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128組の勇者達  作者: AAA
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炎の壁から始まり問いで終われ

 背後から迫る黒い暴力から逃げようと、俺たちは必死に手足を動かした。

 しかし悲しいかな。空腹の上、魔族のような身体強化が使えない砦の兵士たちでは遅い。魔族に追いつかれるのも、時間の問題だ。

 勇者のポンタ、魔族のリシェルと、もどきの俺、そして謎理論で並走するジョウゲンだけなら、逃げられた。

 どうする? 見捨てるか。だが、ここで見捨ててラネージュでの防衛はどうなる?

 一人、二人しか兵士が帰ってこなかったら、士気は最悪だろう。だが、それで俺の命を懸けるか? ポンタやジョウゲンを危機にさらすのか? リシェルを魔族と敵対させるかもしれない状況に放り込むのか?

 考えがまとまらない。あまりにも想定外すぎる状況に、俺は天秤にかけるものを見極めることができなかった。


「ジャック殿!」


 ジョウゲンが背後を振り返り、声を上げた。

 振り返ると、片足の男が俺たちに背を向けて、迫りくる魔族の軍勢と対峙していた。


「足を止めるなぁっ」


 ジャックの怒声が、頬を撃った。ジャックはその場にひざまずき、両手の平を大地に付けた。まるで罪人のような格好だ。

 ジャックを中心に炎の壁が左右に広がった。炎は魔族の姿を隠すほど、長大な防壁となった。


「時間を稼ぐ。今のうちにラネージュに向かえ。お前たちの力はラネージュでも必要となる」


 ジャックが息苦しそうに大きく肩で息をしていた。

 誰ともなしに、俺たちはジャックに背を向けて駆け出した。

 助けたかった。けど、それは出来ない。

 手足の欠損に、満足な食事もできなかったジャックは限界だった。一緒に逃げていたら、逃げきれない。

 ジャックもそれを分かっているから、自分の命の限界まで使って、魔族を足止めしようとしているんだ。

 それを無碍にできるか!

 俺たちの逡巡が、救命を考える一瞬が、ジャックの貴重な命を無意味にする。命を賭した行為を、下らない良心や負い目で無碍にするな。

 悔しさで食いしばった歯の間から、抑えきれない感情が漏れた。


「クソッ! 生きろ。死ぬなって、言ってたクセに。自分の命は捨てるのかよ」


「ジャック殿の将としての生き様なのでござろう。部下のために、次のいくさのために、命を使い切る覚悟。見事でござる」


「そうね。言い方が悪いと思うけど、自分を含めて味方の良い殺し方を知ってるわね。ラネージュで指揮をとれていれば、どれだけの戦果をもぎ取ったのかしら」


「すまん。意味のない愚痴だった」


 両脇を走るジョウゲンとリシェルに謝る。

 ジョウゲンやリシェルの言う通りだ。

 ジャックは間違ってない。この場で一番多くの兵をラネージュへ帰還させる策をとったんだ。

 その策に乗るしかない能なしが、むやみに非難していいわけない。

 俺に今できることは、一歩でも前に、少しでも早くラネージュに向かうことだ。それしか、ジャックの行為に答える方法はない。

 足に魔族の力を流し込み、速度を上げた。

 俺に合わせて、ジョウゲン、ポンタの速度が上がり、リシェルが立ち止った。


「リシェルッ!」


 足を怪我したのか?

 俺が振り返ると、リシェルは立ち止ったまま片手を上げていた。リシェルの背後には、親指大になった魔族の姿と槍に串刺しにされた肉塊が見えた。

 炎の壁は消えていた。


「ちょっと時間稼ぐわ。ここまで連れてきてくれたお礼よ」


 食事でも奢るぐらいの気安さで笑うリシェルに、俺たちは足を止めた。


「リシェル殿、諦めてはだめでござる。このまま走れば、逃げ切れる算段はあるでござるよっ!」


「……リシェル、逃げる。残る、駄目」


 ジョウゲンとポンタが、リシェルに逃げるように促す。

 リシェルは軍の人間じゃない。たまたま、助力に来た民間人だ。その上、走れる体力があり、逃げ切る可能性がある。

 片足で満足に走れず、体力も底をつきかけていたジャックとは状況が違いすぎる。

 リシェルが魔族だと知らないポンタやジョウゲンが、説得するのも当然だ。


「リシェル、大丈夫なんだな?」


 何が、とは言わなかった。ジョウゲンとポンタの前で、今から魔族側に戻っても大丈夫なんだな? とはさすがに聞けない。

 俺の意を汲んだのだろう、リシェルは軽く頷いた。


「ま、大丈夫でしょ。わたし、魔族だし、魔王直属の特殊部隊の一員よ。この場に残ったからって、リンチに遭ったりしないわ」


 ちょ、リシェルさん? 俺が折角黙ってたこと、なんであっさり言っちゃうんですかぁ?


「そう言うことだから、わたしに気遣って残らなくていいわよ。仲間の所に戻るだけだもの。時間稼ぎは、ここまで運んでくれた馬鹿な荷物持ちへの恩返し」


 ああ、そうか。これ以上は、人間側に与するわけにはいかないのか。

 そうだよな。魔族の軍が、人間側の予想だにしない奇襲で被害を受けたんだ。これ以上、俺たちの味方をしたら、魔族側に戻れなくなる。

 このあたりが、潮時か。

 最後に俺が、リシェルに騙されていたようにフォローするあたり、頭の回転が速いな。


「そうか。だったら、遠慮はいらないな。ジョウゲン、ポンタ、逃げるぞ」


 俺は、呆然としているジョウゲンとポンタの手を引いて、逃げ出した。リシェルから背を向けて、振り返らなかった。

 走る。

 走る。

 俺たちは、息を切らしながらも、必死に逃げていた。

 他の兵の姿は見あたらない。

 逃げ切ったのか。それとも……殺されたのか。確かめる術はない。余裕もない。

 ジャックが命を賭け、リシェルが自身の正体を明かして稼いだ時間は、もう殆ど使い切っていた。

 背後から聞こえる鎧を揺らす音は、確実に大きくなっていた。追いつかれるのは時間の問題だ。


「ふむ、そろそろ牽制が必要でござるな」


 ジョウゲンが足を止めた。堅い金属音が響いた。

 振り返ると、ジョウゲンが剣で魔族の槍を受け止めていた。

 もう、こんなところまで来ていたのか!

 気付けば、四方を魔族に取り囲まれていた。どいつもこいつも、全身鎧に包まれた体を丸めて盾に隠れ、右手に持った槍の穂先を俺たちに向けている。


「……相手、六人。逃げる、無理」


 ポンタは、どこからともなく姿を現した緑色の棒を構える。僅かに歪曲した棒の先端は針のようにとがっており、その表面はガラスのように滑らかだ。

 あれがポンタの勇者としての武器なんだろう、コーズの白神宝剣びゃくしんほうけんやヒルデルカの紅輝武甲こうきぶこうと同じプレッシャーを感じた。


「だな。こいつらを何とかしないと、」


 俺も腰の剣を抜き、魔族の力を高めた。大した量じゃないが、それでも少しづつ溜めていた力は、もう、ひよっ子と呼ばせないぐらいはあるつもりだ。

 俺たちが武器を構えても、魔族の動きは変わらない。少しづつ、包囲を崩さないように息を合わせて、間合いを詰めてきた。

 さて、どうする?

 時間が経てば経つほど、こっちが不利だ。魔族側は援軍が来るだろうし、包囲網が狭まれば動きづらくなる。少人数の俺たちが、魔族の包囲網を突破するには、隙をついて脇をすり抜けるしかない。

 魔族側も分かっているんだろう、動きに隙がなかった。左右に微妙に位置をずらしながら、近づいて来ていた。

 クソ、これじゃ、飛び出すタイミングが掴めない。失敗して、穂先に飛び込むなんてのは勘弁だ。

 張りつめた空気をのんきな声が、緩ませた。


「六人でござるか。まぁ、逃げる駄賃としては、まずまずでござるな」


 ジョウゲンが剣を肩に担いで、包囲する魔族に一人に向かって歩き出した。穂先に自ら貫かれに行くように、真っ直ぐ魔族に向かった。

 ジョウゲンの暴挙が、魔族側の連携を僅かに乱した。さっきまでは蟻一匹抜け出せそうになかった陣に、ネズミぐらいなら抜け出せそうな隙が生じた。

 俺を含めて、誰もその隙をどうこうしようとしなかった。いや、出来なかった。

 ジョウゲンが穂先が胸に当たる位置に着いたからだ。俺からじゃ、ジョウゲンの背中しか見えないが、おそらく槍の先端とジョウゲンの体の間に、拳一つ分の隙間もないだろう。


「ん、突かんでござるか?」


 ジョウゲンが首を傾げた。

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