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第24話 達也先生、お願いします!

翌朝


美月は自分の部屋で、頭を抱えていた


ベッドの上には、クローゼットから引っ張り出した服が何着も並んでいる


「昨日は変なテンションで約束しちゃったけど」

「達也さんと二人きりでお出かけって……」

「こんなイベント……私には処理できないわ」


「いったい……」

「何を着て行けばいいの……」


美月は両手に一着ずつ服を持ち、鏡の前に立った


「こっちかな……」


右手のブラウスを身体へ当てる


「いや、こっち?」


今度は左手のニットを当てて、首を傾げた


「……いやいや!」

「なんで私こんな悩んでるのよ」

「ただ遊びに行くだけでしょ」

「デートってわけじゃないんだから」


少し間があってから美月は肩の力を抜いた


「それに相手は達也さんだし」


ふと


出会った時の達也の言葉が頭に浮かんだ


『怜司! どこに好きになる要素があんだよ!?』


思い出すと少し腹が立つ


「私のことを女として意識してるわけないわ」

「せいぜい、話しやすい相手ってところでしょ」

「友達なんだから」

「心配するだけバカみたいよ」


美月はそう自分に言い聞かせ


ようやく服を決めた


いつもより少しだけ丈の短いジャケット


その下には淡い色のニット


スカートにするか迷った末、結局いつものようにパンツを選んだ


「これなら普通」

「うん、普通の私よ」


鏡の前で一度だけ髪を整える


「……別に気合いなんて入ってないからね」

「……礼儀的なあれよ」


誰に言い訳しているのか分からないまま、美月はバッグを持って部屋を出た


すると、すでに達也が外で待っていた


「お、やっと来た」


「達也さん?」

「まだ早くない? 待ってたの?」


待ち合わせまでは、まだ十分以上ある


「美月さん待たせるよりいいだろ」


そう言って笑う達也を見て、美月は少しだけ目を見開いた


ベージュのパーカーに、ゆったりした茶色のジャケット


下は細身の黒いパンツ


肩の力が抜けたラフな格好がよく似合っている


昨夜のもこもこした部屋着とは、また全然違う


かといって、気合いを入れすぎている感じもしない


……なんか、普通におしゃれなんですけど


「どうした?」


「達也さんって、いい感じに裏切ってくるわね」


「は?」


「もっとヤンチャっぽい格好で来ると思ってたのに」

「さすが私が見込んだキャラクターだわ」


「いや、俺、人間だぞ……」


達也は笑って、美月を上から下まで見る


「美月さんも、その服似合ってるよ」

「いつもより、ちょっとだけ気合い入れてくれてねえか?」

「めっちゃ嬉しいんですけど」


「なに言ってんのよ」

「私はいつも通りでしょ」

「変なお世辞は言わないでよね」

「そういうのってバレるんだから」


「お世辞じゃねえって」


達也は笑ったまま、美月を見る


「可愛いと思ったから言っただけ」


美月は数秒止まってからジロりと達也を見る


「そういうのをサラッと言うのやめてくれない?」

「イケメン罪で裁くわよ」


「なんだよそれ」


「こっちにも準備ってものがあるのよ」

「不意打ちは罪に問うからね」


「なんの準備だよ」


「知らないわよ」


美月は誤魔化すように達也の前を歩き出した


やっぱり達也さんは気楽だ


怜司なら、とてもこんなふうに軽く返せない


というか――


あの人に同じことを言われたら、沼が見えそう……


美月は頭に浮かびかけた怜司の顔を慌てて振り払った


「美月さん」


「なに?」


「車こっち」


「え?」


そういえば、昨日そんなようなことを言っていた


美月は、怜司が真っ赤なポルシェで会社まで迎えに来た時のことを思い出す


また……ど派手な車が出てくるのかな


美月は少し身構えながら、達也について駐車場へ向かった


だが


そこに停まっていたのは、想像していたような高級車ではなかった


角張ったボディの四駆


「あ、ジムニー」


達也が少し得意そうに言う


「ノマドな」


「へえ~」


美月は車を眺める


なんだか少しほっとした


「なんか達也さんっぽい」


「どういう意味だよ」


「遊びに行くのが好きそう」


「まあ、それは当たってる」


達也は笑って助手席のドアを開けた


「ほら、乗れよ」


「ありがと」


美月は助手席へ乗り込んだ


達也も運転席へ座る


「昨日言ってたぬいぐるみって秋葉原だよな?」


「そう!」

「昨日、真帆と行ったゲームセンターにあったの」


「じゃあ最初にそこ行くか」


「お願いします、先生!」


「先生?」


美月は両手を合わせた


「私、達也先生の腕に全てを懸けております」


「任せとけ」

「俺に取れない人形はないぜ」


「昨日もそれ聞いたけど」

「その自信、ちょっと不安になってきたわ」

「なんか嘘っぽいんだよね」


「なんでだよ!?」


「ぬいぐるみが取れなくても文句言わないから」

「どうせダメ元だもん」


「なんで俺、そんなに信用ねえんだよ」

「大丈夫だって言ってるだろ」


「なんてね」

「期待してま~す、先生」


車は秋葉原へ向かって走り出した


「これ!」


ゲームセンターへ入るなり、美月は目的の台へ駆け寄った


昨日と同じ台


大きな第一王子のぬいぐるみは、まだ残っていた


美月はガラスへ張りつくように中を見る


「よかった~!」

「まだある!」


「これか?」


「そう!」

「可愛くない?」


達也もぬいぐるみを見る


デフォルメされた第一王子


達也はしばらく見つめたあと、美月を見る


「これってさ」

「怜司に似てる王子だよな」


妙なところを突かれ、美月の動きがぴたりと止まった


「そ……そうだけど」


「やっぱり」


「作品の第一王子だから欲しいの!」

「怜司君に似てるからじゃないからね!」


「俺、何も言ってねえけど」


「顔が言ってた!」


「俺の顔、そんな喋る?」


「喋るわよ!」


「こっちじゃダメなわけ?」


達也が指差した隣のレーンには第二王子の人形があった


美月はそちらへ目を向けたが、すぐに第一王子へ視線を戻した


「だめ! 1推しが最優先よ」

「それに、1推しが取れそうにないから」

「2推しでいいやって選んだみたいじゃない」

「そういうのは嫌なの」


「ぬいぐるみにそこまで筋を通すのかよ……」


「通すわよ」

「推しに妥協はしないの」


「まあいいや、約束だしな」


達也は笑いながら財布を取り出した


美月がすぐにその手を止める


「待って」

「お金は私が出すって言ったでしょ」


「やだね、俺が金を出す」


「よくないよ」

「私が欲しいんだから」


「俺はこのぬいぐるみを美月さんにプレゼントしたいんだ」

「自分の金で取らないとプレゼントにならないだろ」


美月は財布から五百円玉を取り出して達也に差し出した


「はい! これ使って!」

「私は譲らないわよ、私がお金を出して達也さんが取るの!」


「なんでそういうところ、ちょっと頑固なんだよ」

「しょうがねえな」


達也は美月からお金を受け取る


「じゃあ、まず一回な」

「お願いします!」


達也がコインを入れる


音楽が鳴った


美月は食い入るように景品を見る


「もうちょっと右!」

「右右!」


「え?」


「行きすぎ!」


「いや……」


「そこ! そこよ!」


達也はそんな美月を見て笑いながらボタンを押す


アームがゆっくりと下がっていく


ぬいぐるみの胴体を挟み持ち上げた


「おお!」

「いける!」


美月が目を輝かせる


そのまま景品口へ――


ぱさっ


しかし

景品口へ届く前にぬいぐるみが落ちた


「あああああ!」


美月が頭を抱える


「でも惜しかったわ!」

「この調子ならきっと取れるわ!」


達也が面白そうに美月を見ている


「美月さんさ、クレーンゲーム下手だろ」


「え、そうだけど、なによ、今さら」


「それじゃ取れっこねえって」


「そうなの? どうして?」


「このぬいぐるみだと、少しずつ転がして確実に落とした方がいいんだよ」

「まあ、見ててよ、美月さん」


「おお! なんかそれっぽい」

「先生! お願いします!」


二回目

三回目

四回目


そして五回目


コロンと人形が景品口へ転がり込んだ


美月は息を止め、目を見開いてその行方を見守っていた


達也はすっと人形を手に取り


美月の胸へ押し当てるようにして渡した


「取ったのは俺だからな」


美月はすぐに言葉を返せず、達也の顔を見た


あれ……


達也さんが、かっこいい……


美月はぬいぐるみを胸に押し当てた


達也が美月の前で手を振って呼びかける


「おーい、美月さん、起きてるか?」

「どうした?」


「達也さんってさ、かっこいいところもあったのね」

「ちょっと萌えちゃったわ」


「な、なんだそれ、褒めてるのか?」


「褒めてるよ」

「やっぱり達也さんには見込みがあるわ」


「美月さん、俺のことどういう目で見てるんだよ……」


美月は第一王子のぬいぐるみに顔を押し付ける


「ありがとう~! 達也さん」

「大事にするね~」


達也は少し複雑そうに笑った


「お……おう」

「そのぬいぐるみに顔押し付けながら俺の名前呼ばれるの」

「なんか……嫌だな……」





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