第20話 美月にBLは刺激が強すぎる
怜司と達也が、廃校になった小学校の跡地を下見していたその日
美月は自分の部屋で、昨日買ったグッズをテーブルの上に並べていた
誕生日にもらった書き下ろし原稿は、母親の仏壇に供えてある
昨日は本当に色々なことがあった
イベントへ行って
怜司と達也がコスプレ大会に出て
誕生日を祝ってもらって
3人でアニメを見て
最後には花火までした
そして――
美月は昨日交換したばかりのラインを開いた
御堂怜司
相馬達也
二人の名前が新しく友達一覧に加わっている
「友達……かあ」
怜司の名前を見つめる
一瞬、壁ドンされたときのことを思い出す
慌ててスマホを伏せた
「やめやめ!」
「朝から思い出すものじゃないわ」
そのとき
伏せたスマホが震えた
美月はすぐに画面を見る
真帆からだった
『美月~、今日暇?』
続けてメッセージが届く
『秋葉原行かない?』
美月は少し考えた
正直、真帆に聞いてほしい話が山ほどあった
欲しいグッズもまだある
『いいよ~』
すぐに返信する
『やった!』
『じゃあ11時に秋葉原駅ね!』
『了解~』
美月はスマホを置き、立ち上がった
午前11時
秋葉原駅の改札を出ると、真帆がすでに待っていた
「美月~!」
「お待たせ、待たせちゃった?」
「私も今来たところだって」
「誕生日おめでと~」
「ありがとう!」
「昨日もラインで言ってくれたじゃん」
「直接はまだ言ってないでしょ」
真帆が美月の顔を覗き込む
「それで?」
「なに?」
それからにやっと笑う
「昨日、何かあったんでしょ?」
「な……なんで分かるの?」
「だって、毎年おめでとうメール送ると大喜びで電話かけてくるのにさ」
「昨日は『ありがとー! 今から出かけるから、またあとでね!』って返してきたっきりだったじゃない」
「怪しすぎるでしょ」
「白状しなよ、今なら減刑するよ」
「う……」
第一王子になった怜司
第二王子になった達也
二人の歌とダンス
世界に一つだけの書き下ろし原稿
怜司の手料理
黒髪ロング
壁ドン
そして――
『俺も、美月の友達になれたはずだ』
美月は首をぶんぶん振った
情報量が多すぎる
どこから説明していいのかも分からない
美月は小さく息を吐いた
「真帆……私もわけ分からないのよ」
「後でゆっくり聞いてよ」
「いいよ」
「まずは楽しくアキバ回ろうよ!」
真帆は美月の背中を押した
それから二人は秋葉原の店をいくつも回った
アニメショップ
中古グッズ店
フィギュアショップ
その途中、美月がゲームセンターの前で足を止めた
「……あ」
ゲームセンターへ入ると、入口近くにクレーンゲームが並んでいた
その一台の中に、大きなぬいぐるみが入っている
『十二星宮のプリンス』の第一王子
白い衣装をまとった第一王子が、デフォルメされた姿でこちらを見ている
「なにこれ、可愛い!」
美月は吸い寄せられるように近づいた
かなり大きい
抱きかかえるのにちょうどよさそうなサイズだった
「美月、やれば?」
「無理無理」
「私、クレーンゲームめちゃくちゃ下手なのよ」
「そうなの?」
「前に五千円使って、一個も取れなかったことあるから」
「こんな大物に挑戦なんて無謀すぎるわ」
「それは下手だね」
「そうなのよね……」
「あ! 真帆が代わりに取ってくれる!?」
「お金は私が払うから!」
「ぶー、残念でした」
「私も美月並みに下手だよ」
「初心者向けの台でしか取れたことないから」
「え~、そうなのお~」
美月はガラス越しに第一王子を見つめる
「でも、これ欲しいなあ……」
少しだけ迷ったあと
美月は首を振った
「やめとこ」
「絶対取れないし」
「諦めるの早くない?」
「こういうのはね、諦めも肝心なの」
名残惜しそうにもう一度だけ第一王子を見て、美月は歩き出した
真帆もそのあとを追う
それからも二人は、気になる店を見つけては入り、あれこれ買い物を楽しんだ
気がつけば、美月の手にはいくつもの紙袋がぶら下がっていた
「買ったねえ、美月」
「真帆もでしょ」
「私はまだ全然、これからよ」
「嘘つけ」
真帆の手にも、美月と同じくらいの紙袋がある
美月は満足そうに自分の戦利品を見る
昨日は誕生日
今日は秋葉原
実に充実した連休である
「そうだ、美月」
真帆が立ち止まった
「最後に一軒だけ寄っていい?」
「いいよ、どこ?」
「こっち」
真帆が嬉しそうに歩き出す
美月もそのあとをついていった
数分後
真帆が一軒の店の前で足を止めた
「ここだよ~!」
「……こ、ここは」
美月も足を止める
入口に大きなポスターが貼られていた
二人の美青年が、互いの顔が触れそうな距離で見つめ合っている
その横には、でかでかとBLと書いてある
美月はゆっくり真帆を見る
「……真帆」
「ここ?」
「うん!」
「聞いてないんだけど」
「言ってないもん」
「私、BLは守備範囲外なんだけど」
「知ってるよ」
「じゃあなんで連れてきたのよ」
真帆はBL好きだった
「見るだけだから!」
「その言葉、オタクが言うと一番信用できないからね」
美月はもう一度入口のポスターを見る
近い
二人の顔が、とにかく近い
美月は思わず視線をそらした
男の子同士のこういう距離感を見ていると
自分まで恥ずかしくなってしまう
だから美月はBLを避けていた
「一人で入ればいいじゃん」
「私は外で待ってるよ」
「一緒に来てよ~」
「そこまで拒否ることなくない?」
「一人じゃ寂しいじゃん、お願い!」
「もう……」
美月は渋々、真帆の後について店へ入った
店内には漫画や小説がびっしりと並んでいる
店内を見回すと、客は女性ばかりだった
「うわ~、新刊いっぱい出てる!」
真帆のテンションが一気に上がる
「美月、こっち!」
「私は見なくていいって」
「いいから!」
真帆が一冊の薄い本を手に取った
「これ!」
「この作家さんすごいのよ!」
「へ……へえ……」
美月も表紙を見る
そしてすぐに目をそらした
「……近いよ」
「なにが?」
「顔でしょ!」
「他になくない!?」
表紙では二人の男が、今にも唇が触れそうな距離まで近づいている
「そこがいいんじゃん」
「私には刺激が強いのよ」
「美月、そういうところ妙に純情だよね」
「うるさい」
真帆は楽しそうに笑いながら、次の棚へ向かう
美月も仕方なく後を追った
まさか……数十分後
BLのことを何も知らない二人の男が
この店へ入ってくることになるとは思いもしなかった




