#014
「おっちゃん! バーンズさん!」
嵐によって吹き荒ぶ雨風。視界不良だし強風の向かい風だから、前進したくても、中々進まない。
「おっちゃん! バーンズさん!」
ランプの明かりが見える方に声を掛けても、雨風のせいで、届いていない様子。
「どうしたものか……」
早くしないと、奥さんの容態だって分からない。何が起きたのか、俺にはさっぱりだ。
「おっちゃん! バーンズさん!」
こうなったら、最終手段。柵を越えて、背高草を掻き分けて、ランプの明かりの方へ。
揺れる背高草。雨に濡れたおかげで、貼り付いてくる。
「よし。牛たちは大丈夫そうだな。バリアも大丈夫そうだ」
「そうだな。早いとこ、戻ろうぜ。親父」
話し声が聞こえてきた。近くにいる。
ここなら、大声で叫べば聞こえるはずだ。
「おっちゃん! バーンズさん!」
「うおっと、KOH!? どうした!?」
「奥さんが、急に頭を抱えて、倒れたんです! サーラが付き添っています!」
「なんだと!? バーンズ、急いで戻るぞ!」
「はいよ!」
親子は慣れた足取りで、背高草の中を走っていく。置いていかれないように、必死に走るけれど、流石は酪農家だ。慣れている。
雨風は更に強くなり、横殴りの風に変わっていった。
「大丈夫か!?」
おっちゃんとバーンズさんは家の中に入るなり、奥さんの元へ。
俺は濡れて重たくなったローブを脱ぎ、バッグの中へ収納した。
「ソファーへ寝かせたら、少し呼吸が落ち着きました」
「そうか。ありがとうな、ネエちゃん。ニイちゃんも、知らせてくれて」
「いえいえ。お邪魔している身です。奥さん、持病か何か患われているんですか?」
躊躇いがちに口を開いたのは、バーンズさん。
「お袋は時々、強い頭痛に襲われて、意識を失うんだ」
「医者へは? 通院されているんですよね?」
「このスフィアの大地には、医者はいない」
「それって、奥さんは治らないってことですか?」
「そうだな。だから、俺たちが見守るしかないんだ」
外は雨風が強く、窓や屋根に叩きつけるように音を立てている。
奥さんは、落ち着いたのかそのまま眠り、おっちゃんたちは奥さんを寝室へと連れていき、俺たちも用意された部屋で、眠ることとなった。
が、全く眠くならない俺は、手持ち無沙汰で、仕方ないからリビングへ向かう。
あれ? 皆寝るからって、リビングの明かりは消したはず。なのに、点いている?
「ん? KOHか」
「バーンズさん。起きてたんですか?」
「まぁな。雨風がうるさくて、寝れねぇってな。そっちは?」
「俺は、ただ眠たくなくて。あ、暖炉使っても良いですか? ローブを乾かしたくて」
「あぁ。使ってくれ。今、火を」
バーンズさんは暖炉に薪をくべて、マッチ棒を暖炉の壁面に擦って、火を起こした。
「スゲェ。マッチって、箱の側面に付いてる摩擦面でしか、着火出来ないと思っていました」
「箱の側面? そうなのか? スフィアの大地では、これが普通だからな。摩擦さえ出来れば、着火出来るぞ」
マッチとか久しぶりに見た。普段マッチもライターも使わない生活をしてた影響だな。
「ありがとうございます。バーンズさん」
「気にするな。客人だからな」
特に何か話すわけでもなく、ただ時間だけが流れていく。
「ホットシナモンミルク飲むか?」
「もしかして、飼われているホルタンクの?」
「あぁ。家のは、シュガーを入れなくても、ほんのり甘いんだ」
「へぇ。飲んでみたいです」
「ちょっと待っててな。すぐ出来るから」




