第38話 こんなの、許せねえ
怜司の誕生日当日の10月1日
仕事を終えた美月は、駆け足で会社を出た
真帆が遠くから
『頑張れ』
と口の動きだけで伝えてくれた
美月はガッツポーズを返して答えた
急いで帰宅すると
昨日のうちに飾りつけておいた部屋を確認する
掃除もした
ケーキも買ってある
お菓子の準備もぬかりない
少し自信はないけれど、頑張ってポトフも作った
プレゼントの手作り箸も綺麗に包装してある
一緒に見るためのアニメのブルーレイも用意した
きっと……
怜司君に喜んでもらえるよね
仲直り……できるよね
大丈夫……だよね
ピンポーン
美月の部屋の呼び鈴が鳴った
美月が扉を開けると、そこには達也が立っていた
「よ! 美月さん」
「ほんとに俺も一緒でいいのか?」
「うん」
「だって私の誕生日も3人だったじゃない」
「だから、3人でお祝いしたいんだ」
「分かったよ」
「俺としても、その方がやきもきしなくて済むしな」
二人で怜司の部屋の前にいく
美月は恐る恐る怜司の部屋の呼び鈴を押した
ピンポーン
達也は面白くなさそうに夜空を見上げていた
反応はなかった
もう一度美月は呼び鈴を押す
ピンポーン
やはり反応はない
そのとき、美月は気づいた
扉の横にあったはずの『御堂』の表札がなくなっている
嫌な予感がして
美月は恐る恐る扉のノブへ手を伸ばした
回してみると、ノブはあっさりと回った
「……え?」
美月はゆっくりと扉を開ける
部屋の中は、もぬけの殻だった
美月はその場に立ち尽くす
「あ……あれ?」
達也は美月の異変に気づき
怜司の部屋を覗き込む
「あのやろう……」
「どういうつもりだ」
呆然と空になった部屋を見つめる美月に達也は目を向ける
「美月……さん」
美月は目を見開いたまま
何も答えなかった
「美月さん……」
「大丈夫?」
美月の目には涙が浮かんでいた
空の部屋を見たまま
涙が溢れ、頬を伝って落ちていく
「美月さん……」
達也はどうしたらいいのか分からず
黙って美月の傍にいることしかできなかった
しばらくすると
美月が泣きながら
途切れ途切れに言った
「私の……せいだ……」
「嫌がっちゃ」
「駄目だったんだ……」
その声に達也が反応した
「違う!」
「美月さんは悪くない!」
「悪いわけがないだろ!」
「怜司のためにあんなに……」
「あんなによ……」
達也は自分を落ち着かせるように呼吸を整えた
「美月さん」
「怜司が引っ越したこと、俺も知らなくてさ」
「本当にごめんな」
「美月さんは悪くないんだよ」
「だからさ……泣くなよ」
「頼むから……泣かないでくれよ……」
達也は美月が落ち着くまで傍にいて
そっと部屋まで送り届けた
プレゼントの手作り箸は
達也が怜司に渡すと約束して預かった
美月の部屋の扉が閉まる
達也はしばらくその扉を見つめてから
自分の部屋へ戻った
扉を静かに閉めた途端
懸命に抑えてきたものがあふれ出す
握っていたドアノブがメキっと音を立てた
「こんなの……許せねえ」




