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第17話 黒髪の王子様は危険です

怜司が立ち上がり、玄関へ向かう


扉を開けると、白い手袋をしたスーツ姿の男がダンボールの箱を抱えて立っていた


「遅い時間にすまなかった」

「家族と過ごす時間を取らせたな」


怜司は箱を受け取ると、男へ何かを差し出した


「家族に何か贈ってやってくれ」


「ありがとうございます」


男は丁寧に頭を下げ、その場をあとにした


怜司が箱を抱えて戻ってくる


達也が眉を寄せた


「おい、それ今日の車に置いてきたやつだろ」

「わざわざ持ってこさせたのかよ」


「ああ」


「第一王子と土方……」

「彼らにあって、俺にはないものが判明した」


美月の背筋に嫌な予感が走る


「怜司君、それ……なんなの?」


怜司は箱を開け、中身を取り出した


そして迷うことなく頭へかぶる


長い


真っ黒な髪が、怜司の肩から背中へ流れ落ちた


コスプレ大会でかぶっていたロングヘアーのかつらだった


怜司は美月の反応を確かめるように、正面へ向き直った


「どうだ、美月」


さらに怜司は長い髪を手に取り、後ろで束ねる


「長い髪が好きだったのだろう?」

「こうして後ろで結べば、土方と同じだ」


ちがーーーーう!


そう叫ぼうとして、美月は口を開いた


だが――


声が出ない


怜司から目が離せなかった


あれ……


違わないかも……


白い第一王子の衣装


激似の怜司フェイス


そこに……


黒髪ロング ✖ イケメンブースト = 第一王子(1推し)


ドキューン!


美月のハートが射抜かれた


卑怯よ!


美月は胸を押さえ、二、三歩よろめいた


こんなの犯罪じゃない!


でも……


美月はぶんぶんと首を横に振った


「ちがーーーーう!」

「土方さんは物語の途中から髪の毛を切って短いからね!」

「見た目だけ真似ても駄目よ!」


怜司の表情が固まる


「なんだと……そうなのか?」


「そうよ!」


「では、俺と土方と第一王子は何が違うのだ」


怜司が美月へ迫ってくる


束ねた黒髪が、さらりと揺れた


美月は吸い込まれるように、その御姿を見つめる


危うくそのまま見惚れそうになり、美月は慌てて我に返った


だめだめだめ!


咄嗟に目を閉じ、両腕で大きな×を作ってバリアを張った


必死に暴れる自分の心を封じ込めるように叫ぶ


「見た目じゃないの!」

「見た目なんかじゃないのよ!」

「見た目! ダメ! 絶対!」


美月はびしっと怜司を指差した


「土方さんはね、不器用なの」

「ちょっと怖いし、言い方もきついし、頑固だし」

「でも一生懸命で、命を懸けて自分の道を突き進んで散るのよ」

「そんな人だから、デレたときの優しさが尊いのよ!」


怜司が顎に手を当てる


「怖い、きつい、頑固……」

「確かに土方には多くの欠点があった……第一王子とは違う」

「だからこそ共通点は長髪であると結論づけたのだ」

「彼らの共通点はなんなのだ」

「何が美月をそこまで惹きつけるのだ」


「そういう分析をするから違うのよ」

「それに……私――」


……私、怜司君に好きって言われてない


美月は、出かかった言葉を慌てて飲み込み、自分の口を押さえた


怜司はしばらく黙って続きを待っていた


けれど、美月が続きを口にする様子はない


「それに?」


怜司がまっすぐ美月を見る


美月はその視線をまともに受け止められなかった


……言えるわけないでしょ


美月は怜司からプイっとそっぽを向いた


「私にも分かりませ~ん」

「好きなアニメでも見て勉強したら~」


「分かった」

「美月が好きなアニメを見れば、ヒントがあるはず」

「もっと教えてくれ、美月」


達也は美月と怜司を交互に見た


それからチキンを頬張りながら呟く


「好きな……ねえ」


そして、にっと笑った


「怜司、俺はなんとなく分かった気がするぞ」


「なんだと」

「本当か、教えてくれ」


「嫌だね」

「敵に塩なんか送らねえよ」


「俺はいつから達也の敵になったんだ」

「ずっと二人でやってきただろう」


「しょうがねえだろ、定員一名なんだから」


美月は首を傾げた


「定員って、なんの?」


「男同士ってのは色々あんだよ」

「女の子には言えねえの」


「なによそれ、感じ悪いわね」


美月は納得できないまま、もう一度怜司を見る


白い王子の衣装に、長い黒髪


どう見ても反則だった


「怜司君、そのかつら……早く取ってよ」


これ以上は……危険だから


怜司は少し考える


「見た目ではないのなら、必要ないな」


そして言われた通りにかつらを外した


美月は内心ほっとする


それから三人は、食事をしながらアニメを見る


怜司の料理はどれも美味しく、美月は食べるたびに感動した


三人で料理を取り分け、これが美味しい、こっちも食べてみてと言い合いながら食卓を囲む


その合間にも、怜司が登場人物たちの行動を真面目に分析しては、美月が突っ込みを入れ


達也が展開のたびに大騒ぎしては、美月に注意される


そんな賑やかな時間を過ごしていた三人だったが


物語が終盤へ近づくにつれ、次第に会話も少なくなっていった


誰も口を開かず


ただ画面を見つめている


そして――


物語は最後の場面を迎えた


画面には、大きな桜の木


その下で、力尽きた土方の頭をヒロインが膝の上で支えている


淡い桜の花びらが、二人の周りを静かに舞っていた


土方はすでに目を閉じ、動かない


ヒロインは涙を流しながら、その別れを受け止めている


やがて、エンドロールが流れ始めた


美月は小さく息を吐いた


何度見ても、この終わりは胸にくる


ふと隣を見る


怜司は腕を組んだまま、しばらく画面を見つめていた


「なるほど……」


美月の眉がぴくりと動く


「なにが、なるほどなのよ」


「最後まで自分の信じた道を貫き通す」

「美月が土方を好きな理由は、理解できた気がする」

「愚かだが、美しい」


「そ、そこは分かるのね」

「真似はしないでよ」


「なぜだ?」

「これは美月の心を掴む重要な資料だ」


「ヒロイン一人になってるじゃん」

「めっちゃ泣いてたでしょ!?」

「好きだけど、残された方はたまらないわよ」


「こういうのが好きなのではないのか?」


「それとこれとは話が別なの!」

「なんで分かんないのよ」

「怜司君は、私の想像を超えることまで本当に実現させそうだから怖いのよ」

「絶対にやめてよね」


途中まであれほど騒いでいた達也が、妙に静かだった


美月は不思議に思い、達也の方を見る


「達也さん?」


「……なんだよ」


その目は真っ赤だった


達也はそれを隠すように、すぐに顔をそらした


テーブルの上には、いつの間にか丸めたティッシュがいくつも転がっている


「泣いてたの?」


「泣いてねえよ」


美月が達也の顔を覗き込む


「目、真っ赤だけど」


「うるせえな」

「あんなに次から次へと死なれたら……しょうがねえだろ」


達也が鼻をすすった


「沖田まで……」

「あんな終わり方なんて……あんまりだ」


達也さんって……さっきから沖田さんが一番好きよね……


……ママと……同じだ……


美月は思わず笑った


見た目はこんなに怖そうなのに


本当は凄く優しい人なんだ


なんか……かわいいかも


もしママがここにいたら


達也さんのこと、すっごく可愛がるだろうな


「達也さん、やっぱり見どころがあるわ」


「なんだよ、それ」


美月は鞄からハンカチを取り出し、達也へ差し出した


「はい」


「……いいのか?」


「自分で拭ける?」


「子供じゃねえよ!」


達也がハンカチを受け取る


「ちゃんと洗って返すからな」


「別にいいって」


そのあと、三人はアパートの庭へ出た


「よし、最後はやっぱこれだよな!」


達也が買ってきた花火の袋を持ち上げる


「本当にやるの?」


「大家の許可は取ってある」


達也が怜司を指差した


「許可する」


三人でしゃがみ込み、一本ずつ花火へ火をつける


シュウッと音を立てて、色とりどりの火花が夜の庭を照らした


「うわ~、綺麗!」


美月が笑う


達也は二本同時に持ってはしゃぎ


怜司は真剣な顔で花火を観察していた


美月は笑いながら、二人を眺める


まるで、夢みたいな誕生日だった


3人で私の好きなアニメを見て


同じものを見てるのに、気になるところが全然違って


それをあれこれ言い合って


こんなに楽しい誕生日は、いつ以来だろう


「そうだ、美月さん」

「ライン交換しようぜ、もう俺たち友達なんだからさ」


「うん、いいよ」


美月と達也がスマホを取り出す


すると横から、にゅっと怜司のスマホが差し出された


「俺も、美月の友達になれたはずだ」


美月は怜司を見つめ、目をぱちぱちさせる


それから、ふっと笑った


「そうだね!」

「じゃあ交換しよっか」





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