第26話 男としても推せそう?
達也の動きがぴたりと止まった
驚いたように目を見開き
それから、嬉しさを隠しきれないように口元が緩む
「今なんつった?」
「達也さん推せるって」
美月は何でもないことのように答える
「なんか達也さんって、接しやすいのよね」
「あの子もすぐ懐いてたし」
「初対面なのに、途中から完全に友達みたいになってたじゃない」
「そういうの、すごいと思うわ~」
達也は黙って美月を見る
「……俺のこと」
「推せるって言った?」
「言ったじゃない」
「ふーん」
達也が一歩近づいた
「なによ」
美月はその分だけ後ろへ下がる
達也がもう一歩近づく
「ちょっと……」
美月も逃げるように、また一歩下がった
その背中が建物の壁に触れた
「……達也さん?」
達也は美月の顔の横の壁へ手をついた
「え?」
近い
さっきまで男の子を肩車して笑っていた顔が
すぐ目の前にある
「ちょっと待って」
美月の両腕は、第一王子と第二王子のぬいぐるみでふさがっている
なんなのこの状況!?
達也が少しだけ顔を近づける
「じゃあさ」
「な、なによ……」
「ゆうとは、俺に懐いてたんだろ?」
達也が少しだけ意地悪そうに笑う
「じゃ、美月さんは?」
「……私?」
達也の笑みが消えた
「美月さんも、俺に懐いてくれてる?」
「は!?」
美月の顔が一気に熱くなる
「私は子供じゃないんだけど!」
「知ってるよ」
「だから聞いてんだよ」
美月の心臓が跳ねた
え?
ちょっと待って
いつもの笑ってる達也さんじゃない
真剣な目で、まっすぐ私を見てる
……なによ、その顔
普通にかっこいいんですけど――
達也は美月の目を見たまま続ける
「俺のこと」
「男としても、推せそう?」
美月の頭が真っ白になる
……どういう意味?
近い
近いって!
さっきまで可愛いと思ってたのに!
なに急に男出してくるのよ!
「俺、とっくに美月さんに懐いてるんだけど」
美月は何か言い返そうとした
けれど
何も言葉が出てこなかった
第一王子と第二王子を抱く腕に
無意識に力が入る
冗談だと笑い飛ばせばいい
いつもの達也なら
そうできるはずなのに
真剣な目を向けられたまま
どうしても視線を逸らせなかった
達也はそんな美月をしばらく見つめていた
やがて
ふっといつもの笑顔へ戻る
「ま、少しは男に見えたみたいだな」
「俺ってかっこいいだろ」
「惚れてもいいぜ~」
壁から手を離す
「行こうぜ」
「パスタ食うんだろ?」
達也は何事もなかったように歩き出そうとする
美月は第一王子と第二王子を抱えたまま
その背中を呆然と見つめた
自分の胸は
まだうるさいくらいに鳴っている
それなのに
達也はもう、いつもの調子に戻っていた
さっきの真剣な顔は
どこにも残っていない
やがて
頬がぴくりと引きつる
もしかして……
私が慌てるのを見て
楽しんでただけ?
……からかわれた!?
美月は達也を睨んだ
これは……
許せないわ!
「美月さん? どうした?」
「達也さん、これ持って」
美月は二つのぬいぐるみを達也に差し出す
「え? ああ、いいけどよ」
達也は二つのぬいぐるみを
両脇に一つずつ抱えた
その隙を逃さず、美月は達也の頬を両手で挟んだ
「イケメン罪の現行犯よ!」
「変顔の刑に処すわ!」
「こんな凶器を振り回さないでちょうだい!」
「いひゃいって、美月ひゃん!」
美月はふんっと達也の頬から手を離した
「反省してよね」
「こういうことはやめて」
達也はすぐにきりっとしたキメ顔をして美月を見つめる
「俺のこと、男として意識したってことでいい?」
「追加刑!」
美月は再び達也の頬を両手で押し潰した
「いひゃい! いひゃい!」
「そういうことするなら、帰るからね!」
「私をからかわないでよ」
達也は両手で美月の腕を掴み、自分の顔から離した
達也の表情から、またふっと笑みが消えた
「俺は……本気だぜ」
「連続イケメン罪!!」
美月は達也の頬を両手で押し潰した
「美月ひゃん! いひゃい!」
「もうひない、もうひない」
美月はようやく達也の頬から手を離した
「本当に?」
「本当だって」
達也は赤くなった頬をさする
「ったく、容赦ねえな……」
「自業自得よ」
達也は自分の顔を
第二王子のぬいぐるみで隠した
「ちぇ……」
「美月さんだって、人のこと言えねえくせに」
達也の声はぬいぐるみにこもり
美月にはよく聞き取れなかった
「え?」
「なんて言ったの?」
達也はそのまま
わざとらしく話を逸らした
「慌てる美月さんって可愛いよな!」
「達也さん!!」
「また!?」
「待て待て!」
「冗談だって!」
「もう変顔の刑は勘弁してくれ!」
「悪かったって」
「もうしないから」
達也は笑いながら、二つのぬいぐるみを美月へ返した
美月は第一王子と第二王子を受け取り
そのまま胸へぎゅっと抱きしめた
なんなのよ……
気楽に遊びに来ただけだったはずなのに
胸の鼓動は
まだ落ち着いてくれなかった
「美月さん」
「なによ」
「パスタ、どうする?」
美月は少し考えた
「……もういい」
「え?」
「なんかもう、落ち着いてレストランでご飯食べる気分じゃない」
「俺のせい?」
「他に誰がいるのよ!?」
「じゃあ帰るか?」
「お腹は空いてる」
「どっちだよ」
「もっと気楽なところがいい」
達也が辺りを見回す
「じゃ、マックでいい?」
「いい」
「即答だな」
「今の私にはちょうどいいわ」
結局
二人は近くのマクドナルドへ入った
美月の前には第一王子
その隣には第二王子
二つの大きなぬいぐるみを壁際の席へ並べる
達也がトレーを置きながら、その光景を見た
「なんか俺たち、四人で飯食ってるみたいだな」
「いいじゃない」
「賑やかで」
「第一王子、俺の席見てねえ?」
「気のせいよ」
「こいつ絶対俺のこと睨んでるよな」
「殴られたらどうしよう」
「殴られるようなことするからよ」
美月はポテトを一本つまむ
ようやく少しだけ気持ちが落ち着いてきた
達也が美月のトレーへ手を伸ばす
「あ!」
美月のポテトを一本取って口に入れた
「なに人のポテト取ってんのよ!」
「一本くらいいいだろ」
「自分のがあるじゃない!」
「人の方がうまそうに見えるんだよ」
「子供か!?」
達也はおどけるように笑った
美月も思わず笑い返す
……やっぱり
こうしてると気楽なのよね
さっきまでのことが嘘みたい
美月は向かいに座る達也を見る
ポテトを食べながら、いつものように笑っている
でも――
『俺は……本気だぜ』
その言葉だけが
どうしても頭から離れてくれなかった




