episode 14 私は誰?(2)
「ささら様、何が食べたいですか?」
ささらの腹の悲鳴から、ひとまず昼食を食べることにした四人は近場のファミレスに入って早速メニューを開いていた。
「何にしようかな……」
「好きなもの頼めばいいぞ、此処は俺が出すから」
「いや。元々約束していたのはこっちだ。俺が払う」
「うちの妹ですしそういう訳には……」
「あ、あの……よく分からないけど記憶無くなって迷惑かけてますから私が払います!」
「「は?」」
「ささら様……悪いことは言いませんからご自分の財布の中身をご覧下さい」
申し訳ない、と思いささらが挙手すると、めぐると柊が意味が分からないという顔をし、そして茶々が控えめに鞄を差し出して来る。
言われるがままに財布の中を確認したささらは閉口する。二人の表情の意味が分かったのである。
「す、少な……」
「いいからお前はとっとと食いたいもん選べ」
「は、はい……すみません」
呆れ返った柊が顔を顰めると、ささらはびくびく怯えながらぺこぺこ頭を下げ始める。最初の印象が悪かった所為か、柊に対してささらは目を合わせられない。慌てて顔を隠すようにメニューに視線を落とすと食欲をそそる美味しそうな写真の数々に目移りして中々決めることができない。
記憶を失う前の自分は何を食べていたのだろうとささらが首を傾げていると、隣に座った茶々がそれに気付きあれこれとメニューを薦めてくる。
「ささら様は好き嫌いなく何でも食べていましたよ。オムライスとかカレーとか、丼物もよく頼んでいましたし、あとは定食のランチセットもありますね」
「じゃあ……この日替わりランチセットにしようかな」
「はい、いくつ食べます?」
「へ? いくつ? そりゃあ一つに決まって」
「あー……ささら、もっと食べてもいいんだぞ。というかいつもはもっと食べてたぞ」
「え?」
ランチセットを一人で複数頼んでいたという以前の自分にささらは困惑しか浮かんでこない。お金もない癖にそんなに大食いだったのか。いや大食いだったから金欠なのか。
「ささら様は食い溜めが特技みたいな所ありましたから」
「食い溜め」
「普段あんまり食べられないからって、俺が外食連れて行くとここぞとばかりに詰め込んでたぞ」
「あ、厚かましい……」
「まあこれでも医者だから、使う暇は無いが中々稼いでるぞ? だから気にせずいつも通りどんどん詰め込んどけ」
「え、えーと……とりあえず食べてから考えます」
そう言ってひとまずランチセットだけを選ぶと、店員を呼んで茶々達も各々注文する。「少々お待ち下さい」と愛想の良い店員が会釈をして去って行くと、改めて柊が居住まいを正してまじまじとささらを見てきた。
案の定、ささらはその視線に怯えて茶々に身を寄せる。
「……本当に覚えてないんだな」
「す、すみま」
「別に怒ってる訳じゃねえよ。……事情も知らずに責めてさっきは悪かった。今更かもしれないが俺は柊、お前のとこの事務所のオーナー兼管理人だ」
「オーナー、ですか。てっきり……」
「てっきり、なんだ?」
「なんでもないです!」
ヤが付く職業か、もしくは借金の取り立て人か。ささらは言いかけた言葉を賢明にもぎりぎりで飲み込んだ。
「さ、ささらと言います……って知ってますよね。あの、さっきから気になってたんですけど事務所って一体何の事務所なんですか?」
「ん? そっちの嬢ちゃんや兄さんから聞いてないのか」
「そういえばまだ伝えていませんでしたね。ささら様、あなたは祓い屋を営んでいるんですよ」
「祓い屋……って、何?」
「悪霊を除霊したり怪異を追い払ったりして困っている方をお助けする仕事です」
ぽかん、とささらが呆けたように口を開ける。「悪霊、怪異……」とぶつぶつ言葉を繰り返した彼女は、少し怒ったような顔で茶々に向き合った。
「もう、揶揄わないでよ。いくら記憶が無くたって流石に冗談だって分かるよ」
「え? いえ、ささら様。冗談ではなく」
「幽霊なんている訳ないでしょ。で、本当は何の事務所なの?」
大真面目に尋ねるささらにその場が微妙な空気に包まれる。なんとも言えない表情を浮かべる三人に「え?」とささらが困惑していると、一つため息を吐いためぐるが代表して口を開く。
「ささら、お前はホントに祓い屋なんだよ。記憶を失う前のお前はそれはもう悪霊をばったばったと薙ぎ倒しててな……」
「悪霊を、薙ぎ倒す……?」
「素手でぶん殴って除霊しまくってたぞ」
「素手で……?」
悪霊退治というイメージからはかけ離れた言葉にささらがますます混乱する。
「あの、本当に?」
「俺達が寄ってたかって嘘吐いてるって言いてえのか? ああ?」
「本当なんですね分かりました!」
じろりと柊に凄まれて即座に手のひらを返す。柊が怖いのは勿論だが、ここまで言うのならば信じがたいが本当なのだろう。
己を納得させるように、そしてまた忘れないようにと心の中で『祓い屋』という名前を繰り返していると、早々と店員がランチセットを運んできた。
白米と味噌汁、ミニサラダにエビフライを始めとしたミックスフライ。ボリュームのある料理に再びささらの腹が大きく鳴き始めた。
「食べないのか?」
「また皆のが来てないので……」
「お気になさらず先に食べて下さい」
「でも」
「腹の音がうるさいからさっさと食え」
「……はい」
三人の声と食欲に負けてささらは箸を手に取る。そういえば朝起こされてすぐに病院へ行ったので朝ご飯も食べていなかった。
わくわくしながらエビフライをさくりと噛む。揚げ立てのようでじゅわっと味が口の中に広がり、空っぽの胃が満たされていくのを感じた。
「美味しい……」
「よかったな」
「よかったですね」
思わず口が緩んでそう呟くと、めぐると茶々が嬉しそうににこにこと微笑む。柊も微笑んではいないが、その強面の顔を僅かに緩ませているように見えた。
「それで……私は悪霊退治をしてるんだよね? 茶々はその助手ってことでいいの?」
「はい。わたくしは主に情報収集や護符などを作っていますね。基本的にささら様の支援で、実際に除霊するのはささら様の仕事です」
「私が除霊……すごいね、記憶ないけど今の私だったら絶対に出来ないよ。悲鳴上げて逃げ出してると思う」
記憶を無くす前の自分は大層勇敢だったのだろうなと考えていると、何故か茶々が「まあ……あの、その」と何か言いにくそうにして苦笑を浮かべていた。
「おまたせいたしました。刺身定食とハンバーグステーキ、オムライスになります」
「お、来たか」
「ん? 茶々はオムライスか。洋食頼むなんて珍しいな」
「うちでは上手く作れないのでたまには、と思いまして。ささら様、少しいかがですか?」
「え、いいの?」
「ハンバーグも食べるだろ? ほら、皿に置いとくから」
「あのお兄さん、一切れちょっと大きすぎませんか」
「刺身ご飯の上に乗せるぞ」
「柊さんまで……」
料理が届くやいなや続々とささらの皿にお裾分けが乗せられる。彼女はそれに感謝はしつつも「前の自分は一体どれだけ人様のご飯にがっついていたのだろうか」と遠い目になった。
□ □ □ □ □ □ □
結局、会計は柊とめぐるの割り勘で決着が着いた。
「本当にありがとうございました!」
「ご馳走様です」
「おー」
店を出るとささらと茶々が二人に頭を下げる。彼女達にめぐるは軽く返事をしたが、少し考えるようにしてから「あれだけで良かったか?」と妹に尋ねた。
「結局最初のランチセットしか頼まなかっただろ」
「だって皆が沢山分けてくれたから……」
「いつもならそれでももう一人前は頼んでたぞ? ホントに足りてるのか?」
「大丈夫です! 腹八分目です!」
「ならあと二割は詰められましたね」
「どっかコンビニ寄るか?」
「だからいいですって」
「別に無理に食べなくてもいいだろう」
いっそ過保護な程にささらに食べさせようとしている茶々とめぐるを柊が待ったを掛ける。
「腹が減ったらまたいくらでも連れてってやる。それでいいだろ」
「え」
「なんだ、俺とメシ食うのがそんなに嫌だってんのか」
「そうじゃないです、けど」
「なら話は終わりだ」
そう言うと、柊はさっさと踵を返して車へと向かってしまう。そんな彼の背中に少し驚いたように目を瞬かせたささら達の視線が突き刺さる。
「ねえ茶々、柊さんて……怖いけど優しい人なんだね」
「ええ、柊様はとても良い方です。大分ヤクザ顔で仕事以外では柄が悪い所を除けば」
「言い方……」
茶々の物言いを諌めながらも、ささらは同時につい頷いてしまった。
「……柊さん!」
二人が柊の話をしている中、めぐるは柊の背中をじっと見つめた後一人小走りで彼の後を追った。ちょうど車に乗り込もうとしていた柊を呼び止めると、彼はスマホを取り出して連絡先を尋ねた。
「俺はこれから仕事なので、もし妹に何かあったら連絡頂きたいのですが」
「ああ、構わないが」
「すみません。……今回のことだけでなく、いつもささらのことを気に掛けて下さって本当に感謝しています。色々と危うかったり手の掛かるやつだったりするとは思いますが、ささらのこと、これからもどうかよろしくお願いします」
「……まるで親だな」
「実際親代わりだと思ってますよ――っと、これでよし」
スマホの操作を終えるとささら達が追いついてくる。めぐるは二人の方へと向かおうとするが……その前に思い出したかのように再度柊を振り返った。
「ああ……それと、俺は妹を大事にしてくれるんなら年の差とか全然気にしませんから」
「は? ……おい、それは」
「おーいささら、兄ちゃんこれから仕事だから柊さんに送ってもらえよー」
柊の顔色が変わったのを見ためぐるだったが、それ以上の話は打ち切って近付いてくるささらに声を掛けた。
「それじゃあ柊さん、くれぐれも二人のことをよろしくお願いします」
「おいこら話を――」
めぐるは自分を引き留めようとする柊を振り払ってさっさと自分の車の方へと歩いて行く。彼を止め損ねた柊は苦虫を噛みつぶしたような表情を浮かべており、柊の元へやって来たささら達は不思議そうに顔を見合わせた。
「まさか、な。ちょっと鎌掛けてみただけだったんだが……」
車に乗り込みながら、めぐるは少々複雑な表情で一人呟いた。
□ □ □ □ □ □ □
「柊様、少し上がって行かれませんか? コーヒーくらいなら出せますよ」
「ああ、貰う」
事務所に着くと茶々からそう促されて柊も一緒に家の中へと入る。元々ささらを食事に誘っていた時点で今日は特別予定もなかったのだ。細々した仕事がない訳でもなかったが急ぎでもなく、こういう所は一般的な会社勤めとは違い融通が利く。
「ここが事務所……」
「自宅も兼ねているんですよ」
恐る恐る、といった様子で事務所に入ったささらはきょろきょろと忙しなく周囲を見回したかと思えば、すぐに拍子抜けしたように肩を落とした。
「ささら様?」
「……祓い屋の事務所っていうからもっとおどろおどろしいのかと思ったけど、案外普通なんだね」
「んなやべえ事務所に客なんか来ねえだろ」
「そう言わればそうなんですけど」
壁一面に怪しい御札が貼られていたり、曰く付きな壺があったり……と想像していたささらだったが、中は何の変哲も無いごく普通の事務所だった。テーブルとソファ、あとは精々色々置かれている棚があるくらいである。
「……で、お前はなんで記憶喪失なんかになってんだ。昨日の夜電話した時は普通だっただろうが」
「それを今の私に言われても何も覚えてないんですけど……」
「原因は今のところ分かっていません。お医者様もはっきりとはおっしゃっていませんでしたし」
「ささら、どっか痛い所とかないのか? 何かの拍子に頭打ったとか」
「強いて言うのなら……さっきは柊さんに押さえつけられて頭は痛かったとしか」
「……柊様」
「すまん」
茶々にじと目で見られた柊が気まずそうに目を逸らす。
「それにしても……やっぱり私が祓い屋って全然信じられないなあ。悪霊と戦うなんてちっとも想像出来ないし、そもそも幽霊が居るってこと自体が信じられない」
「まあ普通はそう思うだろうな」
「助手の茶々はともかく、柊さんはそういうの信じるんですか?」
「お前に何件も事故物件の対処を頼んでるし、そもそも俺も薄らなら見えるぞ」
「あれ? 柊様って霊感ありましたっけ?」
「少し前からな」
「そうなんですか……。幽霊ってホントに居るんですね。実際に見ないと信じられなさそうですけど」
「――なら、実際に見てみるか?」
話を聞いてもいまいち信じがたい。そうささらが呟いたその時、不意に知らない声がどこからか話に割り込んできた。
「え?」
「ささら様!」
声に釣られて顔を上げたささらの目の前に、どこか憮然とした表情を浮かべた男が居た。
刹那鋭く声を上げた茶々は、ぽかんとしているささらを背に庇い、即座に男に向かって札を投げる。しかしそれは男に当たる前に器用に指に浚われ、はらりと力なく床に落ちた。
「札を無駄にしていいのか? 結構金掛かってんだろ?」
「黙りなさい! 此処には霊が入り込まないように結界があるのに一体どこから……」
「さあて、何処だと思う?」
いきなり目の前に現れた男は、ざんばらの黒髪を雑に払いながらにやりと笑みを浮かべる。弓なりになった赤い目がささらを捉えると、柊は咄嗟その視線を遮るようにささらを腕を引いて前に立った。柊では霊相手に立ち回ることなどできないが、記憶を失い何も分からないささらよりはましだ。
「ちゃ、茶々、これが幽霊なの?」
「少なくとも人間ではありません」
突如として事務所の中に出現し、そして茶々を札を軽くいなした男。足は軽く浮いて床に着いておらず、そして時代錯誤な和服に身を包んだ彼は強い警戒を見せる茶々を見て「おお怖い」と煽るように軽く肩を竦めた。
「随分とご挨拶だな。そっちの男も、狸に至っては二度も助けてやったっていうのに」
「助けた……? 何を言って」
「まだ分からんのか。どこから入ってきたって? そんなのずっと最初から家の中に居たに決まっているだろう……そこの棚の上に置かれてな」
ささら達の視線が自然と棚の上へと向かう。あるのは置き時計と月見からお土産に貰った海外のよく分からない置物、そしてもう一つ、棚の端に置かれていたのは鞘に収められている一振りの短刀だった。
それを見た瞬間、弾かれたように茶々が男を振り返る。
「あ、あなたもしかして、羽斬!?」
「羽斬って……あのやべえ刀じゃねえか」
「刀?」
「そこの主人には一度顔を合わせたが……ったく、面倒なことになってやがるなこのポンコツ主人は」
男――羽斬はやれやれと呆れた表情を浮かべながら半眼になった。
「自我があるのは分かっていましたが、まさか人の形を取れるとは……」
「俺だって疲れるからわざわざ出てくるつもりなんて無かったが、揃いも揃って何も気付かない鈍いやつらばかりで仕方なく出てきてやったんだよ。感謝しろ」
「どういう意味です」
「こいつが記憶を失った原因に決まってんだろ。狸、お前こいつを見ても何とも思わねえのか? 普通すぐに分かるだろうが」
「分かる? そんなこと……」
すぐ見て分かれば苦労しない、と茶々がそう言いたげにささらを振り返る。じい、と半ば睨み付けるほど真剣な顔で見られてささらが気圧されていると、数秒後、茶々は突如限界まで目をかっ開いたかと思うとわなわなと体を震わせ始めた。
「あ、あの茶々、大丈夫?」
「ささら様!」
「ひぇっ」
「一体どうして……何でそんなに霊力が無くなってるんですか!?」
「やっと気付いたか。主人もポンコツなら助手もポンコツだな」
羽斬の呆れた声に構わず茶々はささらに詰め寄る。見れば見るほどささらの体にはいつもの莫大な霊力は存在せず、微かに感じる霊力は精々茶々と同等レベルになっている。
本来のささらの霊力は他の追随を許さないほど大きい。幽霊はおろか長く生きている妖怪だってそうそう敵わないだろう。普通人外ならばささらほどの霊力など一目見ただけでその異常さに気付くが……長く一緒に居過ぎた茶々は一々彼女の霊力など気に留めることも無くなり、そして記憶喪失になったという方に意識を取られ過ぎて霊力の増減など全く気にしていなかったのである。
しかし霊力がここまで減ることなど滅多にない。以前列車の形を成した霊の塊を相手にした時も霊力を使いすぎて倒れていたが、もしや今回もそれが関係しているのか。
「原因は知らんが一気に霊力を大量に失った、体に掛かる負荷は相当だろう。記憶ぐらい失ったって何ら不思議でもない」
「では、霊力がある程度戻ればささら様の記憶も元に戻ると?」
「さあな。そこまでは分からんが……少なくともいつもみてえに力技でぶん殴って解決とはいかん訳だ。それにその程度の霊力で俺を使おうとすれば確実に俺の力に呑まれるぞ。まあ俺はそれでも斬れれば別に構わんが」
「こちらが構います!」
「あの! 結局その人は何なの……? 刀って言ってたけどどういう」
「……しかもそいつ、前にささらを乗っ取ったやつなんだろ。大丈夫なのか?」
ぽんぽん話を進める羽斬と茶々に、ちっとも話に着いていけなかったささら達がようやく口を挟んだ。
「ふん……仕方ねえから改めて自己紹介してやるよ、ご主人サマ」
「うわっ」
瞬間、棚に置かれていた短刀が誰も触れていないのに浮き上がり宙を飛ぶ。そしてそれは、羽斬の手の中に綺麗に収まった。
「俺は羽斬、この刀そのものだ。妖刀やら聖剣やら好き勝手に評価されてるが、結局ただの蛇斬りの刀だ」
「刀……が、しゃべるんですか」
「これでも年期は入ってるんでな。まあ、霊力でも怪異でも何でも切れ味は保証する。使い過ぎて廃人になっても知らねえがな?」
「結局やべえ刀であることに変わりねえじゃねえか」
「酷いこと言うよなあ、俺はただ主人に忠実に仕えてるだけっつーのに。……と、何やら随分と懐かしい気配が来るな」
「え?」
戯けた態度を見せていた羽斬が、ふとその視線を扉の方へと動かした。何やら事務所の外が騒がしい。どたばたと忙しない足音が聞こえてきたかと思うと、すぐさまインターホンが連打されて室内に響き渡った。
「な、何ですか!?」
「すみません助けて下さい祓い屋さんっ!」
慌てて扉の前に向かった茶々がドアノブに手を掛ける前に外側から扉が開かれる。そしてそこから血相を変えて叫ぶ頭の寂しい中年男性が転がり込むように事務所の中に飛び込んで来たのだ。
いきなり何なんだ、と茶々が男を見ると何処か既視感があるような気がした。
「見たことのあるような……」
「俺に訳の分からん逸話を勝手に付けた、あの一族の男だな」
「え?」
「助けて下さい! 娘が、娘が浚われたんですー!!」
羽斬の言葉に茶々の記憶が呼び起こされる。突然駆け込んで来たその男は、以前料金代わりに羽斬を置いて逃げたあの男だった。




