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128組の勇者達  作者: AAA
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五日目から始まり秘密で終われ

 あっと驚く事件が特に起きず、五日経った。

 日中は移動、夜間は交代で見張りと睡眠。休みらしい休みもなく、俺達は歩き続けた。

 食べ物、ワインは馬車にたっぷりあるおかげで、食糧を探す時間も食事を準備する時間もない。食べながら歩いて、飲みながら歩く。一日、二、三度、小用の為に休息する以外は、ずっと歩き通しだった。

 俺は慣れてるからいいが、荷物持ちじゃない他五人にはつらい行程だった様だ。御者に乗る兵士が時折、船を漕いでいる。ジョウゲンやリシェルの顔にも疲労の色が見えた。

 普通は二週間昼夜問わず大荷物を持って山を駆けずり回るような事はないからなぁ。

 無理な強行軍であったが、その甲斐あって二日も早く、俺達は砦にたどり着く事ができた。


「結構、立派だな」


 俺は積み上げられた石の壁を見上げて、感嘆の息を吐く。

 周囲より一段高い丘の上に立つ砦は、周囲を大小の石で折り重なって積み上げられた壁に囲われている。大人三、四人位が肩車しても縁に手が届きそうにない壁の奥には、これまた石造りの建物が頭を出している。その建物の頂上ではためく旗は、緋色と花緑青エメラルドグリーンの縞模様を地に金糸で花冠が刺繍されている。

 確か、この国の国旗だったな。


「ようやく着いたわね」


 馬車を挟んで隣を歩くリシェルの声には、隠しきれない喜色が感じられた。


「そうでござるな」


 先頭を歩くジョウゲンの足取りも軽い。

 そう言う俺の気分も弾んでいた。

 幾ら比較的安全で、慣れた強行軍だったとしても、疲れるものは疲れるし、重圧や緊張がないわけじゃない。無事目的地まで到着できたこの瞬間は、何時でも心踊るものだ。

 砦の前、多分人工的に土を持ったんだろう。大人の腰ほどの高さがある急斜面で、ジョウゲンが立ち止る。砦の斜面を登れば、すぐ砦の入り口がある。入り口は巨大な丸太を何本も束ねたもので、丸太は地面に掘られた穴に入り込んでいた。


「たーのもー」


 ジョウゲンの声が草原に響き、砦の塀の上から首を出す男が一人。最初は恐る恐ると言った様子でこちらを伺っていた男だが、その視線が馬車に向かうと喜色満面の笑みを浮かべて叫ぶ。


「補給だ! 補給が来たっ!」


 飛び上がる男の背後から、無数の歓声が上がる。


「マジか?」


「め、飯は、飯はあるのかっ!」


「何人だ? 何人助けに来てくれたんだ?」


「いいから、さっさと門を開けろ!」


「お、おおおお俺、み、みみみみんなに、知ら、知ら、知らせてくるぅぅぅぅぅ!」


「今やってる。ちょっと我慢しろ早漏」


 重い音を立てて、砦の扉が開いていく。馬車が余裕で出入りできる扉が、オーエス、オーエスと男達の弾んだ掛け声に合わせて、上がっていく。

 さっきまでの静けさは何だったんだ、と言うぐらい騒がしい。まるでお祭り騒ぎだ。


「随分、喜んでますね」


「久しぶり補給でござるからな。皆、腹を空かせておるのでござろう」


「この砦の規模だと四、五十人収納で、一月位の食糧が通常よね? 前に補給したのいつなの?」


 流石リシェル、こういう戦闘関係については本当に頭が回る。その頭の回転を、実生活で活用してくれると俺の負担も減るんだが……


「前の補給は三週間前でござるが、砦には一週間程度の食糧しか保管できんのでござる。この砦は元々西にある街やラネージュから補給を受けて、より前線に兵士を送る中継点でござった故に」


 丸太の先端が地面から姿を現すと、丸太の入っていた穴を木の板で塞いだ。


「よく兵士が逃げなかったわね。最低でも二週間、補給に不安を抱えながらこの場を守るなんて、砦の責任者は優秀そうだわ」


 確かに。そう言われると、よく持ってるよな。

 いつ助けが来るのか? 来ないかもしれない状態で食糧もなく二週間、ただ、ただ、砦を守る。普通じゃ無理だ。

 どれほど屈強な男達が砦を守ってるんだろう。

 入り口が開き切り、中の兵士達が姿を現した。


「おい、おい、マジですか?」


 ついてきた兵士の一人が震える声で呟いた。

 息を飲む。

 砦から出てくる兵士達はまるで敗残兵と言った姿だった。身に着ける皮鎧は所々擦り切れ、体に止める金具が壊れているものもある。顔は垢と泥で黒くなり、四肢の何処かに傷を受けている。

 手に持った槍は刃が欠けているものが殆どだ。他は先端が切り落とされ、先端を鋭く削った木の棒になっている。


「行くでござるよ」


 ジョウゲンの一声で、俺はここが最前線の砦だと思い出した。

 こんなところで足踏みしてる場合じゃないな。魔族に攻めてこられたら、ひとたまりもないぞ。

 同じ事に思い至ったのか、荷馬車が慌てた様子で動き出す。

 砦の入り口をくぐると、目と鼻の先に石造りの建物が現れる。建物の壁には無数の小さい穴が、俺達の方を向いて開いていた。壁際には石や長い木の棒が立てかけられ、割れた木の板が塀の上から突き出ている。


「今が夏でよかったわね。冬だったら、あそこにある棒や板も燃料に変わって、砦の防御力がすり減ってたわ」


 本来、敵であるはずのリシェルが、可愛そうなものを見る目で辺りを見回していた。

 魔族から同情されるくらい悲惨な状況ですか。こりゃ本気でまずいな。この砦、魔族に攻められたら、藁の様に吹き飛ぶんじゃないか?

 と、そんな事より、この場をどうするかだな。


「飯」


「食い物」


 目をギラつかせた兵士達が、俺達、というか馬車を取り囲んでいた。二、三十人位だろう。全員、痩せこけた頬は乾いていて、息が荒い。

 水もほとんど飲んでないんだろう。

 こりゃ、塩とワイン、いや水さえほとんど残ってないのか。本当に、よくこれで持ちこたえていたな。


「いつ暴動が起こってもおかしくない雰囲気ね」


 リシェルは油断なく周囲を警戒している。


「そうでござるな。その場合、最悪、荷物は捨てて逃げるでござるよ」


「荷物を守らなくていいんですか?」


「カール殿、初日に教えた優先度の問題でござる。ここで砦の者達を気付つけるわけにはいかんでござる。そして食糧はどうせ皆の胃袋に収まるござる。この場で、食い散らかされようとも、それは遅いか早いかの問題でしかないのでござる」


「幸いなのは、最低限の理性が残っている事ね。そのお蔭で、先に動く奴は袋叩きにしてやろう、と互いに牽制してくれてる」


「しかし、そう長くは持たないでござろう」


 ジョウゲンの言う通りだ。少しづつ、兵士達の輪が小さくなっている。

 これ何? 砦に到着したと思ったら、味方に襲われるなんて、どこのコントだよ。

 こうなると、御者にいなかったのは僥倖だな。手綱を握る兵士は馬を落ち着かせるのに必死で、御者から降りてこれない。あれじゃあ、兵士達が暴走したら逃げられない。

 この五日間、特に会話がなく、名前も教えてもらえなかった三人組の二人。君たちの犠牲は忘れない。

 と、冗談ぽくまとめてみたが、状況は刻一刻と悪くなっている。

 周りを囲む兵士さんの視線が、荷馬車の肉やパンから離れません。その上、目から理性がどんどん消えて行っています。

 なんかね。

 目の輝きがね。

 消えてね。

 焦点が合ってんだか合ってないんだか分からない状態になってるの。

 口は半開きで、乾いた息を荒く吐いてるし、どう見ても理性が吹き飛ぶ寸前だよ!

 やばい。何がやばいって俺達じゃあ兵士達を抑えられないのが一番やばい。砦の偉い人、早く来て! あんたら位しか、こいつら止められるやついないんだよ。


「お前達! 何故、持ち場を離れている?」


 人垣の奥から、怒声が響いた。

 餓鬼の様に俺達を囲んでいた兵士達が姿勢を正す。飢えた野犬の様な空気が、一瞬で固くなる。


「この展開、前にもあったわね」


 リシェルがジョウゲンの後ろ頭を見る。

 それは俺も思ったけど、言うなよ。こんなやばい状況に、二回連続で落とされてるなんて、自覚したくなかった!

 人垣が開き、三つの人影が現れる。その中に見慣れた人影を見つけ、肩から力が抜ける。

 これで最低限、死ななきゃ何とかなる。よかったー。


「ねぇ、カール」


 リシェルが困惑した様子で、こちらに近づく三人を見ている。


「えーと、ここは砦の中よね?」


「光神教の信徒がいらっしゃるのは珍しいが、ないわけじゃないぞ」


 三人の内、猫背の男は、白い法衣に赤と緑の紐を要所に飾り付け、戦う姿ではない。法衣の裾から覗く手足は細く、戦場で生き残れるだけの体力もなさそうだ。

 こんな最前線に人を殴った事もなさそうな男がいるんだ。リシェルが戸惑うのも無理はない。

 魔族のリシェルは知らないんだろう。

 戦争の死者の埋葬や祈りの為、光神教の信徒――助祭様以上の方になる――が来られる事は、珍しいがないわけじゃない。


「いや、そうじゃなくて」


「ああ、真ん中の一番偉そうな人か。確かにあの怪我は凄いな。よく後方送りにされないもんだ」


 三人の内、唯一鎧を着ている男は、片足がなかった。松葉杖を突く左腕は手首から先に有るべきものが抜け落ち、右目を血で汚れたリネンで覆っている。

 満身創痍、生きている事が奇跡の様な男だ。おそらく、ポンタの回復魔法のお蔭だろう。その位のレベルでなければ、生きていられるはずがない。

 だが、この男が後方送りにならない、いや、できない理由は遠目からでもすぐに分かった。立ち方が、歩き方が違う。雰囲気も人望も隔絶している。

 男を前にしただけで、飢えた兵士達が借りてきた猫のように大人しくなる。

 男はジョウゲンの前まで来ると、頬を緩めた。

 知り合いなのか。まぁ、補給の責任者はジョウゲンだ。ここはジョウゲンに任せよう。


「いや、それでもなくて」


「ん、後はポンタしかいないじゃないか。何が疑問なんだ?」


 そう三人目はポンタだ。勇者試験で共に戦った仲間。勇者になってから会うのは二度目だが、最前線にいたお蔭か、力が一層強くなっている。遠目で見ているだけで、温かい力が俺を包み込んでいる。


「エ゛、アレが勇者 ポンタですか?」


 リシェルが大口を開けて固まった。

 ん、どうしたんだ、こいつ。

 あの天を突くように反り返った鼻。豚も丸呑みにできそうな巨大な口。でっぷりと脂肪のついた腹。うん、どこから見てもポンタだ。

 最後のあった時は、腹が吹き飛んでいたんだが、上手く修復したようだ。前にもまして腹が出っ張ってるぜ。


「なにか可笑しいか? いつも通りのポンタだと思うぞ」


「いやいやいやいやいやいや、なんでオークなの?」


 なんでと言われても、オークなものはオークなんだから仕方がないじゃないか。

 こっちに気付いたポンタが、肥え太った腕を控えめに降ってくる。俺もそれに答えて、手を挙げた。


「ポンタは未開出身の勇者でしょ! なんで人間じゃないの!」


「おい、酷い事言うなよ。ポンタは俺の仲間だし、あいつぐらい優しい奴を俺は見た事がない。外見がオークな程度で、そこまで忌避するなよ」


「いや、そういう問題じゃないでしょ!」


 まぁ、言いたい事は分からないでもない。だが、高々見かけがオークな程度で、元とはいえ俺の仲間を変な目で見られるのは嫌だ。


「勇者が腰のみ一丁のオークだっていいじゃないか。色々あるんだよ。色々とさ」


 俺の脳裏をポンタと一緒に戦った日々が駆け巡る。

 未開出身と言う事で、意思疎通一つにも苦労したのはいい思い出だ。


「いや、まあ、もういいわ」


 リシェルが大きく肩を落とす。

 リシェル、深く考えるな。

 大丈夫。大丈夫。

 三日もしたら慣れる。むしろポンタがオークじゃないと落ち着かなくなるから。

 保障する。俺がそうだったんだから。


「お前達っ! 何時までここにいるつもりだ。今ここに魔族が来たらどうする気だ? 持ち場へ戻れ!」


 ジョウゲンと話がついたのか、満身創痍の男が未だ留まっている兵士達をにらみつける。

 兵士達は未練がましそうに馬車を見ながら、それでも文句一つ言わず去っていく。

 その背中に向けて、満身創痍の男がもう一声かける。


「……それと休憩中のものは炊き出しの準備をしろ。三交代体制で食事をとれ」


「「「「「「ウオォォォォォォォォオオオォォォオォォォォッッッッッ!!!!!」」」」」」


 兵士達の顔に満面の笑みが浮かび、爆発した歓声が体中を打ち付ける。

 先ほどまでの重い足取りはどこへやら、兵士達は飛ぶように持ち場へ駆けていく。


「騒がしくて、すまない。一週間ぶりのまともな食事なんだ。笑って許してくれると助かる」


 苦笑いを浮かべた満身創痍の男が、俺とリシェルに向かって話しかけてきた。

 男の後ろでは、ポンタが所在なさそうに辺りを見回している。


「私は、この砦の責任者、ジャック・ライアンだ」


 やっぱり、そういう立場の人か。


「カール・マッケントニーです。初めまして」


「リシェル・プランツェ。よろしく」


「君達の事はジョウゲン氏から聞いた。この補給を実行できた決め手は君達だったそうじゃないか。お蔭で私達は飢え死にせずに済んだ。砦を代表して礼を言わせてもらおう、ありがとう」


 何か口走りそうになったリシェルの足を踏んで黙らせる。

 こう言う時、リシェルを喋らせて良かった事なんて一度もない。とりあえず、声を出させない事が重要だ。


「いえ、こっちもポンタに会えるチャンスを作ってもらえました。礼を言われるような事じゃありません」


「……何故、来た? 国、帰れ」


 自分の名を呼ばれたポンタが話に入ってきた。しかし、その内容はそれまでの朗らかな空気に似合わない、拒絶の意思が込められていた。


「なんでって、お前が危険な所にいるんだ。助けに来て当然だろう」


「……心配、不要。ここ、安全。国、帰れ」


「だったら、居てもいいだろう。安全なんだから」


「……安全、嘘。ここ、危険。国、帰れ」


「だったら、お前を置いて国には帰れないな。お前が心配だ」


「……あうあうあうあうあう」


 あー、この手の詭弁に弱いのは変わらずか。いつか変な奴に騙されるんじゃないか?

 あうあう言ってワタワタしているポンタを生暖かい目で見守っていると、リシェルが服の袖を引っ張ってくる。


「カール、そろそろ紹介してほしんだけど、こっちのお方が勇者……の?」


「あ、そうだったな。悪い」


 俺はリシェルにポンタの正面を譲る。


「ポンタ、こいつはリシェル。ここまでの護衛をしてもらったんだ」


「リシェルよ。よろしく」


「……初めまして。ポンタ。よろしく」


 リシェルがポンタに向けて手を伸ばす。ポンタはその手を握り返す。

 握手を終えたポンタは、リシェルと俺の顔を交互に見つめ


「……浮気? 現地妻? 略奪愛?」


「違うっ! 人聞きの悪い事言うなっ! と言うか本妻なんていねぇ」


 人聞きの悪いことをのたまうオークに、俺は即座に否定する。一瞬でも躊躇えば、変な事実を積み重ねる。このオークはそういうオークだ。

 リシェルは一瞬で距離をとる真似はやめろよ。そのそんなまさか! て顔が、地味に傷つくんだよ。


「……男、そう言う。泣く、女だけ」


「妙な言葉だけはすぐ覚えるな。もっと有意義な言葉とか、迂遠な言葉を覚えような」


「……あうあうあうあうあうあうあう」


 俺はオーク顔のこめかみを拳で挟み込む。

 これ以上、人聞きの悪い事言われたら、後でどんなフォローが必要となるか分かったもんじゃない。


「あー、リシェル。ポンタはこんな奴だが、仲良くしてやってくれ」


「ええ、分かったわ」


「ハッハッハッハッハッ。孤高のポンタ氏も、仲間がかかわると可愛らしくなるものですな」


「うむ、そうでござるな。拙者らとは距離を置いてたポンタ殿にも、こんな一面があるとは、驚きでござる」


 事の成り行きを見守っていた満身創痍の男、ジャックとジョウゲンも話に加わってきた。

 そして、最後の一人、猫背の信徒が割り込んでくる。


「ミスタ ジャック。そろそろ補給の取り分を決めたいんですが、いいですか?」


 うわ、空気読めてない。と言うか、ここんだけ末期的な砦への補給で、取り分もくそもないだろうに。


「メイガス氏、今はそんな事を言っている場合ではない。全員、一丸となって事にあるべき時」


 ジャックが不愉快そうに顔をゆがめると、メイガスと呼ばれた信徒はわざとらしく大きなため息を吐いた。


「はぁ、分かってませんね。今は太陽の月、肉食禁止の上、口にできる穀物の種類にも本来なら制限がかかります。戦争中の特赦として、貴方たちが食べる分には見逃していますが、それをこちらにも強要されるのですか?」


「強要ではないが、しばし我慢してもらいたい」


 メイガスは出来の悪い冗談だと言いたげに、鼻で笑う。


「フンッ、バカ言わないで下さい。我々、光神教の信徒がそんな不信心な事できるわけがないでしょう。野菜を多めに貰います」


 言い分は正しい所もあるけど、時と場合を考えろよ。

 ほら、ジャックの額に青筋が立った。


「申し訳ないが、それでしたらご自身の食される量を減らして頂きたい。兵の士気にかかわります」


「この件は、後で光神教の司教様達の耳にも入りますよ。教義を守る真摯な信徒の願いを無碍にするというのですか?」


 メイガスは額に手を当てて、大げさな身振りで嘆く。

 見ているだけで苛つく仕草だ。隣にいるリシェルの目が不愉快そうに細まる。

 リシェルさんや、ここで飛び出してメイガスを殴ったりしないで下さいよ。それされたら、一気にお尋ね者だからね。


「そうではないが、その様な特別扱いをする余裕がこの砦にはないと言っているのだ。砦の中をうろついてしかいない貴方でもそれ位は分かるだろう!」


「フンッ、それがこの砦の方針ですか? 我々の信徒達も、貴重な戦力だと思いますがね」


 メイガスも光神教で戦える奴を引き連れてきているのか。

 なるほど、道理でジャックが上から押さえつけようとしないわけだ。

 指揮系統が違う上に、現状じゃあ貴重な戦える戦力だ。頭ごなしに押さえつけすぎて、暴走されたら目も当てられない。なまじ戦力があるから、始末に負えないな。


「くどい、この砦の責任者として命令しているんだ。従えないのであれば、出て行って貰って結構」


「グッ、こちらが下がれない事を分かっていながら」


 毅然とした態度をとるジャックを、メイガスが苦々しく睨み付ける。ジャックも目をそらさない。

 肌に刺す空気の中、先に視線を逸らしたのはメイガスだった。


「フンッ、ま、いいでしょ。今回はその首に免じて引いて差し上げますよ。ただし、我々がこんな田舎まで来てやったのは、この国の兵が腰抜けだけだったから、それをお忘れなく」


 メイガスは踵返し、砦の中へ戻っていった。


「ふん、シーフ野郎が」


 ジャックは唾を吐き捨てて、乱暴に踏みにじる。

 ジャックとメイガス、この二人は上手くいっていないみたいだな。

 どちらも部下に対する演技かと思ったが、それだけじゃないみたいだ。少なくとも、ジャックはメイガスの事をよく思っていない。


「まさに内憂外患ね」


「ああ、この砦が墜ちてないのは奇跡だ」


 これだけ中の人間関係にヒビが入っていて、その上、魔族の先鋒が目と鼻の先まで来てる。なんでまだ砦があるのか不思議なくらいだ。


「……二人、親密。合体、完了? 童貞、破棄?」


「拙者の見たところ、まだでござるな。カール殿が童貞なのは確実でござる。恐らく、兄貴分の女郎買いに付き合ったが、着地前に失敗もしくはヘタレたとみるでござる」


「そこのオークとKIMONOッ!、何、人のトップシークレット晒してんの!」


 勘弁してくれっ! そんな弄り甲斐のあるネタをリシェルに提供したら、どうなるのか分からないのか。


「ふーん、そっか、そっか、カールはチェリーなんだー」


 ああ、数舜前までの真剣な空気はどこへやら。

 口元に手を当てたリシェルが、イタチ目でこっちを見ている。あれはネズミを追い詰めた猫の目だ。


「皆さん、ここで立ち話では他の兵の邪魔になる。落ち着ける所へ案内する。着いて来てくれ」


 おお、天の助けっ!

 俺は手を招きするジャックのそばに、駆け足で向かった。

 背後で聞こえる舌打ちは無視だ、無視。

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