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第40話 達也さんだったら

怜司の誕生日から八日が過ぎた金曜日


美月はその日も仕事を終えて会社を出た


大きく背伸びをする


「んー!」

「今週もやっと終わったね~」


美月はいつも通りに振る舞っていた


けれど、以前より服が少しゆるく見えるほど痩せていた


真帆が心配そうに美月を見る


「美月、大丈夫?」

「今日もお昼食べてないよね」

「お家ではちゃんと食べてるの?」


「うん、大丈夫よ」

「ちょっとダイエットしてるだけだって」


「何年美月の友達やってると思ってるのよ」

「怜司さんの誕生日、何かあったんでしょ?」

「無理しないでよ、相談してよ」


「なんか私も整理できてなくてさ」

「いつの間にか」

「振られてたみたい」


「振られ……」

「そうなの!?」


「うん」

「でも私、これでよかったと思ってる」

「私さ、前に怜司君の部屋で二人で食事したことがあるの」


「二人きりで?」


「その時にさ、急に押し倒されちゃって」


「は!?」


「嫌だって言ったら」

「止めてくれたんだけどね」

「私、なにも言わずに部屋を出ちゃってさ」

「それで」

「後から、誕生日をお祝いして仲直りしよう~」

「なんて考えちゃってさ」

「色々準備して……」

「行ってみたら……引っ越してた」


真帆が慌てて美月の背中に手を置いて覗き込む


「だからね、これでよかった~って」

「だってさ……」

「あの時、私が受け入れなかったからだよね」

「怜司君の傍にいたいなら」

「目を閉じて、なにも言わなければ良かったんだよ」

「でも、私……」

「そんなのいやだよ……」

「それなのに……」

「まだ怜司君がそんな人なわけないって思ってる」

「なんかそういう話のアニメを見て」

「真似してるのかなとか……」

「私って……ほんとバカだよね」


真帆が美月の頭を抱えるように抱きしめた


「そんなわけないでしょ!」

「嫌なことを嫌って言って」

「なんで美月が悪いのよ!?」

「もういいよ、言わせてごめんね」

「私の胸で好きなだけ泣きなさい」


美月は目を閉じる


少しの間、真帆に身を委ねた


「真帆、私ね、負けないよ」

「ママなら、きっと負けないもん」

「私も、ちゃんと一人で立てるんだから」


それから真帆から離れて


にこりと笑う


「ありがとね、真帆」

「大丈夫、もう涙も枯れ果てたわ~」

「おかげで全然アニメみれてないのよ」


「もう……」

「美月は可愛くないわね」

「だったらご飯食べて帰ろうよ、私が奢るからさ」

「そんなげっそりした顔して」

「大丈夫って言われても余計に心配よ」

「ご飯食べないなら」

「今日は私の家に美月をお持ち帰りするからね」


「あ~……」

「お持ち帰りってキーワード」

「なんか胸に来た~」

「今の私って割れ物なんだから」

「丁重に慰めて頂戴」


「減らず口だけは健在ね」

「ほら、行くよ!」


その時、ふいに美月を呼ぶ声がした


「美月さ~ん!」


達也が手を振りながらこちらに走ってくる


「達也さん?」


「この近くの物件を下見に来たんだよ」

「美月さんに会えるかな~なんて思ってたらよ」

「こんなところに立ってんだもん」


真帆が美月と達也の間にすっと立った


横目で達也をじろりと見る


「すけこましの友達でしょ」

「美月に近づくんじゃないわよ」


「え?」


「ちょっと真帆!」

「達也さんは違うって」

「すごい良い人なんだよ」


「ほ、ほんとに?」


「うん!」


真帆はまだ達也を警戒していた


「それで、なにかご用ですか?」

「美月は私と食事に行くんですけど」


「まじで!?」

「俺も腹ペコなんだよ」

「一緒に行こうよ!」

「真帆さんも一緒にさ」

「俺が奢るから」

「実は屋上で焼肉できる店があってよ」

「これからそこに行くつもりだったんだ」


真帆が間髪入れずに答える


「おことわりしま~す」

「他の女を誘いなさいよ」


美月が口をはさんだ


「ちょっと真帆!」

「達也さんは、本当にそんなんじゃないんだって」


美月は達也の前に歩み出た


そして深々と頭を下げた


「この前はごめんなさい!」


「え、ど……どうしたんだよ、美月さん」


「怜司君の誕生日プレゼントとか色々手伝って貰ったのに」

「私、怜司君がいないのにびっくりしちゃって」

「誘ったのは私なのに」

「達也さんほっぽりだして帰っちゃって」

「ほんとに、ごめんなさい」


達也はほっとしたように息をついた


「なんだ、そんなことかよ」

「全然いいよ、そんなの」

「それより、美月さんちょっと痩せてねえか?」

「ちゃんと食おうぜ!」

「食わなきゃ元気でないだろ」


「うん、食べるよ」

「でも、今日は真帆と――」


達也は第二王子のポーズを真似て、キリッと決め顔を作った


「美月さんには、俺がいるぜ」


美月は小さく笑う


「それ……イケメン罪」


すぐに達也は自分の頬を両手で押して変顔を作る


「いっひょにたへようぜ」


美月がその顔を見て笑う


前に感じたあたたかいものが胸に広がった


……私のこと……心配してくれてる……


……また、笑わせてくれた


「うん……」

「一緒に食べよう」


「よっしゃ!」

「すぐそこに車止めてあるからよ」

「行こうぜ! 帰りも送るよ」

「真帆さんの家ってどのへんなの?」


「え?」

「私の家は――」


その時、真帆は美月の顔を見た


あれ……


美月、ちょっと元気になってる……


にやっと真帆は笑った


バン!


それから達也の背中を


右手のひらで思い切り叩いた


「痛!」

「な、なにすんだよ!?」


真帆が右手をフラフラと振る


「今日は美月を譲ってあげる」

「ちゃんとご飯食べさせなさいよ」


そう言って真帆は歩き出す


「妬けるわね~」


美月の方を見て


『頑張れ』


と口だけ動かして立ち去ってしまった


なんか……


勘違いしてるわね


「真帆さん帰っちゃったぞ」

「俺、なんか気に障るようなことしたか?」


「なんか誤解したみたい」

「達也さんのせいじゃないわ」


「美月さんまで帰るとか言わないよな?」


「言わないわよ」

「私、お腹ペコペコなんだから」

「もう抵抗しないから」

「私のお腹を満たしてちょうだい」


達也は助手席の扉を開けて嬉しそうに笑う


その顔を見ると、張り詰めていたものが解けていくような気がした


達也さんといると……


なんだか安心する


この人なら……大丈夫って思える


なんか……


いいな……こういうの


やがて、車が走り出す


美月は隣で運転する達也の横顔を見る


どうして……


達也さんじゃなかったんだろう


達也さんだったら……


良かったのに





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