第14話 今日のあれって、私のために?
美月の目が限界まで見開かれる
第一王子の白を基調とした豪華な衣装をまとった怜司
いつもの短い髪はなく、第一王子と同じ長い黒髪が肩から背中へ流れている
その隣には、第二王子の濃紺と赤を基調とした衣装を着た達也
達也も第二王子に合わせて髪型まで整えていた
右耳には、第二王子と同じ宝石を模したピアスまでついていた
美月の口がぽかんと開く
「怜司君……」
「達也さん……」
会場が一瞬、静まり返った
そして次の瞬間
「きゃあああああああっ!」
黄色い声援が爆発した
「本物だー!」
「第一王子がいる!」
「第二王子もいるんだけど!?」
「顔が公式より強い!」
「実写化して!」
「尊い!」
「並ばないで! 心臓がもたない!」
「どっちが攻め!?」
「汚れるからそういうこと言わないで!」
会場は大混乱だった
「ほ、本物ね……」
「あれは……本物だわ」
美月まで意味の分からないことを呟く
その騒ぎの中心で、怜司と達也は堂々と舞台中央へ進んだ
そして二人は背中合わせになる
怜司が腕を組み
達也が片手を腰へ当てる
二人とも、完全に決め顔をしている
「なにやってんのよ……あの二人」
その瞬間
音楽が流れ始めた
美月は聞き覚えのあるイントロに目を見開く
「これ……ママがよく聴いてた曲だ」
平成に一世を風靡した、男性二人組アイドルユニットの曲だった
少し哀愁のあるメロディに乗せて、二人の男の友情と危うい青春を歌った曲だ
「なんでこの曲!?」
さらに驚くことが起きた
最初に歌い始めたのは怜司だった
怜司はマイクを手に、ゆっくりとステージの前へ歩き出す
普段と変わらない落ち着いた表情のまま、会場を見渡すように視線を巡らせる
そして歌の区切りに合わせ、すっと腕を伸ばしてポーズを決めた
「えっ……」
あれ……第一王子のイラストで見たポーズだ
続いて達也が歌い始める
今度は達也がステージの前へ出た
怜司とは対照的に身体を少し前へ傾け、感情をぶつけるように歌っている
そのまま会場へ向けて指を差し
歌の区切りに合わせて第二王子のイラストで見たポーズを決めた
女性客たちから黄色い歓声が上がる
美月はただ呆然とステージを見つめていた
なにこれ……
私、夢でも見てるの……
知らないうちに違う世界に飛ばされた?
しかも、それだけでは終わらなかった
二人は歌に合わせて、そろって踊り始めた
同じタイミングで右腕を横へ伸ばす
身体の向きがそろい、続く動きまでぴたりと重なっていく
そして二人同時に、独特のポーズを決める
やたらと息が合っていた
普段は表情の乏しい怜司まで、第一王子らしくカメラへ視線を向ける
一方の達也は、第二王子そのもののような挑発的な笑みを浮かべ、会場を沸かしていた
「きゃあああああ!」
会場のボルテージが一気に跳ね上がる
ステージ前へ人が押し寄せた
スタッフが必死に止める
「前へ出ないでください!」
「押さないでくださーい!」
「撮影エリアから出ないでください!」
美月は人波の向こうに見覚えのあるものを見つけた
さっき感動していた第七王子の巨大な杖が
真ん中からぽっきりと折れている
「ああっ!」
「第七王子の杖がー!」
「そこまで原作再現しなくていいのよ!」
歓声は収まらず、会場の熱気はさらに高まっていく
「第一王子ー!」
「達也ーー!」
美月も人の波にもみくちゃにされる
「なんで達也さんだけ本人の名前になってんのよ」
「ちょっ!」
「押さないで!」
「私のバッグ!」
「グッズ入ってるから!」
その日のイベントは、ファンの間で後々まで語り継がれることになった
当然のように、コスプレコンテストの優勝は怜司と達也だった
そして――
あまりの混乱でイベントの進行は大幅に遅れ
美月が楽しみにしていたサイン会は中止になった
夕方になって、美月は疲れ果ててアパートへ帰ってきた
扉を閉めるなり、そのまま部屋へ倒れ込む
「もう最悪~……」
鞄を床へ置く
「なんなのよ、あの二人……」
楽しみにしていたサイン会は中止
人の波にもまれ
何度も踏まれた足が痛い
「せっかくサインしてもらおうと思ってたのに……」
ごろんと仰向けになる
「何がしたいのよ、ほんと……」
しばらく天井を見つめる
「お風呂入らなきゃ……」
そう呟いたときだった
ピンポーン
美月は目を閉じた
「……」
ピンポーン
「誰よ、もう……」
重い体を起こし、玄関へ向かう
面倒そうに扉を開けた
「はいはい、どちらさ――」
パンッ!
パンッ!
目の前で二つのクラッカーが弾けた
「きゃっ!」
美月は反射的に目を閉じる
「お誕生日おめでとう、美月」
「美月さん、お誕生日おめでとう~!」
聞き覚えのある二人の声に、美月はゆっくりと目を開いた
第一王子の衣装を着たままの怜司
髪だけは、いつもの短い髪に戻っている
その隣には、第二王子の衣装を着たままの達也
二人が玄関の前に立っている
「……誕生日?」
美月は呆然と呟いた
視線を部屋のカレンダーへ向ける
「今日……」
「9月21日?」
数秒間、考える
「……私の誕生日だ」
達也がずっこけそうになる
「本人が忘れてたのかよ!」
「まあ、一人だしさ」
「なんか忘れちゃって」
怜司が少し緊張したように、美月へ声をかけた
「ケーキを買ってきた」
「え?」
「チキンも焼いた」
「サラダも用意した」
「ピザもある」
一つずつ確認するように続ける
「酒もある」
「ジュースもある」
「ノンアルコールのカクテルも作れる」
「美月に喜んでもらいたくて、準備した」
美月は怜司を見つめてパチパチと瞬きをする
いつもの淡々とした声だった
けれど、どこか落ち着かないようにも聞こえる
「それから」
怜司が持っていた紙袋を差し出した
「プレゼントだ」
「私に?」
「ああ」
美月は戸惑いながら受け取った
中を覗き込む
そして固まった
二枚組の書き下ろし原稿が、それぞれ透明な保護ケースに収められている
一枚目のケースの表面には、原作者の直筆サイン
二枚目のケースの表面には、第一王子役の声優のサイン
そしてどちらにも――
『相沢美月さんへ』
と書き添えられていた
「これ……」
美月の声が震えた
間違いなくそれは……
今日のコスプレコンテストの優勝賞品
世界に一つしかない――
『十二星宮のプリンス』
原作者直筆の書き下ろし短編原稿だった
「サイン会は中止になってしまったが」
「優勝後、原作者と第一王子役の声優に挨拶する機会があったのでな」
「それぞれのケースにサインをお願いした」
美月はゆっくり顔を上げる
「じゃあ……」
怜司を見る
達也を見る
もう一度、原稿を見る
「今日のあれって……」
美月は二人を見上げた
「……私のために?」
怜司がうなずいた
「美月への誕生日プレゼントにしたかった」




