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128組の勇者達  作者: AAA
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~遠く離れた地より~ 大司教様のアンニュイな午後

 信徒からの謁見を終えた大司教 コール・シルグナント=ヴァルスが、政務室に戻ると先客がいた。

 一人はコールの片腕で、昔からの部下ダウン司教だ。背筋をしっかり立て、服には染み一つない。猫背で、服の裾に汚れが見えるコールより、ずっと大司教に向いてそうな堅物である。

 もう一人はコールの知らない男だった。羊皮紙で埋め尽くされた床に膝をつき、こうべを垂れているので、顔は分からなかった。だが、一度でも見た事があれば、姿勢や体格から思い出せる。

 コールの密かな特技だ。光神教のトップである大司教になってからは、必要に迫られ特技を技術まで磨き上げた。

 なにせ、誰も顔を見て話してくれないのだ。恐れ多いとこうべを垂れられては、顔以外で識別するしかない。


「大司教様、聖女様に同伴されております聖神信徒兵隊、近衛兵レティシア様から手紙を預かっております」


 男が懐から手紙を取り出した。

 手紙を見てコールは、そろそろ定期連絡の日だと思い出した。このところ、最前線のために忙しく動き回っていて、不覚にも忘れていた。

 コールは手紙を受け取り、頬をほころばせた。レティシアからの手紙は、彼にとって同じ直径の金剛石より価値があった。


「おお、レティシアからの手紙ですか。この中に聖女タンの赤裸々な生活が、ハァハァハァ」


「落ち着け」


 思わず手紙を頬ずりしそうになるコールをダウンが殴り倒した。コールは頭に出来たコブを撫でさすり、ダウンに恨みがましい眼を向けた。


「……痛いじゃないか」


「今は使者もいるんだぞ。アホなことするな」


「ああ、そうだった。うおっほん、君、手紙は受け取りました。お勤めありがとう。疲れただろう、今日はもう休んで構いません」


 コールは慈愛に満ちた顔を作り、男の後頭部に注いだ。顔が見えてない以上、どんな顔をしても問題ないのだが、気分がある。

 偽善に満ちたクソ怪しい詐欺師みたいな笑顔でないとコールは、大司教としての振る舞いに気分がのらない。

 使者は感謝の言葉を述べる、一礼し、顔を下に向けたまま部屋から出ていった。扉が閉まり、靴音が遠くに消えた。

 ダウンがジト目でコールを睨んだ。


「発言には気をつけろよ。お前が、少女趣味の少年上等幼児愛好者だと知られたら、アタッカーやシーフがこれ幸いに、お前を追い落とすぞ」


 ダウンのあんまりな言い草に、コールは憤慨した。コールにも矜持がある。誤解されたままでいいわけがなかった。


「失礼な。私はトイレやお風呂やベットの中までついて行っても見てるだけです。性的犯罪者と一緒にしないで下さい」


「その時点で犯罪だ……て、そうじゃないだろう。ホントに分かってるのか、いくらガーディアンが最大派閥だからって、他の派閥との力の差がそれほどあるわけじゃない。隙を見せたら食い殺されるぞ」


 ダウンの言う通りだった。光神教にも派閥がある。他の二派閥アタッカーとシーフは、今も大司教の座を虎視眈々と狙っていた。


「分かってますよ。分かってます。それより、レティシアからの手紙を見ましょう」


 コールは煩わしそうに手を振って、話を打ち切った。胸の高鳴りに任せ、ロウ付けされた手紙の封を切った。

 手紙にはレティシアらしい几帳面な文字が並んでいた。クセがなく、一文字一文字しっかり書かれているので読みやすい。

 手紙を読み始めたコールの顔が曇った。聖女のあられもない日常をつづった手紙を期待していたコールの目には、聖女様誘拐、魔族の仕業、勇者の協力により奪還、と不穏な文字が躍っていた。

 二度、頭からしっぽまで読み直したコールは、ダウンに向けて力ない笑みを浮かべた。


「困ったことになったよ」


「困ったこと? ついに聖女様も月ものが始まったのか」


「ハッハッハッハッハッ、そんなわけないだろうがっ!」


「いやすまん、冗談が過ぎた。だから血涙を流した顔を遠ざけてくれないか。四十過ぎた男同士の距離としては、近すぎる」


「ああ、ごめんね。分かってくれればいいんだ」


 コールはダウンの襟から手を離すと、自分の椅子に座った。ダウンに手紙を放った。受け取ったダウンが手紙に目を走らせた。次第にダウンの顔が曇って来た。


「聖女の力と魔王の力を合わせると、爆発的に強くなるらしい。勇者でさえも単独では勝てないぐらいに」


「ほう、それはアタッカーが聞いたら泣いて喜びそうな内容だな。あいつらは、東国あずまのくにや未開の開拓で、いつも戦力を欲してる」


「その上、それの儀式用の道具も魔族から接収済みだって」


「それはシーフが喉から手を出しそうなものだな。その道具があれば、俺達とアタッカー間のコウモリで、上手い汁が吸えるだろう」


 打てば響くとはこのことだろう。コールが一から五まで話せば、ダウンは残り六から十を補足した。


「問題は普通の手紙で報告されてるんだよね。これ絶対、アタッカーやシーフにもばれてるよ」


 コールが肩をすくめると、ダウンも同意した。


「だろうな。それどころか、西の大国、ルソレイルにも情報は伝わっているだろう」


「やっぱり? アタッカーは向こうの聖女”色のアルミス”が本流だもんね」


「それどころか、ルソレイルが魔族と繋がっている可能性もある」


 ダウンの言葉を飲み込んだコールは、苦いものを食べたように舌を出して眉をしかめた。


「うへぇ、それ本当?」


「予想だ。六十人を超える大部隊が、こちら、東側の前線を見つからず通れるわけがない。怪しい一団を見たという報告もなかった。となれば、西側から侵入したと考えたほうが自然だ」


 その通りだった。だからコールは、しばらく忙しかった。心配性の血が騒いだのだ。


「あれ、て事は、アタッカーと魔族が結びついてる可能性もあるの?」


 コールは自分で問うて、すぐに否定した。


「いやいやいや、それはないでしょ。未開出身が勇者になっただけで、ふさわしくない、処刑だ、て騒いでたアタッカーだよ。あいつらが魔族と手を組むわけないじゃん」


「シーフが暗躍してるんだろう。むこうの聖女”色のアルミス”は、未だにその役割、聖宝せいほうの義を執り行っていない。アタッカーは儀式の遅れを取り戻すので忙しいだろう。シーフが付け入る隙はある」


「ああ、やだやだ。なんで同じ人間、同じ聖神様を信じてるのに、対立するのかなぁ。皆、水辺で戯れる幼子を見ようよ。水にぬれた服が肌に張り付いて透けたり、未成熟な四肢が無防備に投げ出されてる姿を見たら、皆、権力なんてくだらない、て分かるよ」


 本気で嫌そうに顔をゆがめるコールの頭を、ダウンが軽くひっぱたいた。


「分かるか。分かるのは、十二歳以下の子供に近づけてはいけないクソが生きていることだけだ」


「そうかなぁ? 友達は皆、権力争いをやめたよ」


 コールは、ダウンの意見に懐疑的だった。子供は次をつなぐ宝だ。宝を見て、宝を守ろうとしない人間なんていない。コールはそう信じていた。


「代わりに、喋る前と後に、幼女、とつけるようになったがな。と言うか、あの後始末どれだけ大変だったと思ってる。ああっ、思い出しただけで腹が立つ」


 ダウンがおもむろにコールの顔を片手でつかみ、握りつぶそうとした。コールの耳に骨の軋む音が聞こえてきた。

 肉をちぎられ、骨を砕かれそうな痛みに、コールは悲鳴を上げた。


「痛い、痛いっ! 指が食い込んでる。指が食い込んでる」


「おっと、すまない。顔だけは無傷でないと、公務に差し障るな」


 コールの悲鳴を聞いて気が済んだのだろう、ダウンが顔から手を離した。


「そうだよ。この顔は、光神教の顔なんだから大切に……あれ? 今、言外に顔以外なら重傷でもいい、て言わなかった?」


「それで、ルソレイルが魔族と繋がっていて、アタッカーやシーフが暗躍していることをあらかじめ予想していた大司教様は、いったいどんな手を打ったんだ?」


 コールはお見通しかと苦笑し、人を食ったような笑顔で言った。


「ハハ、別にたいしたものじゃないよ。ただ、最強には最強を、奪われるものは安物から、それだけださ」

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