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9.ジャージーソフトクリーム

「結局、元の鞘に収まって、めでたしめでたしじゃな」


 真尋と大河は、互いの気持ちを確認しあい、元の恋人同士に戻ることにした。

 大河は、そもそも別れてなかったと主張し、真尋も誤解が解けた以上、問題なのは自身の意地と後悔のみであった。

 その凝り固まった気持ちも星空に溶けていったのだから、なんの障害も無くなってしまったのだ。


 自分の恋愛模様を見守らせてしまった気まずさで「んんん」と喉から声が絞り出される。

 話題を変えよう。


「ミカヨ様の片割れ?の方はどうしたんですか?なんか、疲れてそうでしたけど」


 表現をマイルドにしたが、霧は黒くなっていたし情緒不安定そうだったので、素人目にも祟神(たたりがみ)なりかけ、という具合であった。


「あの泉は、随分前から祀る者がおらんかったようだの。

 神とて、長すぎる孤独は心を病むのじゃ」


 成る程、つまり寂しがっていたのだ。

 1人で何百年も過ごせば、いくら神でも寂しかろう。


「今は、わしが清め、休ませておる。

 これが片割れの形代じゃ。わしのと一緒に入れてやっておくれ」


 ミカヨが手を翻すと、手の中にミカヨの形代にそっくりな白い石が現れる。

 真尋は、丁寧に首から下げた袋へ2つの石を納めた。


「早く起きて、ミカヨ様みたいに色んなものを見たりできるといいですね」


「うむ、もう少し寝れば元気になろうよ。道連れが増えたが、よろしくのう。

 片割れの名は、三日宵泉(みかよいずみ)厄祓神(やくはらいのかみ)という。人や神がもたらす災いを避ける願いを負った神じゃ」


「神様らしく名前長いですね」


「2つに分かれる前は、三日宵泉で良かったんじゃがのう」


 大河との諸々は決着し、神様との休暇を再開した訳だが、黒川温泉の湯巡りに真尋がはまってしまい、結局4日は温泉街を堪能した。

 常ならできぬのんびりとした旅行日程で、2日ほど旅館に引きこもって本を読むなどし、心身ともにピカピカである。大河の警察官としての仕事もチラリと覗く事ができ、こそばゆく喜んだりした。 


 しかし、そうこうしているうちにレンタカーの返却期限が訪れる。

 流石に、黒川温泉だけで終わる訳にはいかないと、ようやく車を走らせたのだった。


 大河とは日に数度、会話アプリでメッセージを交わしている。黒川温泉を出る際には「次に会う時には、俺も一緒に宿に泊まるぞ」と強めに言われている。

 多分、分かりやすくお泊りデートのお誘いだ。「再会して直ぐに手を出すのは、真尋に不信感持たれそうだから、次な」と続けられた。未だに2人は清い中だ。

 20も半ばを過ぎた男女にしては純情過ぎるかもしれないが、真尋には予告だけでもドギマギするくらい緊張しているので、丁度いい。


 現在、真尋とミカヨは広大な牧場を眺めながらソフトクリームを食べていた。

 場所は熊本県と大分県の丁度境目あたり。山を横断する県道11号、通称「やまなみハイウェイ」と呼ばれる道の途中である。

 ポップな牛とソフトクリームののぼりに惹かれて、まんまと車を停めた。


 雄大な牧場に赤茶色の毛皮の牛たちがのんびりと草を食み、なんとも長閑だ。牧場に併設されたお土産品店では、牧場産のチーズや牛乳、ジャージーソフトクリームなるものが売っていた。

 真尋は、我慢できずにソフトクリーム片手に瓶の牛乳を買い、チーズを試食した。試食したチーズは、島にいる家族への宅配を依頼した。美味しい。


 ジャージー牛乳とは、イギリス原産の乳牛「ジャージー牛」から採れるもので、濃厚な味わいが特徴だ。この牛乳から作られるソフトクリームやチーズはコクのある深い味になる。

 阿蘇では豊かな自然を生かして多く飼育されており、昨晩食べたチーズもジャージー牛のものであった。


 夏の日差しの中、柔らかなアイスクリームが口を冷やし、口の中から涼しくしてくれる。甘さより先にミルクの味わいがドカンとくる濃厚さ。しかし、後味は意外と爽やかだ。


 アイスを食べ終え、さらに由布院に向かいながらジャージー牛乳を飲んだ。こちらも濃厚で美味しい。瓶というのも味わいをプラスしてくれる気がする。


 明日には、熊本駅でレンタカーを返さねばならないので、本日は黒川温泉から無理なく移動できる大分県由布院に1泊予定だ。


 1時間ほどで、由布岳を望む湯の街、由布院へ到着した。

 早速、由布岳の麓にある観光ストリート「湯の坪街道」に繰り出した真尋は、数歩も歩かないうちに唖然とした。


 車が1台通れるか、という具合の狭い通りの両側には、由布院の土産屋やスイーツショップが軒を連ねるが、古臭い店はなく意外なほどにモダンで洗練された印象を受ける。

 そのおしゃれな通りに、見上げるほどの大きさの牛が通りをみっちり塞ぐように、挟まっていた。



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