Menu 18 ~ スイートポテト と ラッシー ~
衛兵隊詰め所
「これは……由々しき事態だわ……」
詰め所の敷地内にある自分の部屋で、クロエが頭を抱えて唸っていた。
「ソニアかテレサさんに相談しても解決できないだろうし……タクトさんなら……うぅ……でも………ぁああっ!もうっ!」
◇◇◇
16時
「ごちそう様、タクト。」
「おぅ!お粗末さま。」
おやつを食べに来たセシルを見送り、食器洗いをしていると
「こんにちは、タクトさん。」
大通りの方から、クロエが歩いて来た。
「おぅ!クロエ。いらっしゃい。今から昼飯か?」
「いえ、昼飯なら詰め所の食堂で食べて来たわ。今日は甘い物を頂きたいのだけれど…………」
クロエは周囲を警戒しつつ、チョイチョイっと小さく手招きをしてきたので、俺は以前、牛丼を提供した時のように、クロエの隣の席に座る。
「ん?どうした?」
「あの……えっと……タクトさん。その…………おっ、お通じが良くなる食べ物を使ったお菓子って、あるかしら?」
「えっ?お通じって……クロエ、お前……」
「良いから!タクトさんは私の今の質問に『 Yes 』か『 はい 』で答えれば良いのっ!」
「いやいやいや!その食材が無いって可能性も考慮して、『 いいえ 』の選択肢も残しておいてくれよ!ちなみに……どれくらい?」
「……6日くらいかしら。」
「長いな……それだけその……出てないのなら、やっぱり辛いだろ?」
「えぇ。おかげで肌も荒れるし、食欲も湧かないし、お腹も張って眠れないわで散々なのよ……」
「まぁ……流石にこればっかりは治癒魔法とかで、どうこうできる問題じゃねぇしなぁ……わかった。どこまで効果があるかは判らないけど、心当たりがあるから提供するよ。」
「本当!?ありがとう、タクトさん!」
俺はクロエの隣の席で【 創造 】のスキルを発動する。
「さっき、クロエは食欲が湧かないって言ってたけど、今から出す物は意地でも頑張って完食してもらうから、そのつもりでいてくれ。」
「えぇ。わかったわ。」
「それじゃあ、まずはコイツからだ。『 お菓子 』ではないけど……」
俺はクロエの前に更に乗せた一品を提供する。
「タクトさん。えっと……これは?」
「焼き芋って言ってな。サツマイモっていう芋の一種を、熱した石の上に置いて、時間をかけて焼いた物だよ。」
「ただ芋を焼いただけなの?それに、皮も剥いてないなんて……」
「サツマイモは皮も食べられるんだ。ジャガイモだって、芽には毒があるから撤去しないといけないけど、一応皮を食べても大丈夫だから、調理段階で多少残っていても問題無いんだよ。それに、芋に限らず、野菜は皮の近くに旨味と栄養のあるものが多いんだ。」
「へぇ!そうだったの。普段自分で料理する時は、結構厚めに皮を剥いてたかも……」
「とりあえず、半分に割ってかぶり付くように食べてくれ。あっ!熱いから気を付けてな。」
「えぇ。いただきます。」
クロエは焼き芋を手に取り、半分に割って、右手で持っている方にかぶり付いた。
「はふっ!あっ……ん、ほっふ……んっ、美味しい!とっても甘くて美味しいわ!ホクホクしているのは、ジャガイモと一緒なのだけれど……これは、蜜でいいのかしら?滴るほど溢れてきて……」
「その蜜が少ないサツマイモもあるんだけど、まぁ……その辺は好みだったりするかな。」
「そうなのね。うふふ、本当に美味しいわ。これならすぐに食べきれるかも。」
そう言ったとおり、クロエはあっという間に焼き芋を完食した。
「タクトさん、もう1本頂けるかしら?」
「まぁ、出すのは簡単だけど……今度はこいつを食べてもらおうかな。」
俺は再び【 創造 】のスキルを発動し、小皿に乗った商品を提供する。
「これは?綺麗な黄色のお菓子だけれど……」
「スイートポテト。さっき食べたサツマイモを使ったお菓子だよ。」
「これもサツマイモを使っているの!?確かに、さっき食べた焼きイモも、中身は綺麗な黄色をしていたわね。」
「まぁ、一口食べてみな。フォークで切り分けても良いし、手掴みでも大丈夫だぞ。」
「えぇ。いただきます。」
クロエはフォークで上品に切り分け、口へと運んだ。
「もぐ……んっ、もぐ……驚いたわ。これも、凄く甘くて美味しい!丁寧に下ごしらえをされているのね。さっき食べた焼きイモよりも舌触りが滑らかで、とてもシットリとしているわ。」
「あぁ。焼いたサツマイモを裏漉しして、バターや砂糖、卵黄に生クリームを混ぜて、形を作ってオーブンで焼く。いろいろ混ぜて手間と時間をかけている分、完成した物は美味いんだよ。」
「えぇ。それだけの価値がある味だと思うわ。」
「あっ、そうだ。今更だけど、これを飲みながら食べると良いよ。」
俺はスイートポテトを食べているクロエに、飲み物の入ったコップを差し出す。
「白い……これは、牛乳?」
「まぁ、牛乳っていえば牛乳かな。こいつはラッシーっていってな、牛乳とヨーグルト、少量の砂糖とレモンっていう柑橘の汁を混ぜた物だよ。」
牛乳、ヨーグルト、砂糖はこの世界にあるけど、レモンがどうかは判らないので、この材料だけちょっと具体的に説明しておこう。
「へぇ!簡単なのね。ん……ごくっ……ん~っ!冷たくて美味しい!ヨーグルトや柑橘の汁が入っているからかしら?普通に牛乳を飲むより、サッパリしていて飲みやすいわ。」
「このラッシーは、俺が居た世界では香辛料が効いてスパイシー……えっと、ほどほどに辛い料理を提供してくれる店のメニューに、よく載ってるんだ。その食べ物の辛さを和らげてくれる効果があるらしい。でもまぁ、普通に飲んでも美味いからな。牛乳にヨーグルトが混ざってるんだ、こういう提供の仕方をしても問題無いだろう。」
他愛ない雑談をしているうちに、クロエは提供した料理を全て完食した。
「ふぅ……ごちそう様でした。」
「おぅ!お粗末さま。まぁ、そんなにすぐ効果は出ないだろうから、時間があるなら少し、ゆっくりしていくと良いよ。」
「そう?じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかしら。」
「クロエ。今更で悪いんだけどさ……確かにサツマイモには便の通りが良くなる成分が含まれている。けど、世の中にはその成分が逆効果になって、より便秘に陥ってしまう人も居るそうなんだ。だからもし、今日の夜から明日1日経っても出なかったら、ちゃんと医者に診てもらった方が良いぞ。」
「なるほど……えぇ。最悪の事態が来たときは、医者に診てもらうわ。あっ、そうだ。お会計……」
「ん?あぁ……どうすっかなぁ……焼き芋はメニューに載せてねぇし……うん。スイートポテト1皿銅貨6枚、ラッシー1杯銅貨2枚の、計8枚で良いよ。」
「銅貨8枚ね。はい……うっ!」
支払いを受け取った直後、クロエが苦しそうに腹部を押さえる。
「どうした!?クロエ!」
「来た……かもしれない……タクトさん、ごめんなさい。今日はここで失礼させてもらうわね。」
「おっ、おう。俺のことは良いから、早く帰りな。後悔することになる前に。」
「えぇ……それじゃあ、また……」
席から立ち上がったクロエは、小走りで大通りの方へ去って行った。
「大丈夫かな?間に合えばいいんだけど……」
◇◇◇
翌日 12時
「タクトさん!」
屋台を出し、本を読んでいると、大通りの方からクロエが笑顔で駆け寄って来た。
「おぅ、クロエ。あの後大丈夫だったか?」
「えぇ!あっ……こほん。あまり大声では言えないけれど、その……無事に出たわ。6日分、スッキリと。」
「そうか!何が効いたのか判んねぇけど、とにかく良かったな。」
「本当に……タクトさんがこの世界に来てくれて、いろんな美味しいお料理を出してくれて、とても感謝しているわ。」
「そう言ってもらえると、こうして料理屋をする選択をして良かったと思えるよ。」
「そういえば、タクトさんを案内してきたのって、ソニアだったわね。あの子にも今度、何かお礼をしないと……」
「私がどうかしましたか?」
少し遅れて、大通りの方からソニアが歩いて来た。
「ソニア……好きな物を頼みなさい。今日は私が奢ってあげるわ。」
「えぇっ!?どうしたんですか?急に。あ……ありがとう、ございます?」
その後、ソニアと一緒に楽しそうに食事をするクロエを見て、本当にもう大丈夫そうなので、一安心した。




