第16話 イケメンブーストは反則です
怜司の部屋で、美月の誕生日パーティーが始まった
改めて二人に祝福され、達也の音頭で乾杯をする
怜司は美月が持ってきたDVDをプレイヤーにセットし、再生を始めた
新選組を舞台に、時代を駆け抜けた男たちの物語
そして、そんな彼らを最後まで見届けるヒロインの物語だった
「おい! 美月さん!」
「山南さんどうなっちまうんだよ!?」
「沖田ってなんの病気なんだ?」
「治るんだよな? な?」
「ネタバレしてほしいの?」
「楽しみが半減するじゃない」
達也はかなりはまったようで
さっきからあれこれと美月に聞いてきていた
その横で、怜司は顎に手を当てながら画面を見つめている
「あの近藤という男、上に立つ者として欠落している」
「あの男の言動が組織を不安定にし、有能な土方や部下たちの行動まで縛っている」
「あげく、内紛にまで発展している」
「なぜ土方は近藤を排除して、自らがトップに立たないのだ」
「近藤も土方も元々は農民だ」
「ならば近藤である意味はない」
「いや……怜司君、ちゃんと見てた?」
「土方さんは近藤さんが好きなの」
「近藤さんを日本一の侍にしたいから頑張ってるのよ」
達也が画面を指差しながら声を上げる
「なあ! 美月ってば!」
「新選組ってことはさ」
「最後は負けて、こいつらみんな死んじゃうのか!?」
「俺そんなの耐えられねえよ!」
「うるさいわね」
「ネタバレはしないって言ったでしょ」
「大人しく見てなさい」
「いま怜司には教えてたじゃねえかよ」
「俺にも少しは教えてくれよ!」
そのやり取りを聞いていた怜司が
ふと思い出したように口を開く
「そうだ、美月」
「キッチンの電子レンジにチキンを入れてある」
「すまないが、取ってきてくれないか」
「チキン?」
「今は重要なシーンだ」
「土方の何が美月を惹きつけているのか、見えてきたところだ」
「見えてきてるんだ……」
「電子レンジの中にあるのね、分かった」
美月はキッチンへ向かった
てっきり豪華に改装してあると思っていたが
怜司の部屋は美月の部屋とほとんど同じ間取りだった
部屋にはソファと食卓が置かれ
家具は明るい木目を基調に、落ち着いた色合いでまとめられている
意外なことに、ソファには小さな花柄のクッションまで置かれていた
「なんだか……思ってたより優しい感じの部屋ね」
キッチン台の上には大きな皿が置かれ、彩りよくサラダが盛りつけられている
その真ん中には、チキンを置くのにちょうどいいスペースまで空けてあった
美月は電子レンジを開けた
中には、一羽丸ごとのローストチキンが入っていた
皮はこんがりときつね色に焼き上がり、表面には艶やかな照りがある
「すごーい、綺麗に焼けてる~」
「これって……」
「まさか怜司君が焼いた?」
美月は熱々のチキンを取り出し、皿の中央に盛りつけた
大きな皿を両手で持ち、部屋へ戻る
すると――
二人が立ち上がっていた
怜司は驚いた表情で画面を見つめている
達也はテレビへ向かって怒鳴っていた
「なんだこの将軍!」
「てめーだけ逃げるとかどういう了見だ!」
「井上が死んじまったじゃねえか!」
「山崎もやべえよ! なんなんだよこれ!」
美月はうんうんとうなずく
怜司も呆然と画面を見つめていた
「信じがたい状況だ」
「これでは朝敵になってしまう」
「どのような手を打ったところで、もはや新選組に未来などないではないか」
「仮に近藤ではなく土方が組織の長でも、回避などできなかった」
「俺でも同じ結果になっていた」
「なんと恐ろしい資料なんだ……」
怜司の言葉に、美月の目がぴくりと反応する
「資料……?」
そこで美月は、テーブルの上でコップが倒れていることに気づいた
どうやら二人が立ち上がった拍子に倒したらしい
「座って見なさい」
「飲み物こぼれてるじゃない」
「だってよ~、美月!」
「酷いんだよ!」
「井上が死んだんだぞ!?」
美月はテーブルに皿を置いて、倒れた達也のコップを立てた
それから、テーブルに置いてあった布巾を手に取り
こぼれた飲み物を拭いた
「知ってるわよ」
「しょうがないじゃん、そういうストーリーなんだから」
すると達也がテレビのリモコンを手に取り、一時停止ボタンを押す
「ちょっと休憩しようぜ」
「このアニメ、初心者には刺激が強すぎるって」
「俺、トラウマになりそうだよ」
「なに言ってんのよ、意外とだらしないわね」
「彼らの人生を見届ける度量もないわけ?」
「威勢がいいのは見た目だけかしら」
「さっきから美月さん俺にだけきつくね?」
「ひょっとして俺のこと嫌いか?」
「違うわよ」
「達也さんには見どころがあるわ」
「これはその期待の表れよ」
怜司の目がぴくりと反応した
美月は達也を見る
「それからさ、その美月『さん』ってのやめない?」
「本当は呼びづらいってバレてるよ」
「さっきからたまに美月って呼んでるし」
「もう美月って呼びなよ」
「え!? マジでいいの?」
「助かるぜ『さん』付けとかあんまりしねえからさ」
「だったら、俺のことも達也って呼んでよ」
「嫌よ、達也さん」
「なんで俺には『さん』付けるんだよ」
「距離置かれてる感じするじゃんか」
「このアニメの主人公もさん付けで呼んでたでしょ」
「呼びたいように呼ばせてよ」
「だったら俺も美月さんって呼び続けるからな」
「達也って呼んでくれたら」
「美月って呼んでやるよ」
「なによそれ」
「達也さんのために言ってあげたのに」
怜司は黙ってチキンを切り分け、小皿に盛りつけていく
そしてそれぞれの前に小皿を置いてから座り、美月を見た
「美月」
「できれば俺のことは怜司と呼び捨ててくれないか」
「お断りします」
「なぜだ」
「怜司君は怜司君なんで、変更できませ~ん」
「ゲームでも、最初に入力した名前を後から変えられないでしょ」
「それと同じよ」
「俺は名前を入力した覚えはないのだが」
「私が入力したのよ」
その横で、達也がさっそくチキンを口へ運んだ
「うお! うまい!」
「なにこの鶏肉、すげえうまいじゃん!」
達也の喜びの声を聞き、美月もチキンを一口食べる
外はパリッとしていて、中は柔らかい
噛むほどに肉汁とうま味が口いっぱいに広がった
「ほんとだ、すごく美味しいね」
「ひょっとして、これって怜司君が作ったの?」
「そうだ」
「すごい!」
「本当になんでもできちゃうのね」
「こんなもので良ければ、毎日でも作ろう」
美月の動きが止まった
ゆっくりと怜司へ恨めしそうな視線を向ける
手料理に甘い言葉 ✖ イケメンブースト
これはもはや……暴力よ
でも、怜司君は私にドキドキしたりしないんだから
私を女の子として好きなわけじゃない
たぶん、私に向けているのは恋愛とは違う何かなのよ
私だけ好きになっちゃ駄目
下手したら二度と立ち直れなくなるレベルで沼るわ……
ピンポーン
そのとき、部屋の呼び鈴が鳴った
怜司が玄関へ視線を向ける
「来たか」




