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第21話 BLは優良住宅部品の認定だ

同じ頃


台東区の小学校跡地を後にした怜司と達也は


再び黒塗りのアルファードに乗り込んでいた


車は会社へ戻る道とは違う方向へ走っている


後部座席で資料を確認していた達也が顔を上げた


「それで?」

「なんで秋葉原なんだよ」


怜司は手元の資料から目を離さない


「調査だ」


「なんの?」


「美月の趣味について」

「その愛情の根源を知るためにだ」

「昨日、美月に言われた」

「好きなアニメを見て勉強しろと」


「ああ、言われてたな」


「ならば、アニメだけを見るより」

「美月が何を好み、何に金を使い、何を楽しいと感じているのか」

「実際に見た方が理解は早いはずだ」


「相変わらず理詰めで考えてるな」


「他の手法があるのか?」


達也は呆れたように笑った


「でも、まあ」

「俺もちょっと興味あるけどよ」


怜司が達也を見る


「美月の趣味にか?」


「ああ」

「昨日のアニメ、普通に面白かったしな」


達也は窓の外へ目を向ける


「ああいうの見てるとさ」

「美月ともっと仲良くなれそうな気がするんだよ」


怜司は黙って達也を見る


達也がその視線に気づいた


「なんだよ」


「いや」


「言っとくけど、今は一番手を譲ってるんだからな」

「俺は友達としての話をしてんだよ」


「知っている」


「なら、その目やめろ」


怜司は前へ視線を戻した


しばらくして、車は秋葉原へ到着した


二人は駅から少し離れた場所で車を降りた


休日の秋葉原は多くの人で賑わっていた


建物の壁には巨大なアニメ広告


街頭ビジョンからはキャラクターの声が流れ


店先には色鮮やかなのぼりが並んでいる


達也が辺りを見回した


「すげえな」


「何がだ」


「情報量」


怜司も周囲を見る


「確かに多い」


「怜司、こういうところ来たことあんの?」


「ない」


「だろうな」


二人は通りを歩き始めた


最初に入ったのは、大型のアニメショップだった


店内には漫画やアニメの映像作品、キャラクターグッズが所狭しと並んでいる


怜司は棚を一つずつ確認するように歩いていく


達也がその後ろをついていく


「なあ、怜司」


「なんだ」


「美月が好きなのって、どれなんだよ」


「十二星宮のプリンス」

「新選組の作品」

「他にも多数あるらしい」


「多数ってどんくらい?」


「把握していない」


「駄目じゃねえか」


怜司の足が止まる


「……確かにそうだな」

「俺が把握している作品は、今のところ一つも見当たらない」


達也が視線だけを怜司へ向ける


「なにしに来たんだよ」


怜司はスマホを取り出した


「この際、美月に聞こう」


達也が慌てて怜司の手を押さえた


「待て待て!」

「今日ここに来てるってバレるだろ」


「問題があるのか?」


「どう受け止められるか分からないだろ」


「何がだ」


「俺ら二人で、美月さんの好きなもの調べに秋葉原まで来ましたって」

「必死すぎるだろ、引かれたらどうすんだよ」


怜司は少し考える


「たしかに」

「また美月に怖がられる可能性がある」


「そうだろ」


怜司はスマホをしまった


「では、自力で探すしかない」


「そうしようぜ」


二人は再び店内を歩く


しばらくすると、達也が立ち止まった


「お!」

「見ろよ怜司!」

「例の第一王子があるぜ」


「『十二星宮のプリンス』のコーナーのようだな」

「商品には触れるな」

「俺達は店のルールを知らない」

「まずは観察だけで情報を収集する」


怜司は棚全体へ視線を走らせる


達也が棚に並んだアクリルスタンドを指差した


「こんなに小さいのに、ずいぶん綺麗に出来てるな」


「美月の部屋にも、それと類似するものが幾つかあった」

「それを集めることは、ファンのステータスなのだ」


達也がガバッと怜司を見る


「え!?」

「怜司って美月さんの部屋に入ったことあるのか!?」


「ない」

「玄関から見た」


「なんだ、そういうことか」

「怜司って目と記憶力がいいよな」


近くにいた女性客が、二人をちらちらと見ている


少しずつ店内がざわつき始めた


そのざわめきに怜司も気付いた


「達也、そろそろ潮時だ」

「ここを離れるぞ」


「え?」

「潮時ってなんだよ」


「俺たちは、第一王子と第二王子に似ている」

「知見のある者が多いこの地域で長居は危険だ」


二人は足早に店を出た


それから漫画専門店


中古グッズショップ


フィギュアショップ


ゲームショップ


いくつかの店を回った


やがて、達也が一軒の店を見上げた


「なあ、怜司」


「なんだ」


「ここも本屋みたいだぞ」


怜司が足を止める


店頭には漫画や小説の広告が並んでいる


女性客が次々と店内に出入りしている


達也が入口の看板を見る


「BL?」


怜司もその看板を見る


「なあ怜司、BLってなんだ?」


怜司は何の疑問もなく答えた


「BLマーク」

「優良住宅部品の認定だ」

「達也も知っているだろう」


「ああ、それは分かるんだけどよ」


達也が店内を覗き込む


そして首を傾げた


「どう見ても住宅部品なんか置いてないぞ」

「本屋にしか見えなくないか?」


怜司も入口から中を見る


漫画、小説、キャラクターグッズが見えた


少なくとも住宅設備を販売しているようには見えない


「BLマーク付き商品のカタログ……にも見えないな」


「だろ?」


怜司は看板を見上げる


「別の意味があるのかもしれん」

「中に入り、確認しよう」


「入るのかよ」

「なんとなく入り辛くねえか?」


「百聞は一見に如かずだ」

「入店して問題があるはずがない」

「それに、見たところ顧客は女性ばかりだ」

「美月の愛情の正体が分かるかもしれない」


怜司は迷うことなく店内へ入っていく


「おい、怜司!」


達也も後を追った


二人が店へ入ると、一瞬で空気が変わる


店内にいる客のほとんどが女性だった


女性客たちの視線が、一斉に怜司と達也へ集まっている


達也がゆっくり怜司を見る


怜司は何事もないかのように店内を見渡していた


「おい、怜司」

「なんか、入っちゃ駄目そうじゃねえか?」


「なぜだ」


「なぜって……」


達也が周囲を見る


目が合った女性が慌てて視線をそらす


しかし、その隣にいる女性と何かを囁き合い


また二人を見る


「ほら!」


「何がだ」


「見られてるだろ!」

「ひそひそなんか言われてるぞ!」


怜司も周囲へ視線を向けた


何人もの女性客が再び顔をそらした


怜司は少し考える


「俺たちの見た目は、人気キャラクターに似ている」

「知見のある彼女たちは、それに驚いているだけだろう」


「本当にそうか?」


「他にどんな理由が考えられるんだ」


「分からねえけどよ」

「なんか違う気がしねえか?」


「達也は考え過ぎだ」


怜司は気にせず店内を歩き始めた


達也も不安そうに後をついていく


二人はまだ知らなかった


その店の奥に


自分たちより少し早く店へ入った美月と真帆がいることを――




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