第38話 怪しい記念品
「何なら今試してみてもいいですか」
僕はキーホルダーを手に取り、右手の親指と人差し指で挟んで持つ。
焦点は取り敢えずテーブル上に置いてある紙。
少しずつ招き猫の距離を変えてみる。
しかし反応はまったくない。
「まだ時期尚早なのです。もう少し経ってから試してみた方がいいのです」
残念。
でもまあ、今後に期待ということで。
「すみません。ありがたくいただいておきます」
「ああ、こちらこそよろしく。調理人が不在なんで、何かと負担が大きくなるかもしれない。もし料理できない時や何か用事がある時は遠慮しないでくれ。実は他にも料理がそこそこ出来るのはいるから」
「でも今のメンバーでは朗人が段違いに上手なのです。腕としては奈津希先輩と同等なのです」
「無茶は言わない。それに1年だと課題があるしさ」
「あ、確かにそうなのです……」
あ、また課題の話が出てきた。
「その課題って、一体何なんですか」
「具体的に言ってはいけないんだ。フライングになるからさ」
修先輩はそう言って肩をすくめる。
「まあでも一言だけ言っておこうか。あの課題は苦労しなくてもそれなりの点を取る事は出来る。ただ点にはならなくても苦労する価値はあるし、それが後々の発想なり工作能力に必ず現れる。それは先生方も見ているし知っている」
「まあ朗人は心配する必要無いのですよ。朗人は間違いなく作る側ですから」
うーん、気になる。
でも、これ以上聞いてもわからないだろうな。
ならまあ、授業まで待つとするか。
「あと少し申し訳ないのですが、僕の他にもう1人一緒に入った奴がいるのですが……」
「典明の分は用意済みなのですよ。修先輩、石だけ交換して貰っていいですか」
そう言って詩織ちゃん先輩は、いつものようにどこからともなく杖を取り出す。
この前の金属製の杖とは違う、木造の重厚な作りの杖だ。
「この杖にこの水晶で、ちょうど合うと思うのですよ」
8センチ位の天然水晶と思われる石をもう片方の手から取り出す。
「何か重厚で高価そうな杖ですね」
「ヘリテージ2。今となっては旧型だけどね。でも市販品よりは数段上かな」
修先輩はそう言いながら杖と水晶に手を当てる。
杖が恐ろしい速度で分解し、中からピンク色の石が飛び出してきた。
代わりに水晶が中に入り、そして杖が元のように組み立てられていく。
「これが工作の魔法ですか」
鮮やかすぎる手並みだ。
「流石に6年もこんな事をやっていると慣れるしね。今は増幅杖も仕込んでいるし」
修先輩は本当に何でも無い事のように言う。
「という訳でこれが典明用の記念品なのですよ」
「いいんですか、こんな高価そうな物」
少なくとも僕の招き猫よりは遙かに高価そうだ。
「これも申し訳ないが詩織のお古なんだ。だから気にしないでくれ。それに魔法を使える人間なら、これはなかなか有用な筈さ。特に魔力が大きくない場合は余計に」
「ただ、技術的には招き猫の方が色々新機軸を組み込んでいるのですよ」
詩織ちゃん先輩はそう言ってにやりと笑う。
「中身は朗人が魔法を使えるようになるか、魔法工学をある程度理解してこの意味を理解できるようになるまでは内緒なのですが、とびきりの新理論と新機軸を組んだのですよ」
「ただ学生会関係者以外には見せるなよ。使い方によっては兵器並みの危険物だからさ」
あ、とんでもなく怖い事を言われた。
「大した事は無いのですよ。普通に火柱を上げられる程度の魔法使いでもこれを使えば1キロ平米程度を焼き尽くしたり、鉄板10ミリ厚程度なら貫通する熱線を出したり出来る程度なのです」
確かにそれは兵器だ。間違いない。
「いいんですか。そんな物貰って」
「大丈夫、ここは特区だし。それに他に人に見せなければ問題は無いから」
「それに私や他の皆さんも、それぞれ色々持っているので問題ないですよ」
皆、どんな危険物を持っているのだろう。
聞くのが怖い。




