Menu 19 ~ ほうとう ~
11時30分
「こんにちは、タクトさん。」
屋台を出してのんびりしていると、裏通りの方からテレサが歩いて来た。
「おぅ!テレサ殿、いらっしゃい。」
「あの……タクトさん。野菜炒めやサラダ以外で、野菜を美味しく食べる方法って、ありますか?」
席に座ったテレサが、申し訳なさそうにそう言ってきた。
「え?えっと、それは……肉や魚と一緒になっているんじゃなくて、野菜しか入ってない。野菜だけで主役を張ってる料理……って、解釈で良いのかな?」
「はい。タクトさんが以前居た世界の習慣で、似たような物があったのかは存じ上げませんが、この大陸にある教会全ての間での決まり事で、月に1度だけ、お肉やお魚、卵や乳製品を完全に絶ち、野菜と穀物、水だけでその日を生きる、『 禊の日 』と呼ばれる日があるんです。」
「へぇ。それで、その日が今日ってワケか。」
「はい。毎月の……それも1日だけですので、野菜炒めやサラダ、漬物などで過ごすことは、充分に可能です……が、せっかく異世界から来たタクトさんが居られるのです。もしよろしければ、何か良い案をいただけないかと思いまして。」
「ん~……肉、魚、卵、乳製品が駄目で、野菜と穀物だけを使った料理か…………あっ、そうだ。1つ心当たりがあるよ。」
「本当ですか!?」
「あぁ。テレサ殿、この後時間は?」
「大丈夫です。まだまだゆっくりできます。」
「うっし!それじゃあ、説明しながら1から作るか。」
俺は【 創造 】のスキルでいろんな野菜と、他に必要な物を出現させる。
「タクトさん。その葉っぱみたいな物と、木を削ったような物は何ですか?」
「ん?あぁ、そっか。この葉っぱみたいなのは昆布っていう海藻を干した物。この木屑みたいなのは鰹節という鰹って魚を燻製にして極限まで乾かしたあと、専用の道具で削った物なんだ。どちらも良いダシが出るんだよ。」
「ダシ?」
「ん~……どう説明すれば良いんだろう?物凄く簡単に言うと、これを煮るだけで、美味しいスープができる……かな?ただ、今回は魚が駄目みたいだから、昆布だけでダシを取る。」
俺は1人用鍋に水と昆布を入れ、ダシを取りながら沸騰させている間に、野菜を切っていく。
「野菜は何でも良いんだけど、この料理に絶対に欠かせない野菜が1つだけ……テレサ殿。この野菜を見たことはあるかな?」
そう言いながらテレサ殿に、切る前のカボチャを見せる。
「あぁ、カボチャですね。はい。時々市で売られているのを見かけますよ。このカボチャが今作っている料理に欠かせないというのには、何か理由があるのですか?」
「今作っている料理は海の無い、山に囲まれた地域の料理でね。この世界の甘い物が高価で貴重なように、昔の人達にとって甘い物は貴重で、このカボチャを煮て甘味を取っていたんだよ。」
「なるほど。生きるための知恵というものですね。」
「そして、そのカボチャや、ニンジン、里芋……まぁ、芋だな。こういった火の通りにくい野菜から先に煮込んで、次はこれだ。」
「それは……パスタですか?私が知っている物より、随分と白いですけど……」
「あぁ。ウドンっていうんだ。これをお湯で茹でたりしないで、粉が付いたこのままの状態で鍋に入れて……」
本当はきし麺とか、平たい感じの麺っぽいけど……ウドンでも大丈夫……だと思う。
こういう適当な作り方してたら、山梨県の人達に怒られるだろうか?
「そんで、ネギや白菜、キノコ系や油揚げのような火が通りやすい物を入れて、味噌と醤油で味付けをする。」
「ミソ?ショーユ?どちらも初めて聞く調味料です。」
「この味噌も醤油も、大豆っていう豆から作る調味料なんだ。作る過程で塩を混ぜるから、追加で塩を足す必要も無い、甘さはカボチャで取るから砂糖を使わないんだよ。」
「なるほど。」
「……よし!さぁ、できた。ほうとうだ!」
「ほうとう……あぁ、良い香りですね。」
「食べる分ずつ、この容器に取り出して食ってくれ。」
「わかりました。それでは、いただきます。」
テレサはほうとうを容器に入れ、フォークで麺を取って口へと運んだ。
「ん……もぐ……んっ、まぁ!素朴な味で、とっても美味しいです!ウドンでしたか?トロトロに煮込まれていながらも、モチモチしていて……あぁ、お腹にも充分溜まりますね。」
「今回は入れなかったけど、ニンニクなんかを入れると、より栄養満点になるよ。」
「なるほど!そういえば、野菜は何を入れても良いと仰られてましたものね。」
「この料理を提供してくれるお店の中にはお肉や、天ぷら……フライのような物が乗っている物を提供してくれる所もあるみたいなんだけど、それはその土地を訪れた観光客に対する物だそうで、本場ではやっぱり、具材は野菜のみなんだそうだよ。」
「そうなのですね。うふふ。この煮込まれた野菜の甘さが、何とも言えません。」
その後も雑談をしつつ、テレサはほうとうを完食した。
「はふぅ……タクトさん、ごちそう様でした。ウドンと一緒だったからでしょうか。野菜と油揚げ……でしたっけ?動物性の食材が一切入っていませんでしたのに、凄い満足感です。」
「そっか。喜んでもらえたみたいで、何よりだよ。」
「ただ惜しいのは……調味料やコンブ……でしたか?あれらを入手できないので、教会で作ることができないということですね。」
「ん?テレサ殿が自分で料理されるっていうんなら、幾らかお譲りしますけど?」
「本当ですか!?」
「あぁ。スキルで幾らでも出せるからな。」
俺は【 創造 】のスキルで出現させた昆布と味噌、醤油を麻袋に入れていく。
「どうぞ。昆布はそうだな……まぁ、欲張って大きく切るんじゃなくて、普通?必要な時に、それなりの大きさに切って使うといいよ。あと、可能であればできるだけ涼しい場所に保管しておいたほうが良いかも。昆布は既に干してある物だし、醤油もまぁ……そこまで問題無いんだけど、味噌がね。一応、保存食なんで大丈夫だとは思うが、やっぱり暖かい場所だと、その分痛みやすくなるから。」
「わかりました。あっ……お支払いがまだでしたね。タクトさん、お願いします。」
「あぁ。ほうとう1人分で……そういや、ほうとうをメニューに書いてなかったな。ん~……じゃあ、銅貨7枚で。昆布と味噌、醤油はサービスだ。」
「よろしいのですか?ちゃんと調味料分の代金もお支払いしますよ?」
「いいの、いいの。さっきも言ったけど、スキルで出せるから元手はタダなんだし。今回は1人用の鍋で作ったけど、大きい鍋があれば、それだけ量が作れる。来月の禊の日にでも、作って教会の居る人達に食べさせてあげるといいさ。……気に入ってもらえるかどうかは、判んないけど。ついでにレシピも入れておくよ。」
「何から何まで至れり尽くせりで……ありがとうございます、タクトさん。えぇ。是非、挑戦してみますね。」
ほうとうの代金を支払ったテレサが、微笑みながらお辞儀をし、裏通りの方へと歩いて行った。
「この世界の食文化に、ちょっと影響を与えちまったけど……まぁ、大丈夫だよな。」
今後の発展を願いつつ、俺はテレサが使用した食器や鍋洗いを開始した。




