13.彩り御膳と花団子
迷子は無事に両親の元へ帰り、お牛様は絡まりも解かれて通りからスッポ抜けた。
前と同様、通りを練り歩きながら、病気の元を食べるそうだ。因みに、謎のお札もお牛様がもっしゃもっしゃと食べてしまわれた。
のっそりと立ち上がった白き牛神は、より迫力を増し、神々しい姿であった。
お牛様は、ミカヨと真尋に感謝を述べた後、1つ予言をくれた。
「すずのねのむくほうへ」
耳でなく、真尋の内側から響くような不思議な声であった。意味は、ミカヨもよく分からないようだ。
「予言というのは、特に難しいものじゃ。
意識が向き過ぎれば、流れが変わる。忘れておくくらいで丁度良い」とのことである。
礼にと与えたものだし、きっと悪いものではないだろうと、真尋も気にしないことにした。
色々あり疲れたので、いくつか目についた甘味を買い、観光は早々に切り上げて宿に入った。
女性の一人旅をコンセプトにした旅館で、可愛らしい広告に釣られた。昨今は、一人旅の需要が高まっているらしい。
部屋はこじんまりとしているが、上品な和柄で纏められたインテリアは、とてもおしゃれだ。旅館内には、ロビーや階段の突き当たりなどの至るところに、夏らしいスイカやうちわなどの小さな置物があり、ついつい立ち止まってしまう可愛さ。
そして、この宿にも温泉がある。黒川温泉でもふやける程入ったが、何度味わっても良いものだ。早い時間に入ることが出来たので、他に客の姿はない。
ふと、脱衣室で体重計を見つけたので乗ってみた。
やはり、体重が減っている。
「真尋や、今回は仕方なかったとはいえ、治癒の力を使う際には、ちゃんと報酬は貰うのじゃぞ。
ほれ、減っとるではないか」
そう、ミカヨより借り受けた病や怪我を治す力は、対価として真尋の体重を費やす。1回につき、大体1キロ程だろうか。確か、真尋の母のぎっくり腰を治したときもそれくらいだった。
ミカヨには、この力を使う時には、きちんと考えて使うように厳命されている。
「力を貸しておるのはわしじゃ。よって、力によって命を削らぬように見張るのは、わしの最低限の責任じゃ」
「でも、食い道楽で太ってたし、正直ラッキーですけど」
「駄目じゃ駄目じゃ。油断してはならん。よいか?重さとは、現世に留まるためのおもしじゃ」
ミカヨは、だらしない娘を叱る口煩い母親のように、腰に手を当てて言った。
「おぬしが、衝動に任せて道行く人を10人でも治してみよ。容易に倒れるぞ?元に戻るまでにどれくらい必要じゃ?
必要な分のみ、良く考えて使うのじゃ。勿論、ちゃんと対価を貰わねば、おぬしにも相手にも災いを招く。努々、忘れるでない」
真剣に諭されたので、真面目に謝った。真尋は、一度仕事で自分を追い詰めているので、この件についてあんまり信用がない。
リスクがある以上、気をつけすぎるくらいが真尋には丁度いいのだろう。
さて、夕飯は奮発して旅館で頂くことにした。
新鮮な刺身を中心とした、和洋折衷の料理であった。女性をターゲットにしているだけあって量は抑えめであるが、その分、味と盛り付けに拘っている。新鮮なサラダや煮物、茸や白身魚と共に蒸された釜飯、花のような漬物。全ての皿が鮮やかな彩りで飾られていた。
一口ずつ味付けの違う刺身は、とても上品で贅沢な味だ。少量ずつなので、沢山の味に出会えて得した気分だ。
「うわぁ、美味しい。ゆずとオリーブの組み合わせって合うんだ」
「知らぬ調味料が多いのう。西洋もの?中々うまい」
ミカヨと共に、味付けに一々驚きながら完食した。大満足である。
しかし、部屋に戻った2人には1つ問題があった。思わず目を引かれて買ってしまった団子が残っていたのだ。
既に真尋の腹は満腹であるが、団子は明日まで置くと味が落ちてしまう。
真尋が悩んでいたところ、ミカヨが貰うと言い出した。
確かに、気合を入れれば食べられると言っていたし、初めて真尋に会った際にも弁当をモリモリ食べていた。
「食べたかったら、遠慮なく言ってくれればいいんですよ?」
「実は、食べものを実際に消化すると、神の力的には差し引きゼロじゃ。何なら、マイナスになりうる。
中身の信仰心やら味の情報だけ引っこ抜けば、別にそんなことはないんじゃが」
「え、じゃあ無理しないで下さいよ。もったいないお化けですか?」
団子は、3つずつ串に刺さっており、それぞれ別の花を象った餡で化粧されている、何とも華やかなものだった。まるで花畑を食べているような気分にさせてくれる。
ミカヨは、団子を美味しそうに食べた。
「もったいない精神は大事じゃが。
まぁ、なんだ。身体に悪いと思ってもつい実際に食べてみたくなるというか…。
嗜好品的に、たまになら良いじゃろ?」
人間でいうところの酒やタバコ扱いか。なら、過剰摂取は制限すべきだ。
「でも、たまにならちゃんとミカヨの分も買ってあげよう」と幸せそうに頬を染めているミカヨを見て思った。真尋は、己の神にそこそこ甘いのだ。
ふと、荘厳な白い牛の神を思う。
お牛様もその身を削りながら、由布院を疫病から守っているのだろうか。絡まったままなら、その身はいつまでそこに縛られたのだろうか。
満たされた夜は、神の行く先を思い、穏やかな寂しさと共に過ぎていった。




