第25話 私、達也さん推せるわ!
達也が自分の財布からお金を出して
すぐ隣のクレーンゲームにコインを入れた
「え、ちょっと達也さん?」
先ほどと同じように、少しずつ人形を移動させていく
そして第二王子が景品口へ落ちると、達也はそれを取り出した
美月が抱えていた第一王子をひょいと取り上げ
代わりに第二王子を押しつける
「俺の名前を言う時はこっちな!」
「好きなだけ抱きしめていいぜ」
「え?」
美月は腕の中の第二王子をまじまじと見る
「いや……なによそれ」
「そんなことしたら私が変態みたいじゃない」
「なんでだよ」
「俺に似てんだろ?」
「似てるけど……」
「これは第二王子だから!」
「達也さんじゃないからね」
「変なこと言わないで」
「想像しちゃうでしょ」
達也が笑う
「悪い悪い」
「ほら、飯でも食おうぜ」
「美月さんてさ、何が好きなの?」
「え? そうねえ」
「なんでも食べるけど……」
「今日は……パスタとか?」
「達也さんは?」
「俺も、パスタ」
達也がスマホで近くの店を探し、二人で歩き出す
美月の腕の中には、第一王子と第二王子が並んでいた
「美月さん、それ持ってるの大変じゃねえか?」
「うん、重い……」
「重いのかよ!?」
「だって、二つとも大きいんだもん」
「じゃあ一個持つよ」
達也が第一王子へ手を伸ばす
美月は反射的に身体をひねって避けた
「これは私が持つの!」
「いや、無理するなよ」
「1個持つって」
また達也が第一王子へ手を伸ばす
また美月は体をひねってかわした
「せっかく取ってもらったんだから、私が持つの!」
「なんだよそれ……」
「重いんじゃないのか?」
達也は第一王子から、美月の腕の中の第二王子へ視線を移した
少しだけ不安そうな顔をして
今度は第二王子へ、おそるおそる手を伸ばした
それも美月は体をひねってかわした
「もう、いいってば!」
「私が持つから!」
美月が達也を見る
なぜか、ものすごく嬉しそうに笑っていた
「って、どうしたの?」
「いや」
「俺の方も、そんな大事そうに持ってくれるんだなって」
「え?」
美月は腕の中の第二王子を見る
「だって、達也さんが取ってくれたんだから」
「そりゃ大事にするわよ」
「それに2推しだって教えたでしょ」
「そっか」
達也はさらに嬉しそうに笑った
そんな達也の顔を見て美月は思った
……なによ、その顔
さっきはちょっとかっこいいと思ったのに
やっぱり可愛い系ね
安心する~、癒されるわ~
「ほら、飯行こうぜ」
「うん」
美月は第一王子と第二王子を抱え直し、達也の隣へ並んだ
二人でレストランへ向かって歩き出す
休日の秋葉原は人が多い
大通りには観光客や買い物客が行き交い
店頭から流れる音楽や呼び込みの声があちこちから聞こえていた
その途中
「うぇぇぇん……」
美月の足が止まった
「ん?」
達也も振り返る
道の端に、小さな男の子が一人立っていた
七歳くらいだろうか
大きなリュックを背負い
両手で目を擦りながら泣いている
美月は二つのぬいぐるみを抱えたまま、男の子の前まで急いだ
「どうしたの?」
「お母さんは?」
男の子はしゃくり上げながら首を振る
「ママ……いなくなった……」
「迷子か」
後ろから来た達也が男の子の前にしゃがみ込んだ
男の子はますます涙を流す
「ママぁ……」
達也がその顔をじっと見る
「おい」
「男だったら、そんなに泣くなよ」
「かっこわりいだろ」
「ちょっと達也さん!」
「こんな小さい子が不安で泣くのは仕方がないでしょ」
「泣いてても母ちゃん見つからねえだろ」
「言い方ってものがあるのよ」
美月が男の子を見る
「大丈夫だからね」
「一緒にお母さん探そうね」
しかし男の子は達也を見ていた
「……ぼく、かっこわるい?」
「今はな」
「達也さん!」
男の子が袖で涙を拭った
「……泣かない」
「え?」
「ぼく、泣かないもん」
唇をぎゅっと結ぶ
それでも目には涙が溜まっている
必死にこらえているのが一目で分かった
達也はしばらく男の子を見る
そして
にっと笑った
「お! やるじゃん」
大きな手で男の子の頭をくしゃくしゃに撫でる
「よし!」
「じゃあ、母ちゃん探しに行くぞ」
「うん!」
「名前は?」
「ゆうと」
「よし、ゆうと」
「俺に乗れ」
「え?」
「肩車だよ」
「高いところから探した方が見つけやすいだろ」
達也は男の子を軽々と持ち上げ、自分の肩へ乗せた
男の子の顔が明るくなる
「高い! たのしい!」
「どうだ?」
「母ちゃん見えるか?」
「見えない!」
「でも楽しい!」
「楽しんでないで、母ちゃん探せよ」
「達也さん……」
美月は二人を見上げた
さっきまで泣いていた男の子が
もう笑っている
達也はそのまま人混みへ向かって歩き始める
そして大きく息を吸った
「ゆうとの母ちゃーーーーん!」
大きな声に美月がびくっとする
「ゆうとはここにいるぞーーー!」
「達也さん……」
「行動力すごい……」
通行人が一斉に振り返る
達也はゆうとを肩に乗せたまま、人混みの中を歩き出した
すると
男の子が達也の頭をぺしぺし叩く
「お兄ちゃん」
「なんだよ」
「そっちじゃないよ」
「もっとあっち」
「なんでだよ」
「ママ、あっちにいたもん」
「そういうことは先に言えよ」
「だって聞かなかったじゃん」
「お前、目的を見失ってねえか?」
美月は思わず吹き出した
「ふふっ」
美月がゆうとに声をかける
「よかったね~、ゆうと君」
「お兄ちゃんに肩車してもらって、羨ましいな~」
「ゆうとの母ちゃん見つけたら」
「次は美月さん肩車してやるよ」
「私はいらないわよ!」
「遠慮なんかしなくていいんだぜ」
「遠慮とかじゃないから!」
「普通分かるでしょ!」
三人は人混みの中を歩きながら、ゆうとの母親を探して回った
達也は時折立ち止まり
「ゆうとの母ちゃーーん!」
と大声で呼びかける
美月も周囲へ目を配るが、なかなか見つからない
しばらくすると
達也が自動販売機の前で足を止めた
「ちょっと休憩するか」
「お兄ちゃん、喉乾いた!」
「だろうな」
「俺も叫びすぎて喉乾いたわ」
達也は肩車したまま自動販売機を見る
「ゆうと、どれがいい?」
男の子も達也の頭の上から自動販売機を眺める
「ジュースないの?」
「あるだろ」
「これとか」
「それ炭酸じゃん」
「炭酸嫌いなのか?」
「飲めないんだよね」
「じゃあお茶」
「カフェイン飲んだら、夜眠れなくなるんだよね」
達也が黙った
美月はそのやり取りを見て口元を押さえる
達也がじろりと美月を見る
「……なんだよ」
「別に」
「笑ってんだろ」
「笑ってないわよ」
達也は再び自動販売機を見る
「じゃあスポーツドリンク」
「今日あんまり運動してないし」
「関係ねえよ」
「でもママが――」
「色々うるせえな、ゆうとは」
「だって~」
「もう水でいいだろ!」
「水! 水なら万能だ」
「うん」
「水ならいいよ」
「最初から水って言えよ」
「ゆうとが飲めるの、他にないじゃねえか」
美月はとうとう声を上げて笑った
「達也さん、完全に友達じゃん」
「誰がだよ」
「お兄ちゃん」
「なんだよ」
「水まだ?」
「分かってるよ!」
達也は水を二本買う
ゆうとの足を支えたままゆっくりとしゃがみ
自動販売機の取り出し口から二本の水を取り出した
「お兄ちゃん、落とさないでよ」
「ゆうとが暴れなきゃ落ちねえよ」
達也はそのまま立ち上がると、一本を開けて自分で飲む
そしてもう一本をゆうとへ差し出した
「ほら」
男の子が達也の頭の上から手を伸ばす
「届かない」
「知らねえよ」
「一回降りろ」
「やだ」
「ここがいい」
「お前なあ」
そのとき
「ゆうと!」
女性の声が響いた
男の子が勢いよく振り向く
「あ!」
少し離れた場所から、一人の女性が走ってくる
「ママ!」
達也が男の子を肩から降ろすと
ゆうとはそのまま女性へ駆けていった
「ゆうと!」
女性がゆうとを強く抱きしめる
「どこ行ってたの!」
「心配したんだから!」
「ごめんなさい……」
また泣きそうになったゆうとが、ちらりと達也を見る
達也がにやりと笑顔を返した
男の子はぐっと涙をこらえる
「僕、泣いてないよ! お兄ちゃん」
「いいね」
「かっこいいじゃん」
「これはご褒美だ、飲めよ」
達也はゆうとに笑いかけて水を渡した
ゆうとは嬉しそうに笑って受け取る
女性は達也と美月へ何度も頭を下げた
「本当にありがとうございました」
「いや、俺ら何もしてねえっすよ」
十分してるでしょ
美月が声に出さずに横から突っ込む
男の子が母親の手を握りながら振り返った
「お兄ちゃん!」
「ん?」
「ありがとう!」
「おう」
「もう迷子になるなよ」
「あと泣くなよ」
「うん!」
男の子と母親が人混みの中へ消えていく
美月はその背中を見送った
そして隣の達也を見る
「達也さん」
「ん?」
「偉いじゃん」
「は?」
「すごくいい人よね」
「私、見直しちゃった~」
「急になんだよ」
「だって、あんなに泣いてた子が最後には笑ってたじゃない」
美月は楽しそうに笑った
「私、達也さん推せるわ!」




