Menu 21 ~ 小籠包 ~
11時20分
「こんにちは、タクトさん。」
屋台を出し、のんびり本を読んでいると、大通りの方からクロエが歩いて来た。
「おぅ!いらっしゃい、クロエ。」
他の客が居ない時、クロエは端から詰めることもなく、俺の正面の席に座ることが、最近判った。
「ねぇ、タクトさん。」
「ん?何だ?」
「以前、フレンチトーストを頂いた時だったかしら?ミルクセーキを蒸す?とプリンになるみたいな話をしたように思うのだけど……」
「あぁ。確かに、何かそんな話したな。」
「それから、他の美味しい物を頂いて、すっかり忘れていたのだけれど……その蒸すって、どういう調理法なのかを知りたくて……」
「そっか。よし、わかった!じゃあ、実践するついでに、昼飯はその蒸し料理で構わないか?」
「えぇ。お願いするわ。」
「了解!そんじゃ、早速準備しますかねっと。」
俺は【 創造 】のスキルを使って、蒸す前の食材と必要な道具を出現させる。
「あら?変わった籠を使うのね。」
「ん?あぁ、蒸篭のことか。まぁ、この世界じゃ多分無いだろうから、えっと……こういう笊があれば、これと蓋の付いている鍋で、蒸し料理は作れるよ。」
そう言いながら、鍋に少しだけ水を入れる。
「え?タクトさん、大丈夫なの?それ。水の量が少なすぎるような気がするのだけど……」
「おぅ。別にこの水で食材を茹でたり、煮込んだりするわけじゃないからな。クロエ、水に熱を加えたら沸騰して湯気が出るだろ?」
「えぇ。」
「蒸し料理ってのは、その湯気で食べ物に熱を加えて調理する方法なんだ。ここで水が多いと、沸騰して湯気が出るまでに時間がかかるんだよ。」
「なるほど!面白い調理法ね。」
良い感じに湯気が出て来たので、食材を入れた蒸篭を上に置いて、しばらく待つ。
「笊はたまに、他の町から来る行商の人が卸しているのを見るのよね。どこで作っているのかを調べて、依頼したら、その蒸篭も作ってもらえるのかしら?」
「やろうと思えばできそうだけど、仕組みを知ってないとなぁ……それに、蒸し料理の概念って、殆ど無いんだろ?需要が無いんじゃ、売れないだろうな。」
「あぁ……それは確かにそうね。私もタクトさんに会って、あのとき話題に上がるまで知らなかったし。」
「…………よしっ、そろそろ良いかな。」
火を止め、蒸篭の蓋を開ける。
「わぁ!湯気が凄い勢い良く!」
「お待たせ。小籠包だ。」
俺は蒸篭から小籠包が入っている場所を取り、クロエの前に置いた。
「あら、かわいい。これは……このままフォークで食べていいの?」
「いや、フォークは駄目だ。ちょっと難しいけど、スプーンで掬って一口で食べてくれ。」
「スプーンで食べるのね。えぇ、わかったわ。それじゃ、いただきます。」
クロエは小籠包をスプーンで掬い、俺が言った通り一口で口の中へと運んだ。
「んっ!熱っ……はふ、もぐ……んっ!?んんんんっ!?」
『 アレ 』を体験したのだろう。
クロエは後方へ仰け反った反動で、椅子から転げ落ちた。
「クロエぇぇぇぇぇ!大丈夫か!?水、此処に置いておくぞ!」
「んんっ!ごくっ……ふぅ、びっくりした。噛んだら、物凄く熱いスープが飛び出してきて……でも、味はとっても美味しかったわ。タクトさん、これは一体!?」
平然を装いながらも、少しだけ頬を赤くしたクロエが、ゆっくりと座り直す。
「別に難しいことをしたわけじゃないんだ。説明する前に……クロエ、これを見てくれ。」
俺は【 創造 】のスキルで、煮凝りを取り出す。
「これは?」
「煮込んだお肉が冷え固まった物だ。ほら、プルプルしてるだろ。」
「えぇ。」
「これはゼラチンっていう成分で、こういう状態になってるんだ。それで、熱を加えると液体に戻る。」
「熱が加わると液体に……わかった!この皮で中の具を包むときに、そのゼラチンという成分が含まれたスープが冷え固まった物も、一緒に入れるのね!」
「正解!この小籠包は中のスープがあってこそだからな。フォークで刺したら、そこから肝心のスープが流れ出てしまうから、スプーンで食べるように勧めたんだよ。」
「なるほど。スープあってこそという意味が解るわ。次からは、もう少し気を付けて……」
クロエは説明を聞いたうえで、スプーンで小籠包を掬い、口へと運んでいく。
「ふー……ふー……はむ、はふっ!んぅっ、ほふっ!ん……ん~!このスープと具が柔らかく混ざり合って、本当に美味しいわ!」
「だろ?最初にこういう料理を考え出した先人達は、マジで偉大だと思うよ。」
「タクトさん。おかわりをお願いしても良いかしら?」
「あいよっ!また蒸すのに時間が少しかかるけど、構わないか?」
「えぇ、もちろん。」
その後、追加で用意した小籠包も、クロエはあっという間に完食した。
「ふぅ……ごちそう様、タクトさん。」
「おぅ!お粗末様。」
「うふふ。無我夢中で、あっという間に食べ終わってしまったわ。」
「最初の1個を食べて、椅子から転げ落ちた時は、本気で焦ったぞ。失礼ながら、ちょっと面白かったけど。」
「あっ……あれは忘れて欲しいわ。それより、タクトさん。お会計をお願いします。」
「あぁ。小籠包1皿銅貨7枚が2皿だから、銀貨1枚と銅貨4枚だな。」
「えっと……はい。」
クロエは財布から取り出した銀貨と銅貨を、手渡ししてくれた。
「はい。丁度、いただきます。」
「タクトさん。蒸し料理、美味しいわね。プリンやこのショーロンポー以外にもあるの?」
「もちろん。と言っても、俺が作れる、用意できる物にも限界があるけどな。今度また機会があったら、その時に出すよ。」
「えぇ。楽しみにさせてもらうわ!」
「あら?クロエがまた、変わった物を食べていますね。」
大通りの方から歩いて来たソニアが、クロエの前に積まれている蒸篭に気付いたようだった。
「いらっしゃい、ソニア。」
「こんにちは、タクトさん。それで?クロエは何を食べていたんです?」
「ん~……うふふ。とっても美味しい物よ。興味があるのなら、タクトさんにお願いすると良いわ。」
「どの様な物かは、食べてみてからのお楽しみということですか。わかりました。タクトさん、クロエが食べた物と同じものをお願いします。」
「あいよっ!」
ソニアにも小籠包を提供し、クロエにしたように食べ方を説明した結果……
最初の1個を食べて『 アレ 』を経験したソニアが、クロエ同様に椅子から転げ落ちた。
俺は慌てて水を出したが、親友のクロエが肩を小刻みに振るわせて笑っているのが、ちょっと面白かった。




