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祓い屋(物理)の日常  作者: とど
四章
57/63

episode 23 生きた人形(2)


 夏木という男の人生は、五歳の時妹の為に買われた雛人形を見た時に始まったと言っても過言では無い。一点の曇りもない白い肌、澄ました赤い口元、微かに光の反射を返す真っ黒な瞳。夏木は一目見てその全てに魅了された。


 それからというもの、彼は様々な人形を集めるようになった。高校生になればバイトをしてその給料全てを人形に注ぎ込み、そして更にそれでは飽き足らず最終的に自らの手で人形を制作し始めた。

 周囲の人々は当初こんな年になっても、しかも男が人形に執着していることを嘲笑していたが、しかし次第に彼の作る作品が精巧な物に、それも美術的な価値があるものだと知ると周囲は揃って手のひらを返し始めた。夏木にとっては周囲の態度など気に掛けるものでもなかったが、邪魔をされないのだから都合がいいと思うだけだった。


 そうしてその道で名の知られる人形作家になった夏木は様々な人形を制作し、制作し、制作し……次第に、何かが足りないと思うようになった。


「……もっと、本物らしく。生きた人形を」


 夏木の人形はまるで生きていると言われるほどリアルな所が特徴だった。だがいくらそっくりでも、それは勿論本物ではない。人形は人間を模した作り物なのだから、どうしても“本物”になることはできない。

 だが夏木はそこで考えるのを止めなかった。より本物に近づけるにはどうすればいいのか。何が足りないのか。日々その疑問を頭に巡らせながら人形を作り続けていた彼に、ある日転機が訪れた。


「夏木、せんせぇ……」


 はあはあ、と荒い息を吐きながら夏木の工房に不法侵入していた女は、世間的に見れば彼のストーカーである以外に他ならなかった。あまり動じることのない夏木も家に帰っていきなり包丁を持った見知らぬ女に遭遇した時は驚いたが、彼が衝撃を受けたのはそんなことではなかった。


「せんせぇ、好きです……だから、私と一緒に」

「君、」


 女が髪を振り乱して包丁を夏木に向けて突き出す。しかし夏木は危なっかしく包丁を持つ手を器用に掴み取ると、それを奪って彼女を床に押し倒した。

 動けないように足で彼女の体を押さえつけた夏木は右手に包丁を、そして左手は女の腕を優しく掴み、恍惚とした表情を浮かべた。


「君の腕、すごく美しいな……だから、貰ってもいいかな」

「……え」


 状況についていけずに呆けた顔をしていた女の肩口に、夏木が力一杯包丁を振り下ろしたのは次の瞬間だった。






「本物になれない理由は――本物の材料を使っていないからだ」


 両腕を取り除き、大量の出血によっていつの間にか死んでいた女を処理してから、夏木はずっと抱えていた悩みにようやく結論を出した。


 それからというもの、夏木は“本物”の人形を作り上げるべく、様々な材料を手に入れた。ある時は勉強に来た美大生を、またある時は道ですれ違った主婦を、彼が部品にしたいと思うほど美しいものだけを集め続けた。

 しかしやはりこれらの材料はどうしても劣化が早い。防腐剤を詰めて冷蔵庫に入れていてもどうしても質が落ちていくし、全ての部品を探すのだって時間がかかる。

 そして周囲で何人もの人間が行方不明になれば流石に怪しまれる。その為夏木は怪しまれそうになる前に何度も引っ越しを繰り返し各地を転々とすることになった。「制作に行き詰まっているから気分を変えたい」という言えば、引っ越すのも周囲の人間はさほど気には留めなかった。


 男はまず、材料を手に入れる前にその選別から始めることにした。少しずつ集めれば最初に手に入れた材料が悪くなってしまうので、全ての材料を一度に集めようとしたのだ。

 腕、胴体、足、顔、髪、その他細かい材料。各地を転々としながらそれぞれに当たりを付けた夏木は、ようやく一度に材料を全て集めきった。

 これでようやく本物の、生きた人形を作ることができる。処理するものが多く酷く疲れたが、夏木は疲労が全て吹っ飛んでしまうほどに喜びながら、人形の制作に入った。


 だが出来上がった人形を見て、彼はどうにも納得ができなかった。


「なんか、違うな」


 出来上がった人形に一番似合うと思ったドレスを着せても、頭の中で思い描いたイメージとは何かが違っていた。しかし何がいけないのかが分からない。そしてイメージと異なったとしても、材料を加工することは殆どできない。

 完成と言えば完成なのだが、何とも納得しがたい。夏木はもやもやを抱えながらも、次の引っ越しをする準備をしなければならなかった。




「鬼怒田ささらです。よろしくお願いします……」


 彼女を見た瞬間、思わず喉が鳴った。

 引っ越しの為に他の仕事が間に合わずバイトを雇おうとした夏木は、面接に来たその女を見て思わず言葉を失った。真っ赤に熟れた果実のような赤い瞳は自信がなさそうに視線を逸らしており全貌をはっきりと見ることはできなかったが、それでも十分だった。

 自分が求めていたのはこの目だと夏木は瞬時に理解した。そうだ、あの人形は目が合わなかったのだ。あの人形にこの赤い目を嵌め込むのを想像してみれば、夏木は興奮を抑えきれなかった。

 まだ人形も作ったばかりで十分部品を入れ替える時間はある。表面上は繕って何の裏も無い明るい人間を演出し、しかしその裏ではささらの目を手に入れるタイミングを虎視眈々と窺っていた。






「みつけた」


 夏木はロッカーに隠れていたささらを無理矢理引きずり出すと、彼女を作業台に乗せて手慣れた動きで手足を机の足に括り付けて動かないように固定した。


「止めて下さい!」

「止めない止めない」


 泣きそうになりながら必死で抵抗しようとするささらを見ながら、夏木は宥めるように優しい声でそう言った。最初は皆こうして嫌がるのだ。けれども人形になってしまえば夏木の思うがままの、文字通りの“お人形さん”になってくれる。


「なんで、こんな」

「君の目がどうしても欲しいんだよ。これでようやく完成するんだ。俺の、完璧な人形が」

「人形……?」


 酷く困惑した様子のささらを尻目に、夏木はいくつかのノミを手に取ってささらの頭を押さえつけた。一点物の大事な材料だ。傷付けないように周りから少しずつ削っていかなければ。


「こ、殺さないで、殺さないで!」

「はは、何を言ってるんだ? 勿論殺す訳ないだろ? 君はあの人形の一部として生きていくんだから」


 動かない腕を強引に動かそうとしながら叫ぶささらに夏木が笑いかける。そして彼は何の躊躇いも無く手にしたノミをささらの目元に突きつけようと近づけた。

 興奮で手元が狂わないように、慎重に慎重にまずは目尻から皮膚を削り取ろうとし――。


 次の瞬間、夏木は後頭部に強い衝撃を受けて目の前が真っ暗になった。




   □ □ □ □ □ □ □




 ロッカーの中で走った鈍い銀色が、何か――そのロッカー自体を、まるで豆腐のように柔らかく切り裂いた。

 工房の入り口近くに設置されているロッカーが真っ二つになって崩れ落ちると、その中から現れたのは何故か宙に浮いている、鞘から抜かれた短刀だった。


「……」


 常人には見ることのできない男は手にしていた短刀をそのままに苛立たしげにロッカーの中から外に出る。彼自身は鍵が掛かっていようと関係ないが、物理的な実体のある本体を持ち出すにはわざわざロッカーを壊さなければならない。持ち主の居ない場でわざわざ人型になって刀を抜くことは酷く疲れるが、生憎そんなことを気にしている場合ではない。


「ったく、あのポンコツ主人。肌身離さず持ってねえと意味ねえだろうが」


 男――羽斬は舌を打って辺りを見回す。そしてすぐに抜き身の刀を手にしたまま動き出した。普段から馴染んでいる霊力の主の危機を感じ取って。

 主人の霊力を辿って羽斬はどんどん進む。地下への階段を下りるとやけに嫌な気配がしたが気にしている暇はない。目の前の邪魔な扉を音も無く斬り捨て、そして彼は……目の前で今にも顔にノミを突き立てられそうになっている情けない主人の姿を発見した。

 もはや考えることなど何も無い。羽斬は主人を襲う男の背後に迫ると、その首をかっ切ろうと喉元に刃を滑らせた。


 ところが男越しに羽斬を目にした主人、ささらは今にも首を飛ばそうとしている彼を見て自分の状況も忘れるほど焦った。


「こ、殺さないで、殺さないで!」


 何故だ。あんたは今その男に殺されそうになってんだぞ。

 必死に男を殺すなと訴えて来る主人に彼は呆れ返り、しかしそれと同時に短刀を鞘に収めた。

 そして直後、羽斬は苛立ちのままに鞘で男の後頭部を振り抜いた。




   □ □ □ □ □ □ □




「ありがとう……ホントにありがとう。殺さないでくれたし」

「はっ、俺はどこぞのタヌキと違って従順なんだよ」


 あっさりとささらを拘束していた紐を切って解放してくれた羽斬に、ささらはようやく人心地着いて礼を言う。力が抜けてへたり込んだささらを上から見下ろしながら、羽斬は相変わらず偉そうに腕を組む。


「でもどうして来てくれたの? 私が殺され掛けてたなんて分からなかったはずなのに」

「俺はお前の霊力食らってるんだ、それぐらい伝わってくる。……それにしても」


 羽斬は倒れている夏木を恐る恐る覗き込んでいる主人をぎろりときつい視線で睨み付けると、無理矢理頭を掴んで自分の方を向かせる。


「は、羽斬……?」

「何の為に俺があると思ってんだ。ここまで持ってこられた癖に置き去りにされた挙げ句主人が殺され掛けるとか俺を何だと思ってやがる」

「それは、大変申し訳なく……」

「何処にこいつみたいな変態野郎や怪異がいるか分かったもんじゃねえ。分かったら今後は常に持ち歩けよ。……はあ、疲れた」

「えっ」


 一つ舌打ちをした羽斬は、ふと大きくため息を吐くとその姿をゆっくりと消した。同時に手にしていた短刀が床に転がり、ささらは何が起こったのか分からずにその刀を拾い上げた。


「羽斬?」

『……霊力切れだ。少し休ませろ』


 姿は消えたものの、彼の声は刀を伝って頭の中に伝わってくる。


「霊力切れって、いつもはそんなことないのに」

『俺は本来人に使われるものだ。人型を作るだけでもそれなりに面倒だっつうのに、自分で刀を振るわされたら一気に疲れる。今日はしばらく手元から離れてたから余計に霊力が足りない』


 そもそもノーリスクで羽斬が自身を振るえるのならばわざわざ持ち主の体を奪ってまで戦う必要などない。本来彼はただの物なのだから、正しく持ち主が扱うのが一番効率がよく出来ているのである。


 気だるげに説明した羽斬に「そういうものなのか」と頷いたささらはひとまず外に出ようと立ち上がり、そのまま羽斬が壊した扉の方へと歩き出した。


 ――ッガツン、と叩き付けるような強い音が鳴り響いたのはその直後のことだった。


「な、なに」

『……ああそうだ、言い忘れていたことがある』


 何かを言い始めた羽斬の声を掻き消さんばかりに、突如鳴り響いたその音は続けざまに何度も何度も響き渡る。ささらはその音が、入り口と反対方向にある重たそうな扉の向こう側から聞こえているのに気付くと、思わず羽斬を両手で握りしめながら後ずさった。


『この地下室嫌な気配がする。やばいもんが出てきたら自分で対処しろ』

「え、ちょっと言うのが遅――」


 バキ、と何かが壊れる音がした。


「あ」


 急に全ての音が止み静まりかえる。そして、今し方音を鳴らし続けていたが軋む音を立てながらゆっくりと開き、部屋の中に冷気が入ってきた。


 それを見た瞬間、ささらは喉の奥が詰まったように悲鳴すら出せなかった。

 ひんやりとした空気を纏って扉の向こうからよたよたとバランスの悪い動きで何がが出てくる。長い黒髪を左右に揺らしながら現れたそれは人型で、けれども決して人とは呼べなかった。


「……ァ……」


 遠目から一見すれば、それはただの女性だった。しかし近付いて来るにつれてその全貌がはっきりする。ノースリーブで剥き出しになった肩は無理矢理くっつけられたような大きな跡があり、変色しているつま先は歩く度にゆらゆらと揺れている。そして何より際立っているのは、その顔のがらんどうの眼窩。本来眼球があるはずの場所は何も無く、窪みが薄暗い影を作り出している。

 ぐらりと頭が上がり、その眼球のない目がささらに向いた。


「ひいっ!? 何? 何!?」

『……複数の気配がするな』

「どういうこと……?」

『あれは複数の人間の体から出来ていて、更に言えばそれらの人間の魂がごちゃごちゃになってあの器に入っている』


「……ウダイ」


 女の体が近付く度に微かに腐った匂いが鼻につき吐き気が込み上げる。とにかくやばいものだと理解したささらはすぐに羽斬を抜いたものの、しかしいつものように意識が切り替わる感覚が一向にやってこない。


「は、羽斬?」

『だから言っただろ、休ませろと』

「もう少し頑張って!?」

『霊力足りてねえのに無茶言うな。……よく聞け。俺がお前の霊力を食らうように、お前も俺を使う間は力が流れ込んでいる。上手く扱えよ』

「それはどういう……羽斬? ちょっと羽斬さん!?」


「ソノ目、チョウダイ」


 気が付けば、まるで瞬間移動していたかのように女が眼前に迫っていた。


「は、」


 生暖かい息が掛かる距離。飲み込まれそうな眼窩の闇を数センチ先に直視したささらは、彼女の右手が自分の目に触れようとしているのに気付いて咄嗟に後ろに飛び退いた。


「え、ちょ、いっった!!?」


 しかし何故かその直後、彼女は背後――数メートルは後ろにあったはずの壁に思い切り頭をぶつけていた。咄嗟に勢いを付けたからと言って普段の彼女の脚力でこんなに飛び退ける訳がない。ささらは涙目で頭を押さえ、そして手元の短刀に目をやった。

 もしかして、これが羽斬の言う“力”だろうか。


「チョウダイ、チョウダイ……ヨコセ、」

「!」


 しかしじっくりと考え込む暇などなく女がぐにゃぐにゃと不自然に足を動かしながら勢いよく迫ってくる。再び伸ばされた白い腕にささらは反射的に右手を振り上げ、そして温いバターでも切ったかのようにその腕を肘から切り落とした。


「っ、う」


 ごとりと肘から先の腕が床に落ちて転がり、腐臭が強くなる。ささらは自分がやってしまったそれを見て思わず口を押さえ、よろよろと壁に背中を預けた。

 人間を――もう人間ではないのかもしれないが――自身の手で斬ったのは始めてだ。幽霊や怪異のように一瞬にして消える訳でもなく、方腕を無くした女はそれに気付いていない様子で目の前で真っ赤な断面を見せるように腕を突き出す。


「……やらなきゃ」


 今にも腰が抜けてしまいそうになるのを、自分に言い聞かせるように言葉にしてなんとか堪える。

 きっと彼女“達”は、夏木に殺されてこんな風にされたのだろう。ささらの目があれば完成すると言っていた人形は、恐らくこれのことだ。

 彼女達は被害者だ、何も悪くない。だからこそ、こんな状態のままで居させる訳にはいかない。人間としての尊厳を奪われたまま放置できない。


 ささらはすっと息を吸った。やるしかない。


 もう片方の手も伸ばして、女がささらの目に爪を突っ込もうと勢いよく突き出す。ささらはそれを避けようと首を動かすが、躱しきれずに鋭い爪が頬に食い込み切り裂かれる。


 落ち着け、冷静に、いつもこの目で見てきたように。

 不思議なほど凪いだ気持ちで、ささらは以前羽斬に意識を渡していた瞬間を、彼の動きを模写するように右手を振るう。

 分からなくても、分かる気がした。



 一閃。


「……ァ、ギャアアアアァアアア!」



 たったそれだけの瞬間で、彼女達は首、左手、胴体、右足左足とばらばらになって床に崩れ落ちた。血は流れない。ただただ、本物の人形の部品が積み上がったかのような光景だった。

 そして器を無くして放り出された青白い燃えるような魂に、ささらは酷く悲しい表情で刀を持っていない方の手で触れた。


「……安らかに」


 ささらの手に触れた瞬間蒸発するように消えた魂にそう呟き、彼女は膝をついて羽斬を鞘に収めた。




   □ □ □ □ □ □ □




「ささら様! あれだけ怪しいバイトには気をつけるようにと言ったじゃないですか!」

「いやだって別に怪しそうじゃなかったし……」

「もうこれからは事前にわたくしにちゃんと相談してください! 人間妖怪幽霊なんでも情報収集して徹底的に洗ってやりますから!」


 あれからささらはすぐに警察に通報し、乗り込んできた警官によってあっという間に夏木は逮捕されていった。工房奥の大きな冷蔵庫の中には何人もの人間の体の一部が残されており、酷く凄惨な光景だったという。被害者の数も多く、一体何人手を掛けたのか本人すらも覚えていないということで、警察はこれから大変な仕事が待っているだろう。


「ささら様聞いてます!?」


 そしてそんな大きな事件が報道されているテレビの傍で茶々に正座させられているささらは、そろそろ解放してくれないかとがっくりと肩を落としている。茶々の説教は長いのだ。


「聞いてるって。今度から新しいバイトをする時は先に茶々に言います……」

「約束ですよ? まったくもう、ささら様はホントに目を離すとすぐに危ないことに首を突っ込むんですから」

「突っ込むというか無理矢理突っ込まされたというか」

「その上怪我までこしらえて……ささら様に怪我を負わせるなんて羽斬は何をやっていたんです」

「いや羽斬は夏木さんに殺されそうになってたところで助けてくれたから」

「……ささら様? その話初耳ですが」

「あ」


 しまった、茶々に言うと余計に怒ると思ってそこだけは伏せていたのに。ささらが口を押さえるがもう遅い。目を吊り上げて体を振るわせる茶々は怒りで少々変身が解けた尻尾がバシバシと床を叩いている。


「ささら様――」

「あ、誰か来た! ちょっと出てくるね!」


 と、ちょうどそのタイミングでインターホンが鳴った。ささらはこれ幸いと逃げるように立ち上がりそそくさと扉へと向かった。

 ずっと正座していた所為で感覚のない足を無理矢理動かす。今はまだいいが、本当に痺れがきついのはこの後である。


「はーい、どちら様で」

「鬼怒田ささらさんはいらっしゃいますか」


 扉を開けると、そこに居たのは一人のスーツ姿の男性だった。白髪交じりの髪は丁寧に後ろに流して固められ、四角い眼鏡を掛けた男は見るからに厳格そうで、ささらは思わず背筋を伸ばした。


「あの、ささらは私ですけど……」

「ああ、失礼しました。私、こういうものです」

「はあ……え、弁護士?」


 流れるようにすっと差し出された名刺に書かれていた職業は弁護士。確かに改めてみればそう見えるな、と暢気なことを考えていたささらは、はた、と嫌なことに気が付いた。


 もし祓い屋の依頼ならば名乗るよりも先にささらに祓い屋であることの確認を取るだろうし、そうでなくてもあまり困っているようにも見えない。

 しかも職業が弁護士である。もしやこれは。


「あ、あの! この事務所は別に詐欺とかじゃないです! やばいことはしてません!」

「いえ、そのような用件ではありません」


 ばっさりと切られた。いや切られた方がいいのだが。


「え、じゃあ弁護士さんがうちに何のようで」

「やはり、ご家族からはまだ連絡が来ていませんか」

「は?」



「昨晩、鬼怒田総次郎さん……あなたのお父上が亡くなりました」


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