第27話 友達……だろ
「美月さん?」
「な、なに?」
「俺の顔見て固まってるけど」
「見てない!」
「見てただろ」
「うるさいわね」
「ポテト食べてなさい!」
「じゃあ、美月さんも俺のポテト食べてよ」
「なんでよ!?」
「自分のを食べるわよ」
そんなふうに軽口を交わしながら
二人は少し遅い昼食を済ませた
食事を終えて店を出たあとも
二人は特に行き先を決めることなく
目についた店を覗いて回った
気がつけば
辺りはすっかり暗くなっていた
それから
二人は達也の車でアパートへ戻った
美月は二つのぬいぐるみを抱えたまま
バッグから鍵を取り出した
「達也さん、お願いしていい?」
「おう」
達也は鍵を受け取り、美月の代わりに扉を開ける
「すげえ楽しかった!」
「美月さんも楽しかった?」
「楽しかったよ」
「よっしゃ!」
屈託のない笑顔を美月に向けてくる
それを見て美月も笑った
「あの……達也さん」
「なに?」
「今日は本当にありがとう」
「ぬいぐるみ取ってくれて、嬉しかった」
「いいって」
「俺の株、ストップ高になった?」
「なによそれ」
「からかわれたからね」
「プラスマイナスでゼロよ」
美月はくすりと笑って少しだけ俯いた
「それから……さっきのこと」
「まだ怒ってる?」
「悪かったって」
「もちろん、怒ってるわよ」
「もてあそばないでよね」
「達也さんもイケメンなんだから」
「女の子にああいうことしちゃ……駄目だよ」
美月は第一王子と第二王子を抱え直した
「でも、達也さんだったら」
「きっとちゃんと気持ちを伝えてくれるんだろうな」
「楽しいとか」
「嬉しいとか」
「思ったことを、言葉にしてくれるもんね」
達也は不思議そうな顔をして美月を見る
「普通のことじゃねえか?」
「普通……なのかな?」
美月は腕の中の第一王子を見る
「怜司君は……言ってくれない」
「怜司?」
美月は第一王子を見つめたまま続ける
「結婚してくれって言うのに」
「好きだって、一度も言われたことがないの」
「だからね、冗談だって分かってるけど」
「イケメン罪って怒ってるけど……」
美月は少しだけ笑った
「ああやって、気持ちが伝わるようなことを言ってくれたの」
「嬉しかった」
それから、ゆっくり顔を上げる
「私ね……怜司君に、ちゃんと好きだって言ってもらいたいの」
「言ってくれないから、自分を抑えて、嘘ついて、待ってるの」
「怖くて……自分の気持ちに素直になれないの」
「もうとっくに沼に入って、動けなくなって」
「自分でも、どうしたらいいのか分からないのよ」
二人の間に
短い沈黙が落ちた
「達也さんって話しやすいから……」
「愚痴っちゃったね」
「ごめん」
達也はしばらく何も言わなかった
やがて
美月の頬を伝う涙に気づき
達也は眉を寄せた
「泣くなよ……」
「え……」
達也はポケットからハンカチを取り出した
美月はそのハンカチに見覚えがあった
以前、達也に貸したものだった
達也は美月の腕の中にある二つのぬいぐるみを見る
「手、ふさがってんだろ」
そう言って
その涙を、そっとハンカチで拭った
美月は目をぱちぱちさせる
ハンカチに涙が滲んでいた
「……泣いてたんだ、私」
「ごめん」
「なんか……自分でも分からなくなっちゃった」
「こんなこと言われたら、達也さん困るよね」
「謝んなよ……」
「美月さんが泣いてるところなんか、見たくねえよ」
「……うん」
「俺で良ければ、いつだって話聞いてやるよ」
「笑わせてやるし、人形だって取ってやる」
「だからさ……泣くなよ」
「うん……」
「でも、イケメン罪は禁止だよ」
「分かってるって」
「俺達って、気が合うと思わねえか?」
「思うよ」
「だから、つい甘えちゃった」
「いいじゃん、それくらい」
「俺は望むところだぜ」
「友達……だろ」
「うん……ありがと」
美月は部屋へ入る
扉を閉める前に振り返り
二つのぬいぐるみを抱えたまま
少しだけ笑った
「おやすみ、達也さん」
「おう」
「おやすみ」
扉が静かに閉まった
達也は涙で湿ったハンカチへ目を落とし
軽く畳んでポケットへ戻した
一人になった達也はため息をついて星空を見上げる
さっきの美月の涙が頭に浮かぶ
あんな顔をさせたくない
そう思えば思うほど、胸の奥が苦しくなった
「美月さんを泣かせるやつは……」
「ちょっと……許せねえな」




