Menu 20 ~ カルパッチョ ~
アリアータ教会・大聖堂
「こんにちは、テレサさん。」
「あら。こんにちは、『 グウェル 』さん。本日はどうされました?」
「ははっ……また相談に乗っていただきたくて……」
「あの件ですか。あっ!でしたら、良い所があります。」
「良い所?」
◇◇◇
11時30分
「こんにちは、タクトさん。」
屋台を出し、本を読んでいると、大通りの方からテレサと、白髪の中年っぽい男性が歩いて来た。
「おぅ!テレサ殿。」
「うふふ。タクトさん。私も他のお客さん同様に、呼び捨てで呼んでくださって構いませんよ。私も、タクトさんや他の皆さんとも仲良くなりたいので。」
「そうかい?テレサ……が、そう言ってくれるのなら。ところで、そちらの男性は?」
「はじめまして。私はグウェル。このアリアータの領主を務めさせていただいてます。」
「うわっ!領主殿でしたか!はじめまして、タクトです。申し訳ありません、挨拶にも伺わずに……」
「はっはっは。いえいえ、構いませんよ。」
「実は、本日はタクトさんにもご相談に乗っていただこうと思いまして。」
「相談?」
「タクトくん。貴方の事情はテレサさんから伺いました。何でも異世界からこの世界、そしてソニアさんの導きでこのアリアータに来られたそうですね。」
「えぇ、そうです。」
「そして……魚介類を使った料理を提供している……と。」
「はい。」
「タクトさん、御相談というのは、その魚介類のことでして……」
「あぁ。この町の人達は魚を食べるのに若干の飽きがきているっていう……」
「その通りです。漁師の皆さんが頑張って海から魚を獲って来ても、市場に出回り、この町の人達や料理人の方々が購入されるのは、そのほんの一部。結果、多くの魚が……命が廃棄処分となってしまっているのが、このアリアータの現状です。」
「そこでタクトさんに、異世界の料理を教えてもらい、このアリアータでも実行できそうな物があれば、少しずつでもこの町の人達……まずは、料理人の方々に広めていこうという話になったのです。」
「なるほど!そういうことなら、協力は惜しみませんよ。」
「おぉ!ありがとうございます、タクトくん。」
「じゃあ、最初は……」
「タクトさん。昼飯を御馳走になりに来たよぉ!」
大通りの方から、元気良く手を振りながらヒルダが歩いて来た。
「おぅ!ヒルダ。いらっしゃい。」
「……って、おいおい!?何だい!?司祭殿と、領主様が御来店してるなんて!……日を改めた方が良いかい?」
「いや、むしろヒルダには居てもらった方が助かる。テレサ、グウェル殿。彼女はヒルダ、漁師さんです。」
「まぁ!そうですか!」
「確かに、漁師の彼女にもいろいろと話を聞きたいですね。ヒルダさん、どうぞこちらへ。」
「そ……そうかい?それじゃあ、お言葉に甘えて……で?何の話をしてたんだい?」
「あぁ、実は……」
俺とテレサ、グウェルは今さっきまでしていた話をヒルダにも説明した。
「何だ、そういうことかい。ははっ、なら確かにタクトさんの店はうってつけだね。生でも、調理したのでも美味しい物が出てくるからね。」
「「生っ!?」」
ヒルダが何気なく言った言葉に、テレサとグウェルが驚きの声が上がる。
「タクトくん。ほ……本当に、魚を生で食べられるのですか?」
「はい。刺身っていうんですけど……挑戦してみます?」
「……そうですね。実際に生の魚を食べて元気にされているヒルダさんが居るのです。タクトくん、そのサシミとやらをお願いします。」
「わ、私にもお願いします。」
「あいよ!」
俺は【 創造 】のスキルで魚の切り身を出現させ、切り分けていく。
「あっ、そうだ。タクトさん。イカやタコ、エビは獲れるんだけどさ、貝がどうしても獲れなくてねぇ。ありゃ、どこに居るんだい?」
「ん?あぁ。あいつ等、海の砂の中に潜んでたり、岩に張り付いてるヤツもいるから、投網で確保するのは難しいと思う。砂に潜んでるヤツは頑張れば網でも獲れそうだけど……俺の前に居た世界では、そういうのを素潜りで獲る専門の人とかが居たくらいさ。」
養殖の知識はまだ早いだろうから、海女さんの知識だけヒルダに伝える。
「なるほど、素潜りかぁ……アタイも練習しようかねぇ。」
「ほほぅ。興味深い話ですね。あのイカやエビ、貝も食べられると……」
「えぇ。タコという生き物は存じ上げませんが、話の流れからして海の生き物なのでしょうね。」
「その辺は後で説明しますよ。とりあえず、刺身ができたのですが……グウェル殿やテレサは、この町でも食べられるように……とのことなので。」
俺は出来上がった刺身に玉ねぎの千切りを乗せ、サラダ用のドレッシングをかける。
「あれ?タクトさん。あのショーユってソースで食べるんじゃないのかい?」
「その醤油がこの世界で手に入るか判らねぇからな。この間、テレサには少し、お裾分けしたけど。」
「えぇ。大事に使わせていただいております。」
「グウェル殿。テレサにその醤油を分けた時に聞いたんですけど、この世界にもサラダはあるんですよね?そこにドレッシングは……」
「えぇ。ちゃんと掛かって出されていますよ。」
「なら、大丈夫だ。一応、サシミなんですけど、こうして野菜を盛り付けてドレッシングをかけた物を、ちょいとお洒落にカルパッチョっていうんです。どうぞ、試してみてください。」
俺はカルパッチョを3人の前に1皿ずつ置いていく。
「ありがとうございます、タクトくん。それでは、いただきます。」
「「いただきます。」」
3人はそれぞれ刺身をフォークで刺し、口へと運んだ。
「ん……もぐ……お、おぉぉ!なんと!この濃厚な味!タクトくん!この真っ赤な魚は、何と言うのですか!?」
「あぁ。その赤身はマグロっていう魚です。その白いのが鯛、オレンジ色のがサーモン……鮭っていう魚です。」
「美味しいです!私はこの鯛のじんわりとくる美味しさが好きですね。」
「マグロや鯛も美味いけど、アタイはこのサーモンのネットリと濃厚な味がやっぱり好きだね!」
「そして、この玉ねぎの生の辛さ……これのおかげで、味の濃い魚もサッパリと食べられる……これは、フォークが止まりませんね。美味しいですよ、タクトくん。」
「そいつは良かった。今回は玉ねぎをスライスしたヤツしか使わなかったですが、サラダのような物なので、葉野菜やトマトなんかと一緒にしても美味いですよ。」
「ふむふむ、なるほど……」
「ドレッシングを1から作るとなれば各店舗、各家庭ごとに微妙に味が異なるだろうし、盛り付け方は料理人の腕見せ所。もし、上手く広まったら、各店舗同士でしのぎを削ってくれるでしょう。」
「まぁ、まずは魚を生で食べられるってことを広める必要があるけどね。アタイもこの間刺身や海鮮丼を食べた後、漁師仲間達に話してはいるけどさ。まだまだ疑心暗鬼って感じさ。」
「海鮮丼?タクトくん、それはどういった料理なのですか!?」
「えっと、簡単な話、刺身を米……俺の元居た世界の穀物の上に乗せた物です。食べてみますか?」
「是非ともお願いしたい!」
「あの、タクトさん……私にも、お願いします。」
「もちろん、アタイにも頼むよ!ついでだ、タクトさん。シーフードミックスフライを……そうだね、2人前を1皿で出してくれないかい?」
「あいよっ!すぐ用意するよ。」
「お……おぉ……まさか、領主様まで来るようになったのか。驚いたな……」
裏通りの方から歩いて来たセシルが、座っている3人を見て驚いていた。
「おぅ!セシル、いらっしゃい。グウェル殿、彼女はセシル。冒険者です。」
「おぉ!そうですか。よろしければ、セシルさんもご一緒しませんか?」
「来なよ、セシル!」
「あ……あぁ。それじゃあ、ご一緒させてもらおうかな。」
「えぇ!?りょ、領主様!?」
「タクトさん!貴方、領主様に何か粗相をしたんじゃないでしょうね!?」
大通りの方からソニアとクロエまで歩いて来た。
「おう!いらっしゃい、2人共。とりあえず……クロエは今日、立ち食いな。」
「何でよ!?」
「冗談だよ。今、椅子を出す。」
その後、各々に料理を出し、6人は談笑しながら食事を楽しんでくれた。
「はっはっは。タクトくん、このお店は良いですね。職業や相手を呼ぶ敬称こそ違いはあれど、客同士がこうも近い距離で美味しい料理を楽しみ、笑顔で近況報告や情報交換をし合う。温かい場所のようだ。」
「ありがとうございます。そう言ってもらえて、嬉しいです。今は此処で屋台という形でやらせてもらっていますが、いずれはこの町でちゃんと土地を購入して、自分のスキルで店を建てるつもりなんです。ただ、それも大規模な店にするんじゃなくて、こういう小ぢんまりとした、人と人との交流を深められるような店にしたいって考えてます。」
「おぉ!それは素晴らしい考えです!土地ですか……もし、よろしければ、私の方で手配いたしましょうか?」
「御気持ちは有り難いです。ですが、できれば自分で頑張ってみたいんです。以前は、ただ無気力に生きていただけなので……それに、店を構えたいって言いましたが、割とこの屋台も気に入ってるんで。まぁ、気長にやっていきますよ。」
「そうですか。はっはっは!わかりました。では、私も彼女達のように、お客として貴方を応援させていただきます。頑張ってください、タクトくん。」
「ありがとうございます。グウェル殿。」
まさか、こんな形でこの町の領主様とお近づきなれるとは思わなかった。
でも……とても優しい、気さくな人で安心した。
変な事をするつもりは微塵も無いけど、この人……この人達とは、これからも良好な関係を築いていければ良いなと思った。




