第12話 言えない本当のこと
「千秋、あれは……」
零は言いかけて、口を閉じた。
本当のことを話せば、千秋を困らせるかもしれない。けれど、何も説明しなければ、彼女を傷つけることになる。
「……日奈とは、いろいろ事情があるんだ」
結局、零は曖昧な言葉しか口にできなかった。
千秋は小さくうなずいた。
「そっか。事情があるんだね」
「千秋、誤解しないでほしい」
「ううん。大丈夫だよ」
千秋は笑顔を浮かべた。
「零には零の生活があるもん。私ばっかり頼ってちゃ駄目だよね」
その言葉に、零は胸を締めつけられた。
千秋は自分を責めているわけではない。ただ、零に迷惑をかけたくないと思っているのだ。
「俺は、迷惑だなんて思ってない」
「ありがとう。でも、これからは無理して来なくてもいいからね」
「……千秋」
「日奈さんとの時間も大切にしてあげて」
千秋はそう言って、窓の外へ視線を向けた。
零は何かを伝えようとした。しかし、契約のことを話すわけにもいかず、結局その日は短い会話だけで病室を後にした。
廊下を歩きながら、零は何度も振り返りそうになった。
本当は、千秋のそばにいたい。
日奈との交際は契約であり、心が動いたわけではない。それでも、事情を話せない以上、千秋に誤解されるのは避けられなかった。
一方、病室に残った千秋は、零が帰った扉を見つめていた。
「……なんで、こんなに寂しいんだろう」
記憶を失う前の自分が、零をどれほど大切に思っていたのか。
その答えは、まだ見つからなかった。




