↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
12/44

第12話 私のこと、女の子として好き?

怜司のポルシェが美月の勤める会社の前を離れていく


美月はシートへ深く沈み込み、大きなため息を吐いた


エンジンの低い音と振動が、体の奥まで響いてくる


これまで乗った車では感じたことのない感覚だった


なにこの車……


ちょっとマッサージ器みたい……


肩こりとか取れるかしら……


美月は横目で運転席の怜司を見た


こうして近くで見ると、思っていたよりまつ毛が長い


ながいわね……


あの目力の秘密かしら……


美月は怜司から目を離して小さくため息をつく


「怜司君」


「なんだ」


「私は一般人なの」

「だから、こういうことされると困るんですけど」


「なぜだ?」


「目立つからよ」

「会社の前に真っ赤なポルシェで迎えに来るなんて普通じゃないでしょ」

「同僚に見られたらどう思われるのよ……」


怜司は前を向いたまま答えた


「『十二星宮のプリンス』では、第一王子が馬車でヒロインを迎えに行っていた」


美月はまたゆっくりと怜司を見た


「……まさか、それを真似したの?」


「ああ」


即答だった


「原作小説はすべて読んだ」

「今はゲーム版を進めている」

「それが終わればアニメを見る予定だ」


美月は目を丸くする


「もう全部読んだの!?」

「12冊あるんだけど」


「俺は速読ができる」

「読むだけなら時間はかからない」

「昨日のうちに読んだ」


「怖っ」


「ゲームは小説のようにはいかない」

「時間を短縮するにも限界がある」

「さらに、選択肢によって展開が変わるため、時間がかかっている」


「まさか、全部のルートやる気!?」

「プリンス12人に3つずつエンディングがあるんだよ!?」


「当然だ」


……当然なんだ


怜司は真面目な顔をしていた


冗談で言っている様子はない


「美月が好む作品だ」

「理解するには、すべてを確認する必要がある」


美月は何とも言えない顔で窓の外を見る


これって……真面目って言うのかしら?


怜司君は、とことんやるタイプみたいね……


この行動力を、もう少し別のところに使えばいいのに


「それで、第一王子の真似をして迎えに来たわけ?」


美月はそのまま窓から流れる景色を見つめていた


「俺は王子だからな」


「あなたは不動産の王子でしょ」

「第一王子の真似しないでよ」

「リアルでやられると、色々困るのよ」


「第一王子の行動には合理性がある」


出た……


美月は嫌な予感がした


「美月に移動手段を提供すれば、身体的な負担を軽減できる」

「さらに二人で過ごす時間を確保し、警戒心を和らげることもできる」

「非常に合理的だ」


「やっぱり……」

「そういう解釈なのね」


「間違っているか?」


「間違ってるとまでは思わないけど……」


美月は窓の外を流れる街並みを眺めた


少しして、ふと思いつく


「ねえ」


「なんだ」


「12人の王子の中で、誰が一番好き?」


「第二王子だ」


「えっ」


美月は少し驚いたように怜司を見た


「なぜ驚く?」


「てっきり第一王子だと思ったから」


「なぜだ?」


「似てるから」


怜司は少し考えた


「外見については、店でも何度か言われた」


「外見だけじゃないわよ」

「性格も似てるでしょ」


「客観的に見ればそうだ」

「だが、何かが違う」

「そうでなければ、美月は俺を受け入れるはずだ」


美月は呆れた


やっぱり……なにもわからないのね


コラボカフェで散々、店員や客に第一王子と自分の違いを聞いて回っていた男とは思えない


第一王子が好きな子達の話を、散々聞いたはずなのに……


怜司君と第一王子の決定的な違いなんて


一つしかないじゃない……


「それで、なんで第二王子なの?」


「達也に似ている」


美月は瞬きをした


「達也さん?」


「ああ」


怜司は迷うことなく答えた


「口が悪い」

「すぐに手を出そうとする」

「考えるより先に動く」


「達也さんへの悪口じゃない」


「だが、仲間を見捨てない」

「自分が損をしても、困っている人間を放っておけない」


怜司はほんの少し目を細めた


「いい奴だ」


美月は何も言わず、怜司の横顔を見る


少し意外だった


「じゃあ、あの場面は?」


「どの場面だ?」


「第二王子が王命を無視して、勝手に妹を助けに行ったところ」

「結果的に罠だったせいで、大勢の兵士が危険な目に遭ったでしょ」


「判断としては愚かだ」


「やっぱり」


「だが、妹が殺されるかもしれない状況で冷静に待つことは、あいつにはできなかったのだろう」


美月は目を瞬いた


「それで嫌いにならなかった?」


「ならない」


「なんで?」


「失敗したからといって、これまでのあいつが消えるわけではない」


怜司は前を向いたまま続ける


「第二王子は、仲間を助けるために何度も危険な役目を引き受けていた」

「自分だけ逃げることもできたのに、最後まで残った」

「妹の件も、やり方を間違えただけだ」


美月は怜司をじっと見つめる


なんだ……


ちゃんと分かるんじゃん……


「じゃあ第一王子は?」


「実に合理的な人物だ」


返事が早かった


美月の目が細くなる


「……具体的には?」


「12人の王子それぞれの能力を正確に把握し、適切に活用している」


「活用……」


「特に第三巻の反乱鎮圧は見事だった」


怜司の声が少しだけ熱を帯びる


「第一王子には、ヒロインとの恋愛関係を公にする正当な理由がなかった」

「そこであえて関係を偽装することで、王家に不満を持つ勢力を動かした」

「反乱分子がヒロインを利用しようと接触してきたところで裏切らせ、一網打尽にしている」


美月の目がさらに細くなる


「……は?」


「結果として敵対勢力を排除し、自らの体制をより強固なものにした」

「非常に優秀だ」


「そこ!?」


「なんだ?」


「なんでそうなっちゃうわけ?」

「第二王子と違うじゃん」


「違う?」

「なにがだ?」


美月は額へ手を当てた


やっぱり駄目だ、この人


第二王子のことなら、あんなに普通に気持ちを考えられるのに


自分によく似た第一王子のことになると


途端に作戦だの合理性だのという話になる


美月は少し考えた


……あれ?


何かがおかしい


怜司君は、他人の気持ちが分からないわけではない


第二王子が妹を助けに行った理由も分かっていた


失敗しても嫌いにならない理由も、ちゃんと人間らしい


達也さんのことだって、口が悪くて乱暴だけれど、いい奴だと言った


もしかして……


怜司君は……


気持ちが分からないんじゃなくて……


美月は怜司の横顔を見た


「ねえ、怜司君」


「なんだ」


「質問していい?」


「ああ」


「怜司君ってさ、なんで私と結婚したいの?」


「前にも言ったが、家族が欲しいからだ」

「君と、君の母親と過ごした部屋は暖かかった」

「あの場所に、俺もいたい」


「じゃあさ」


美月は少し迷ってから尋ねた


「私のこと……」

「女の子として好き?」


怜司が一瞬だけ美月を見る


「好き?」


すぐに前へ視線を戻した


「ほら……会ったら嬉しくなったり」

「もっと一緒にいたいと思ったり」

「ドキドキしたり……する?」


「ドキドキ?」


「そう」


「鼓動が速くなるという意味か?」


「まあ……そういうのも含めて」


怜司は少し考えた


「そういったことはない」


ああ……


やっぱり……


そうなんだ


怜司が自分に執着しているのは分かる


15年間、あの約束を胸に生きてきたことも嘘ではないのだろう


彼は気持ちが分からないわけじゃない


ただ、私に向けているものは恋じゃないんだ


怜司君は私のことが好きなわけじゃない


好きなら、きっと何か感じるはずだもの


達也さんのことを話していた時みたいに


美月は一度だけ唇を噛んだ


「私はね、ドキドキするよ」


「なににだ?」


「いっぱいあるよ」

「小説を読んだり、アニメを見たり、ゲームをしたり」

「この前のコラボカフェだってそう」

「すっごくドキドキするの」


美月は少しだけ笑った


「だって、大好きなんだもん」

「第一王子を見たってドキドキする」


怜司は黙って聞いていた


「それと……」


美月は怜司を見る


「怜司君にも、ちょっぴりね」


怜司の表情は変わらなかった


美月は少し待ってから前を向いた


「車……止めてくれる?」


「どうした?」


「ここから歩いて帰る」


怜司は道路脇へ車を寄せて停車した


美月はシートベルトを外し、助手席の扉を開ける


車から降りると、怜司を振り返った


「怜司君にも、ドキドキする相手が見つかるといいね」


「美月」


「もう、こういうことしなくていいから」


美月は扉を閉めた


そして真っ赤なポルシェを残し、一人で歩き出す


少し進んだところで、大きく息を吐いた


「あんなもったいない王子様もいるのね」

「私のこと好きじゃないって分かった時、ちょっとショックだったかも」

「イケメンって怖いわね……」

「危ない、危ない」

「軽傷ですんで良かったわ~」


今日は駅前の定食屋で、鶏と野菜の黒酢あんを食べよう


そう決めると、美月の足取りがほんの少しだけ軽くなった




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。