Menu 12 ~ チョコバナナクレープ ~
15時
「甘い物が食べたい……」
衛兵隊の詰め所の自室で、クロエがボソッと呟く。
「でも、給料日まであと2日あるのよね……貯えはあるけれど、甘い物は高価だし……そうだ!タクトさんの所に……いえ、タクトさんの所は料理を出すお店ではあるけれど、甘い物は……あっ、でも、私がお子様ランチのプリンを食べて、ソニア達が食べたいって言った時、すぐにスキルで出してたわね。よしっ!行くだけ行ってみましょう!」
そう結論に至ったクロエは、自然と笑みを浮かべながら自室を出た。
◇◇◇
同時刻
「ん~っ!美味しいです!このホットケーキっていうケーキ、以前いただいたパウンドケーキよりもフワフワで……私が今まで食べてきたケーキの中で、1番の柔らかさかもしれません。」
「他の店に出回っている菓子の類は砂糖の味しかしないのに比べて、このホットケーキは優しい甘さなのが良いな。」
おやつ時にやって来たソニアとセシルが、注文したホットケーキを食べて悦に浸っている。
「こんにちは、タクトさん。」
大通りの方から、クロエが歩いて来た。
「おぅ!いらっしゃい、クロエ。」
「あら、クロエ。」
「ソニア……もぅ!タクトさんのお店に来るのなら、誘ってくれても良かったんじゃないかしら?」
「ごめんなさい。誘わなくても、クロエなら1度教えた場所で、気に入った場所なら自分で来られると思ったんです。」
「まぁいいわ。ところで……2人は何を食べていたの?」
「ホットケーキっていう、柔らかくて優しい甘さの焼き菓子だ。衛兵隊長殿も気に入ると思うぞ。」
「ホットケーキ……」
料理の名前を聞いたクロエが、ソニアとセシルの皿に残っているホットケーキをチラッと見る。
「かなり厚いわね。甘い物を食べたいけれど、そこまでお腹が空いているわけでもないし……タクトさん、メニューを見せてくれないかしら?」
「おぅ、いいぜ。時間があるなら、ゆっくり選んでくれ。」
「えぇ。」
俺からメニューを受け取ったクロエが、お菓子の類が載っているページを捲っていく。
「あら!この料理、美味しそうね。タクトさん!この『 クレープ 』というお菓子の『 チョコバナナ 』味をお願い。」
「おっ!クレープか。丁度、新しいスキルを活用できそうだし、1から作るか。生地もあるし……構わないか?」
「もちろん!タクトさんにお任せするわ。」
実は、遡ること1時間ほど前……
✝✝✝
『うふふ。頑張っていますね、タクトくん。』
野菜の皮を剥いていると、ふっと脳裏に転生の女神様の声が聞こえてきて、危うく刃物で指を切るかと思った。
「女神様、話しかけてくださるにしても、できれば包丁を持ってない時にしていただけねぇですか?」
『あらっ!ごめんなさい!以前、スキルを追加した時はいきなりで驚かせたようでしたので、今回は事前にお伝えしようと思いまして。』
「あぁ、スキルって女神様が増やしてくれてたんですか。ありがとうございます。それじゃあ、前回と今回追加してくださったお礼として、何かお供え物を送りたいのですが……何が良いです?」
『そのようなつもりは無かったのですが、ありがとうございます。そうですね……タクトくんが以前住んでいた世界のお菓子が美味しそうで、1度食べてみたいと思っていたんです。なので、お菓子を幾つかお願いしても、よろしいですか?』
「お菓子ですか?わかりました。そうですね……じゃあ、とりあえず今回は……」
俺はスキルでクッキーの詰め合わせとパウンドケーキを出現させて、目の前の台の上に置いた……瞬間、台に置いた洋菓子が一瞬で消えた。
『ありがとうございます!タクトくん。あぁ、これが憧れていた地球のお菓子。』
「そうですね……じゃあ、こうしましょう。今後女神様が、新しいスキルを追加してくださったら、そのお礼にお菓子をお供えするってことで。」
『良いのですか!?それなら、毎日タクトくんにスキルを追加して差し上げますよ。』
「毎日は勘弁してください。今までのスキルでも、割と満足しているので、スキル追加はたまにで良いです。もう、この際、お菓子を食べたくなったら、催促してください。スキルを使えばすぐ出せますので。」
『うふふ。ありがとうございます、タクトくん。それでは!早速楽しませていただきますね。』
念話終了
「おもしろい女神様だ……さてと、追加されたスキルを確認しておかないと。」
俺はスキルで今授かったスキルを確認する。
〇 プロの技術 『 パッシブスキル 』
属性:-
消費MP:-
*お店で何年も修行しないと身に付かないような技法を、完璧に使いこなすことができる。
*完成した物の品質が、1ランク高い物になる。
「おぉ!これは、なかなか……前の世界では絶対に作れなかった料理にも、挑戦できそうだ。」
✝✝✝
……ということがあった。
なので、このスキルを試すつもりで、俺は残っていたホットケーキ用の生地を薄く、薄くフライパンに伸ばし広げていく。
本当は専用の鉄板みたいなのがあるんだろうけど、とりあえず今回は手元にある調理器具で作ることにした。
「ん?ホットケーキの生地なのに、かなり薄く伸ばすんだな。」
「えぇ。ここからどう調理するんでしょう?」
「よっと!」
薄焼きなので、すぐに火が通った生地を箸を使って取り出し、皿の上へ移す。
「えっと、チョコバナナだったな。」
俺はスキルで茶色い斑点が付いたバナナと、チョコレートソース、ホイップクリームを取り出し、バナナの皮を剥いてから包丁で切り
生地の上にチョコレートソースとホイップクリームと一緒に並べて、手早く撒いていく。
「お待たせ!持ち帰り用にするなら、手に持つ部分を紙で巻くんだけど、此処で食べるのなら、フォークとナイフで切り分けて食べると良いよ。」
「ありがとう、タクトさん。それでは、いただきます。」
クロエは上品にクレープをナイフとフォークで切り分け、そっと口へと運ぶ。
「ん……優しい甘さね。でも、ちょっと味が薄いかしら……」
「え?あぁ、下の方から食べたんだな。その辺りはクリームや具が殆ど入ってないから、この……真ん中辺りを切って食べてみな。」
「あっ、そうなのね。それじゃあ、タクトさんの言う通りに……」
俺が言った通り、クロエはクレープの上の方を切り分け、その1つを口に運ぶ。
「ん……もぐっ……んんっ!?凄い!チョコレートの味と、生クリームの味が合わさって、とっても甘くて美味しいわ!」
「そっ……そんなにですか?クロエ、私にも一口ください。」
「私にも一口。」
「ちょっと、あなた達!今さっきまでホットケーキとかいう物を食べてたじゃない!?欲しいのなら、追加でタクトさんに注文しなさいよ!あっ、コラッ!」
俺の見ている前で、クロエが切り分けたクレープの内、1切れずつソニアとセシルに奪われていた。
「確かに甘いですけど、私が頂いた部分はホットケーキの味と、生クリームの味しかしませんでした。」
「私が取った部分もだ。バナナとかいう果物が入っているのは、もう少し内側だったか……」
「あなた達……」
「ま……まぁまぁ、クロエ。気に入ったんならもう1個作ってやるから。」
「えぇ。ありがとう、タクトさん。もぐ……んっ!この黄なり色の……これがバナナという果物かしら?初めて食べる果物だけど、とってもまろやかな甘さで美味しいわ!甘さの中にちょっと苦みを感じるチョコレートの味とも凄く合う!」
「あぁ。クレープはいろいろな味や組み合わせがあるけど、このバナナとチョコレートの組み合わせは、俺の個人的な意見だけど、最強だと思う。」
「そうね。私も他の味を知っているわけじゃないけれど、この組み合わせは、とっても素晴らしいと思うわ。」
「良いなぁ……タクトさん!私にもクロエと同じ物をお願いします!」
「私にも頼む!」
「お、おぉ……この間のプリンのときみたいだ。」
「あなた達……いくらタクトさんのお店の料理が安いからって、これはお菓子の類なんだから、あんまり食べ過ぎると、太るわよ?」
まぁ、とりあえず注文されたのでソニアとセシルの分のクレープを作り、提供する。
「んん~っ!とっても甘くて美味しいです!」
「ソニアとクロエは切り分けて食べているが……んっ、こうして手で持って食べられるのも良いな。うん!甘くて美味しい。」
「セシル、気を付けて食べないと中身が飛び出してくることもあるから、注意して食べた方が良いぞ。」
「あぁ、わかった。気を付ける。」
その後……
お代を済ませたセシルが帰って行き、クロエが2皿目のクレープを食べ終えるのを、会計を済ませたソニアが待ってる状態である。
「ふぅ……ごちそう様でした。」
「おぅ!お粗末様。」
「うふふ。クロエ、とっても美味しそうに食べてましたね。」
「本当に美味しかったんですもの。仕方ないじゃない。タクトさん、会計をお願いします。」
「あぁ。えっと、チョコバナナクレープが1皿銅貨5枚なので、2皿で銀貨1枚だな。」
「銀貨1枚ね……えっと、はい。」
俺はクロエから銀貨1枚を受け取る。
「はい!ちょうど銀貨1枚、いただきます。」
「うふふ。タクトさんのお店は良いわね。甘い物を少し食べたかったのだけど、他の店だと今回の倍のお値段はしただろうから。こうして心臓に優しいお値段で提供してくれて、本当に助かるわ。」
「えぇ。いつもありがとうございます、タクトさん。」
「こちらこそ。気に入って、いつも食べに来てくれてありがとな。」
満足して笑顔で帰って行くソニアとクロエを見送り、3人が料理を食べ終えて残った食器の片づけを開始した。
◇◇◇
「うぅ……お腹の中で、ホットケーキとクレープの生地が膨れてきました。」
「食べ過ぎなのよ。」
満足そうにお腹を擦るソニアに対し、クロエが冷ややかに指摘する。
「仕方ありません。タクトさんが提供してくれるお料理が美味しいのが、いけないのです。」
「そこは認める。良いお店を紹介してくれてありがとね、ソニア。」
「うふふ。どういたしましてです。」
陸と海……環境は違うが、アリアータの町のために頑張る団体の長2人は笑顔で別れ、それぞれの仕事へと戻るのだった。




