■1. 受け継がれし者
ここは、ヴァナデゥークと言う世界にある、王族や貴族達などが集まって、暮らしているマール城である。
今日は、冬に年に一度に各国々の城の王子(十七歳になった者達)が集まる祝福の儀式の前日。そのある午後。
場所は、王子室。ベッドの横で荷支度をしながら、独り言をいっているこのオレはウーグ・ロアイスト―――一応この城の王子だ。ちなみに最近、十七歳になったばかりだ。
「ちぇ、めんどくっせー。こんな事をしている時間は本当はねーんだけどなぁ。早く外の世界へと出てみたいもんだな!ああしたり、こうしたりしてさ~……。今に見ていろよ!親父、明日こそは絶対に城をでてやる。金と権力と極度の礼儀作法だけの生活はもうイヤだからな。」
実際のところオレは過去に幾度か脱走したことがある。が、残念ながらそれが成功したことがない。出たとしても大半は門の近くや中庭のところまでの程度だ。しかし、オレは未だ諦めていない。その先にはここよりもきっと面白いことがあるのだから。
「これでよしと。必需品や食料、飲み物とかもあるし!まぁ、今回はいつもと違ってじっくり考慮して作った道と計画があるんだ。絶対に大丈夫!」
そう言い終わった直後に、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。
「んん~、だ・れ……!」
言い終る前にドアが勢いよく開き、ほぼ同時にオレと関わりの深い小柄な子供がとびついた(正しくは飛びつこうはとした、だ)。オレはその子供をひらりとかわす。
「あ、に、きぃ~!」
「いつも言っているだろうが、ノックしてからすぐに入って来るなっ。何度言ったら分かるんだ。全く世話の焼ける妹だなぁ、もう。」
と言いながら、妹であるナーラの頭を軽く叩いた。ナーラはオレより六歳下に離れている。
「兄貴こそ、いつも避けないでよ―――、て、またクダラナイことをやっているし~。いつになったら止めるんだよ城内鬼ごっこ。いッつも負けているくせに。懲りないね~」
両肘を肩の辺りで曲げ、掌を上に向け、おまけに首を竦めて、いかにもアホクサと言いたげな格好で兄であるオレをけなす。
「うわ~、見るな!それでも妹か」
妹だからこそするものだが。
「っていうかお前、何しにきたんだ」
「あぁそうそう、あたし母上から頼まれた伝言があるんだ。忘れてた」
「忘れるなよー。で何?その伝言は」
「兄貴一人で、『図書室へ来なさい』だって」
「何だろう、明日の儀式のことかな。それともこの事がもうバレたのか―――」
「早く行きなよ。ほら!」
「うわぁ」
ナーラに背中を押されたために二、三歩よろけた。
「元気ありすぎだなぁ、そんじゃあ行ってくる! あ、でも勝手に物とかいじるなよ。あと誰にもこのことを言うなよ。見つかったら一ヶ月以上前から考えた計画がパァだからな!」
語尾を強調してややきつめに言う。
「分かった、分かった。だから早く行け」
今度は力強く背中を押して部屋の外に出されその直後にバンッと音が鳴るほど勢いよくドアを閉め出された。
「もう少し大人しくていい妹にならないものかなぁ」
そう言い残して、オレは自分の部屋を後にして図書室へと向かった。
*
オレが図書室へ行くと母上が二階のバルコニーに居て、椅子に座り、テーブルに置いてあるカップを手に取り、中のコーヒーを飲もうとしているところだった。
「母上、御用とは何ですか。ナーラから聞いたのですが」
と言うと、母上は、優しく微笑みかけて、「こっちに来なさい」、と言った。
「ウーグ、こちらの椅子に座りなさい。話があるから」
オレはその通りして、それから「失礼します」と言ってオレは母上の正面の席に座った。
「それで話しとは?」
「明日儀式があるでしょう? だから、渡しておきたい物があるの。手を出してごらん」
オレは緊張しながらゆっくりと手を前に出した。
「これは―――!」
「そう、これは、我が王家で受け継がれている秘宝。なぜ秘宝かと言うのは、まだ今は詳しくは言えないけれど、一説によると、ある伝説や神話に関係があるものよ。今度は貴方が受け継ぐ番よ、ウーグ。どうぞ。受け取って。失くしたら駄目よ!」
そう言われた後、オレは掌に落とされた秘宝―――首に掛ける為の鎖があり、細めの腕輪みたい物と親指の爪よりやや大きい菱形の形の飾り(どちらとも銀製で菱形の方は溶けてしまいそうなくらい薄い)がついた水晶だ―――をゆっくりと首に掛けた。
「あと、それは、お守りにもなるから」
「ありがとうございます。……でも、何故、『まだ今は、詳しくは言えない』のですか?理由は―――」
何故ですか、と言う前に母上が、
「その内、自分で気付くかもしれないからね。まあ、仕来たりみたいなものかな。代々そうしてきているから。私の口で言うのはまだまだ先になるかもしれないわ。だから……」
自分で気付くかもしれない、母上が言うのはまだ先のこと―――どういうことだろう……。オレには全く意味が理解できなかった。
「そう言えばウーグ。貴方の部屋で一人笑い? が廊下を通っている時に小さかった声だけど聴こえてきたのよ。何をしていて笑っていての?また悪さを考えていたのでは?」
うぅ……と言いそうになったが、何とか言うことなく「いいえ、明日のための用意をしていました」と言い、誤魔化した。
「あらそう。ならいいけれど……それについて話がしたかっただけなの。ウーグ、貴方はまだここに残って本でも読む? 私はもう戻らないといけないけれど、どうする?」
オレは姿勢を正して、
「いいえ、私は、自分の部屋に戻ります」
と答えた。
「そう」
十分近く続いたやりとりが終えた。オレは緊張の糸を解いて、自分の部屋へと向かった。
母上は残りの仕事(書類とかを見たりサインしたりする仕事だ)をしに王室へと戻った。
オレは自分の部屋に繋がる廊下をゆっくりとあるいていた。母上が言った言葉の意味を考えながらだ。
(あの遠回しの言い方には裏がありそうだ。意味も変だし、何らかの意図があるに違いない。ましてや母上がいつも着けているものを貰うなんてたとえ以前の儀式の時でも一度もなかったはず……なのに。)
ボーとしながら歩いていたので、正面を歩いていた兵士と肩がぶつかった。
「王子様すいません!私がよそ見していたばかりに。」
実際よそに見していたのはオレの方だ。兵士にそう言われたオレは、
「気にしないでいい、自分の仕事に戻って」
兵士は「はっ」と敬礼して仕事に戻って行った。オレはこういった事も嫌々で仕方がない。礼儀作法では決まりを守っているものの、こちらが悪いのに相手のせいだだの、堅苦しい敬語だのは、もう嫌気が差す。普通に接して欲しい、そう思うほどだ。親や他の貴族達からすれば「考え方が甘い」と言われるのは分かっているけれど。
石のことを考え直しているうちに、オレの部屋へ辿りついた。
部屋の中は静かだった。どうやらナーラはしばらくここで遊んでからどこかへ行ったらしい。オレの荷物以外のものがやたら散乱している。オレは、ものすごく面倒だなぁ、と意中で思いつつも、散らかった物を手っ取り早く片付けていった。
「ん?何だろう、あれは」
ベットの床下を見たら、古ぼけた布製の地図が落ちていた。
「もう少し良い物かと思ったけれど、なんだ地図か。まぁいいや、ついでに、明日の持ち物に入れるとするか」
そう言いながらオレはその地図を引っ張り出しリュックに入れた。その後再び、まだ残っている掃除を終わらせた。
窓から外を見上げると、夕焼けが空一面を覆い赤々と輝いていた。だが、それは次第に小さな光となって消えていき、だんだんと星屑が煌き始める夜空となっていった。
*
翌朝。オレは窓からの差してくる朝日で目を覚ました。いよいよ儀式当日だ! そして今日は、作戦実行の日でもある。
オレは、起床し、顔を洗い、服を着替える。服はいつも以上に豪華で質がすごく良い物だった。着替えを済ませた後、食事をしに行った。食事はいつも通りで、王族が中央の席に座り、貴族が左右対象に座っていく。勿論、階級順に座る。オレとしちゃ、そんなのはどうだっていい。それよりも仲間を作って楽しく食事をしたいものだ。今は未だかなわぬ夢でしかないのだが。
食事などを終えた後にオレは部屋に戻り、旅の為の荷物の最終チェックをした。思った以上に入れすぎたため、手間がかかった。改めて持ってみると、なかなかの重さだった。仕方ないので、二枚の服と不要だと判断した物を抜くことにした。さっきより軽くなったがまだ幾分重い。
これで準備は整った。式の時間まで、あと三十分。いよいよ作戦開始!
オレの考案した作戦はこうだ。まず式に出る。そして、誓いを交わす(らしい。母上曰くそう長くはないらしい。オレはよく分からない)。そのあとパーティーが開かれるので、食事を軽く摂り、大人たちが酔いつぶれている間口実を作り会場の外へ出る。そこからオレの考案したルートを頼りに脱出する(たぶん警備は薄くなっているだろう)。後は自由の身だ。とにかくあとは運しだい!
改めて考えを纏めているうちに、式場前に着いた。音楽が聞こえ始める。扉が開き、儀式が始まった。事がどんどん進んでいく。はじめは挨拶から進み、祝いの言葉、解説みたいなもの(聴いてる中で一番長かった気がする)、そして前置きの言葉が終わる。そして誓いを交わした。誓いといっても母上のおっしゃるとおり内容は短かった。いくつかの誓いを立て、後に沢山の葉がついた木(片手で持てる大きさだ)を清水に浸しその雫を頭に掛けてもらうだけだった。
長々とした儀式が終え、パーティーが開かれた。
式が終わったとたんに、とても賑やかになった。普段静やかにしている者にとってはかなり煩いものだろう。
オレはお皿手にとって好物である料理をそれに乗せていった。
(おいしい。自分の好きな料理を好きなだけとって食べられるのはいつもと違って良い物だな。ほんの少しだけ気分が楽になる)
オレはそう思いながら食事を済ました。辺りを見ると大人達は酔っている御様子だ。オレは口実を言いに行った。
「あのすいません。少し席を抜けてもいいですか。」
「如何のご様子で?」
「厠へ」
「承知しました。短時間でいらしてください」
「ああ」
これでよし、と。オレは急いで荷物を取り、(オレの部屋まで距離があるので、ここに来る時に荷物は分かりにくいように隠しておいた)懐中にしまっておいた自作地図(邪魔にならないよう掌ぐらいの大きさだ)を左手に持った。脱出ルートを確認しながら足を進める。ルートでは初めに、地下に繋がる隠し扉を通り抜け兵士等にバレないようにいつも使っている通路を進む。そして、外に出ると言う寸法だ。今、オレがいるのは、隠し扉の前だ。ここは、前に脱出を試みた時に見つけた。この扉を開ける方法は、煉瓦を順番に奥へ押し込んでいくのだ。順番は、上・中央・下・左、最後に右の順だ。点を結んでいくと、下向きの矢印になる。オレは今言ったとおりに押していた。煉瓦作りの壁が上下に切れるような感じで、音を立てながら開いた。中に入り、リュックから蝋燭と小さめのカンテラを取り出してから、下にあるスイッチを足で踏み押した。歩いて十五歩位のところで背後から扉が閉まる音がした。
地下の印象は、深くて暗く、静かで虚しく、はっきり言って怖い。地下は、偵察した時以来通ったことがない。だから、更に恐怖心を感じる。壁に手をあてながら一歩、一歩また一歩と進んでいく……。正面に壁が見えてきた。その左右にだんだんと細くなっていく通路があった。オレから見て左に進む。歩くにつれて徐々に天井が斜め下へと狭くなっていく。ちょうど中間地点のところで、十字路に入った。今度は左へと進む。前進するにつれ、さっきとは逆に天井が上へ上へと高くなっていった。突き当たったところへ壁があり、右を見ると先へ続いていく通路があった。だが、オレは、先へ進まず、そこで止まった。ここにも隠し扉があるのだ。ここはさっき入ってきた扉とは違う開け方だ。
「確か左の壁に孔があったはずなんだけど―――あった、あった!」
そう言いながらオレが取り出した物は、火打ち石と微量の火薬、そして紙切れ。
「これを斜め上の小さい孔に火薬とこいつを入れて火打ち石で火を点ければ」
ボウッカチッ―――金属と何かがぶつかる音がした。そして次にゆっくりと隠し扉が開く。
「熱したら形が元に戻る金属がこの中にあるようだな。それが何らかの装置に当たって入り口が開くらしい。大体何のために必要なんだろう。まぁいいけど」
言い終わると同時に扉が開く。オレは、前へ、左へ、前へ、左前斜めへそして右へと進んで行った。光が見え始めた。この階段を上がればもうすぐ地下から抜けられる。おれの気持ちが逸る中オレはそれを抑えた。あと数歩で出口!―――と思った瞬間近くから足音と声が聞こえてきた。どうやら外が騒がしい。
「上から報告があった」
「どのようなものだ?」
「王子が会場や部屋に居ないとのこと。そして、地下のある場所にてトラップが作動したのこと」
「それで」
「どうやら王子がまた脱走したようです!至急ほかの者にも報告を!」
「はっ」
(またって何だよ)
オレはそう思いつつも内心は軽く焦った。バレる確率は高いというのは、大体予想はしていた。だが、トラップがこの地下にあるのは知らなかった。
階段を全て駆け上がった。ここの扉は内側(オレが居るほう)のみ取っ手がある。それには鍵が掛かっている。オレは内ポケットから橙色の宝石のついた鍵を取り出した(はずだった)。オレは本気で焦った。冷や汗が背中をつたってくるのを感じた。まずい。無い、ない、ナイ!どこを探してもオレの手元に鍵が見当たらない。
「やっベー、どうしよう……」
これでは計画がパァだ。仕方がない。来た道を引きかえするか。時間がない。早く見つけに行こう。オレは、慌ててもと来た道を引き返し始めた。
急がないと、という気持ちで頭がいっぱいだった。早くしないと地下に追っ手が来るからだ。にしても、どこにトラップがあったのだろう。以前来た時はなかったはず、いや、気つかなかったのかも知れない……。オレは大きな溜め息を一つつき、床を大きく蹴って慌てて走り出す。来た道を的確に戻って行く。
(無いな――急がないと、時間がない!)
オレは頭の中で何度も繰り返した。探しているうちに途中で細くなる通路まで来てしまった。
オレは足を止め、辺りを注意深く探した。
「!?」
オレは床を蹴る足音と聞いた。3、4人ってとこか。しかもこっちに少しずつ近づいてきている。冷や汗が額から流れ落ちる。気がますます落ち着かなくなる。鼓動が早くなる……。オレはさっきよりも急いで探した。
1歩、2歩、3歩、4歩……ん、と思いオレはそれを見た。銀色に小さく光るものがある。オレは一度まばたきをして、それからそれをジーっと見た。それからはっとしてそれに手をやる。オレはニヤリとした。
「鍵だ!これでやっと……」
言い切ろうとしたところで、遠くから兵の「いたぞ!」という声が木霊して聞こえた。オレはビックとして後ろを振り向いた。
(まだ大丈夫だ。間に合う)
オレは前に向き直って扉へと一目散に走った。
息をハァ、ハァと切らしながら走る。周りが、時間がゆっくりと長ったらしく思えてくる。今はまだ距離があるが、立ち止まれば必ず捕まる。走って行くなか、段々と兵の数が増えていった。聞こえてくる声で分かる。
前を真っ直ぐ見た。さっきの階段だ。その上には『扉』だ。オレは鍵を力強く握り締め、一段飛ばしで階段を駆け上がって行く。17・18・19・20……24、到着!着いた。早く鍵で扉を。手にしていた鍵を鍵穴に差込み右へと捻る。カチッと良い音がした。オレは、バッと扉を勢い良く大きく開けた。オレは辺りを見回し外に出た。この通路を抜ければ、外へ出られる!が、しかし右から一人の兵士がこっちに向かってきて、「王子が居たぞ!」と大きな声を上げた。
オレは一目散にその兵士と反対の方へ逃げていった。……正直のところ少し息苦しい。ずっと全速力で走っているからだ。
前方に十字路が見えた。このまま左に進んで……。
「王子だ!あそこに居るぞ!」
「見つけた!追うぞ!」
それは、十字路に差しかかった時だった。前方と右側から声が上がる。オレは、まずい!と思いつつも予定通り左へと曲がる。
(あの突き当りを曲がれば出口!)
そう何度も思いひたすら走った。前へ進んで行くと右側に通路があった。兵が居ないか心配だったがそれは不要だった。が、しかし、オレはそこで予想外なことに遭遇した。ナーラだ。でも、なんでココにいる!?
「兄貴?……その様子だと今やってるんだ~。城内鬼ごっこ。楽しそうでいいねー。そういやぁ式はイイの?」
「鬼ごっこじゃぁない!――うっ……わああ!あいつ等来ちまったじゃないか!取り敢えず逃げるぞ」
オレはそう言ってナーラの手を引き、再び走り出した。
「兄貴!あたしは関係ないのに、なんであたしまで……!」
「知らん。何となく。まあ、取り敢えず、走れ!」
「んっな、理不尽なぁ~……」
勝手なことをしてしまったなぁと思いつつもオレはナーラと一緒に走った。
「何であそこに居たんだ?」
すると、
「本当は兄貴を探しに来たんだけどね……」
「えっ」
「あたしからじゃなくて、言われて来たんだ。でも、パターン化されているから面倒になって……」
「あぁーそうですかぁ」
訊かないほうが良かったか。……そうこうしている内にTの字型の通路に差しかかった。左右の確認をした。が、行き止まりだった。3方から兵士の群れだ。ついに捕まる……。
(また捕まる……。でも今回捕まったら、もう機会が無いかもしれない)
「あーあ、どうすんだよ、兄貴。大人しく捕まったらぁ~?」
オレは、ナーラの声を無視し、割れないようにとポケットの中に入れていたあの石をその中で握り締めた。そして、不意にこんなことを思った。
(この石が幸運を招くモノだったらなぁ……例のあの石。もし、この石がほんものだったら、オレは――)
そう思っているうちに周りは、兵に固められた。
「大人しくしてください。我々も、もう疲れたんで……」
「そうですよ。式場は少々混乱して騒いでいるんですよ」
「さっ、早く」
彼らが必死に言ってるのに付け加え、ナーラが、
「降参したらどう?」
オレは辺りを見回した。降参、……したくない。往生際が悪いのは分かっているけど……。この石があの石であれば、オレはこう望む。見たことのない大きな世界で仲間と旅がしたい! と。
八つ当たりをしているかのように、心のなかで石に向かっていった。
「さ、会場へ」
一人の兵士がそう言う。
もし、この石が……。
「いやだ!」
「何を言っておられるのですか。仕方がない。手荒ですが」
担いででも行く気らしい。手を出そうとしている。完全にこっちへ来る前にオレは、大きな声でこう叫んだ。
「嫌だ。あんた達に何が分かるんだ。もう、のほほんと陽気に暮らす生活なんざウンザリだ。オレは、仲間を作って旅がしたい。ただそれなんだー!」
その瞬間。オレの目には、いや、オレだけではないナーラも兵士もだ。オレ達の周りすべてが波紋を繰り広げる光によって包まれた。波紋の中心点はオレのポケットからだ。まさか、と思って透き通ったあの石を手に取り出した。
「まさか本物だった、の、かぁ~??」
最後に強い光が放たれた。
「うっわわわああぁぁ……」
そこに居る誰もがそう叫んだ。もちろん、オレもだ。オレはズルズルと白い光を放つ石へと吸い込まれていく……。ナーラの声がする。そしてこっちへと手を伸ばしている。が、届かない。指先がかすれ合っただけだ。
「ナーラ!」
「兄貴!」
オレは、強き光を放つ石よって跡形も無く吸い込まれた。
このままオレは消え失せてしまうのだろうか。いや、違う。オレはオレの望むところへ行くための光なんだ!
眩い白に包まれ不安と焦りを抱えつつも希望を持ってこの先待つ場所へと向かったのだ。そして、オレは知らなかった。
……彼らとは、〝もう二度と会えない ″かもしれないということを……。




