#016
「KOH、起きて! 大変なの! KOH ってば!」
「んん……」
強めに揺さぶられ、仕方なく目を開ける。
窓際のロッキングチェアには、太陽の日差しが届き、窓の外は雨粒でキラキラだ。
「サーラ、強すぎ」
「だって、全然起きないから! 起こすこっちの身にもなってよ」
「知らない。あ、そうだローブ」
サーラから逃げるように、暖炉の前に置いていたローブを取りにいく。
それにしても、なんだか静かだな。おっちゃんたちは、ホルタンクのとこか。
「嵐の後だもんな」
独り言を呟き、ローブを羽織る。
うん。良い乾き具合。
「おっちゃんたち、何処にもいないの。バーンズさんも、奥さんも」
「は? 外にいるだろ。酪農家の朝は早いし、嵐の後でもある」
全く。サーラは一体何を言い出すのか。ゲームのNPCとはいえ、酪農家設定なら朝は家畜の世話がある。
「外も見た。背高草を掻き分けて、確認した。ホルタンクって野生動物はいるけど、誰もいないの」
「この家全ての部屋は、確認したのか?」
「したよ。全部確認した」
いない訳がない。彼らはNPC だ。何者かに襲われてHPを全て削られたなら、復活しないのは分かる。この家の住人が消え去るなんてこと、他に何かあるのか?
「メニュー画面の確認は?」
「メニュー画面? 何で?」
「何かストーリーが始まってるとか、クエストが発生してるとか、あるだろ」
「見てない。どうしよう、失踪事件だよね?」
サーラは今、パニックに陥っている。俺が冷静に状況把握しなければ、おっちゃんたちの失踪の真相が分からない。
とにかく、ステータス画面の確認をする。
「昨日と何も変わっていない。クエストの発生も無しか」
「どうしよう、KOH ……」
「もう一回、部屋を確認する。その後に外」
「うん」
リビングを出て、廊下へ。ドアは3つ。奥には階段。近いドアから確認していく。
「ベッドルームか。ダブルベッドってことは」
「ここは、おっちゃん夫婦の部屋だよ。多分」
ブルーの掛け布団を捲って見ると、そこにおっちゃんたちの姿はない。
床まで届いている白いカーテンの裏側にも、ベッドの下の隙間にも。
おっちゃんたちはいない。
「クローゼットは見たのか?」
「開けられなかったよ。ゲームの世界だからかな」
「そうか」
実際、クローゼットに近づいてみると、開ける為のコマンドは現れないし、手を近づけてみても、空を切るだけだ。
「ダメか。次の部屋に行くぞ」
「うん」
ベッドルーム出ると、次ははす向かいのドア。
「ここは……。バスルーム?」
「そうみたい。ここは隠れるような場所は無かったよ」
「小さい子どもなら、隠れられるか。大人だと無理だな」
「だよね」
「ん? これは?」
脱衣所だろう場所に、洗濯機がある。それには疑問を持たないが、その右横。壁と洗濯機の間の数センチの隙間に、大きめのキャンバスが置いてある。手に取り確認。
「真っ白だ」
「何々? キャンバス?」
「何も描かれてないんだ」
「でも、何でここに? 脱衣所とバスルームだよ、ここ」
何故ここにあるのか疑問ではあるけど、特に不審な点はない。細工も無いようだし、ここに置いていただけだろうな。
「もう一つ、ドアあったよな」
「湿気でダメにならないのかな」
「何が?」
「キャンバスだよ。こんなとこに置いてたら、ダメになっちゃうよ」
「何か理由があって置いてるんだろ。このままにして……。うわっ!」
只持っていただけのキャンバスに、みるみる内に肖像画の様な絵が浮かんできた。
艶やかな白くて長い髪、大人しそうで柔らかな表情の、女の子。
「肖像画だ」
「可愛い女の子だね」
肖像画にサインはない。裏側も確認すると、『愛しのノ』と書かれていた。ノの続きは消したのか、それとも自然に掠れたのか、読めなくなっている。
「おっちゃんたちの、娘さんかな?」
「それに関しては、何とも言えない。誰が描いたのか知らないけど、飾れば良かったのにな」
「そうだね。次の部屋に行こう」
「次は、サーラが寝てたゲストルームか」
女の子が描かれたキャンバスを、洗濯機に立て掛けて置いて、バスルームを出た。




