#010
温泉はいつぶりだろう。公衆浴場が、市場にあるなんて、なんて優しい世界なんだ。
日々の業務の疲れが、一気に取れていく。
「よぉ。また会ったな。ニイちゃん」
「えっ、あ。セイラスチーズの、おっちゃん?」
のんびりと温泉に浸かっていたら、セイラスチーズをくれた、農夫のおっちゃんが、隣にやって来た。
「まだ市場に居たのか。冒険には出ないのか?」
そのセリフを言われると、何だか頭が痛い。
「出ようと思ったんですけど、相方が、無茶苦茶でして」
「ハハハ。仕方ないさ」
「屋台をやろうと、しているんですよ?」
「屋台か。金も稼げて、良いじゃないか」
良くないんですよ。おっちゃん。
「事は深刻なんですよ……」
「必要な物は揃っているのか?」
「全て相方が、揃えていましたからね。俺は分かりません」
「材料は、どうするつもりなんだ? 何を作るのか、俺は知らねえが、屋台をやるなら必要だろう?」
「色々必要です。小麦粉に砂糖、あんこにカスタードクリーム」
「小麦なら、スフィアの大地全域に自生している、ライト小麦を製粉すれば、使えるだろう。ホルタンクのミルクと混ぜれば、パンケーキが作れる。砂糖は糖花から精製すれば、手に入る」
おっちゃん、いい人過ぎる。何者なのかも知らない俺に、ここまで教えてくれるなんて。
「ホルタンクって、何ですか?」
「ホルタンクは乳牛モンスターさ。家畜として飼っている者もいるが、野生にもいる。白い肌に黒のぶち模様のやつなんだ」
「乳牛ですか」
「煮詰めて砂糖を加えると、クリームも出来るから、ニイちゃんたちには、良いんじゃないか?」
「そうですね。おっちゃん、ありがとうございます」
そろそろ出るか。これ以上入っていたら、逆上せてしまう。
「今夜、泊まる所はあるのか?」
「いえ。馬車の中で寝ようと、思っています」
「それなら、俺ん家に来るか? 何も飲まず食わずは、倒れちまう」
「ありがとうございます。でも、ご家族にご迷惑が」
「構わないさ。何かの縁だ」
良かった! これで、俺の身の潔白が証明される!
俺は、無実のままだ!
「俺はKOHって言います。魔法使いです。相方はサーラ。回復術師です」
「俺はリチャード。農夫をしつつ、市場でパンとチーズを売っている。よろしくな」
「こちらこそ、よろしくお願いします!」
おっちゃんことリチャードさんの、お世話になることになった俺たち。
馬車の中で寝ようなど、どこぞの世間知らずが考えることか。
「えっ!? おっちゃんの家に、泊めてもらえるの!?」
「あぁ。何度も言わすな」
天然温泉を出て、先に待っていたサーラに、事の成り行きを説明する。
「賑やかになるなぁ。KOHとサーラが来てくれたら」
「おおお、おっちゃんに何故、私の名前がぁ!?」
「おっちゃんことリチャードさんに、サーラのことを伝えた」
「おっちゃん、リチャードって名前なのかぁ。よろしくね」




