第30話 怜司君の部屋で、二人きり!?
翌日
美月は仕事を終えて
駅前のスーパーへ立ち寄ってから家へ帰った
今日は久しぶりに自炊をするつもりだった
昨日、怜司からもらった肉じゃががある
ご飯を炊いて、味噌汁でも作れば十分だ
美月は買ってきた食材を冷蔵庫へ入れ
キッチンに立った
鍋に水を入れ
豆腐とわかめを準備する
「肉じゃがに味噌汁」
「完璧じゃない?」
あとはご飯を炊けばいい
美月が味噌汁の鍋へ顆粒だしを入れたところで
ピンポーン
「はーい」
火を弱め、美月は玄関へ向かう
扉を開けると、また胸が鳴った
「美月」
「れ、怜司君」
黒いシャツに黒いパンツを合わせた怜司が
昨日と同じように立っていた
……怜司君って、黒い服が好きよね
「どうしたの?」
「昨日借りたDVDだが」
「すべて見た」
「え!?」
美月は目を見開いた
「もう!?」
「ああ」
「全部!?」
「ああ」
「寝た?」
「寝た」
「ならいいけど……」
相変わらず、こういうことには行動が早い
美月は少し緊張しながら怜司をうかがう
「ど、どうだった?」
「面白かった」
「ほんと?」
「ああ」
怜司は少し考える
「お互いに、相手から告白させたい二人が」
「相手の言葉や行動を勝手に解釈して」
「何度もすれ違うところが面白かった」
美月は少し目を丸くした
「怜司君……」
「そういう面白さ、分かるんだ」
「俺をなんだと思っている」
「いや、もっと全部を経営判断みたいに分析するかと……」
「分析もした」
「だがそれだけでは美月の心は分からないと学習した」
「やっぱり分析はしたんだ」
美月は少し笑ってから、怜司を見る
「今日は『合理的ではない』とか言わないの?」
「伝えられないのには、理由がある」
「怖いものは、怖いのだろう」
怜司は気にする様子もなく続ける
「それと、美月」
「なに?」
「一つリクエストがある」
「リクエスト?」
怜司は美月を見る
「王子ではない男性キャラクターで」
「美月が好きな人物はいないのか?」
「え?」
美月は少し考える
「普通にたくさんいるよ」
怜司の目がわずかに見開かれた
「……そうなのか?」
「うん」
「そりゃいるでしょ」
怜司は少し黙った
「教えてくれないか?」
「いいけど」
「映像作品があるなら」
「それも貸してほしい」
「別にいいよ」
「何本かあるし」
そのとき
キッチンの方から、ぶくぶくと音がした
「あ」
美月は慌てて振り返る
鍋の中のだし汁が、ぐらぐらと煮立っていた
「ちょっと待って!」
美月は急いでキッチンへ戻り
コンロの火を止める
「危なかった~……」
怜司が玄関からキッチンを見る
「美月も料理をするのか?」
美月は振り返った
「うん」
「少しはね」
「そうなのか」
「ほら」
「昨日、怜司君に肉じゃがもらったじゃない?」
「ああ」
「だから今日は」
「ご飯とお味噌汁だけ作って」
「肉じゃがと一緒に食べようと思ってたの」
怜司は少し考えた
「おかずは肉じゃがだけなのか?」
「うん」
「そうだけど」
「美月」
「なに?」
「俺は料理が好きなんだ」
「え?」
「いつも作りすぎてしまう」
美月は怜司を見る
「料理……好きなの?」
「ああ」
「怜司君が?」
「ああ」
「へえ……」
また知らないことが出てきた
怜司君
料理が好きなんだ……
怜司は続ける
「今日はロールキャベツを作ってある」
「ロールキャベツ!?」
「ああ」
「それ自分で作ったの?」
「そうだ」
すご……
肉じゃがだけでも驚いたのに
ロールキャベツまで作るんだ
「よかったら」
「一緒に夕食を食べてくれないか?」
「え?」
「おかずが増える」
「二人で食べた方が、きっとおいしい」
美月の心臓が一度大きく鳴った
一緒に夕食
しかも
怜司君の部屋で?
怜司がキッチンを見る
「ご飯はもう炊いてしまったか?」
「ううん」
「これからだったけど」
「なら俺の部屋にパンがある」
「そ、そうなんだ」
怜司が少しだけ間を置いた
「それから……」
「美月の味噌汁を、俺は飲みたい」
「え……」
美月はコンロの上にある鍋を見る
まだ完成すらしていない
「だめだろうか?」
「い、いいけど……」
美月は味噌汁を見る
「大したものじゃないよ?」
「それに、まだ出来てないし」
怜司は少しだけ目を細めた
「俺は部屋へ戻って準備をしておく」
「う、うん」
「味噌汁が出来たら来てくれ」
「分かった」
怜司が扉を閉めようとする
だが
一度だけ手を止めた
「美月」
「なに?」
「美月が困るようなことは」
「誓ってしない」
「え?」
「俺は王子だ」
「安心して来てほしい」
美月は一瞬固まった
「う……うん」
怜司は一度だけ頷くと、扉を閉めた
美月は目をぱちぱちさせながら、閉じた扉を見る
「あれ?」
そこでようやく
自分が何を約束したのか理解した
「なんか私……」
「怜司君の部屋で」
「二人きりでご飯食べることになってない?」
一拍遅れて
美月の顔が赤くなった
「なにこのイベント!」
美月は頭を抱えた
鍋の中の作りかけの味噌汁を見る
「……ていうか」
「こんな顆粒だしに味噌を入れただけの味噌汁」
「怜司君に飲ませていいの!?」
肉じゃがだけでなく
ロールキャベツまで作る男
そんな男に……私の味噌汁?
美月はしばらく鍋を見つめた
「怖!」
少し前なら、きっと何か理由をつけて断っていた
でも……
「ビビっちゃ駄目よ……」
美月は自分へ言い聞かせる
私はもう沼ってるんだから
今さら逃げたところで……
同じだ!
「最後はきっと」
「取り返しつかないくらいに傷つくのよ」
「もう私は助からない……」
自分で言ってて悲しくなってくる
でも今はまだ
どこかに希望みたいなものが残っている
ひょっとしたら……
女の子として、好きになってもらえるかも……
だって
結婚したいって言ってくれてるんだから
少なくとも
嫌われてはいないはず
だから……
「ちゃんと怜司君のことを知りたい」
美月は味噌汁へ目を戻した
「よし……」
そして、覚悟を決めるように
もう一度火をつけた




