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128組の勇者達  作者: AAA
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悪夢から始まり魔族で終われ

 大樹から少し離れた草原には、色とりどりの花が咲いていた。

 懐かしい。いつもここで木の枝を振り回して、目に見えない魔物と戦っていたんだ。一角獣、一つ目巨人、複合獣ふくごうじゅう、そして、ドラゴンや竜。

 空想の中なら、俺は何にでも勝てた。それが空想の醍醐味だよな。

 その懐かしい場所が目の前に広がっている。分かっている。これは夢だ。現実の俺は、もっとの北の小国にいる。

 そう、魔族の軍と交渉する為に移動中だった。夜が来たから、二交代で寝る事にして、今は草原の上に寝ているはずだ。

 あー、きっと、うなされているんだろうな。先に起きてるジョウゲンやポンタが心配しなけりゃ良いんだがな。

 こうして、現実に現実逃避している俺の耳に、忌々しい無邪気な歓声が飛び込んでくる。


「できたー」


「上手な花輪ね。どうするの?」


「こうするー」


「あ、ありがと。じゃあ、こ、これはわたくし様からのご褒美よ」


 チュー


 あーあーあーあー、見たくなーい。聞きたくなーい。

 瞼を閉じて耳を塞ぐが、効果はない。瞼を閉じても景色の隅から隅まで見渡せ、耳を塞いでも、聞こえる虫の鳴き音が減る事はない。

 ええい、夢ってのは本当に面倒くさい。

 諦めて、目の前にいる糞ガキと美少女に意識を向ける。

 幼いころのカール君とその妄想少女です。

 ここ数日、夢の内容が変わってきた。今までは、爺さんに飯を届ける辺りだったんだが、その後の話が作られてしまったんだ。

 俺が一人、木の棒を振り回していた草原で、糞ガキと美少女がお花遊びをしている。

 うん、いっそ殺せ。どんな拷問なんだよ。これなら、寝小便して、母さんにフルチンで尻叩かれた事の方がましだ。

 悶える俺が見えていなんだろう、美少女と糞ガキが笑いあっている。


「ここはいろんな色があって綺麗ね」


 美少女が辺りを見渡す。糞ガキもつられて首を動かした。


「うん、赤、青、黄色、いろーんな花があるね」


 いっぱい、と両手を広げる糞ガキに、美少女が少し意地悪そうな顔を向ける。


「カール、こんな話知ってる?」


 そいつをっ! その名でっ! 呼ぶなっ!

 俺の絶叫は届かない。この夢の世界では、俺はいないものとして扱われている。鳥や獣、虫や風さえも、俺をいないものとして通り過ぎていくんだ。

 当然、草原をのたうち回る俺を気にする奴なんていない。


「おはなし?」


「ええ、世界ができる前、白と黒があったの。白と黒は寂しかったから、いろんな友達を作ったのよ。赤、青、黄色、緑、青緑、赤紫、そして明るいの暗いの」


 何の話だ? そんな神話あったかな。


「へー、たくさん友達ができたんだ! 色んなのが居て楽しそう」


 目を輝かせる糞ガキに、美少女は悲しそうに首を振った。


「ううん、楽しくはならなかったの。白と黒は、友達を作ってる時に喧嘩しちゃったの」


「なんで喧嘩しちゃったの? 仲良くする方がいいじゃん」


「白も黒も大切なものが見えなくなっちゃたのよ。白と黒は、一緒で意味があるのにね」


「大切なもの?」


 首をひねる糞ガキに、美少女が手を伸ばして、そっと抱きしめる。


「そう大切な気持ち。ずっと一緒にいるって気持ち。カールとわたくし様みたいな気持ちね」


 糞ガキの顔から火が吹いた。その癖、頬が緩んで非常にだらしない顔になっている。

 俺なら殴る。こんな情けない顔をしたガキがいたら、絶対殴る。


「……う、うん。分かったよ。僕はずっと一緒にいるね」


「うん、素直でよろしい。これはご褒美よ」


 ちゅー


「ギャアァァァァァアァァァァァァァ」


 二度目のおぞましい光景に、俺は喉の奥が居たくなるまで絶叫する。

 目の間には真黒な空に白い砂粒の様な星が瞬いていた。かすかに風が凪ぎ、草々が互いをこすり合わせる音が聞こえた。

 背後から届く風が、背中や首筋に溜まった汗の冷たさを感じさせてくれる。

 俺は額ににじむ汗を袖で拭い取る。


「か、カール、どうしたのいきなり。わたし、肩を揺すっただけよ。決して、交代の時間になっても起きないカールの鼻から雑草を生やして憂さ晴らししようとか考えてないんだからね」


 と、両手に草を持ったリシェルさんが言っております。

 突っ込んだ方がいいんだろうか。いや、寝坊したのは俺の落ち度だ。未遂くらいは許してやるのが、大人の対応だろうか。

 それはともかく、酷い夢だった。何だあのわけの分からない話は? 思い出しただけで、吐き気をもよおす。


「カール?」


 リシェルが眉をハの字にして、心配そうに覗きこんできた。


「ああ、なんでもない。ちょっと夢見が悪かっただけだ」


 床に敷いた厚手の布を折り畳みながら、答える。

 地面で寝るのはかなり辛い。草が生えていても、土の固さや冷たさがなくなるわけじゃないし、石や砂利が地味に痛い。今回みたいに余裕がある時は、下に一枚なにか敷物を用意するだけで、随分寝やすくなる。


「そう、なら早くこっち来てちょうだい。一人で火の番なんて退屈なんだから」


 焚火の前に座ったリシェルが、体面を指す。そこに座れと言う事だ。

 俺はそれに従う。対面で座っていれば、お互いの死角を消す事が出来る。理想は背中合わせだが、一晩中、背中を向けたままなんて気まずすぎる。

 ジョウゲンとポンタは焚火から少し離れた位置で、横になっていた。ジョウゲンとポンタが火から離れているのは、軍の斥候が敵と勘違いして攻撃して来た時の備えだ。後、真夏に焚火の近くは暑いという、重要な理由もある。

 俺は手近にあった枝を炎の中に投げ入れる。一瞬、焚火が揺らぎ、爆ぜる音が耳朶を叩いた。

 辺りは静かなもので、俺達以外誰もいない。

 そして、幸いな事にポンタとジョウゲンは寝ている。

 明日には魔族の軍と接触するんだ。チャンスは今しかない。

 俺は意を決して口を開く。


「なぁ、リシェル。これからどうする気だ?」


「どうって?」


「魔族の軍と接触したらだよ? ポンタとジョウゲンが一緒じゃ、すぐにわたしは魔族です、てわけにはいかないだろう」


 そう、今後のリシェルの動きが心配だ。リシェルの行く末的にも、この交渉的にも。


「ああ、その事。安心しなさいよ。この交渉が終わるまでは、戻るつもりはないわ」


 リシェルはひらひらと臭い匂いを払うように手を振った。


「いいのか?」


「ええ、その方が都合がいいわ。折角できた勇者達との伝手を切らずに済むもの」


「ヒルデルカやコーズは知ってるし、あんまり意味ないんじゃないか?」


 リシェルが魔族だと知っているヒルデルカやコーズが、リシェルの為だけに力を貸すか、と言ったら、微妙な気がする。

 いくらコーズと言えど、無条件で手伝うなんて言わないはずだ。あいつのハーレム要員が絶対止める。


「あの二人が言いふらすと思う? ついでにレティシアも。わざわざ吹聴するわけがないわ」


 そう言われればそうだな。ヒルデルカやコーズがわざわざ、リシェルが魔族だなんて言うわけがない。一応、一緒に戦った仲間だ。悪事を働かないなら、無理に殺しには来ないよな。

 レティシア様は言うわけがない。聖女様救出を魔族に助けてもらったなんて、言ったら光神教が終わるぞ。


「つまり魔族の事は内密にして、いつでも取次してもらえる相手を自分から切りたくない、て事か?」


「そういう事、だから安心しなさい。いきなり魔族側に戻って、そっちの内情を暴露する気もないわ」


 リシェルが、茶目っ気たっぷりにウィンクしてきた。

 う~ん、見透かされていたか。

 この交渉の肝は、砦の戦力が十分あると、魔族に誤解させる事だ。それなのに、砦の内情を知っている魔族がいたら台無しになる。

 リシェルの突然の裏切りを警戒してたんだが、やっぱり、分かるよな。リシェルが立案者なんだから。


「それはそうと、思えば遠くまで来たな」


「うわ、あからさまに話題を変えてきたわ。都合が悪くなるとすぐにこれじゃあ、モテないわよ」


「ッグ、そんな事ないぞ。リシェルだって見ただろう、俺が女の子から抱き着かれて別れを惜しまれた事!」


 俺は、旅の中であった数少ないいい話を持ち出す。


とおに満たない子供だったわね」


 おい、その優しい顔やめろ。

 心が、心が、すっごく痛くなるんだよ。

 そして、俺とリシェルは夜明けまで、旅の思い出話に花を咲かせた。

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