第11話 広がり始めた噂
「ねえ、零くんって坂口日奈さんと付き合ってるって本当?」
昼休み、教室に入ってきた友人の声に、千秋は思わず顔を上げた。
「えっ……零が?」
「うん! ネットにも写真が出てるらしいよ。二人で歩いてるところを見た人がいるんだって」
友人はスマートフォンを見せてくれた。そこには、日奈と並んで歩く零の姿が写っていた。
千秋は画面をじっと見つめた。
記憶を失ってから、零は何度も病院に来てくれた。話を聞いてくれて、笑わせてくれて、帰り際には必ず「また来る」と言ってくれた。
だからこそ、千秋は零を特別な存在だと感じていた。
けれど、二人が恋人同士なのだとしたら、自分はどんな立場なのだろう。
「……そうなんだ」
千秋は何とか笑顔を作った。
「千秋、大丈夫?」
「うん! びっくりしただけ」
そう答えたものの、胸の奥には説明できない寂しさが広がっていた。
放課後、千秋は病院の窓から外を眺めていた。
零が来てくれるのを、いつも楽しみにしていた。でも、恋人ができたのなら、もう自分のところへ来る必要はないのかもしれない。
そのとき、病室の扉が開いた。
「千秋、来たよ」
いつもと変わらない声だった。
「……零」
千秋は顔を上げたが、すぐに視線を落とした。
「ねえ、零。坂口日奈さんと付き合ってるの?」
零の表情が一瞬だけ固まった。
「……どうして、それを?」
「みんなが話してたから」
千秋は笑おうとした。しかし、うまく笑えなかった。
「おめでとう、零」
その言葉を聞いた零は、何も答えられなかった。




