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祓い屋(物理)の日常  作者: とど
四章
59/63

episode 24 悲劇の終点(2)


「……はあ」


 ため息を吐くのが日課になっているな、と鳴宮は至極どうでもいい感想を抱きながら夕暮れの中を歩いていた。

 今日は悪夢のノー残業デーである。労基に睨まれない為に無理矢理作られたそれは結局明日の残業が上乗せされるだけのものになっている。明日なんて来なければいいのに。

 ぶつぶつとそんなことを言いながら鳴宮はせめて今日は早く眠ろうと強く決心する。運が良ければまたあの温泉の夢が見られるかもしれないと、のろのろと歩いていた足を少し早めて帰路を進む。

 大通りを通り過ぎて少し狭い道へと入る。そして十字路を横切って少し歩いた所で、鳴宮は急に歩くスピードを落とした。十字路を通り過ぎたところで何かが見えた気がした。

 ちらりとしか見えなかったが、人が倒れていたような。


「……」


 鳴宮は数秒足を止めて迷った。しかし一年前ならば気のせいだと言い聞かせて通り過ぎていた。余計なことに関わり合いになりたくないし面倒だ。

 けれど、彼は踵を返して路地へと歩き出した。


 鳴宮は今生きている。だがそれがとある女性を犠牲にして生き残ったことを知っている。あの日から、彼はただ怠惰に生きているだけでいいのだろうかとぼんやりと考えるようになった。彼女にもらった命を、ただ無駄にすり減らしていくだけでいいのかと。

 とは言っても何か勉強を始めた訳でもボランティアをしている訳でもない。ただ以前なら見て見ぬ振りをした落とし物を交番へ持って行ったり、道を聞かれたら知らない振りをしてさっさと通り過ぎるのではなくきちんと答えたりと、そんなものだ。

 だから鳴宮は、人が倒れていたような気がした道へと戻った。気のせいだったのならそれでいい。だがもし本当にそうだったら。


「……あ」


 そこには、一人の少女が俯せになって倒れていた。今時珍しい着物姿の、三つ編みを結った少女はぴくりとも動かず、遠目では生きているのかすら判別できない。

 慌てて駆け寄ると鳴宮はまず一瞥して外傷がないかを確認した。出血はない。しかし間近で見ても全く動かない少女に、もしかしてもう死んでいるのではないかと嫌な予感がして背中に触れてみた。……冷たくはない、人並みの温かさがあったことに酷く安堵する。


「おい、大丈夫か……って、は?」


 あまり強くない力で肩を揺すってみると少し頭が動いて今まで見えなかった顔が僅かに見えるようになった。鳴宮は何処かで見たことのある気がするその横顔をよく見ようと体を仰向けにして、そこでようやく少女の顔がはっきり分かった。


「こいつ、祓い屋の!」


 何故か額に札を付けて目を閉じている少女は、鳴宮も何度か顔を合わせたことのある祓い屋の助手だった。ささらよりはあまり印象に残っていない……という訳でもなく、何故か往復ビンタをされて叩き起こされた嫌な記憶がこびり付いている。


 どうしてこんなところに倒れているのか。この札は何なのか。鳴宮は混乱しながらも119番はまずそうだと直感して、咄嗟に大学時代の先輩へと電話を掛けた。




   □ □ □ □ □ □ □




「……それじゃあ、俺はこれで」

「ああ。お前が見つけてくれて本当に助かった、ありがとう」


 軽く会釈をして鳴宮が事務所から出て行くのを見送ると、めぐるは大きくため息をついて茶々の自室へと戻った。


「……めぐる、様」


 部屋の布団に苦しげに横たわっているのは茶色のタヌキである。

 仕事が終わって少し仮眠を取っていためぐるに鳴宮から連絡が入ったのは一時間ほど前のことだ。その内容を聞いためぐるは起き抜けでぼうっとする頭を一瞬で覚醒させ、慌てて教えられた場所まで車を走らせて意識のない茶々を迎えに行った。


 道に倒れていたというので最初は車に轢かれたのかと思いきやそうではなかった。彼女の額に貼られていた札は所謂「あやかし封じ」と呼ばれるもので、めぐるも昔実家にあるのを見たことがあった。妖怪の力を根こそぎ吸い出して無力化させるもので、それに気付いた彼はすぐさま茶々の額から札を剥がしたが、かなり力を奪われた後だったらしく目を覚ました彼女は随分と衰弱していた。


「辛いだろ。無理に話さなくていい」

「いえ……そういう訳には参りません。ささら様が……ささら様が浚われてしまったのです」

「ささらが!?」

「はい。不甲斐ないことに、わたくしはささら様をお守りできませんでした」


 床に伏していた茶々がゆっくりと起き上がる。しかしふらついてすぐに後ろに倒れそうになったのをめぐるが支え、彼女を持ち上げて膝の上に置いた。

 茶々はタヌキの姿でも分かりやすいほどに苦しげに顔を歪め、大きな尻尾はだらりと下に落ちている。


「ささら様を浚ったのは……その、」

「……かなめ、だろ」

「え」


 言い淀んでいた茶々が目を丸くしてめぐるを見上げる。どうして分かったのかと驚愕する彼女を見て、めぐるは僅かに苦い顔で「当たりなのか」とため息を吐いた。


「あの札の書き方、どうみてもあいつのものだ。昔よく見たことがある。……当たってほしくはなかったがな」

「……はい、そうです。いつの間にか意識を取り戻していらっしゃったようで、かなめ様に気を取られているうちに」

「成程な……」


 めぐるは眉間に深い皺を刻み込んで頭痛を押さえるように米神に手をやった。兄が目を覚ましたことは吉報だが、それ以上にややこしい事態になっていることが判明した。


「それにしても、なんでかなめがささらを? あいつ何か言ってなかったか?」

「……」

「茶々?」

「結婚するのだと」

「誰が?」

「かなめ様が、ささら様と」

「………………は?」


 めぐるはたっぷり時間を置いた後、それでもその言葉が理解出来ずに首を傾げた。意味が咀嚼できない。理解したくないと思考が勝手にストップしてしまう。

 茶々はそんなめぐるを見上げながら、気絶する前のことを鮮明に思い出して言葉を続ける。


「家を継ぐことになったので早く結婚しなければならないと、そしてその相手はささら様にすると言っていました。お母様もそれに同意しているとも」

「……意味が分からない。だってあいつは妹だろう」

「ささら様も混乱しておりました。しかし法的には問題無いと」

「いや法とか以前になんでよりにもよってささらと……」


 いくら血の繋がりが無かろうと何故わざわざ妹との結婚を選ぶんだと思っためぐるだったが、はたと何かに気付いたように黙り込んだ。どうしてささらを選んだんだと思ったが、逆にささらでなければ困る理由があるとすれば。


「めぐる様?」

「……霊力と、それと遺産」

「え?」

「ささらと結婚することによって得られるメリットがあるとすれば、その辺りだ」


 ささらの霊力が莫大なのは周知の事実だ。そしてそんな彼女には父の遺産の八割が譲渡されることになっている。

 鬼怒田の跡継ぎに必要な霊力、そして何より金。家を継ぐかなめにはどちらも必要なものなのではないだろうか。

 めぐるがそう告げると、茶々は大きく目を見開いて「まさか」と呟いた。


「あのかなめ様がそんなことを考えて?」

「確かにあいつは打算的な性格じゃないが……数年経てばそれも変わってるのかもしれない。何より母さんまで同意しているのが怪しすぎる。あの人はあの事件の時ささらを犯人だと思い込んでたはずなのにな」


 殺人犯だと思っている娘を家に戻すのならば、それ相応の理由があってしかるべきだ。かなめは昔から穏やかでもめ事を起こすような人間ではなかったから、母親にそそのかされた可能性だってある。


「とにかく、ささらが連れ去られたとすれば行き先は一つだ。茶々、俺は今から実家に行ってささらを連れ戻してくるから、お前はここで安静にして」

「嫌です! わたくしも参ります!」

「そんなにぐったりしてるのに何言ってんだよ」

「こんなの大したことありません! ……ささら様が連れて行かれたのはわたくしの責任です。ですから、どうかわたくしの手でささら様を」


 茶々がめぐるの膝から跳ねるようにして飛び降り、手を合わせて人型に戻る。口調とは裏腹に分かりやすく青い顔をしている茶々をめぐるは止めようとしたが、茶々は彼の制止を振り切ってすぐさま部屋を出て行こうとドアノブを捻った。


「おい、茶々!」

「話は聞かせてもらった」


「……は?」


 茶々が扉を開け、そして移住区から玄関である事務所の方へと向かおうとしたその時、不意に目の前に大きな人影が現れた。

 扉のすぐ隣に居た為部屋を飛び出してすぐぶつかりそうになった茶々は咄嗟に足を踏みとどまったが、体調が悪い彼女はそのまま前に倒れそうになる。

 しかしその前に目の前の人影がしっかりと彼女の腕を掴んだ。


「俺も連れて行ってもらおうか」

「ひ、柊様!? どうしてここに」

「事務所の方には誰も居なかったんでな。悪いが勝手に上がらせてもらった」


 よお、と軽く片手を上げた人影――柊はにやりと企むように笑った後上着のポケットからおもむろにスマホを取り出した。

 茶々の後ろから部屋を出ためぐるが柊を見つけ、訝しげな表情を浮かべる。


「柊さん、何か用で」

「さっきささらの携帯から電話が入った」

「!」

「出てみても何にも言わねえし、折り返して何度も掛けたがまったく反応がねえ。しばらく待ったが流石におかしいと思って来てみりゃあ……ったく、面倒なことになってやがる」


 茶々が柊のスマホの着信履歴を覗き込むと、たしかにかなめと会っていたであろう時間にささらから着信が入っていた。恐らく、連れ去られる際に咄嗟に柊に電話を掛けたのだろう。ささらの携帯はガラケーなので画面を見ずともボタン二つで掛けられたはずだ。

 スマホをしまうと笑みを浮かべていた柊が不意に真顔になった。


「しかも俺に黙って結婚だと? 随分と馬鹿にされたもんだ」

「あの柊様、ささら様は勿論不本意で」

「分かってる。だからこそ、直接乗り込んで文句言ってやらねえと気が済まねえよ。元々あの家には色々思うところがあったんだ。……つーわけで、俺も連れてけ。まあ断っても勝手に追いかけるだけだが」

「……どうぞ、お好きに」


 妙に複雑な表情をしためぐるが少しなげやりになって了解すると柊はさっさと踵を返して外へ出て行こうとする。そんな彼の背中を眺めた後、めぐると茶々はお互い顔を見合わせて同時に小さくため息を吐いた。


「滅茶苦茶怒ってますね」

「ああ、声が震えてたな」

「めぐる様」

「?」

「ささら様は、良い人に出会えたでしょう?」


 のんびり話をしている時間はない。めぐる達は柊の後を追って急ぎ外に出ながら、しかしほんの少し場違いな笑みを浮かべた。


「ああ。……だからこそ、必ずささらを連れ戻す」




   □ □ □ □ □ □ □



 体が重い。頭が痛い。

 酷く倦怠感を覚えながら、ささらは重たい瞼を持ち上げてゆっくりと視線を彷徨わせた。その目に映るのは見慣れた自室でも事務所でもない。しかし何処かで見たことのあるものだった。


「あ」


 起き抜けの擦れた声が漏れる。無理矢理体を起こして改めて部屋の中を見たところで、ささらは此処が何処だか思い至ったのだ。

 壁は一面土の塗り壁で窓は一つもない。そして一つだけある扉は厚みのある錆びた鉄の扉になっている。足下には畳が敷かれているが、随分と古く黒ずんでいる。

 この場所をささらは知っている。幼い頃にかがりが連れてきてくれた実家の地下、座敷牢だった。


『ここは昔、悪い霊能力者や妖怪が捕まってたんだって』


 家の中を探検している時に、少し気味が悪そうな顔で姉がそう教えてくれたのを覚えている。

 しかしなんでこんなところに居るのか。ささらはそれを考え――そしてようやく今更になって自分が今実家にいることに気付いた。


「そうだ。私、兄さんに……」


 数年振りに再会したかなめに連れて来られたのだ。それも、結婚などという訳の分からないことを言われて。


「……あら、もう目が覚めてたの」

「!」


 此処に至るまでの状況を理解してようやく立ち上がろうとしたところで、不意に鉄の扉が酷く軋む音を立てながら開いた。そしてそこから五十代くらいの着物姿の女性が現れ、つかつかと座敷牢の中へと入っている。

 背筋の伸びたきりっとしたその女性を、ささらは酷く唖然とした表情で見上げた。


「お……かあさん」

「お帰りなさい、ささら。久しぶりね」


 聞き慣れたその声の主は柔らかい声で――しかし、能面のような無表情でそう言った。


「……」


 ささらは突然現れた母親に何も言えずに押し黙る。数年前、ささらを犯人だと決めつけてから、彼女とは一言も話していなかったのだから。

 しかし黙り込んでいるささらとは裏腹に、ささらの母はそれを意に介した様子もなく淡々を言葉を紡ぐ。


「かなめから話は聞いたかしら。あなたはかなめと結婚して、そして今後ずっとこの家に居てもらうことになります」

「な……んで、どうして」

「あなたに教える必要はありません」

「い、嫌! だって兄さんは兄さんだよ! 結婚なんて出来るはずない! そんなことして一体何の意味が」

「煩い!!」


 ささらの目の前で光が弾けた。気が付けば畳に転がっており、左頬がじわじわと熱を持ち始める。

 叩かれたとだと理解が追いついた時、母は能面を鬼の形相に変えていた。


「捨て子のあなたを家に戻してやるって言ってるんだから大人しく従いなさい!」

「!」

「あなたがかなめと一緒になれば、全部丸く収まるのよ。今のあの子がこの家を継いでも強い霊力も財産もない、たまたま残り物だから当主になれたなんて笑われるに決まってる! あなたがうちに戻れば、あの子は全てを手にいれることができる!」

「……な、ことしなく、ても」


 手加減無しで叩かれた頬の痛みに涙が出てきそうになる。ささらは乱暴に腕で顔を拭って体を起こすと、母親の威圧に必死に抗うように声を出した。


「そんなこと……結婚なんてしなくても、遺産が欲しいなら、上げるから」

「は」

「霊力は無理だけど、お父さんの遺産は全部お母さんや兄さんに譲るから、だから――」

「……どれだけ」

「え?」

「どれだけ! 私達を虚仮にすれば気が済むのよあなたは!」


 ひゅ、と風を切った手が再びささらの頬を襲った。それだけではない。頭を打ち付けるようにして倒れたささらを、母は怒りのままに殴り、蹴り、罵声を浴びせ続ける。

 ささらは何も出来なかった。ただ体を丸めて少しでも衝撃を弱めることしかしなかった。育ててもらった母親に反撃することなど、頭の片隅にも考えつかなかった。


「ふざけないで! なんで、なんでいつもあんたばっかり、あの子ばっかり……!」

「っ、」

「かがりが居る限り、かなめは絶対にこの家で一番になれない。あの子がいなくなってもあなたがいる! 家から追い出しても、あの人の関心はずっとあなたばかり。結局消去法で当主になれても……遺産の八割? あの人にとってそれほどあなただけが大事で、残った私達のことなんてどうでもよかったのよ!」

「あ、ぐ、」

「だから、見返してやる。あの人の思惑なんて全部潰してやる。かなめとあなたを結婚させてうちに縛り付けて、当主も遺産も全部あの子のものにする。かなめを顧みずにまったく血も繋がらない養子にばかり気を配るあの人に――復讐してやる」


 勢いよく腹を蹴り飛ばされ、壁に叩き付けられる。切れた口の中から血を滴らせたささらを見下ろし、彼女は再び無表情に戻った。


「あなたはこれから一切の外出を禁じます。死ぬまで、此処で暮らしなさい」


 それだけ言い残して、母親は静かに部屋を出て行った。扉が閉まってすぐに鍵が掛けられた音がした。


「……」


 壁に背を預けたまま、ささらはろくに動くことも出来ずに全身の痛みにただただ耐えた。

 痛い。腕も足も顔も腹も、心も。

 どうしてこうなってしまったのか。何が悪かったのか。これからどうなってしまうのか。


「お母さん……」


 昔の母は優しかった。養子のささらにも平等に接してくれて、こんな暴力を振るわれたことなど勿論一度もなかった。いっそ似ているだけの別人だったらよかったのに、現実はあまりにも非情だ。

 このまま母の言う通りにかなめと結婚するのだろうか。もう二度と外に出られないのだろうか。

 そんなのは嫌だと思うのに体が動かない。早く脱出しなければと思うのに痛みで思考が働かない。ささらは徐々にぼやけていく視界を止められず、そのまま抗うことに負けて目を閉じた。




   □ □ □ □ □ □ □




「ああ、可哀想に。痛かっただろう」

「……?」


 次にささらがぼんやりと目を開けると、そこに居たのは酷く痛ましげな顔をしたかなめだった。

 部屋は先ほどと同じ座敷牢だ。夢じゃなかったと酷く落胆しているとかなめは手に持っていた救急箱から消毒液やガーゼを取り出した。


「いっ、」

「めぐるほど上手く手当はできなくてごめん。しみるけど我慢して」


 消毒液に呻くささら宥めるように言い、かなめは少しずつ傷の手当を行う。そんな兄を、ささらは痛みを堪えながらそっと窺った。

 かなめの顔には心配や痛ましいと言った色しか浮かんでいない。それはささらの知る兄と同じもので、母親のように豹変している訳ではない。

 

「やったの、母さんだよね。……本当にごめん」

「……」

「もう二度とこんなことしないように僕の方から言っておくよ」


 母は豹変してささらを殴り、かなめは昔と同じ優しさで怪我の手当をしてくれている。大きく違う二人なのに、けれどもささらを結婚させようとするところは変わらない。それが逆に、かなめの行動を不気味なものに感じさせていた。


「……かな兄さん」

「本当に、ささらには酷いことばかりさせてしまってるね。今までの暮らしも大変だっただろう、小さいけど色んな傷跡が残ってる。もう祓い屋なんて危ないことはしなくていいんだよ」

「兄さん話を聞いて」

「それに、飛鳥君から呪詛を受けたって聞いたよ。本当に、本当にごめん。苦しかっただろう。……あれ、僕が教えた呪詛なんだ」

「話を――、え?」

「まさかささらに使うなんて思わなかったから、ごめんね」


 治療を終えたかなめがささらの手を取って、申し訳なさそうに眉を下げる。

 呪いや呪詛に詳しいはずもない飛鳥があんな強力な呪詛を知っていたことに違和感があったのは確かだったが、それを教えた人物が目の前の男だと聞いてささらは耳を疑った。


「なんで……いや、呪詛を教えるだけならまだしも、どうしてあんな命を削るような危険なものを教えたの!?」

「彼がどんな方法でも構わないから一番強い呪詛を教えてくれって言ったから。……それに、ね。ついでにそのまま飛鳥君が死んでくれたら、それはそれで都合がよかったから」

「……かな兄さん」


 ささらは信じられないものを見る目でかなめを見上げた。昔は優しくて大好きだった兄が、今は全く理解できない存在になってしまった。


「本当に、ささらに呪詛を掛けるなんて見当違いも甚だしい。八つ当たりもいいところだ。ささらは何も悪くないのに」

「兄さんは……兄さんは、私が何も悪くないって思うの」

「勿論そうだよ」

「姉さんを殺したって、そう思わないの」

「当たり前だ」 


 大きく頷いたかなめを、ささらは訝しげに見つめた。かなめも、母や周りと同じようにささらが犯人だと思っていると考えていたからだ。

 しかし彼は当然のようにそれを否定した。もしかして彼には、犯人が分かっているのだろうか。


 かなめは優しく、傷に触れないように慎重にささらの頭を撫でて彼女に微笑んで見せた。


「だって――」


 その表情にどこか寒々しさを覚えたのは、気のせいだろうか。








「――かがりを殺してしまったのは、僕だから」


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