開ける。


「わぁ!湯気が凄い勢い良く!」

「お待たせ。小籠包だ。」


俺は蒸篭から小籠包が入っている場所を取り、クロエの前に置いた。


「あら、かわいい。これは……このままフォークで食べていいの?」

「いや、フォークは駄目だ。ちょっと難しいけど、スプーンで掬って一口で食べてくれ。」

「スプーンで食べるのね。えぇ、わかったわ。それじゃ、いただきます。」


クロエは小籠包をスプーンで掬い、俺が言った通り一口で口の中へと運んだ。


「んっ!熱っ……はふ、もぐ……んっ!?んんんんっ!?」


『 アレ 』を体験したのだろう。

クロエは後方へ仰け反った反動で、椅子から転げ落ちた。


「クロエぇぇぇぇぇ!大丈夫か!?水、此処に置いておくぞ!」

「んんっ!ごくっ……ふぅ、びっくりした。噛んだら、物凄く熱いスープが飛び出してきて……でも、味はとっても美味しかったわ。タクトさん、これは一体!?」


平然を装いながらも、少しだけ頬を赤くしたクロエが、ゆっくりと座り直す。


「別に難しいことをしたわけじゃないんだ。説明する前に……クロエ、これを見てくれ。」


俺は【 創造 】のスキルで、煮凝りを取り出す。


「これは?」

「煮込んだお肉が冷え固まった物だ。ほら、プルプルしてるだろ。」

「えぇ。」

「これはゼラチンっていう成分で、こういう状態になってるんだ。それで、熱を加えると液体に戻る。」

「熱が加わると液体に……わかった!この皮で中の具を包むときに、そのゼラチンという成分が含まれたスープが冷え固まった物も、一緒に入れるのね!」

「正解!この小籠包は中のスープがあってこそだからな。フォークで刺したら、そこから肝心のスープが流れ出てしまうから、スプーンで食べるように勧めたんだよ。」

「なるほど。スープあってこそという意味が解るわ。次からは、もう少し気を付けて……」


クロエは説明を聞いたうえで、スプーンで小籠包を掬い、口へと運んでいく。


「ふー……ふー……はむ、はふっ!んぅっ、ほふっ!ん……ん~!このスープと具が柔らかく混ざり合って、本当に美味しいわ!」

「だろ?最初にこういう料理を考え出した先人達は、マジで偉大だと思うよ。」

「タクトさん。おかわりをお願いしても良いかしら?」

「あいよっ!また蒸すのに時間が少しかかるけど、構わないか?」

「えぇ、もちろん。」


その後、追加で用意した小籠包も、クロエはあっという間に完食した。


「ふぅ……ごちそう様、タクトさん。」

「おぅ!お粗末様。」

「うふふ。無我夢中で、あっという間に食べ終わってしまったわ。」

「最初の1個を食べて、椅子から転げ落ちた時は、本気で焦ったぞ。失礼ながら、ちょっと面白かったけど。」

「あっ……あれは忘れて欲しいわ。それより、タクトさん。お会計をお願いします。」

「あぁ。小籠包1皿銅貨7枚が2皿だから、銀貨1枚と銅貨4枚だな。」

「えっと……はい。」


クロエは財布から取り出した銀貨と銅貨を、手渡ししてくれた。


「はい。丁度、いただきます。」

「タクトさん。蒸し料理、美味しいわね。プリンやこのショーロンポー以外にもあるの?」

「もちろん。と言っても、俺が作れる、用意できる物にも限界があるけどな。今度また機会があったら、その時に出すよ。」

「えぇ。楽しみにさせてもらうわ!」


「あら?クロエがまた、変わった物を食べていますね。」


大通りの方から歩いて来たソニアが、クロエの前に積まれている蒸篭に気付いたようだった。


「いらっしゃい、ソニア。」

「こんにちは、タクトさん。それで?クロエは何を食べていたんです?」

「ん~……うふふ。とっても美味しい物よ。興味があるのなら、タクトさんにお願いすると良いわ。」

「どの様な物かは、食べてみてからのお楽しみということですか。わかりました。タクトさん、クロエが食べた物と同じものをお願いします。」

「あいよっ!」


ソニアにも小籠包を提供し、クロエにしたように食べ方を説明した結果……

最初の1個を食べて『 アレ 』を経験したソニアが、クロエ同様に椅子から転げ落ちた。


俺は慌てて水を出したが、親友のクロエが肩を小刻みに振るわせて笑っているのが、ちょっと面白かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ