#011
そんなわけで。俺たちは、おっちゃんこと、リチャードの家に、お世話になることになった。
「すみません。馬車に乗せて頂いて。何と礼をしたら良いのか」
「礼なんて良いさ。もうすぐ着くぞ」
そこは、高原とでも言おうか。見晴らしの良い、草原と森の融合した場所。
「ほい。到着」
「ありがとうございました」
「のどかな所だね~」
「ここは、ハイド原野の外れなんだ」
赤い屋根の二階建ての家。童謡の中の家なのかってくらい、分かりやすい家だ。家の隣には、煙突の付いた小屋。
草原の方を見てみると、乳牛モンスターが10頭程、柵で囲まれたエリアの中で、放牧されている。
「あれ? 親父、客人か?」
「おぉ、丁度良いところに。母さんは?」
「お得意のポトフを作りすぎて、どうするか悩んでる」
「それなら、大丈夫だろ。二人分」
「で、その人たちは? 見かけない顔だな」
おっちゃんの息子か? 麦わら帽子にオーバーオール姿の無愛想な男。
無愛想というよりは、俺たちに対して、警戒している様子。
「この2人は、冒険者でな。魔法使いのKOHと、回復術師のサーラ。とりあえず、一晩泊める」
「はじめまして。KOHです。お世話になります」
「サーラです! お世話になります!」
「ちなみに、サーラのネエちゃんは、セイラスチーズを知っている!」
おいおい。おっちゃん。まだ言うか。
「で、こっちが、俺の息子。バーンズだ」
「ども」
「可愛くねぇな。そんなだから、嫁が来ねぇんだ」
「うるせー。彼女くらいはいる。親父に、あれこれ云われる筋合いはねぇ」
アハハハハ。俺たちはどうしたら良い。
「お袋に言わなきゃだろ? 突然来たなら、何の用意もしてない」
「そうだな。KOH、サーラ。こっちだ」
おっちゃんに連れられ、赤い屋根の家の中へ。
淑女そうな奥さんが、皿に盛られた料理を、キッチンから運んでいる。
「あら。おかえりなさい。お客さん?」
「冒険者の、KOHとサーラ。一晩泊めたい」
「あなたが、冒険者さんに興味を持つなんて、珍しいわ」
「セイラスチーズを知っていたんだ。このチーズを知っている奴に、悪い奴はいない」
「そうでしたか。冒険者さん。狭い我が家ですが、どうぞ。ポトフ、お好きかしら?」
淑女だ。物腰柔らかな、淑女。今までの人生で、こんな人に会ったことがない。
「ポトフ、大好きです! 私、お手伝いしますよ!」
「ありがとう。でも、お疲れでしょう?」
「大丈夫です! 泊めて頂ける、お礼です!」
「そう? それなら、サラダを運んでくださる?」
「もちろんです!」
サーラは、奥さんのお手伝いをするために、キッチンへ。
俺は……。
「ニイちゃん。少し、いいか?」
「何かありました?」
おっちゃんに促され、ダイニングと繋がるリビングの、一人掛けのソファーに座った俺。
何か、されるんじゃないかと、不安になる。
「《カゲロウ様》に会いたいと、言っていたな」
「ええ。会える方法が、あるんですか?」
「いや。簡単には会えない。俺が、《カゲロウ様》に会ったのは。会ったというより、元々知っていたんだ。セイラスチーズを。酪農のことも、チーズ作りの方法も」
「つまり、先天的な記憶が、あるんですね?」
「ああ。記憶に操られているような、そんな感じなんだ」
この《ネヴァースフィア》は、MMORPG。つまり、ゲームの世界だ。
冒険者と呼ばれる俺たちは、プレイヤー。
スフィアの大地に暮らす、スフィア人たちは、ノンプレイヤーキャラクターになる。
そうなると、『NPC』の略で現される彼らは、ゲームの創造主による情報が、記憶となるに違いない。




