Menu 17 ~ カツサンド ~
とある日の 21時
「タクトさん。実は私……好きな人が居るんです。」
いつものように夕食を終えたソニアの口から、まさかの衝撃発言が飛び出した。
「おぉ!マジか!えっと、それは水軍の人なのか?」
「いえ。このアリアータの町で鍛冶屋を営まれている方なんです。」
「鍛冶屋?水軍とあまり接点があるように思えないんだけど……」
「そんなことありませんよ。船上で白兵戦の訓練をしているとですね、潮風を受けるんですけど……私はちゃんと手入れしてますよ!?ですが、その……ずさんな管理をする者も居まして……」
「あぁ!そっか。放置をしていたら錆びるのか。」
「えぇ、その通りです。その手入れや……本当に駄目な場合は新調したり、剣も消耗品ですから、その修繕などをいつもお願いしている鍛冶屋さんがあるのですが、そこの鍛冶屋さんに……」
「好きな人が居るんだな。」
「はい……その通りです。」
そう答えるソニアの頬が、少しだけ赤くなっている。
「ははっ!ソニアにはこっちに来てから、いろいろ世話になったからな。俺にできることは殆ど無いけど、その恋が成就するよう、応援させてもらうよ。」
「うふふ、ありがとうございます。タクトさん。早速なのですが、その……明日のお昼、その人に昼食を差し入れたいのですが、用意しておいてもらって良いですか?」
「あぁ、それももちろん構わないけど……その御相手の鍛冶屋さんは昼飯時に抜け出せない程、多忙なのかい?」
「いえ。他にも職人さんが居るので、そこは大丈夫なのですが……明日は私が、午後からまた沖に出るので、タクトさんのお店でゆっくりお食事ができないんです。」
「なるほど。そういうことなら、了解!料理はスキルで出せるから、ソニアの好きな時に取りに来てくれ。」
「ありがとうございます!」
ソニアは会計を済ませ、一礼をしてから大通りの方へ歩いて行った。
「鍛冶職人さんか……どんな人だろう?店を覘きに……いや、ソニアから紹介されるまで、楽しみにしておこう。」
◇◇◇
翌日11時
「こんにちは、タクトさん。」
昼食を食べに来たセシル、ヒルダと雑談をしていると、大通りの方からソニアが歩いて来た。
「おぅ!来たな、ソニア。待っててくれ、すぐ用意するから。」
「はい。お願いします。」
「ん?何だい?今日はソニア殿、此処で食べて行かないのかい?」
「え……えぇ、そうなんです。」
「もしかして、アレか?件の鍛冶職人に、差し入れでもするのか?」
「なっ!?セシルさん、どうして……!?」
「え?知ってたのか?セシル。」
「あぁ。冒険者連中の間で噂になっているんだ。『 鍛冶屋に行ったら、高確率で水軍都督殿に会える 』とか、『 近々店主になるかもしれない青年と水軍都督殿が、何か良い雰囲気だ 』とかな。」
「へぇぇ。良いねぇ、良いねぇ。青春してるじゃないか!ソニア殿。」
「あぅぅ……」
セシルとヒルダの反応に、ソニアが顔を真っ赤にして俯く。
「んじゃ、その鍛冶職人さんを待たさないためにも、早く用意しちまわないとな。」
俺は【 創造 】のスキルで商品を出現させ、紙の袋に入れていく。
「はいよ!カツサンド2人分だ!」
「カツサンド……初めて聞く料理ですね。」
「タクト。私もそのカツサンドを食べてみたい。」
「アタイにも頼むよ!
「あいよっ!えっと……こんな料理だよ。」
俺は再度スキルを発動させ、皿に乗った状態のカツサンドを出現させて、1皿ずつセシルとヒルダの前に置き、1つだけ乗った小皿をソニアに手渡す。
「これは……パンに何か挟んでるのか?見た感じ、肉っぽいが……」
「まっ!食べてみれば、わかるさ。ってなワケで……いただきます!」
そう言いながらヒルダはカツサンドを手に取り、口へと運んだ。
「もぐ……ん……んんっ!こりゃ美味いね!このお肉は、以前この店で食べさせてもらったタコ焼きにかかっていたソースってヤツで味付けされてるんだね。それをフワッとしたパンが包み込んで……」
「中のお肉、これは衣を付けて油で揚げてるのか。それをパンで挟んでいるおかげで、手を汚さずに肉料理が食べられるのは良いな。」
「サンドイッチっていう食べ物の中の1種なんだ。確か、俺が生まれるよりもかなり昔に、どっかのお偉いさんが『 カードゲームを楽しみながら、食べられる料理を 』って指示を出して、その結果、こうして片手で気軽に摘まめるこの料理が誕生したらしい。ちなみに、サンドイッチってのは、そのカードゲーム好きな伯爵……だったかな?そのお偉いさんの名前だそうだ。」
「確かに。カードゲームだけじゃなく、本を読みながらとか、ボードゲームの駒を動かしながらとか……何か片手間で作業をしながら食べるには、都合が良いな。」
「お料理の内容は解りました。しかし、2人分というのは……?」
「ん?鍛冶屋さんと、ソニアの分だけど?午後の仕事までまだ時間があるだろ?せっかくなんだし、2人で一緒に食べると良いよ。その御相手さんが、どれだけ食べるか判らないけど……もし、『 1人前で足りなかった 』ってことになったら、次に来た時にでも教えてくれ。俺がその鍛冶屋さんまで行って謝罪するから。」
「いえ、そんな!ありがとうございます、タクトさん!お代は幾らですか?」
「えっと……持ち帰りも、提供する1皿と同じ値段で良いか。カツサンド1箱、銅貨7枚が2箱だから、銀貨1枚に銅貨4枚……いや、1箱は俺が良かれと思って入れたんだし、ここはやっぱり1箱分の値段で……」
「いっ、いえ!ちゃんと2箱分、お支払いしますよ!」
ソニアは慌てた様子で財布から銀貨と銅貨を取り出して、支払ってくれた。
「何か悪いな。とりあえず、ちょうどいただきました!」
「それでは、私はこれで失礼させていただきますね。」
「おぅ!気を付けてな。」
「ははっ、頑張りなよ、ソニア殿!」
「良い結果が聞けるのを楽しみにしてるぞ。」
俺とセシル、ヒルダに見送られ、ソニアは大通りの方へ歩いて行った。
◇◇◇
アリアータの町・鍛冶屋。
「こんにちは~。『 ロイド 』さん、いらっしゃいますか?」
「ん?あぁ、ソニアさん。悪いね、依頼された剣の修繕がまだ終わっていなくって……」
「あぁ、いえ。本日はその……宜しければ、一緒にお昼でも……と思いまして……」
「え?あぁっ!もうそんな時間ですか。作業をしていると、どうしても没頭してしまって……良いですね。是非、ご一緒させていただいても?あ、でも、今からだと店が……」
「大丈夫です。本日は、最近新しくできたお店で、お持ち帰りの商品を買ってきましたので。此処で一緒に食べませんか?」
「へぇ!そんなお店ができたんですね。あっ、待っててください。少し片づけますから。」
その後……タクトのお店に、若い男性のお客が1人増えることを、この時はまだ誰も知らない。




