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第37話 箸は怜司、プリクラは俺

二人はそのまま渋谷方面へ歩いていく


途中


達也が何かを見つけて足を止めた


「美月さん、あそこで食べようぜ」


達也が指差した先にはマクドナルドがあった


「うん、私はいいけど」

「達也さんはまたマックでいいの?」


「いいって」

「俺、こういうので十分だぜ」

「美月さん頑固で割り勘を譲らねえし」


「へー」

「達也さんって意外と庶民的よね」


「美月さん、俺をなんだと思ってんの?」


「赤いポルシェに乗ってきそうな人」


「それ、俺じゃねえよ!」


二人はそれぞれ自分の分を払い、昼食を済ませた


店を出ると、再び渋谷方面へ歩き出す


休日の通りには若い人たちが溢れ


色鮮やかな看板が並んでいた


渋谷駅を越え、しばらく歩いたころ


美月が店先を眺めながら歩いていると


隣にいた達也が突然足を止めた


「あ」


「なに?」


足を止めて達也の視線の先を追うと


そこにはホテルの入口があった


ホテル?


達也の口元に


いたずらっぽい笑みが浮かぶ


「美月さん」

「やっぱご褒美、くれよ」


「な……なによ」


ご褒美って……


まさか……


美月の視線が、もう一度ホテルへ向く


身体がわずかに強張った


すると達也が、ホテルの隣を指差した


「これ!」


「え?」


美月が視線を向ける


その指の先には


派手な看板のプリクラ専門店があった


美月は目をぱちぱちさせる


「……プリクラ?」


「一緒に撮ろうぜ!」


「それがご褒美?」


「そう!」


「な~んだ」


「なんだってなんだよ」


「べ、別になんでもない」


「じゃあ撮ろうぜ!」


達也はすでに店へ入る気満々だった


「いいよ」


「よっしゃ!」


達也は子供みたいに喜び


そのまま店へ入っていった


美月も笑いながらその後を追った


やっぱり達也さんって


こういうところ


かわいいのよね


店内に並んだプリクラ機の中から一台を選び


二人は撮影ブースへ入った


狭い空間に並んで立つ


画面には明るい音楽とともに


次々とポーズの見本が表示された


「なんか久しぶり」


「美月さん、プリクラ撮るの?」


「学生の頃はね」

「真帆とよく撮ってた」


「じゃあ先輩じゃん」

「教えてくれよ」


「普通にカメラ見るだけよ」


カウントダウンが始まる



「美月さん!」


「なに?」


振り向いた瞬間、達也が美月の頭の横で両手を広げた


パシャッ


「ちょっと」

「なにそのポーズ」


「いいじゃん!」


「私、完全に変な顔してるじゃない」


次のカウントダウンが始まる


「今度はちゃんとしてよ」


「分かった分かった」



ふいに、すぐ隣から距離が詰まる気配を感じた


「ん?」


振り向くと、達也の顔がすぐ目の前にあった


「近い!」


パシャッ


「達也さん!」

「だめでしょ!」


「いい写真じゃん!」


「私がびっくりしてるでしょ!」


「それが美月さんらしくていいんだよ」


「もう!」


何枚か撮影したあと、最後の一枚になった


画面にカウントダウンが表示される


「最後だぜ」


「今度こそ普通に撮るからね」


「おう」


二人は並んでカメラを見る



美月が笑った


達也も笑った


今度は何もふざけなかった


パシャッ


「これが一番いいね」


「だな」


撮影を終え、二人は撮影ブースを出た


しばらくすると


撮った写真が小さなシールになって出てくる


美月はそれを手に取った


「最近のプリクラってすごいわね」

「私、別人みたい」


「美月さんは元からかわいいって」


「はいはい」

「ありがとね~」


「流すなよ」


二人でシートを分ける


美月が自分の分を財布へしまおうとすると


隣で達也が一枚を剥がしていた


「達也さん、それどうするの?」


「ん?」


達也はポケットからスマートフォンを取り出した


そして迷うことなく、その背面へプリクラを貼った


美月の動きが止まる


「……え?」


「よし」


達也は満足そうにスマートフォンを眺める


貼ったのは、最後に二人で普通に笑って撮った写真だった


「ちょっと待って」

「そこに貼るの?」


「おう」


「携帯に?」


「毎日見るし」


「いやいやいや!」

「恥ずかしくないの?」


「なんで?」


達也は本気で分からないという顔をした


「だって男女二人のプリクラよ?」

「彼女みたいじゃない」


「いいじゃん」

「俺はそう見られても嫌じゃねえけど」

「美月さんは、俺が彼氏みたいだと嫌なの?」


「え……別に嫌じゃないけど」


「だったらいいじゃん」


あまりにもあっさり返され、美月は言葉に詰まった


達也はもう一度スマートフォンを見る


背面に貼られたプリクラには


美月と達也が並んで笑っている


「俺さ」

「こういうの、初めてだからよ」


達也は少し照れたように笑った


「普通に嬉しい」


美月は思わず視線を逸らした


そんな顔されたら


なにも言えないじゃない……


「剥がせって言われても剥がさねえからな」


「何も言ってないでしょ」


「言いそうな顔してた」


「だって……」


美月は達也のスマートフォンをもう一度見る


二人で笑っている、小さな写真


なぜか胸の奥が少しくすぐったくなった


「……好きにすれば」


「いいの?」


「達也さんの携帯なんだから」


「よっしゃ!」


「そんなに喜ぶこと?」


「喜ぶだろ」

「公認ってことなんだから」


達也はスマートフォンを大事そうにポケットへしまった


「今日の戦利品だからな」


「戦利品って……」


「箸は怜司」

「プリクラは俺」


達也は自分のポケットを軽く叩いた


美月は一瞬、言葉を失った


それから少しだけ頬を膨らませる


「なんか、うまいこと言ったみたいな顔しないでよ」


「うまいこと言っただろ?」


「言ってないから」


達也は楽しそうに笑いながら歩き出した


美月もその後を追う


少し歩くと


達也は美月がついてきているか確認するように


さりげなく振り返った


そういえば今日


何度もこうして振り返ってくれていた


美月は一日のことを思い返す


ずっと、私のこと気遣ってくれてたんだ……


美月の胸の奥で


あたたかいものが広がる


美月は少し前を歩く達也の背中を見つめた


すると、ふいにまた達也が振り返った


「美月さん」


「な、なに!」


「今日こそ俺の株上がった?」


「え?」


美月は瞬きしてからくすりと笑った


「うん」

「かなり上がったかも」

「今日、楽しかったよ」


達也も嬉しそうに笑う


「俺も」

「美月さんと一緒にいると、すげえ楽しい」

「なんかさ」

「美月さんとずっと一緒にいれたら」

「きっとめっちゃ楽しいよな」


そして、少し照れたように笑う


「俺さ」

「美月さんがおばあちゃんになって」

「俺がおじいちゃんになっても」

「同じように笑える気がしてるんだよ」


「え……?」


美月は足を止めた


おばあちゃんになっても……


そんな先まで……私と?


胸の奥にあるあたたかいものが


また広がった


嬉しい……


でも……


美月は少し俯く


「私……」

「そんなにいいものじゃないよ」


そう言う美月に


達也は少し眉を寄せて顔を覗き込んだ


「それを決めるのは、俺様のほうだぞ」


「俺様ってなによ」


「俺様は俺様だ」

「そこについては、とやかく言われる筋合いねえよ」

「たとえ、美月さんでもな」


「な……なによそれ……」


達也は自分の頬を両手で押さえた


「いへめんひゃひ~」


美月が笑い出す


「やめてよそれ!」

「私のツボなのよね」


「美月さんは、笑ってるのが一番いい」

「俺、その顔をずっと見てたいんだよな」


達也の言葉が


美月の中へゆっくりと染みていく


あたたかいものが


また少しだけ膨らんだ


今日一日のことが頭に浮かぶ


何度、笑わせてもらったか分からない


そして、また自然に笑みがこぼれた


「ありがとう、達也」


達也が目を見開いて美月を見る


「ああ!」

「呼び捨てにした!」


「気のせいよ」


「いや、いま呼び捨てにしたじゃん!」

「だったらもう『さん』とかやめようぜ!」


「気のせいだって言ったでしょう~」

「達也さ~ん」


さっき達也がスマートフォンへ貼った写真が


美月の頭から離れなかった





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